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ジェンダー・ギャップ再考:日本の母親は子どもの教育・仕事・将来をどうみているか?

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日本女性の大学進学・就業率は、ここ15年から20年の間に大きな伸びを記録した。1995年に23%だった女子高校生の大学進学率は、2015年には47%に達した。約20年前には、女子高校生の多くは、大学よりも短大への進学を選んでいたが、1995年に25%だった女性の短大進学率は、2015年には10%にまで減少した(内閣府男女共同参画局, 2015)。進学率に加え、女性の就業率もこの数十年で大きな変化を見せている。15-64歳の女性の就業率は、2000年の57%から2015年には65%に伸びた。

だからといってジェンダー・ギャップがなくなったわけではない。多くの先進国では、女性の大学進学率が男性より高いのに対して、日本では、女性の大学進学率が男性を超えた年は今だかつてない(2015年の高校卒業生・浪人生の大学進学率は女性47%に対して男性は56%)(内閣府男女共同参画局, 2015; National Center for Education Statistics, 2016)。就業にみられるジェンダー・ギャップは、さらに顕著である。15歳から64歳の就業率は、男性が82%なのに対して、女性は65%。さらに、そのうち37%の女性がパート就業であるのに対し、男性の場合は12%にとどまっている (OECD, 2015)。

こうした女性の教育・就業パターンにみられる変化は、娘や息子の育てられ方に影響を与えているのだろうか?いいかえると、日本の母親が娘と息子に期待する、または志す教育や将来は、この10年で変わってきたのだろうか?

2005年にCRNに掲載されたカリフォルニア大学バークレー校研究チームの論文では、2000年から2003年に集めたデータをもとに、日本の母親が子どもに抱く教育や職業への期待が報告されている(Holloway, Yamamoto, & Suzuki, 2005)。この調査結果によると、日本の母親の教育期待には、子どものジェンダーと階層が大きく影響していた。例えば、子どもに最低でも大学進学を期待する母親は、息子をもつ母親の場合は58%であったのに対し、娘をもつ母親の場合は29%であった。この調査では、娘をもつ母親の43%は、短大または専門学校への進学を期待していた。同研究チームの分析によると、母親たちは、子どもの性別に関係なく子どもが将来幸せな家庭を築くことを望んでいたが、男子にはさらに将来やりがいのある仕事を望む傾向にあった。

今回、前回調査から約十数年を経てジェンダーと子育てがどう関連しているのかを分析するため、再度大阪で小学生をもつ母親を対象に調査を行った。

  1. 現代の母親は、子どもの性別によって、異なる教育願望や教育期待を抱いているのだろうか?
  2. 母親たちが教育・学歴に見出す意味や価値は、子どもの性別によって異なるのだろうか?
  3. 習い事や教育などへの投資は、娘と息子で異なるのだろうか?
調査方法

今回のレポートのデータは、日米の教育・子育てに関する長期調査のために収集したものを分析した。この調査は、2013年に始まり、日本では大阪府の公立小学校に通う109人の小学1年生とその母親を対象に行われた。109人のうち、男児は55人で女児は54人、また約53%は長男または長女であった。母親の約3割強は四年制大学卒、3割弱は短大卒、それ以外は専門学校・高校・中学卒であった。調査家庭の世帯収入は、38%が300万から600万円、38%が600万から900万円で、これは、国の子ども二人をもつ世帯収入の分布状況と類似していた (厚生労働省, 2015)。50%の母親が何らかの仕事をしており、多くはパートで働いていた。仕事をしている母親の週の平均労働時間は20時間であった。

さらに詳しい調査を行うため109組の親子から16組を抽出し、2013年から2016年にかけて親子それぞれにインタビューを行った。16組のうち男児・女児が半数ずつ、また男女それぞれ大学卒とそれ以外の母親が半数ずつを占めていた。インタビューは半構造化インタビューまたは自由回答形式(オープンエンド)で行われ、約1時間~2時間に及んだ。すべてのインタビューは録音され、日本語で書き起こされた。

本稿では、子どもが小学1年時の母親へのアンケート調査から得た以下の項目に注目する:母親が子どもに望むまたは期待する学歴、頭がいい・勉強ができる男子と女子の印象、学歴への価値、そして子どもの習い事など。さらに、自由回答形式インタビューでの母親の語りの分析を通じて、母親たちが息子や娘の教育や将来をどう見ているのかを探った。

