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【ヒューストンの自閉症児支援プログラム】第8回 未診断の自閉症スペクトラム障害-アメリカの臨床現場から

ポーター 倫子(ワシントン州立大学人間発達学部講師)

2016年12月16日掲載
1. 背景

前回の記事では、「青年・成人の高機能自閉症者のためのクリニック:テキサス州立医大C.L.A.S.S. クリニックの紹介」(https://www.blog.crn.or.jp/report/02/207.html)と題し、アメリカでもまだ数少ない青年・成人の高機能自閉症者のためのクリニックを紹介した。その中では、青年・成人の高機能自閉症者が抱えている就労や自立の問題、C.L.A.S.S. クリニックで行われている診断やサポートの実践例について紹介した。

本稿では、青年・成人の高機能自閉症者を対象としたクリニックの使命として、自閉症の未診断者の問題に焦点を当てて述べてみたい。これまで自閉症という診断を受けてこなかったことがどのような理由によるものなのか、またそのような人たちに対する診断や治療について取り上げる。

そもそもこの原稿を書くきっかけになったのは、私が客員研究員として(現在の英語での肩書としてはClinical Instructor)お世話になっているこのクリニックの創設者兼所長であるKatherine Loveland氏の講演を聞く機会が今年3回あったことと関係している。そのうちの1回は、日本発達心理学会主催の国際ワークショップであり、2016年の夏、東京の聖心女子大学を会場に行われた。筆者は、受け入れ担当者かつ通訳者としてワークショップ準備に携わってきたことから、その内容について深く学ぶ機会を得た。本稿が、日本における今後の青年・成人期の自閉症者の当事者や家族、支援者へのヒントになれば幸いである。

2. なぜ自閉症の未診断が起こるのか

家族や本人が何かおかしいと思っていながらも、決定的な理由がないために専門機関で診断を受けていなかったり、自閉症とは別の障害や精神病と診断を受けてきた人たちの問題が取りざたされている。そのような人たちの特徴として社会面での困難(いじめや孤立など)、身だしなみや整理整頓が苦手、強度の不安や抑うつに悩まされるなどが挙げられる。またそのような特徴は学業、職場での適応困難を増加させることも想定される。家庭においては、親や伴侶に世話をされ続け、なかなか自立できない場合もある。自閉症の未診断や誤診断の理由として、当事者、家族、社会の3つの視点から述べてみたい。

まず自閉症の未診断が起こる理由のうち、当事者の特質によるものは、アスペルガー症候群などで知的障害がないために、日常生活にそれほど支障をきたすことがなく育ってきたということが挙げられる。発達のマイルストーン(例えば1歳になると歩行開始など)に従って正常に育っている場合もそうである。また自閉症に特徴的なコミュニケーションの取り方や言葉の遅れ、興味や行動の偏りがはっきりと見られない場合には、親は障害を見落としやすい。さらに知能が高いゆえに、そのような自閉的な行動や特徴を表に出さないようにカモフラージュしたり、普通の人に見えるようにふるまってきたことも予測される(Autism Speaks, 2015;神尾、2012)。

自閉症の誤診断の事例としては、双極性障害、統合失調症と間違えられるケースがある。自閉症と統合失調症は、同一の病態として捉えられていたという時代の背景があることもその理由の一つであろう。さらに年齢の増加とともに、自閉症の二次障害や併存障害として知られる不安やうつ病などが顕著になってくることにより、自閉症が見落とされてしまうことも報告されている。

家族の問題としては、親が障害や自閉症に対して強い先入観やスティグマ(本来の意味は、望ましくない特異性をもっているがゆえに内外の社会集団によって押し付けられた否定的、負の烙印。差別や偏見、羞恥心などの意味)をもつ場合、子どもに診断を受けさせることに抵抗感をもち、結果的に診断を受けさせることなくきたことが考えられる。障害に対する社会やコミュニティーの意識が閉鎖的な場合、親は自分の子どもが周囲と異なっていることに対してスティグマをもちやすく、積極的に診断やサポート行動を得るのをためらうことが予想される。

社会の問題として、高機能自閉症やアスペルガー症候群についてまだよく知られていなかった頃の1980年以前に誕生した人たちは、その障害や問題について注目されることも少なく、結果的に未診断につながったと考えられる。また現在に至っても、成人の自閉症を診断することができる専門家が不足しており、信頼性の高い成人を対象とした自閉症診断のコンセンサスがまだ得られていないことが未診断の原因として考えられる(Autism Speaks, 2015)。

