前回、息子の通う上海のインターナショナルスクールのカリキュラムの紹介をしました。今回はそれに伴う評価制度、また、日本とは違う積極性を育てる教育について触れていきたいと思います。
幼稚園児にシビアな成績表
私がこの幼稚園で一番びっくりしたことは、School Recordと言う、成績表の存在です。かなり分厚いリングファイルには、言語能力、数的理解、アート、ダンス、体育、生活態度など、多岐にわたる評価項目が300以上、ジャンル別にリストになっています。
例えば、アルファベットのどれを覚えていてどれを覚えていないか、大文字は?小文字は?簡単な単語をどこまで理解しているか、数字はいくつまでカウントできるか、正方形、ひし形など物の形を認識し英語で言えるか、指定された通りに色を塗れるか、ボールをうまく投げたり、キャッチできるか、ある程度の高さのところに安全に登れるかなどに加え、保護者と離れても泣かずにいられるか、などとても細かい内容です。
これが、Need Encouragement(要努力)、 Progressive Satisfactory(満足のいく進歩がみられる)、 Consistently Demonstrate(常にできている)の三段階で評価されます。
初めてもらったSchool Recordは、入園して2カ月しかたっていないということもあり、ほとんどすべてがNE、「要努力」で、そのシビアな結果に少なからずショックを受けてしまいました。
しかし、この評価システムの良い点は、一冊のSchool Recordに入園から卒園までの間の全てが記録され、どれだけの成長を遂げているかが明らかに分かる点です。
実際、時がたつにつれできることは増えていきますから、前はできなかったことができるようになったと、多少なりともポジティブに子どもの成長を感じることができます。
また、親は自宅で見ているだけでは分からない我が子のできること、できないことがかなり詳細に把握でき、足りないところをどう補うか、またできることをさらにどう伸ばすか、子育ての参考になるのです。
School Recordに加えて、Report Cardという、主な科目の評価をまとめたものも別に渡されます。これにはスペシャルクラス(アートやスポーツなどの日替わりレッスン。前回の記事参照)の先生からの評価とコメントもあり、それぞれのレッスンでの子どもの様子がかなり細かく書かれていて、一枚の紙とは言え非常に読みごたえがあります。
特に、スペシャルクラスの先生は担任の先生とは違い、ほとんどお会いすることがないので、我が子がそこではどんな様子なのか、ちゃんとやっているのか気になるところです。
School Record と Report Card
前回のカリキュラムについてもそうですが、今改めて感じるのは、家から近い英語の学校、ということで選んだ幼稚園でしたが、私の想像していた以上に、いえ、それよりずっとしっかりしていました。
一人一人の生徒の様子を常によく観察していないと、このSchool Recordは成り立ちません。先生たちの日頃のご苦労は大変なものと察せられます。
そして、こんな小さな子どもたちに成績表が必要なのか、評価する必要があるのかの是非はさておいて、甘い甘い親の目からでなく、冷静な第三者の目から見た子どもの姿を知るのも悪くないなと思います。
この幼稚園の成績評価は、~ができない、~ができるというものばかりではなく、その子の性格、他人とのかかわり方などについてもよく触れてあることも特徴です。以前いただいた中国語の先生からの息子へのコメントは、「You are a sunny boy.(あなたは太陽のように明るい男の子です。)」という一文で始まっていました。それに続くのは、もっと努力しなさいという苦言だったのですが、にこにこ笑っている息子の顔と、それを見つめる温かな先生の視線を感じ、とても印象に残っています。
子どもの積極性を育てる
さて、今年になって、息子の幼稚園では毎日クラスルームリーダーが決められるようになりました。ちょっと立派な呼び名ですが、プリントを配ったり、前に出てお手本を見せたり、先生の補佐をする日直のようなものです。日本ではこういう時、だいたい順番にやるのではないかと思うのですが、息子のクラスではやりたい!と言って手を挙げて、先生にあてられた人がやると聞いて少し驚きました。
また、歌を歌うにしてもダンスをするにしても、「前に出たい人~!」と先生が呼びかけ、「はいはいはい~!」と手を挙げて、当てられた子だけがみんなの前に出て歌ったり踊ったりしています。クラスルームリーダーにしてもそうですが、日本なら平等にみんなに順番が回ることが一番とされる場面でしょう。
こういう面においては、日本と違うなあと感じます。先日、最近の日本の幼稚園、小学校の学芸会では、脇役だけでなく主役も複数いると聞いた時には、思わずこちらのスプリングコンサートを思い出しました。ある学年のダンスは、たった一人の目立つヒロインとその他大勢という構成で、日本だったらまず受け入れられないでしょう。ちょっと極端ですが、それも全然問題ないのです。
一方で、たくさんの人の前で気のきいた意見をぱっと言えない自分自身を顧みると、小さいうちから周りと自分を合わせることばかりに気を取られていたのかなと思ってみたりもします。このような環境で、人より前に出ることが好きになる、人から注目を浴びることに慣れることは良い経験かもしれません。
もちろん、子どもにもそれぞれの個性がありますから、みんなが積極的にはなれないとしても、自分とは違って目立ったことをする人をすぐに変な人と断じず、「いろんな人がいるよね」と認めあえる心が育つのではないかという気がします。
日本では集団の中ではおとなしい方だった息子も、日々のこういったやりとりの中で、今では先生に当てられないとどうして当ててくれないのかと怒るそうです。みんなの前で意気揚々と自分の意見を発表する姿を見ると、誰に似たんだろう?と驚くと同時に、この環境にいればこうもなるのかな、と納得もしてしまう今日この頃です。
クラスルームリーダーになって、はりきってみんなの前で踊る息子
ついに・・・
ところで、最近我が家に嬉しいニュースがありました。
息子が「Star of the Month」に選ばれたのです。日本語で言うところの月間優等生でしょうか。毎月、各学年一名の生徒が選ばれます。
これもインターナショナルスクールではよくある制度のようなのですが、日本では馴染みは少ないかもしれません。
クラスの中でも誕生日が遅く、精神的にも幼い息子は、先生たちにかわいがられはすれど、何かがよくできるなんてとてもとても・・・というところでした。
しかし、今回は、常に積極的に英語を話す努力をしていること、"Please" "Sorry""Excuse me" がちゃんと言え、礼儀正しい態度をとっていることが表彰の理由と聞きました。
この賞は、何かが人よりできることよりも、その子なりの頑張り、それと同時に他の子とは違うその子なりの良い部分を見つけて評価してくれるようです。
今回は、特に礼儀正しさという日本人がもつ美点の一つが評価されたことが私たちにとっては嬉しく、誇りにも感じました。
もうこれで私たちの上海での幼稚園生活に思い残すことはない、というほどではありませんが、(きっと)二度とはないこの特別な出来事を、ここに記すことをお許しください。
壁に貼り出された今月のStar of the Monthたち