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ノルウェーの里親制度-里親に子どもの未来を託す



本稿ではまずノルウェーの里親制度について簡単に述べ、次に里親制度をめぐるいくつかの主要な問題点について述べる。


里親に預けられる子どもと青少年

ノルウェーでは、子ども及び青少年が家庭で養育を受けられない場合、里親家庭に預けて養育されるのが一番好ましいオプションである。2009年の統計によれば、家庭外で育てられる必要が生じた子どもの87%が様々なタイプの里親に預けられ、残りの13%が同様に様々なタイプの養護施設で暮らしている。表1が示すように、2009年に里親に預けられた子ども及び青少年は、1万1,000人を超えている。また、里親のもとで育てられている子どもの年齢は、6~17歳が最も多いことがわかる。

表1 ノルウェーでの里親に預けられる子ども、及び青少年数〈2009〉(Statistics Norway)*1
0-2才 3-5才 6-12才 13-17才 18-22才
562 994 3,895 4,400 1,521


ノルウェーで子どもが里親に預けられる最も一般的な理由は、実の親に子どもを世話する能力がないことである(Sundt, 2010)。これらの問題の原因は、親の精神的不健康から、アルコールや薬の乱用、家庭の物的あるいは社会的問題、身体的・心理的暴力、性的虐待まで様々である。Sundt(2010)は、里親に預けられた子どもの多くが軽犯罪に手を染め、情緒面での困難、親とのもめ事や暴力を経験していることを示す研究を取り上げている。多くの例で、これらの子どもはネグレクト(養育放棄)、脅迫、暴力、あるいは、親の気分次第で変わる様々なしてはいけないこと―理不尽な制限を受けていた。また、同年齢の子ども達に比べ、日常の家庭生活でより多くの責任を負っている。これらの問題は、ノルウェーの子どもに特有なのではなく、ほかの国の里親に預けられた子ども達にも共通した問題であることに、留意しなければならない。

Sundt(2010)は、里親に預けられる前に子どもや青少年が経験している問題を大まかに分けた。Havik(2007)は、ノルウェーの867人の里親が、里子を引き取った時に、子どもが抱える問題をどのように見ていたかについて研究を行っている。表2に里親らの回答をあげる。

表2:里親からみた里子が預けられる際に抱えていた問題
ない ある かなりある
情緒的問題 17% 43% 41%
行動上の問題 38% 33% 30%
学習上の問題 46% 29% 25%
日常の生活におけるスキル不足 33% 30% 37%


この研究により、預けられたときに里子が抱えていた問題として最も多くの親が挙げたのは、情緒的問題であった。里親の報告によれば、84%の子どもが軽いあるいは深刻な情緒的問題を抱えていた。しかし、他の領域、行為、学習、日常生活のスキルなどにも問題があると報告されている。

Havikは、同じ里親達に、里子が引き取られた後、これらの問題が改善したかどうかについても聞いている。その結果を表3に示す。

表3:里親からみた里子が里親に預けられた後の問題
ない ある かなりある
情緒的問題 33% 55% 10%
行動上の問題 55% 38% 7%
学習上の問題 54% 34% 13%
日常の生活におけるスキル不足 57% 36% 7%


上記の表が示すように、里親達は、子どもの問題は里親が引き取った後にかなり改善したと考えている。なかでも、情緒面の問題と日常の生活スキルの面での変化が大きいと考えている。子ども達が抱えていた様々な問題が、安定した家庭環境を得たことによって改善したことがわかる。また、里親がこうした問題を認識し、自分達が取り組まなければならないこととして捉え、実際に取り組んでいることも示されている。

Backe-Hansen,、Egelund、Havikが2010年に行った、ノルウェーとイギリスにおける文献研究によると、里親に預けられた子どもにはいくつかの共通した特徴がある。かなりの割合で、子ども達は一人親の家庭で育てられ、父親がいない場合が多い。こうした家庭の母親は、そうでない母親に比べて、若くして第一子を生んでいる。学歴が低いために労働市場から締め出され、そのために平均よりも経済的に苦しい。里子となった子ども達を産んだ母親は、アルコールや薬物依存に陥ったり、精神疾患にかかった割合が高く、一般集団に比べて平均寿命が短い傾向にあった。他の関連する統計的数値も考慮して、里子達は非常に困難な家庭環境を背負っていると言って全く差し支えないだろう。

