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ダイバーシティ教育の重要性(後編)

ポーター 倫子(ワシントン州立大学人間発達学科専任教員)

2012年3月16日掲載

要旨:

今回は「ダイバーシティ教育の重要性」の後編として、ダイバーシティを重視した教育や保育を意図的に行うための実践方法を紹介したい。特に家庭や親のダイバーシティを配慮しながら、現場でどのようなことに配慮しながら親とコミュニケーションを図っていったらよいのか、具体的な連携のあり方をアメリカの実践例を交えながら紹介したい。


前回は、日本におけるダイバーシティ教育のあり方を考える材料として、筆者が教育や保育、社会福祉などの職業を目指す学生たちを対象に、3年間アメリカの大学で担当してきた講座「現代家族におけるダイバーシティ」の目的と概要を紹介した。2回目の今回は、個人的な体験を含めながら、ダイバーシティを重視した教育や保育を意図的に行うための実践方法を紹介したい。

前回説明したように、日本の学校教育や保育現場の中では、ダイバーシティの概念は未だ新しく、外国籍をもつ子どもの受け入れや英語教育に論議がとどまっているように思う。しかしダイバーシティとは、国籍や人種の違いだけではなく、年齢、性別、家族構成、教育や職業など、人間の身体的あるいは文化的な様々な面での違いである。ダイバーシティを配慮した保育・教育のあり方について、以下に述べていく。


1.多様化した家族形態を配慮した保育・教育

日本の中でも近年では単親(母子・父子)家族、ステップファミリー、単身赴任など多様な家族形態が認められつつある。そのような社会の変化を受けて、現場で保育や教育職に就く人たちも、「両親と子ども」という典型的な家族イメージから解放される必要があると考えられる。両親はいて当たり前、子どもの養育者は生みの親であるという先入感からの言動は、知らず知らずに子どもや親を傷つけてしまうこともあろう。

子どもの家族背景にセンシティブに対応し、それぞれの事情に応じた保育や教育を実施するためには、入園・入学時に、面談や調査書などの方法でそれぞれの家庭の事情を把握することが大切である。たとえば、入園・入学調査書の書類の中で、保護者の欄のところに父親と母親の情報しか記載するスペースがない場合、祖父母が子どもを育てていたり、離婚や再婚家庭で子どもがそれぞれの親の間を行き来する場合には、現状と異なった情報を提供してしまうことになりかねない。子どもと親の住所(例えば単身赴任など)が同じとは限らないという可能性も、社会の変化とともに考慮していく必要があろう。また得られた情報は個人情報保護の観点より、入園あるいは入学手続き以外の目的では使用しないことをうたっておく必要がある。

さらに男女差別のない社会づくりを目指す今日の日本では、父親の保育や教育プログラムへの参加を促すような体制づくりが課題である。これは単に父親を主体とした園や学校行事を増やすだけではなく、時間的な柔軟性をもって園の行事を企画することである。たとえば保護者懇談会は、日中の時間のみではなく、働く親のスケジュールを考慮し、仕事前の朝の早い時間帯、夜の時間も候補に入れることが考えられるであろう。

個人的な体験であるが、アメリカで保護者懇談会や入学(園)のオリエンテーションに参加する際にいつも感じるのは、父親と母親の双方が出席するケースが多いことである。特に、オリエンテーションは夕方や夜の時間に企画されることが多く、園や学校の方針、内容などの説明会に父親が参加することは、子育てにおける男女差を縮小していくことにつながると考えられる。また父親を対象とした特別行事を企画することは、逆に父親を子育てにおいて当事者扱いしていないことにもなりかねないので、今後コンセンサスが必要であろう。

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ミズリー州立大付属園恒例のペアレント朝食会にて。
学期始めに担当の実習生を親に紹介する機会として、
朝の出勤前の時間帯に行われる。
父親の参加も多い。