3. 自閉症の診断を受けるメリット

人生の中で自閉症の診断を受けずにきた人たち、あるいは別の障害や精神病と誤診を受けてきた人たちが診断を受けることには、どのようなメリットがあるのだろうか。まず考えられるのは、これまで周りからマイナスの烙印を受けてきたこと(怠け者、変わった人、など)から解放され、自分の行動や考え方の違いが自分のせいではないことに気づくことなのではないだろうか。筆者は2013年に、Loveland氏の開催による成人になって自閉症だと初めて診断された3名の高機能自閉症者を話題提供者として迎えたシンポジウムに参加する機会があった。その中で共通していたのは自閉症の診断が下されたことにより、自分に対するネガティブな評価から離脱し、仕事や家庭生活を含めて前向きに人生をとらえることができるようになったという自己変革の報告であった。全般的に、診断を受けることがサポートや治療につながり、生活の向上につながったことが伺われた。

英国の自閉症協会(The National Autism Society)(2016)によると、成人の自閉症診断のメリットとして、次の点が紹介されている。

  • 当事者が経験している困難と、そのことに対してどのようにサポートしたらよいかについて当事者とその家族が理解することにつながる。
  • 以前の誤った診断(統合失調症など)を正し、メンタルヘルスの問題に対してより適した対応が可能になる(しかし、深刻なメンタルヘルス上の問題を抱えていたり、現在それに対して治療を受けている場合には、自閉症の診断を下すことが難しい場合がある)。
  • 適切なサービスや利益にアクセスすることにつながる。
  • 自閉症と診断された当事者に対して、雇用者へ合理的な配慮を行うことが課せられる。
  • 自閉症のサポートグループなどのコミュニティーに参加しやすくなる。自閉症のオンライン・コミュニティーの加入条件として確定診断は必ずしも必要ではないが、グループによっては必要になる場合がある。
4. 成人の自閉症診断

成人になって初めて診断を受ける際の障壁として、成育歴などの情報収集が挙げられる。幼少期の記憶をたどることになるため正確さに欠けてしまったり、既に親が死去しているなど、情報を提供してくれる人を見つけるのが難しい場合がある。そういう時には兄弟姉妹、伴侶、友人、親せきなども含めて情報を得ることが大切である。そのような情報提供者もいない場合には、Loveland氏は本人から情報を収集する手段として、以前の自分の生活について手がかりを得ることができるような副次的な質問(例、あなたはどんな赤ちゃんでしたか?幼稚園や保育所に通っていましたか?)を通して、重要な情報に結び付けることを臨床経験の中で述べている。しかし、当事者の中には、定型的な自閉症の兆候を隠すような対処方法を身につけてきたり、診断を好まないがゆえに自己記入式の質問紙や面接に正直に答えない場合があることを考慮しなければならない。

未診断の成人者の診断の方法として、C.L.A.S.S. クリニックでは次のような方法が用いられている。

  • 発達面接、または自閉症診断面接尺度改訂版(ADI-R)
  • 対人コミュニケーション質問紙 (SCQ)
  • 自閉症観察診断スケジュール2 (ADOS-2)
  • 対人応答性尺度第二版(親族や重要な他者による記入および自己記入) (SRS-2)
  • 自閉症スペクトラム指数と共感指数 (AQ, EQ)
  • Ritvo自閉症とアスペルガーの診断尺度改訂版 (RAADS-R)

また自閉症に関する検査だけでなく、総合的に問題を把握するためにも、運動や適応面、遂行機能、知的能力、家族や社会的な環境、病歴など幅広く情報を得ることが必要である。

5. 成人の自閉症者へのサポート

乳幼児や学童の自閉症児と比較し、青少年や成人の自閉症者に対するサービスは十分に確立しているといえない。特に自閉症の診断を受けずに成人期に入る人ほど、サービスを受けることが少ないといわれている。C.L.A.S.S. クリニックはサポートとして、主に心理療法、社会的スキルグループ療法、薬物療法を勧めている。