Bunkholdt (2010)は、里親のもとで生活する子ども達が日々の生活で抱えている困難の原因を探り、それは支援の手が差し伸べられるのが遅すぎることに起因する可能性が高いと示唆している。そのことはつまり、児童養護施設の職員が、産みの親が生活を立て直し子育てをうまくやれるように支援している間に、子ども達は深刻な問題を発展させてしまっている状況であると理解できる。もう一つの可能性としては、子ども達は生まれ育った家にあるリスク要因を日々積み重ねながら成長しているというものである。


ノルウェーの里親達

ノルウェーでは、様々なバックグランドをもった人々が里親になっている。ノルウェー子ども・青少年・家族庁(Norwegian Directorate for Children,Youth and Family Affairs:以下BUFDIR)は、婚姻関係にあるカップル、同居しているカップル、独身者、いずれの場合でも里親になれるとホームページで明記している*2。同性同士のカップルであってもかまわない。現在、里親家庭の90%が男性と女性の二人の大人の家庭で、残りの10%が女性の独身者の家庭である(Synovate 2011)。

里親には、実の子どものいる家庭もある。里親の民族は問わないとBUFDIRは述べているが、里親制度にかかわる人々によれば、実際には里親のほとんどが民族的にノルウェー人であるということだ。

里親に求められる一般的な要件:
  • 子どもに安全でよい家庭を提供できるだけの能力、時間、エネルギーを有していること
  • 安定した生活状態にあること
  • 健康であること
  • 高い協調性を有していること
  • 子どもが安心していられる場所を提供できる経済力、生活環境、人間関係を有すること
  • これまでの経歴に汚点のないこと(犯罪歴等)

安定した環境で健やかに子どもが成長できる里親家庭を確保するために、これらの項目が要求されているが、中流の核家族をよしとする基準であるとして、近年では批判の声もあがっている。


承認プロセス

ノルウェーにおいては、児童福祉サービスが、新しい里親家庭に対する認可の責任をすべて負っている。何かしらの特別な便宜が図られる可能性を排除するために、里親の候補者の居住する地域以外にある児童福祉サービスが最終決定をするように定められている。審査対象の家庭が各々の子どもに適しているかどうかの他に、候補者が子どもを育てていく一般的な能力があるかを確証していく形で承認プロセスが進められていく。各々の子どもの必要とするものが、里親家庭の選考の際の基準として大きく重要視される。どの子をどの里親のもとに預けるか、その組み合わせの問題は、重要であると考えられており、子どもの民族、宗教、文化、及び言語的背景が熟慮される。選考の際の一番の原則は、児童福祉サービスは、子どもの利益を一番に考えて決定するということである。

BUFDIRがガイドラインを公表している。そのガイドラインは、子どもの親族であるか、或いは他の形で子どもと親密な関係がある人が、前述の基準で資質的に問題がないと判断される場合は、その人が望ましい選択肢として見なされるとしている。里親が選ばれる際には、必ず子どもの実の親に意見を求めるべきである。もし子どもが7歳或いはそれ以上の年齢であれば、その子自身が里親に対してどう感じているか意見を聞くことが法律によって定められている。里親を担当する児童福祉サービスは新しい里親のためにつくられたいわゆる「自尊訓練プログラム」というトレーニングを提供する。これは3時間セッション10回を基本とするコースである。さらに、児童福祉サービスワーカーが、それぞれの子どもの里親希望者に4回の訪問をする。


条件への同意

ある家庭が里子のために特定され、里親として承認されると、地方児童福祉サービスが里親と同意書を交わしサインする(Sundt 2010)。里親を確保するために必要なあらゆる分野を詳細に取り上げている、ノルウェーの児童福祉局の標準同意書である。法律によって義務付けられている同意書であり、次のような項目が含まれている。

  • 里子を養育するための計画
  • 里親への監督
  • 実の親との面会
  • 費用の負担
  • 里親の責任

里親のさまざまな形態

Bunkholdt (2010)によると、里親制度はノルウェーの児童福祉における最も複雑な領域であるとされている。絶えず発展し、これまで知られていたよりもさらによく里親制度を理解できるよう、新しい研究が進められている。これらの研究から得られる最も重要な知見は、里親制度で物事を進める際には、柔軟な解決法を求めなければならないということである。