母親が望む・期待する娘と息子の学歴

まず、子どもに希望する最終学歴と期待する(予測を含む)最終学歴について尋ねた。小学1年生の子どもに進んでほしい学歴を尋ねた項目では、息子をもつ85%の母親が大学を希望していたのに対し、大学希望と回答した娘の母親は60%であった(図1)。約24%の娘をもつ母親が短大又は専門学校を希望していたのに対し、男児の母親で短大・専門学校希望と回答したのは2%であった。実際にはどこまで進むと思うかを尋ねた項目では(期待値)、ジェンダー・ギャップはさらに広がった。82%の息子をもつ母親が大学と答えたのに対し、大学を期待していた娘の母親は46%にとどまった(図2)。約15年前に行われた前回調査に比べると、全体的に母親が子どもに希望・期待する学歴はあがっているようである。おそらく、ここ十数年、ゆっくりではあるが少しずつ上昇している日本の大学進学率を反映しているのだろう。にもかかわらず、子どもに希望・期待する学歴には依然大きなジェンダー・ギャップがみられる。大半の母親が息子には大学卒を期待しているのに対し、娘に大学卒を期待している母親は半数以下であった。

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頭がいい・勉強ができる男の子と女の子はよい印象を与えるか?

なぜ、母親たちは15年前の調査と変わらず、子どもの性別によって異なる学歴を希望・期待しているのだろうか?前回調査の分析では、勉強ができる女子に対するネガティブな印象が数名の母親たちの語りの中から浮かんできた。例えば、娘をもつ母親の中には、勉強ができる女の子はあまりかわいいとみられないのではないか、または結婚できなくなるのではという不安がきかれた(Yamamoto, 2016)。

日本社会では、今も頭のいい女子は肯定的にみられないのだろうか?頭がいい・勉強ができる子どもへの印象は、子どもの性別によって違いがあるのだろうか?今回の調査データを分析したところ、こうした印象にジェンダー・ギャップはみられなかった。「頭がいい男の子はよい印象をあたえる」という項目では、39%の母親が1から5段階のうちの4(そう思う)または5(かなりそう思う)と答え、頭のいい女の子に対する印象では37%の母親が4または5と回答していた(図3)。勉強ができる子どもに対しての印象を尋ねた項目では、44%が勉強ができる男の子に対して肯定的な印象をあげ、37%が勉強ができる女の子に対して肯定的な印象をあげた(4または5)。顕著なジェンダー・ギャップは、学歴価値について尋ねた項目でみられた。「男の子にとって学歴は大切である」という項目では、46%の母親が同意したのに対し(4または5)、女の子にとって学歴が大切であるという項目で4か5を選んだ母親は23%にとどまった(図3)。

これらの結果から、母親たちが子どもの性別によって異なる学歴を希望・期待するのは、学歴価値が男女によって異なるとみているからであるといえよう。学歴は、女子よりも男子にとっての方が重要かつ必要なものであるとみられているといえよう。

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子どもの教育と習い事への投資

では、子どもへの教育・習い事への投資は、男女によって異なるのだろうか?母親の学歴希望・期待・価値には子どものジェンダーによって違いがみられたが、習い事への投資行動には統計的に有意なジェンダー・ギャップはみられなかった。おそらく習い事には費用がかかるためか、子どもの習い事に大きく影響していたのは、子どもの性別でなく親の収入であった。親が子どもの習い事にかける費用や子どもが習い事に費やす時間には男女差はみられなかった。約30%の家庭が子どもの習い事に月1万円から1万5千円、24%が5千円から1万円の費用を払っていた。また、男女にかかわらず、習い事の数は平均して二つ、習い事にかける時間は週に約2~3時間であった。

