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論文・レポート

【離婚家庭の子どもへの支援】 後編 アメリカ・オレゴン州の離婚支援制度―離婚後の子育てを見据えた支援制度

小田切 紀子(東京国際大学教授)

2012年12月21日掲載

要旨:

アメリカでは1970年代以降、多くの州で父母の別居・離婚後も子どもが両親と頻繁かつ継続的な接触を維持できる共同監護を導入した。オレゴン州法では子どもがいる夫婦が離婚する場合、養育計画書の提出と親教育プログラムの受講を義務付け、さらに民間団体が離婚家庭の子どもへのプログラムを提供している。オレゴン州の離婚後の共同監護、共同養育を前提とした支援体制を紹介し、日本の離婚制度の課題について述べる。
1.子どもがいる夫婦の離婚

アメリカは、日本と異なり協議離婚の制度がなく、離婚には裁判所の調停手続きが必要である。子どもがいる夫婦の離婚の場合は、調停者(mediator)が、父母双方と面接し、離婚に至った経緯、生活歴、経済状態などを聞き、養育費、面会交流の取り決めをし、それに基づき父母は面会交流のスケジュール、子どもの受け渡し方法などについて養育計画書(Parenting Plan)を作成しなければならない。しかし、父母だけでは話し合いがまとまらず作成できない場合は、調停者、あるいはペアレンティング・コーディネーター(メンタルヘルスまたは法律の専門家)が援助する。ペアレンティング・コーディネーターは、面会交流で紛争が生じた場合も、父母双方からの依頼により有料で紛争を解決し、養育計画が実施できるように親を教育し援助する。オレゴン州裁判所のホームページでは、養育計画とは、「子どもがどちらの親といつ過ごすか、子どもに関する決定をどのように行うかを記載した監護と面会交流についての合意」と説明している。オレゴン州では、この養育計画書の提出と後述の親教育プログラムの受講を州法で義務付けている。

養育計画書は、面会交流の実施方法によって、監督付の面会交流プラン、宿泊なしの面会交流プラン、宿泊ありの面会交流プランに分かれ、それぞれにペアレンティング・スケジュール、子どもの受け渡し方法、非監護親と子どもの連絡方法(電話、メール、手紙)、養育計画を変更するときの約束事項を記載する。

2.共同監護(共同養育)と面会交流

アメリカでは1970年代以降多くの州で、別居や離婚後の共同監護(joint custody)が導入され、すでに広く利用されるようになっている。アメリカでは、親は子どもに対して親権ではなく監護権を持つ。オレゴン州*1法では、父母が別居や離婚をしたあとも、子どもが両親と頻繁かつ継続的な接触を維持するよう共同監護の理念を示しており、親の別居・離婚後も子どもが父母両方との関係を持ち続けることをアメリカ家族法の基本的な考えとしている。オレゴン州法では、子どもの監護(custody)は、子どもの健康、教育、福祉(health, education, and welfare)に関する決定を行う権利を示す法的監護(legal custody)と、子どもが親のもとで生活することを示す身上監護(physical custody)に分かれており、それぞれについて共同(joint)にするか単独(sole)にするかを決める。共同身上監護の場合、父母が子どもと過ごす時間を厳密に均等に決めることもできるが、子どもは母親と暮らし、父親と頻繁かつ継続的な交流を保障するという形が多い。

3.親教育プログラム

親教育プログラムは、裁判所が委託した機関で実施されており、筆者はその委託機関のひとつで研修を受けている。プログラムは4時間50ドルで、隔週の平日午後5:30-9:30と土曜日午前9:00-午後1:00に開催され、心理カウンセラーの資格を持つインストラクター2名が、受講生(最大25名)を指導する。インストラクターは、女性3名、男性2名の中からペアを組み、スペイン語の通訳付きである。

内容は、①子どもの発達段階の特徴と各発達段階の子どもが離婚に示す反応とそれに対する適切な関わり、②元配偶者と協力して子育てをするための知識とスキル、である。20ページ程のテキストを用い、『離婚と子ども』のビデオ鑑賞(15分)、ロールプレイ、グループディスカッションをしながら具体的に学ぶ。

ビデオは、親の離婚を経験した子どもたちが、親の離婚についての気持ちを語る内容で、子どもが離婚は自分のせいだと感じていることや、子どもは父母の激しい口論や相手の悪口を聞くと強い不安を感じることがわかる。ビデオのあと、インストラクターが参加者に感想を聞き、子どもが親の離婚をどのように受け止めているか、父母が離婚しても子どもには父母の両方が必要であることを強調する。