2.多様な価値観を配慮した保育・教育

同一民族が人口のほとんどを占める日本の場合でも、子育てや教育に関する親の様々な考え方や行動様式が存在すると言われている。たとえば、1970年代に行われた東らの日米母子比較研究では、教育レベルが高い日本の母親ほど、子どもへのかかわり方が「個」を重視するアメリカ型に近くなるという結果が得られている(東、2004)。柏木らが1990年代に行った研究でも、学歴が高い母親ほど、日本の母親の特徴と言われる子どもとの一体感が弱いことが報告されている(柏木&若松、1994)。社会階層における違いだけではなく、母親の就労の有無や形態、父親と母親という性差、地域差(都市型、地方型)により、価値イデオロギー、育児や教育の行動様式に違いが見られることが先行研究の中で示唆されている(ベネッセ次世代育成研究所 2011; 広田、2004; 柏木、 2003)。特に格差社会化が進行していると言われる今日の日本では、ダイバーシティを意識化した教育や保育は重要な課題である。

それでは、多様な価値観や行動様式に応じた保育・教育をどのように実践していけばよいのであろうか。外見、年齢、教育歴、経済力、社会的地位などの変数は無意識の内に私たちの隠れた偏見(hidden bias)となって、相手に対する先入感を伴った言動として現れやすい。特に年齢の若い親、社会的地位の低い親に対して、相手の意見に耳を傾ける前に、自分たちの考えを一方的に伝達していくなどの態度は、知らず知らず見られることである。ダイバーシティを意識した保育や教育とは、そのような一方通行ではなく双方向のコミュニケーションであり(Two way communication)、相手の優れたところを認めていこうとする態度(Strength-based approach)なのである。

A. 双方向コミュニケーション

双方向コミュニケーションとは、園(学校)と家庭がお互いの教育方針を理解し、尊重しあう互恵性のある関係づくりである。"From parents to partner: Building a family-centered early childhood program (親からパートナーへ-家庭中心の保育プログラムづくり)" の著者であるKeyserは、双方向のコミュニケーションづくりとして、次のような教育者の態度が大切であることを示唆している。

  • 親のアイディアや考えに、好奇心をもって積極的に耳を傾ける。
  • 「はい」「いいえ」で答えられるような質問ではなく、親からの具体的な声が聞けるようなオープンエンド型の質問をするように心掛ける。
  • 親からの質問に対し、質問で答える。たとえばトイレトレーニングの時期について質問された時にも、すぐ自分の意見を親に伝えるのではなく、「おかあさんは、どうお考えになりますか」と親の考えや悩みを引き出すように心掛ける。
  • 自分のことや経験なども話す。保育者が心を開いて自分のことを話すことにより、親も心を開き、気軽になんでも話せるような関係性が生まれやすい。
  • 親にとって居心地のよいコミュニケーションのスタイルを尊重する(Eメール、電話、直接顔を合わせて話をするなど)。
  • 保育・教育の方針や内容などについても、親の意見を取り入れながら、改善する点などを模索していく。

特に、親との衝突、対立の起こりやすい内容について話しあう時には、Keyserは次のような手順でコミュニケーションを図る方法を示唆している。

  • まず親の話を聞き、オープンエンド型の質問をするように心掛ける。
  • 親の話を聞きながら、その考えや気持ちを代弁し、また明確化する。そのことによって、相手は自分の話を聞いてもらっているのだということが分かる。
  • 親の考えとの間になるべく共通点や双方が賛成できる点を見出すように努める。共通の考え方が土台にあれば、問題を前向きに解決しやすい。
  • 今度は、保育者が自分の考えや意見、気持ちを伝達する。その時は、「自分はこういう風に思う」というように、絶対的な意見としてではなく、自分の考えとして伝える。
  • 自分のもっている情報を親の様子を伺いながら共有する。
  • 情報を分かち合った後、そのことについて親はどう考えるか、質問はないかを確かめる。
  • 親と保育者のそれぞれ異なった見解をどのように解決していったらよいのか、何かよい考えはないか親に確かめつつ、話し合っていく。
  • 時間を割いて話し合ってくれたことを親に感謝し、必要ならば次の話し合いの予定を入れる。

このようなアプローチに基づいてコミュニケーションをはかった場合、子どもの登園がいつも遅い、他の友達をすぐ噛んでしまう、宗教上の理由で行事に参加できない、など話題にしにくいテーマでも、まず親の見解を受け止めた上でどういう事情が背後にあるのかを理解し、解決策を共に模索していくという姿勢につながりやすい。その上で、家庭ではどうしたらよいのか、園や学校ではどういう対処をしたらよいのか、共に妥協点を見出すことが可能となろう。