ノルウェー児童福祉サービスは、三つの異なるタイプの里親家庭を定めている。Bunkholdt (2010)は次のように説明する。

  • 里親家庭: 親から十分な養育を受けらえないため、代わりの養育環境を必要とする子どもたちのための家庭
  • 待機家庭 (Stand-by Home)/危機対応里親家庭:危機的状況のような、限られた期間の緊急な場合のニーズに応えるための里親家庭
  • 問題に応じて強化された里親家庭: 子ども抱える特別な問題のために、特別な状況が取り決められた家庭。これらの里親家庭の一部は「治療的里親家庭」と呼ばれ、その子どもに特有の行動問題に対処できる。
里親制度の主な考え方とは、一部のそれが叶わない子どもや若者たちを幼児期から10代の時期にわたり、安全かつ温かく受け止めてくれる家庭環境に移して、安心した中で、正常に発達して大人になっていけるようにしようとするものである。

以前のノルウェーの里親家庭は、基本的に親が子どもの世話をすることができなくなってしまった場合に、子どもの実の家庭の代わりとなる家庭という意味合いであった。里親には養育スキルを有し、子どもに安定した家庭環境を与えられる"実の親の代わりとなる親"になるのが期待されていたが、ここ数年、新たな変化が見られるようになる。多くの里子に問題があり、里親に新たな役割が求めるようになった(Bunkholdt 2010)。大きな問題を抱える子ども達や青少年が、里親に預けられるケースが増加してきたのである。彼らの問題はしばしば極めて複雑なものであり、Havik (2007) によると、ノルウェー社会の里親の課題と役割は急激に変化している。深刻な問題を抱えている子どもを支援できるよう、里親に専門的なアプローチや養育に関わるスキルが求められることも多くなってきた。これはまたノルウェーの子どもと青少年たちの養護施設の状況に関係してくる。国の政策としては、里親制度のような代替手段が可能な場合は、養護施設での養育は極力避けるべきだとしているが、この政策は現場で子ども達に関わっている人々、及び研究者間で、幅広く議論されているところでもある(Storo et. Al 2010)。

里親が、多くの複合的な問題を抱えている子どもや青少年に対応できる必要性が次第に高まってきている。これは従来とは別の形態の里親家庭、主に強化里親家庭と呼ばれるものの需要の高まりにつながるものであるが、何かしらの形でより専門化された里親制度が現実のものとなってきている近年の状況を反映している。これらの里親家庭では、特別なニーズのある子どもや青少年を見守るために、里親の一人がフルタイムでその役目に従事する。里子は継続して里親家庭に暮らすが、「普通の」里親家庭との違いは、里親の一人が里子の幸福を自分の主な任務としてフルタイムで在宅していることである。

ノルウェーの児童福祉政策において、里親家庭で育てられる子どもや青少年が、実の親と面会することは重要であると考えられている。なぜならば、親と会うことで里子は、自分たちの人生に継続性と一貫性の感覚を見出すことができるからである(Backe-Hansenら、2010)。面会をどのように進めていくか、その方法を設定することが重要であり、それによって、子どもたち(とその親たち)は、養育方針の違いをめぐる敵対的な対立を回避することができる。Backe-Hansenらの調査(2010)によると、里親に育てられている子どもや青少年は、実の両親との面会を望んでいるものの、会うとなるとためらうような、相反した感情を抱いているということだ。

親族による養育は、ノルウェーでは比較的新しいスタイルの里親養育である。それ故に、この形の里親による養育についての研究はまだ多くない。前述した北欧とイギリスの里親制度に関する研究知見では、親族による養育も含まれている。ここでは、このような養育に置かれている子どもたちの多くはきょうだいがなく、また、他の里子たちより比較的に問題が少ないことが指摘される。親族が里親となった場合の養育は、他の里親による養育と比べて比較的安定している。親族養育家庭はほとんどの場合、祖父母または叔母と叔父であり、母親側の家族である場合が多い。Backe-Hansenら(2010)によると、親族養父母のケースでは、「普通の」里親に対するのと同じような児童福祉局による手厚いフォローアップはされていない。


