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【いじめの構造】 第3回 いじめと教師のリーダーシップの関係

要旨:

いじめの発生を助長したり予防・抑制したりする、学級の雰囲気がある。この学級の雰囲気作りには、教師のリーダーシップが強く関係する。教師のリーダーシップを、指導・仕組み作り(P機能)と関係維持・配慮(M機能)の2つの要素に分けると、両方が弱いときには特に、いじめや学級崩壊などの荒れが生じやすい。また、指導機能だけが強い場合も、生徒の欲求不満が高まりやすくいじめは起こりやすいが、両方が弱い場合に比べていじめへの抑止力がはたらくことも示唆された。両方の機能が高い場合や関係維持・配慮機能だけが高い場合は、相互受容的な雰囲気となり、いじめは起こりにくく、教師も好かれていることが分かった。
English

今回は、いじめはいじめる子といじめられる子の間の問題であるだけでなく、集団の中で生じる問題であるという視点から、学級集団における教師のリーダーシップといじめの関係について、解説します。学級や教師に当てはまることは、家庭における親子関係や、職場における上司と部下の関係にも共通する部分があることがわかると思います。

学級では教師が公式のリーダーです。この教師のリーダーシップのあり方は、どのようにクラスの雰囲気に影響し、いじめの発生を助長したり予防したりするのでしょうか。

通常のいじめは、教師などの大人の目を盗んで行われ、教師は直接介在しないので、教師の言動は、いじめにさほど影響しないように思われるかもしれません。しかし、教師のリーダーシップのあり方は、いじめの発生と深く関わることを示すデータが数多くあります。

表1をご覧ください。リーダーシップ理論の定番であるPM機能理論を用いると、教師のリーダーシップを、「決まりを守らせる、ルールを作る」など学級集団の構造を作るはたらき(P機能: performance function)と、「子どもの気持ちに寄り添う、見守る、認める」など、学級集団の人間関係を維持するはたらき(M機能: maintenance function)に分けることができます。

ここで、簡単なワークをしてみましょう。この表をみて、あなたが小学校の6年生だった頃の担任の先生について、PとMの合計点を出してみてください。思い出せない場合は、別の学年でも構いません。PとMの合計点は、いずれも最低が10点、最高が50点となります。エクセルが開ける方は、自動採点診断表を作りましたから、こちらから開いて点数を入力してみて下さい。

表1.教師のPMリーダーシップ質問項目

あなたが小学校6年生だったときの担任の先生を思い浮かべてみましょう。
PとMの20項目について、その先生がどれくらい当てはまるか、1(全く当てはまらない)から5(非常によく当てはまる)まで5段階で点数をつけて、合計点を出してみましょう。

全く当てはまらない あまり当てはまらない 半分くらい当てはまる かなり当てはまる 非常によく当てはまる
P機能を測る項目
1.勉強道具などの忘れ物をしたときに注意する 1 2 3 4 5
2.忘れ物をしないように注意する 1 2 3 4 5
3.家庭学習(宿題)をきちんとするようにきびしく言う 1 2 3 4 5
4.名札ハンカチなど細かいことに注意する 1 2 3 4 5
5.児童たちの机の中の整理やかばんの整頓、帽子の置き方などを注意する 1 2 3 4 5
6.物を大切に使うように言う 1 2 3 4 5
7.学級のみんなが仲良くするように言う 1 2 3 4 5
8.自分の考えをはっきり言うように言う 1 2 3 4 5
9.きまりを守ることについてきびしく言う 1 2 3 4 5
10.わからないことを人に尋ねたり、自分で調べたりするように言う 1 2 3 4 5
ここでは合計30点以上でP、30点未満でpとします P機能の合計点 (    )点
M機能を測る項目
1.児童の気持ちをわかる 1 2 3 4 5
2.児童と同じ気持ちになって考える 1 2 3 4 5
3.えこひいきしないで、児童を同じようにあつかう 1 2 3 4 5
4.児童が話したいことを聞く 1 2 3 4 5
5.勉強の仕方がよくわかるように教える 1 2 3 4 5
6.児童が間違ったことをしたとき、すぐに叱らないでなぜしたか聞く 1 2 3 4 5
7.何か困ったことがあるとき、相談に乗る 1 2 3 4 5
8.勉強がよくわかるように説明する 1 2 3 4 5
9.児童と遊ぶ 1 2 3 4 5
10.学習中、机の間を回って一人ひとりに教える 1 2 3 4 5
ここでは合計30点以上でM、30点未満でmとします M機能の合計点 (    )点