心理療法 知的能力の高い自閉症者にとっては、カウンセリングのような話し合い療法が効果的であることが知られている。Loveland氏はその豊富な臨床経験から、(1)話すことを控え、より相手の話を聞くことを心がける、(2)自閉症者の興味を活用してそれを中心に話を進める、(3)あらかじめセラピーの流れを説明しておく、(4)抽象的な概念を説明する時はなるべく具体的な例えを用いる、などの自閉症の特性に対応した療法の重要性を述べている。またカウンセリングで学んだことを、別の場面で応用して実践することは自閉症者にとっては困難であることをあらかじめ理解しておくことも大切である。

具体的には、認知行動療法、弁証法的行動療法、動機づけ面接などが自閉症者への有効な治療様式として紹介されている。中でも認知行動療法は自閉症やうつ病や不安障害などの精神疾患への療法として日本でも注目されている (http://www.ncnp.go.jp/cbt/about.html)。クライエントの感情や行動に影響を与える習慣的な考え方を省察し、全体の機能が改善されるための新しい考え方や行動がうまれるように援助するものであり、結果的にストレスに対処し、心身を安定した状態にもっていくことができる。自閉症がうつ病や不安障害の併存障害を伴いやすいということとも関連しており、医学的・科学的にも効果が認められている療法である。

社会的スキルグループ療法 社会的スキルグループ療法としてアメリカで有名なのは、UCLAで行われている青年の高機能自閉症者を対象としたPEERS Program (Program for the Education and Enrichment of Relational Skills)であり、これは親も介入させた社会的スキルの向上のためのプログラム(Laugeson, Frankel ,Gantman, Dillon, & Mogil, 2012)で、韓国でも導入が検討されている(Yoo et al., 2014)。C.L.A.S.S.クリニックでは、青年とその親をそれぞれ対象としたLaunchingというプログラムを提供している。自閉症者の青年に対する大人への移行に焦点を当てた援助と、親に対しての子ども理解とよりよいコミュニケーションの方法、自立に向けてのサポートがプログラムの中心となっている。

薬物療法 薬物療法に関しては、自閉症を治療するというのではなく、障害に関連したある症状、たとえばうつ病や不安、睡眠障害、発作、自傷、攻撃的行動などの困難さに対処することである。また強迫性障害やADHD(注意欠陥・多動性障害)などの障害を伴う場合には、それらを治療するために薬物が使用されることもある。このように多くの場合薬を混合して使用することになるため、過剰投与や副作用に注意し、専門家の指導を仰ぐことが大切である。

6. 終わりに

未診断のまま成人となった自閉症者が増えていると言われている。社会不安障害やうつ病などの併存障害を伴うことも多いことから、治療やサポートの中で何を優先すべきかを見極めて、長い目で対処していくことが大切になってくる。特に当事者だけでなく、親を含めたサポートの例として、UCLAのPEERS ProgramやC.L.A.S.S.クリニックのLaunchingプログラムなどは、今後日本でプログラムを検討していく手がかりになると考えられる。またそのような青少年や成人の自閉症診断や治療に周知した専門家の養成が急務であると思われる。


    参考文献
  • Autism Speaks (2015). Researchers develop first autism symptom self-assessment for adults. Retrieved from https://www.autismspeaks.org/science/science-news/researchers-develop-first-autism-symptom-self-assessment-adults
  • 神尾 陽子 (2012). 成人期の発達障害の臨床的問題. 発達障害精神医療研修資料. 2012.9.26.
  • Laugeson E.A., Frankel, F., Gantman, A., Dillon, A.R., & Mogil, C. (2012). Evidence-based social skills training for adolescents with Autism Spectrum Disorders: The UCLA PEERS program. Journal of Autism and Developmental Disorders, 39(4), 596-606.
  • The National Autism Society (2016). Autism diagnosis for adults. Retrieved from http://www.autism.org.uk/about/diagnosis/adults.aspx
  • Yoo, H. J., et al. (2014). A randomized controlled trial of the Korean version of the PEERS(®) parent-assisted social skills training program for teens with ASD. Autism Research, 7(1), 145-161.

筆者プロフィール
report_porter_noriko_02.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

金沢市出身。1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、国際結婚を経て1998年に渡米。2008年にミズリー州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。現職はワシントン州立大学人間発達学科のインストラクター。2015年より安倍フェロ-として日本における調査研究を実施。テキサス大学医学部の精神医学行動科学学部客員研究員。立命館大学の人間科学研究所客員協力研究員。
保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の子育て比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。
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