安定性と連続性

子どもの養育の質を概念化するのには、異なる方法がいくつかある。Bunkholdt(2010)は、継続性と安定性が二つの中心的概念であることを強調している。継続性は、安定した日常生活をおくることから得られる。私たちの周りにいる人々は、多くの場合継続性を象徴しているし、私たちが生活している場所、写真によって生き生きとよみがえる日々の思い出、私たちが持っているモノ、こうしたものも私たちに継続性の感覚を与えてくれるものである。また、継続性は、人が何かにつながるのを助けるもので、アイデンティティに影響を与える。安定性は養育のもう一方の質である。子どもの視点からみると、大人は信頼できて予測可能なことが重要である。温かく、子どものことを思った養育であるべきであり、子どものすることに対する養育者の反応は、子どもにとって理解可能で、合理的、かつ適切なものでなければならない。この概念から、心を豊かにする養育が常に確保されていることが、不可欠であると言える。

上記の二つの概念は里親制度を語るときに有用である。Bunkholdt(2010)が既に示したように、一部の専門家は継続性が養育における最も重要な質だと感じている。そうした専門家は、たとえその養育が最良の状態でなくとも、子どもは自分の家族の中で暮らすべきだと主張するだろう。彼らの観点では、もし継続性が確立されていれば、安定性に関していくつかの問題があったとしても、子どもたちは対処することが可能である。子どもたちと親との間の生物学的な絆が最も重要であると考え、里親に育てられるのは、絶対的に必要でない限り、踏み切ってはならない選択であると見なされる。

一方、安定性こそが重要であると考える専門家もいる。実の親が養育するのであれ、里親が養育するのであれ関係なく、子どもの幸福にとって、毎日の養育の質こそがより重要であると主張する。彼らの意見では、里親家庭で受ける養育の質が高く、安定しており、子どもを新しい環境で継続性の中に位置づけてあげることができるならば、里親家庭で育てられることは、子どもにとってそれほど劇的なことではないと考える。


里親に育てられる子どもと若者たちについての研究

Egelundら(2009)とBacke-Hansenら(2010)によると、家庭外措置が子どもにどのような影響を与えたか、その後の結果を予見できるだけの十分に説得力のある方法論に基づく研究は、北欧とイギリスには見当たらない。ClausenとKristofersen(2008)は家庭外での生育歴(里親家庭と養育施設の両方)のあるノルウェー人青少年は、大人になった後にも深刻な問題を抱えていると見い出している。彼らは仲間と比べ、高等教育を受ける機会を逸するリスク、低い収入しか得られないリスクが高いという問題に直面している。様々な病気を患い、若くして亡くなる可能性が高い。また、里親による養育を受けていない仲間より、罪を犯して有罪となる割合が高い。

これらの分析にも関わらず、里親制度は、子どもが里親家庭に預けられ、里親と一緒に生活する期間、子どもや青少年に非常にポジティブな影響を与えられると考えられている。自立した後の生活で直面するいくつかの問題は、むしろ彼らが里親の養育を受ける前の、問題のある家庭生活に起因しているのではないだろうか。また、里親の養育を離れた後のサポートが不十分であったことや、フォローアップ援助の方法に起因する問題もあるように思われる。


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参考文献

Backe-Hansen, Elisabeth; Egelund, Tine and Havik, Toril (2010): Barn og unge i fosterhjem - en kunnskapsstatus. Nettdokument. Oslo: NOVA

Bunkholdt, Vigdis (2010): Fosterhjemsarbeid. Fra rekruttering til tilbakeføring. Oslo: Gyldendal Akademisk

Clausen, Sten-Erik and Kristofersen, Lars B. (2008a): Barnevernsklienter i Norge 1990 - 2005. En longitudinell studie. Oslo: NOVA. Rapport 3/2008

Egelund, Tine; Christensen, Pernille Skovbo; Jakobsen, Turf Böcker:, Jensen, Tina Gudrun and Olsen, Rikke Fuglesang (2009): Anbragte børn og unge. En forskningsoversikt. Copenhagen: Socialforskningsinstituttet 09:24

Havik, Toril (2010): Slik fosterforeldre ser det - II. Resultat fra en kartleggingsstudie i 2005. Bergen: Barnevernets utviklingssenter på Vestlandet

Storø, Jan; Bunkholdt, Vigdis and Larsen, Erik (2010): Er institusjonen alltid et onde og familien alltid et gode? Norges Barnevern, nr. 3/2010, Vol 87

Synnovate (2011): Undersøkelse blant fosterforeldre 2010.




*1 ノルウェーで里親に預けられる子ども・青少年に関する詳細な統計情報については、Statistics Norwayのホームページを参照のこと。http://www.ssb.no/barneverng_en/
*2 http://www.bufetat.no/
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