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【6月】インターネットで、世界の子どもに関心をもつ研究者・実践家とのやりとりをもっと高めよう

3週間程前のことであるが、全く知らないインドネシア教育大学のY.R.という方から突然CRNにメールが入った。この7月の11、12日、インドネシアのバンドンで "Current Issues in Early Childhood" というテーマで国際会議が開かれるので、CRNの関係者を演者としてお招きしたいというのである。残念ながら2ヶ月しか時間がなく、いろいろ予定もあるので、結局お断りすることにした。

この出来事で思い出したのは、CRN設立を考えた時のことである。1992年だから、もう20年近く前になる。ノルウェーのベルゲンからバスに乗って2、3時間程のフィヨルドの奥の小さなホテルで行った話し合いである。インターネットを活用して、世界の子ども問題に関心をもつ研究者、実践家をリンクして話し合いの場を作ろうという計画について、いろいろと討議したのである。たしか5月であったと思うが、"Children at Risk"というノルウェー政府主催の国際シンポジウムの後のことであった。雪がまばらに残っていた山が、今も目に浮かぶ。当時、日本ではインターネットは、まだまだという状態で、私は何も知らなかった。しかし、その1~2年後、勤めていた小児病院にも、インターネットが入り、いじる事が出来た。

1996年、国立小児病院を定年で辞める時、私もインターネットでやりとりして、世界の子ども関係の研究者や実践家とわが国の仲間とのネットワークを作ろうと考えた。情報工学者であり医学部の同級生の、東大名誉教授・石井威望先生と相談し、ベネッセコーポレーションの当時社長だった福武總一郎氏の支援をいただき、幸運なことにCRNを立ち上げることが出来たのである。もう15年も前になるが、その後、順風満帆とは言えないが、それなりに成果が上がり、年に数回は外国からの問合せがある。正に、インターネットは、人間関係を結ぶ特別な力をもっているのである。それは、国際的にも。

さて、バンドンから来た話に戻ると、Y.R.さんのいう国際会議は、"The 2011 International Early Childhood tudies Conference-Current Issues in Early Childhood"とわかった。これと似たような学術集会が、この7月末に神戸で開かれる。第12回PECERA(Pacific Early Childhood Education Research Association)大会である。神戸大学の五味克久先生が大会長である。昨年は中国の杭州で開かれ、私も参加して特別講演もさせて頂いた。

バンドンの国際会議は、"Early Childhood"を"study"する会であり、神戸のは"research"する会である。"study"にしろ、"research"にしろ、従来とは異なった立場から研究しようということだけは確かである。

子どもに関係する学問はいろいろあるが、心理学、教育学、小児科学、小児保健学などのような単一な学問でなく、学際的、包括的な立場で研究することを意味する。換言すれば、学会には、いろいろな立場で子どもに関係する学問に関わっている研究者や実践家が集まって話し合おうということになる。我々は、それを「子ども学」"Child Science"と呼んでいるのである。

そんなこんなしている内に、IPAという国際団体から"Play Right Magazine"という冊子が送られて来た。これもCRNのホームページを見て送ってきたようである。このIPAをみて私は驚いた。なぜなら、IPAというと、100年の歴史を持つ、私も会長をしたことのある"International Pediatric Association "「国際小児科学会」も意味するからである。しかし、このIPAは、"International Play Association"で、それなりに歴史もあって、今年設立50周年になるというのである。日本支部は、1979年に大村璋子さんという方によって作られ、1990年には第11回の大会を名古屋と東京で開催している。テーマは「遊びと教育」であって、名古屋の天白プレーパークを見学して、東京でカンファレンスが開かれたという。大変評判が良かったようであった。

インターネットも一役かって、子どもに関心を持つ研究者や実践家の世界的なネットワークが出来つつあることは確かであり喜ばしい。そして、研究者も実践家の立場もいろいろあることも明らかである。だからこそ、我々が常に強調しているように、「子ども学」的発想が重要なのである。

小児科学は、子どもの病気の問題を解決しても、子どもの心の問題になると心理学が必要となり、教育学も必要なことは明らかである。したがって、学際的、包括的な立場に立つ、さらには自然科学と人文科学を融合する立場にある「子ども学」"Child Science"という、新しい科学の発想こそが重要なのである。 どんな子ども問題でも、その解決には学際的な立場、包括的な立場が必要であることは明らかである。小児科医は、小児科学を取り込み乗り越えて、心理学者、教育学者、さらには現場の教師とも連携して、心理学者は、心理学を取り込み乗り越えて、小児科医、教育学者、さらには同じく教師とも連携して、共に考え、話し合わなければ問題解決の道は見出されないのである。 解決の道を見つけ出すバーチャルな場を提供するのがCRNであり、そのリアルの場としての「日本子ども学会」もあるのである。インターネットにより、子ども問題を考え、解決する場を探る動きがますます国際化する中で、何とか「子ども学」の国際的なリアルの場も作りたいものである。それには、インターネットで世界の子どもに関心をもつ、いろいろな立場の、いろいろな分野の研究者・実践家とのやりとりの質と量を、もっと高める必要がある。CRNの果たす役割は、今後ますます大きくなろう。
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