合計点が出たら、次に、30点以上を大文字のPまたはMとし、30点未満を小文字のpまたはmとします。つまり、P機能やM機能が強いと大文字、弱いと小文字となります。読み方は、大文字をラージ、小文字をスモールといいます。

こうして、両方強いPM(ラージピー・ラージエムと読む)、片方だけ強いPm(ラージピー・スモールエムと読む、以下同様)、pM、両方弱いpmの4タイプができます。その先生は、どんな方で、クラスの様子はどんなふうでしたか?

私どもは、大学生などを対象に同様の質問をしたので、その結果を見てみましょう。あなたのいたクラスと、共通しているでしょうか?私たちは、大学生が回答した小学6年生のときの担任のPMスタイルを4分類し、こうしてできたタイプ別に、「クラスがどれくらいまとまっていたか」、「クラスがどれくらい楽しかったか」、「先生がどれくらい好きだったか」について、1(全くそうでなかった)から5(非常にそうだった)まで、5段階で点をつけてもらいました(図1~図3)。さらに、「クラスはどんな様子だったか」についての自由記述も集めました(表2)。

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図1.先生のリーダーシップのタイプ別にみた、クラスのまとまり具合

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図2.先生のリーダーシップのタイプ別にみた、クラスの楽しさ

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図3.先生のリーダーシップのタイプ別にみた、先生への好意度

表2.先生のリーダーシップのタイプ別にみた小6当時のクラスの様子

どちらも高い(PM型)先生の、当時のクラスの様子
  • 元気が良くて明るいクラスだった。
  • けんかもあったが、仲が良かった。
  • イベント時の団結力が高いクラスだった。
  • この先生のクラスは、必ず運動会で優勝した。
  • 先生が生徒のことを好きだと伝わってきた。
  • まとまりがあり、毎日学校に行くのが楽しかった。先生は怒ると怖かったが、クラスでお楽しみイベントをよく開催していた。発達障害がある子も居場所ができるように工夫されていたと思う。
  • クラスは明るく、元気で楽しかった。いじめが起きかけた時、先生の力で解決し、結果的にはまとまりのあるクラスになった。
  • 今まで出会った担任の先生の中で最高でした。何かと問題のある学校でしたが、仲は悪くなかった。先生は、誰に対してもあだ名や面白いポイントを見つけ、各人の個性を引き出してくれた。
  • 授業中は集中していた。休み時間はみんな外で遊んだ。とても良い雰囲気だった。
  • 明るくて元気なクラスで、先生に毎日怒られていたけれど、とても楽しいクラスだった。
Pだけ高い(Pm型)先生の、当時のクラスの様子
  • 先生が真面目で静かなクラスだった。
  • 先生がえこひいきをしていた。
  • 先生の怒るポイントが分からなかった。
  • 徹底的に軍隊のような指導で、点数で算数のクラス分けをしていた。
  • いじめがあった。
  • 2つのグループに分かれていた。全体としてのまとまりはなかった。
  • ドラマの『女王の教室』のようなクラスだった。毎日が窮屈でとてもつまらなかった。
  • 先生がいちいち細かくて、特に男子生徒は嫌がっていたように思う。けれど、その分、クラスの子ども同士のまとまりはあって、みんな仲が良かったとは思う。
  • 学級崩壊まではいかないが、かなりまとまりのない状態だった。
Mだけ高い(pM型)先生の、当時のクラスの様子
  • クラスの雰囲気は良く、男女間でもまとまっていた。
  • 宿題忘れにもあまり厳しくなく、自由度が高かった。
  • 運動会のクラス対抗の競技では、練習から全員が集まってやり、集中して取り組めていたし、お互いにすごく応援していたと思う。和気あいあいとしていた。
  • 全体的に雰囲気が良かった。子どもの目線にたって、物事を考えてくれる先生だったので、みんな先生のことが好きだった。
  • 先生がとても良い先生だった。クラスの雰囲気も良かったが、勉強ができていなかった。
  • 一時期、一人の児童に対するいじめもあったが、後半は解決し、みんな楽しくやっていた。
どちらも低い(pm型)先生の、当時のクラスの様子
  • 学級崩壊していた
  • ほとんど学級崩壊に近かった。
  • いじめがはびこっていた。
  • クラスはバラバラだった。
  • 学級崩壊していた。授業に出ない子がたくさんいて、ゲームとかしていた。先生に反発することに関しては、団結していた。
  • 目に余る子どもに対して先生が当たり散らしていたため、雰囲気が悪かった。
  • 学習方法を獲得する機会に恵まれていない子が多かった。分団分離型の構造だった。

これらの図や表を見ると、どんなことがわかるでしょうか?