B 長所に基づいたアプローチ

ダイバーシティを意識した保育や教育を実践してくためには、親や子どもの短所や欠点に目を向けるのではなく、その長所にできるだけ焦点をあてたサポートを心がけることが大切である。このことは、親が子育ての技術や知識に乏しかったり、子どもを虐待していたり、家庭環境が子どもの安全や衛生にふさわしくない場合などには、難しいことである。しかし親である本人がそれを最も意識していることを考えると、批判することは親の子育てへの自信をますます消失させ、親子関係や子どもの発達に悪影響を及ぼすと想定できる。どのような親でも、何かしら優れた点があるものであり、それを見つけ、励ましを与えるのが保育者や教育者の役割である。

個人的な体験話ではあるが、息子がアメリカの特殊教育プレスクールに通園していた時に、担当してくださった先生方は機会があるたびに連絡帳や会議の中で、私たちの親としての子育てを褒め、励ましてくださった。たとえばIEP(Individualized Educational Program:個別指導計画)の会議の終わりには、「息子さんに愛情をたっぷり注いでくださってありがとう」と温かく声をかけてくださったり、私が毎日作る簡単なお弁当に対しても「お母さんの愛情が感じられて、いつも感心しています」とコメントしていただき、随分励みになったことを思い出す。特に移民であり、英語もおぼつかなく自信をなくしていた私の子育て力を引き出し、高めるエンパワメントにつながったと考えられる。

長所に焦点をあてるという点では、子どもへの対応や評価に対しても同じことが言えよう。それぞれの子どものユニークな点、興味や優れた点を親へ伝達する方法として、懇談会でのポートフォリオの使用が考えられる。ポートフォリオとは、観察、記録、作品、テストなど様々な媒体を通して子どもたちの学びを評価するもので、アメリカでは標準テストなどのフォーマルな評価方法と相反するものとして紹介されている。特に自分の子どもの発達や成績が他の子どもと比較して劣っていると心配している親に対しては、子どもの長所や発達の独自性を理解してもらうための有効な手段と考えられる。

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息子のプレスクール卒業式。
自閉症を抱えながらも、皆と同じように卒業し、
普通小学校に進めたのは親にとっては大いなる感動であった。
息子の優れた点を認め、励ましてくださった先生方のおかげだと思っている。


最後に

以上、ダイバーシティを配慮した保育・教育のあり方について、多様化した家族形態、価値観を配慮するという二つの観点から述べた。集団性を重視する日本文化の中では、ダイバーシティを意識し、それぞれの事情に応じた対応をすることは、周りへの不公平感にもつながりやすい。しかし逆に考えると、事情や背景が異なるのに、画一的な対応をすることが、本当の平等につながるのかという議論にもなる。平等な保育や教育の機会を提供していくために、園や学校がどのように柔軟に対応し、援助していくかという姿勢が求められるであろう。そのためにもダイバーシティを視野に入れた教員養成、現場研修の推進、検討が今後日本でも図られるべきである。


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参考文献

東洋 2004 シリーズ人間の発達12 日本人のしつけと教育―発達の日米比較にもとづいて 東京大学出版会

Bennesse 2011 次世代育成研究所「子育てトレンド調査第4回 首都圏・地方市部ごとにみる乳幼児の子育てレポート」http://www.benesse.co.jp/jisedaiken/research/research_17.html

広田照幸 2004 日本人のしつけは衰退したかー「教育する家族のゆくえ」 講談社現代新書

柏木恵子 若松素子 1994 「親となる」ことによる人格発達:生涯発達的視点から親を研究する試み、発達心理学研究 , 5, 1, 72-83

柏木恵子 2003家族心理学ー社会変動・発達・ジェンダーの視点 東京大学出版会

Keyser, J. (2006). From parents to partner: Building a family-centered early childhood program. Washington, D.C.: Redleaf Press/NAEYC.
筆者プロフィール
report_porter_noriko.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

石川県金沢市出身。富山大学教育学部幼稚園教員養成課程、南イリノイ大学教育学部幼児教育修士課程、ミズリー州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。日本では1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、その間富山大学教育学部非常勤講師も勤める。現在はワシントン州立大学の人間発達学科のインストラクター。ダイバーシティ、親子関係、保育関係の講座を担当。保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の育児比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。
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