しかし、子どもたちの習い事の内容を詳しく見てみると、ジェンダーによる違いがみられた(図4)。男女ともにスポーツは人気の習い事であったが、男児の方がスポーツを習っている割合が高かった。そろばんや習字などは男児の方が多く習っていたのに対し、ダンス・バレー、音楽、英語などは、女児の方に人気の習い事であった。特に、半数近くの女児が楽器や音楽関係の習い事をしているのに対し、男児の割合は20%に満たなかった。今回の調査では、女児の方が、男児よりも公文や学習塾に通っている割合が高かったが、これは統計的には有意な差はみられなかった。小学1年の段階では、親たちは学習関係よりもスポーツや音楽などの習い事に投資する傾向があるようである。子どもが大きくなるにつれて、次第に塾など学習関係の習い事にジェンダー・ギャップが現れるかもしれない。一人娘をもつミキさん(注)は、子どもが小学4年時に行ったインタビューでこう語っている。「男の子だったら、こんな余裕で私育てられない。ビシバシ、もう塾入れてると思う」。

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免許か手に職?娘の将来の仕事と人生

なぜ、母親たちは、娘よりも息子にとっての方が学歴が大切だと思っているのだろうか?アメリカやオーストラリアなどの先進国では、親たちは娘に高い学歴を期待する傾向にある。日本の母親たちは、将来娘たちに仕事でなく家庭に入ることを望んでいるのだろうか?アンケートとインタビューを分析した結果、そうではないことが分かった。母親たちが娘の将来について語るとき、仕事はそうした語りの中に含まれていた。15年前の調査では、母親たちが娘の将来を語るときに仕事の話はあまりでてこなかった。今回の調査では、母親たちは娘が高校または大学を卒業した後、職に就くことを当然視していた。また、子どもの性別に関わらず、子どもの仕事については本人がやりたいことを望む母親が多かった。しかし、アンケート調査では娘をもつ母親の26%が娘に免許や資格が必要な仕事に就くことを希望していたのに対し、息子をもつ母親で資格や手に職をあげたのは9%であった。

サイコさんも、娘に学歴よりも資格や手に職をつけてほしいと望んでいた母親の一人であった。ここでは、サイコさん(注)の事例をあげて、彼女自身の成長過程、教育や仕事の経験に加えて、娘の将来の学歴や仕事に対する考え方などを紹介しよう。

多くの母親がそうであるように、三人娘をもつサイコさんも、娘たちの将来について語るとき、仕事と家庭の両方を視野に入れていた。サイコさん自身の母親は、とても家庭的で「家の事を丁寧にするのが一番大事で、家にはいつも四季の花が飾ってて、私達の服も手作りが多くて、ご飯も三食ちゃんとしたものが出てくるっていう家でした」と語る。しかし、幼少期からサイコさんは母親の生き方や生活に疑問を抱いていた。仕事をしていない母と、母に対し「いばっている」ように見えた父親との関係は「対等じゃないような気が子ども心にして」いたため、サイコさん自身は、小さい頃から将来は母親や妻という役割だけでなく仕事をしたいと思っていた。「自分の仕事をして、自分の力を社会で試したいし、夫のパートナーとも、対等に色んな意見を言ったりそういう関係で生活したい」と思っていた。しかし、大学を卒業してすぐに結婚・妊娠したため、しばらくは子育てのため家庭に入ることになった。それでも働きたいという願望はもち続けていたため、二人目の子どもができた後、パートで心理療法グループの補助の仕事を始めた。この経験から大学院に行きたいと望むようになり、三人目の娘が幼稚園に入った段階で大学院に進学した。

始めてインタビューを行ったとき、サイコさんは大学院の学生であったが、3度目のインタビューでは修士号を取得し、資格を生かした仕事を始めていた。三人娘の将来について尋ねたとき、サイコさんはそれぞれの娘に対して違う仕事をあげていたが、仕事をすることが、それぞれの娘の将来像に組み込まれていた。小学生の娘について尋ねたとき、「自分にあった仕事をしてほしい。それで楽しんで生きていってほしい」と希望していた。「明るくて、思いやりがあって、人当たりがいい」3番目の小学生の娘には看護師が向いていると話していた。子育て後も復帰しやすく、比較的お給料もいい仕事という点も理由にあげていた。さらに、3番目の娘は特に勉強が好きでもないため、大学は行かなくてもいいと話していた。娘が行きたいというなら費用は出すが、大学進学は子どもの興味と希望によるもので、必ずしも行く必要はないと考えていた。勉強が苦手な3番目の娘には専門学校に行って看護婦になるコースが向いていると考え、「自分らしい」道を歩むことを望んでいた。ところが、息子がいても大学進学は子ども次第だと思うかときくと、サイコさんは素早く否定して、こう述べた。