望ましい共同養育のスキルについては、夫婦はいろいろな理由があって離婚したが、共通の願いは子どもの健全な成長であることを確認し、共同で子育てをしていくことがいかに子どもにとって大切か、そのためにはどうしたらよいかを学ぶ。元配偶者との関係は、婚姻中の親密な関係から、子どものことだけを話し合う関係に移行すること、葛藤が高い元夫婦の場合は、できる限り接触を避けること、面会交流の子どもの受け渡しは第三者に依頼することなどがユーモアを交えて伝えられる。

また、離婚後の父母による養育には、婚姻中とは異なり、もはや好意を持っていない相手と子育てをするために新しいスキルが必要になる。そのための効果的なコミュニケーション・スキルとして、“I” statement というものを学ぶ。これは、「あなた」を主語にした話し方では、相手は責められている、非難されていると受け止め対立が生じやすいので、「私」を主語にした話し方に変えるスキルである。たとえば、「あなたは、いつも私の話を聞かない」ではなく、「私は、あなたが話を聞いてくれないと悲しい」というのである。これは元夫婦だけでなく、親子においても効果があることが伝えられる。

4.子ども教育プログラム

子ども教育プログラムは、オレゴン州の複数の民間団体が独自に主宰しており、週末の遊び中心の活動や平日の放課後の学習支援から、教育的な内容まで多彩なプログラムがある。筆者が研修を受けている心理教育的プログラムは、平日午後6:00から1時間、8週連続で35ドル、年齢別のクラス編成(幼稚園児、小学校低学年、小学校高学年、中学生、高校生)で実施されている。心理カウンセラーの資格を持つ女性インストラクター1名が、1クラス3-6名の子どもを担当する。小学生の参加が一番多く、高校生のクラスは、筆者の研修中は参加者がいないため実施されていない。きょうだいで参加している子どもも多く、きょうだいは同じクラスの年齢であっても、子どもが異なるクラスを希望すれば、それを認めている。

子どもの教育プログラムと並行して、子どもの親たちは、別の女性インストラクター1名がファシリテーターとなるグループセッションに参加し、子どもの家庭と学校生活での悩みや、面会交流で生じる問題について話し合い、情報交換やアドバイスを相互にしている。

子ども教育プログラムの目的は、親の離婚は親の事情で生じ、子どもには責任がないこと、親は離婚しても子どもを愛していることを理解し、子どもが、離婚に伴う不安や悲しみ、恐れ、怒りなどの感情を安心できる状況で表出し、新しい生活に適応できるように援助することである。さらにこのプログラムで、同じ境遇の友達と出会い、悩みや感情を共有することも重要である。

プログラムの実施方法は、子どもの年齢によって異なるが、身体運動を伴うゲームと遊びを取り入れて行われる。子どもは、インストラクターと、親の離婚によって変化したこと・しなかったこと、嬉しい変化・悲しい変化、自分でコントロールできる変化・できない変化、親の離婚のあと適応が難しかったこと・容易だったこと、離婚前と今の気持ち、同居親・別居親、ときに親の恋人(あるいは継父母)への複雑な気持ちを会話、描画、絵本作成、粘土を使って表現する。さらに、親や離婚、生活状況に対して怒りの感情を持つのは自然であること、怒りの感情のコントロールと適切な表現の仕方を年齢にふさわしい方法で学ぶ。

私が興味深く感じたのは、インストラクターが、プログラムの初日に子どもに親の状況を尋ねると、幼稚園児でも「Divorce」と答えたことである。他方、日本で私たちが主宰している自助グループでは、中学生でも、「わからない」、「離婚じゃないと思う、家の表札が変わっていないから」と答える子どもがいる。親が子どもに状況を説明していないのである。日本とアメリカの離婚に対する周囲の偏見や差別と関連するが、文化差を感じた。

5.オレゴン州の事例から見る日本への示唆

面会交流の法制化

面会交流の法制化については、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国などで実現されているが、日本では法律で明文化されていない。日本では、「別れた親は、柱の影から子どもの成長を見守るのがいい」とする考えや、同居親(監護親)が再婚している場合、新しい家族関係を重視する家族観がある。他方、アメリカは子どもと別居親、ときに継親も一つの家族とみなす特有の家族観があり、日本と大きく異なる。しかし、家族観の違いはあっても、離婚後の子どもと両親の継続したかかわりが子どもの健全な成長に必要であることを多くの研究が実証している(Robert J.Racusin et.al., 1994; Constance A. 2006; Claire M. K. Dush et al., 2011; Clorinda E. Velez et al., 2011)。離婚後、両方の親が子どもと直接的な接触を継続し、学校行事などにも参加して可能な限り子どもと生活時間を共に過ごせるように法制化が望まれる。