PもMも両方が強いPM型の先生のクラスでは、子どもたちが先生を好きで、団結心が強く、行事でも良い成果を収め、クラスが楽しいということが見て取れます。いじめが発生しても、先生の力で解決でき、また発達障害などの子がいても、安心して居場所が持てていることが見てとれます。

片方だけ強いPmとpMでは、前者のPm型の先生のクラスはピリピリした雰囲気になり、先生が好かれていなくて、児童が安心できない状態であるのに対して、後者のpM型の先生のクラスは温かい雰囲気となり、先生が好かれており、クラスの様子が全く違うこともわかるでしょう。なぜそうなるのでしょう。

Pだけが特に強い先生は、自分から見て良いクラス(児童が行儀がよくて勉強意欲が高い、など)であるように子どもたちを統制する傾向があると見てとれます。子どもの目線や気持ちを考慮せず、「児童生徒はこうあるべき」という自分の理念や目線に子どもたちをはめこもうとすることにより、子どもたちが、「先生の怒るポイントがわからない」、「自分のことをわかってくれていない」などと感じるようになります。そして、先生が、自分の理念に合わない言動をする児童生徒を、学級で否定的に扱うと、「理由があればいじめてもよい」という暗黙のメッセージを子どもたちに伝えることになり、その子がいじめの対象になったり、あるいはストレスを溜めていじめをする側になることもあります。いじめの研究でも、「こうあるべき」という信念が強すぎる(イラショナルビリーフが強い)教師のクラスでは、いじめが起こりやすかったり、「先生は自分をわかってくれていない」、「先生が好きではない」と思う児童生徒が多かったりする傾向があるとわかっています。ただし、「いじめてはいけない」という指導も強ければ、一定の抑止力にはなるので、いじめが生じることがあっても、いじめがはびこるところまでは行きにくいと思われます。

他方、Mだけが強いpM型の先生の場合は、先生が子どもたちを認めて、子どもたちの気持ちに寄り添うので、子どもたちもお互いに認め合うように促されるのでしょう。

最後に、どちらも弱いpm型の先生の場合です。pm型の先生のクラスの場合、いじめがはびこっていたり、学級崩壊が起きたりする様子が顕著に見られます。なぜpmタイプでは、ルール作りがうまくいかず、また学級崩壊やいじめが多発しやすいのでしょうか。このタイプの教師は、ルール作りや、子どもの気持ちをうまく捉えることができにくいために、子どもたちはバラバラになりやすく、放っておくうちに、相互の認め合いも弱り、ルールも守れなくなるのでしょう。先生への好意も低く、好きなことだけやって、いやなことはしない、好きな友達とだけ一緒にいる、孤立する人がいても気にしないなどの状態が出てきます。そのため、学級崩壊が多発するようになるし、いじめもはびこるし、疎外され居場所をなくして悲しい気持ちの子どもたちが、救いのない中で、追い詰められていくのだと考えられます。

このように、集団がうまく機能するためのルールや仕組み作りがうまくできて、相互承認・相互サポートがうまくいっているクラスでは、いじめなどの心の闇の問題が生じにくいのだといえるでしょう。こうしたことは、家庭や職場をはじめ、どのような集団にも、多かれ少なかれ当てはまることと思います。

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筆者プロフィール
report_sugimori_shinkichi.jpg杉森 伸吉 (すぎもり・しんきち)

東京学芸大学准教授(社会心理学)。個人と集団の関係をめぐる文化社会心理学の観点から、集団心理学(チームワーク力の測定、裁判員制度の心理学、体験活動の効果)、リスク心理学などの研究を行っている。法と心理学会理事、野外文化教育学会常任理事、社団法人青少年交友協会理事、社団法人日本アウトワードバウンド協会評議員、NPO法人教育テスト研究センター研究員、NPO法人学芸大こども未来研究所理事、社団法人教育支援人材認証協会認証評価委員会委員長など。

※肩書は執筆時のものです

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