やっぱり男の子の方が、社会の中で生きていくのが、よりシビアなのかなと思って。真ん中の子だったら、今からこう、幸せな家庭を築くのが夢みたいなところがあって。女の子、そういう選択肢もあるのかなーってこう、配偶者視線っていうかね、そういうところがあるのかなって。男の子はなにかしらちゃんとした仕事をして、自分で切り開いて生きていかなければいけないっていうのが。男の子だったら、なんかより心配してしまうような、気がします。

価値観が変容している現代日本では、サイコさんのように、ジェンダー役割に疑問を抱き、あえて家庭に入るだけではなく、仕事をもとうとしてきた母親も少なくないだろう。サイコさんも、家庭に入るのではなく家庭と仕事を両立させることが、対等な夫婦関係と幸せな家庭を築くのに必要だと考えてきた。しかしながら、サイコさんの娘の将来の語りの中には、男性が主な家庭の収入源を担うという、変わらないジェンダー役割が依然として意識されていた。

階層に関係なく、今回の調査では、看護師や薬剤師など娘に免許や資格を必要とする仕事を望む母親が多くいた。手に職があれば、出産・子育て後も職をみつけやすいというのが大きな理由であった。こうした語りは、15年前の母親の語りと比べると大きな変化がみられる。15年前には、看護師など資格のある仕事について話していた母親もいたが、娘の将来像に仕事の話は出てこなかったケースも多かった。現代の母親は娘の将来について語るとき、長期続けられる仕事を視野に入れていた。娘のライフコースに、就業が入っているのである。

同時に、母親たちの語りの中には、根強く残るジェンダー役割と価値観も反映されていた。例えば、多くの母親たちの語りの中では、出産・育児期間には、娘たちは働かないことが前提とされていた。出産・育児期間は仕事を休むことが予期されるため、免許や資格が有利または必要になると語られていた。こうした語りの根底にあるのは、女性の将来において強調されている母親業、特に子どもが幼少期の母親の役割と責任である。逆に母親たちが息子の将来について語るときには、子どもや子育ての話はほぼ出てこなかった。未婚率が増えている日本社会を反映してか、数名の母親は、子どもたちが将来結婚をしない可能性もありうることも考えていた。しかし、多くの母親は、男女問わず子どもが将来結婚することを希望していた。娘には結婚して子どもを育てること、息子には家族を養える仕事をもつ責任があることを語っていた。学歴がよりよい収入につながるとなれば、男児には学歴は必要だが、女児には他の選択肢もあるためそれほど学歴は不可欠なものではない、ということになるだろう。

最後に

15年前に行われた調査と比べると、今回の調査では、より多くの母親たちが子どもの大学進学を望んでいた。しかし、母親の学歴希望・期待には依然としてジェンダー・ギャップがみられた。15年前に比べると、今回の調査の多くの母親たちは娘が将来長く続けられる仕事をもつことを望んでおり、娘の将来像に仕事は組み込まれていた。しかし、多くの母親は子育て、特に子どもが乳幼児期には娘は仕事を中断することを前提として、将来や仕事への希望を語っていた。出産・子育て中断後も仕事に戻れるように、娘に資格や免許が必要な仕事を望む母親も多かった。今回母親たちが語った資格・免許の必要な仕事は必ずしも大学進学を必要としないため、女子に対する学歴期待がそれほど高くならないようであった。仕事や家庭に関する母親たちの考えや意識は、少しずつ変わってきている。けれども、人生や将来の優先度をみたときには、男性は仕事、女性は子育てという異なるパターンが依然として根底を貫いていた。

注:本稿で紹介されている母親の名前はすべて仮名である。

参考文献

筆者プロフィール
yoko-yamamoto.jpg 山本洋子
米国ブラウン大学教育学部特任助教授。専門分野は、教育・家族・子どもの発達と文脈的要因(ジェンダー・社会階層・文化など)。現在、日米の幼児と小学生の子育てや教育プロセスを調査するプロジェクトのディレクターとして調査を遂行中。
watanabe-yukiko.jpg 渡辺友季子
2016年にブラウン大学卒業(統計学専攻)。同大学では、山本洋子氏の日米教育・子育て比較の研究プロジェクトに参加。現在は東京のベイン&カンパニーでアソシエイト・コンサルタントとして働く。
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