共同親権・共同養育の導入

少子化、核家族化にともない父親の子育て意識が高くなり、子どもの成長に関わり続けたいと希望する父親が増加している。離婚しても親としての責任を持ち、どうしたら共同で子育てができ、安定した親子関係を継続できるかを考えるべきである。共同親権、共同監護を導入し共同養育を実施している国の中に、共同養育は問題が多いとして単独親権に戻った国はないことからも、共同養育が、親と子ども双方にとって最適であることが理解できる。

親教育プログラムの義務化

1990年代から全米で親教育プログラムが導入され、多くの州で受講を義務付けている。プログラムの目的は、子どもの健全な成長には両方の親との継続した交流が必要であること、それを実現するための共同養育のスキルを学ぶことである。面会交流と共同養育の実現のためには、親への心理教育プログラムが欠かせない。子どもが生まれる前に親学級があるように、離婚後の親教育プログラムの義務化が求められる。

最後に、共同親権、共同養育を導入し、面会交流を法制化するためには、法の改正とともに社会全体で子どもを支える支援制度を充実させなくてはならない。各市町村に、子育て支援対策のひとつとして、離婚後の子育てや養育費、面会交流について相談できる窓口の設置が必要である。


  • *1 アメリカ連邦政府は、1996年のPersonal Responsibility and Work Opportunity Reconciliation Act(PRWORA)において、「州は、非監護親が子どもと面会交流することを支援し促進するためのプログラムを作成し、運営を可能にする助成金を提供しなければならない」と定めた。このPRWORAにより、面会交流支援プログラムの助成金Child Access and Visitation Grantsが導入され、各州には、実親と暮らす子どもの数などに応じて、最低でも10万ドルが給付されている。オレゴン州は、離婚と子どもの問題に早期から積極的に取り組んでいる州であるが、この助成金が、同州の面会交流支援をさらに活性化させている。

引用文献

  • Constance A. 2006 Family Ties After Divorce: Long-Term Implications for Children Family Process, Vol.46 (1), pp53-65.
  • Claire M .K. Dush, Letitia E. Kotila & Sarah J. Schoppe-Sullivan 2011 Predictors of Supportive Coparenting After Relationship Dissolution Among At-Risk Parents, pp356-365.
  • Clorinda E. Velez, Sharlene A. Wolchik, Jenn-Yun Tein & Irwin Sandler 2011 Child Development Vol.82 (1), pp244-257.
  • Robert J. Racusin, Stuart A. Copans & Peter Milis 1994 Characteristics of Families of Children Who Refuse Post-Divorce Visit Journal of Clinical Psychology, Vol.50 (5), pp792-801

筆者プロフィール

Noriko_Odagiri.jpg小田切 紀子(東京国際大学教授)

東京都立大学人文科学研究科修了、心理学博士、臨床心理士。大学院時代に国立精神・神経センターで家族に関する縦断研究に参加したことがきっかけで夫婦関係および夫婦関係が子どもに与える影響に関心を持ち、離婚に関する研究を始める。同僚と離婚家庭の親と子どもの自助グループを主宰する一方、日本に根強く存在する離婚への偏見意識の形成要因について調査研究をしている。最近は、離婚後の面会交流の問題に取り組み、現在はアメリカ・オレゴン州で離婚家庭の支援体制を勉強中である。
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コメント

小田切先生 はじめまして。論文、拝見致しました。
当職は、兵庫県で執務する弁護士です。
離婚に際しての面会交流のあり方で悩むケースが増えており、近いうちに、有志の弁護士を募って、アメリカに研修に行きたいと考えております。
また喫緊の課題として、現在、抱えている案件で、母親の不安定さから子供と試行的な面会すら実現しないというケースがあります。裁判所は、子供ら自身が会いたくないと言っていることから、審判に移行すれば父親からの面会交流の申立を却下する方針です。そのため、とりあえず中間合意のような形で調停するほかないと考えております。その際、どのような条件を盛り込めばよいのか、本当は親のプログラムを引き受けてくれる機関があればよいのですが、なかなかないため、思案しております。
先生から、何かアドバイスいただければ、大変ありがたく存じます。
(守秘義務の関係上、匿名での投稿にしておりますが、先生のご連絡先を頂戴できるようであれば、直接ご連絡差し上げたく存じます)


こんにちは、CRN編集部です。
小田切先生に、こちらのコメントの内容をお伝えいたしました。小田切先生より、「アドレスを教えていただければ、返信をいたします」とお返事をいただきましたので、ご連絡先をお伺いできればと思います。つきましては、CRNの問い合わせフォームがございますので、そちらの入力画面から再度ご連絡いただけますでしょうか。お問い合わせ内容は「その他」をお選びいただき、小田切先生へのご連絡であることを明記していただいた上で、ご送信ください。よろしくお願いいたします。フォームはこちらです。
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