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【ニュージーランド子育て便り】 第8回 羊牧場に行く

要旨:

ニュージーランドの主力産業のひとつは牧畜である。オークランドの郊外にも羊や牛の牧場が広がっている。先日、家族で羊の牧場に行ってきた。羊の毛刈りショーの見学、牧畜経営についての話、様々な動物との触れ合いなど盛りだくさんの1日になった。考えさせられることも多く、楽しみながらも立派な社会科見学のようだった。訪れていた子どもたちが牧場の担当者の話を真剣に聞き、積極的に参加していることも印象的だった。

ニュージーランド(以下、NZ)と言えば羊が連想されるほど、日本では羊のイメージが強いと思います。近年は、羊の価格競争力が落ちており放牧数が減り、牛を放牧する農家が増えているようです。それでも2012年の統計でNZの羊は3,130万頭となっており一大産業であることに変わりありません*1。人口450万人の国なので羊の方がはるかに多いわけです。オークランド中心部から車で郊外に30分(50kmほど)も走ると、緑の牧草地に羊や牛が放牧されている光景が見えてきます。先日、オークランドの中心部から日帰りできる距離にある羊牧場に家族で行ってきました。夫と私が3歳の小さい娘にかわいい羊を見せてあげてのんびり過ごそうという気楽な気持ちで出発しました。実際は思っていた以上に考えさせられる要素に溢れた時間でした。

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まず、私たちは羊と牧羊犬のショーを見学しました。そして羊の放牧について、羊の毛刈りについて、羊をどのように育てるか、育った羊がいくらで売れるか、最近は価格が落ちていることなどを聞きました。「羊の毛刈りは特殊な技術で、NZの毛刈り職人たちはシーズンを終えて今アメリカやオーストラリアに行っています。一般にアメリカに行きたい人はビザがとれずに苦労していますね。でもこの仕事であれば、いつでも歓迎されています。羊の毛刈りは素早く行う必要があります。一頭当たり報酬が何ドルという形で決まっているからです。素早くやらないと稼ぎが減ります。それはハッピーではありません。でも羊はリラックスさせなければいけません。リラックスさせながら怪我をさせず早くやらないといけません。ベテランになると大体40秒を超えるくらいで1頭の毛を刈ります。羊の怪我にも注意する必要があります。私も毛刈りをしている時に一回だけ羊の足の筋肉を切ってしまったことがありますが、歩き方が変になりました。」私にとっては全てが新しい情報で興味深い内容でした。子ども連れの家族ばかりの中で経営的な内容が多いことも印象的でした。失敗談もたくさん交えられており、失敗するとまた時間とコストがかかるという話もありました。

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羊の毛刈りを体験する子ども

そして、「羊の毛刈りを体験してみたい人はいますか?」という質問に思わず手をあげたくなった私ですが、すかさず手を挙げたのは全員小学生くらいの子どもたちでした。子どもたちが何人も毛刈りに挑戦した後、毛のなくなった羊を指さし「この羊はもう十分育ったからこの後、ラムとして出荷します。」という説明がありました。聞き間違いかと私たち夫婦は目を見合わせてしまいました。日本では、特に子どもの前では、目の前の生きた動物と食用の肉の関係を曖昧なままにさせておくところがあると思います。私にとっても、こういう場所からスーパーの肉につながるのだと、はっとさせられる場でもありました。終わってみると、このショーは単なる視覚的なショーではなく、1頭あたりの利益計算、大事に育てて毛や肉にして売るということ、取引相場の変動、海外で職を得ること、生計をたてることなどなど、生きていくために重要な要素がたくさん含まれていたことに感心してしまいました。参加していた子どもたちは、娘より少し大きな小学生くらいの子が多かったようです。一生懸命耳を傾けて聞いていたのも印象的でした。娘は最初「羊さん、髪の毛切ってかわいそうね。」となんだか居心地が悪かったようで、何度か理由をつけては席を立っていましたが「あの毛がお洋服になるんだよ。」というと不思議そうな顔をしながらも納得していました。そして毛刈りした毛を少し分けてもらうと「羊の髪の毛もらった。」とありがたそうに大事にしていました。

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ウサギを抱く娘

羊のショーが終わると、いろいろな動物を見に自由に牧場内を見学しました。ウサギ小屋で「ウサギ抱きたい?」と聞かれて「Yes」と答えてしまった娘ですが、実際はとても怖かったようです。しばらくしたら震えて、ウサギを落としてしまいました。その時、牧場のお姉さんが娘に「You are a brave girl. (勇気があったね。)」と声をかけてくれました。失敗しても挑戦したことを認めるという、NZの人たちのこういう姿勢は私も見習いたいと常々思います。

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羊を追いかける子どもたち

牧場で羊を追いかけて走っている子どもたちはとても楽しそうでした。羊の動きも歩き方も集団で動く様子もとてもかわいらしいものでした。私たち家族も羊の群れを追いまわしたり、餌をあげたりして、十分楽しみました。

きれいな空気と広がる牧場の風景は美しく、1日中飽きることなく過ごすことができました。NZの子どもたちは、このような牧場見学を一度はするのでしょう。年間フリーパスという割引料金もあったので、牧場に定期的に遊びに来る家族もいるのかもしれません。何よりNZには、牧場見学ではなく実際に牧場で育つ子どもも多いはずです。小さな頃からこのようにして、国の主力産業に慣れ親しむことのできる環境は恵まれているとも思います。娘にとっては、「羊がいた」「牛がいた」「馬がいた」...とたくさんの動物に会ったという思い出だけが残ったようですが、大きくなるにつれ、立場が変わるにつれ、感じることや考えることは変わっていくだろうと思います。私のような大人にとっても牧場経営の大変さや誇りなど様々なことを感じた1日でした。


*1 詳しくはNZの統計局の農業統計を参照のこと http://www.stats.govt.nz/browse_for_stats/industry_sectors/agriculture-horticulture-forestry/AgriculturalProduction_final_HOTPJun12final.aspx
筆者プロフィール
村田 佳奈子

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(教育学)。資格・試験関連事業に従事。退社後、2012年4月~ニュージーランド(オークランド)在住。
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