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【国際都市ドバイの子育て記 from UAE】 第17回 水はどこから 2

森中 野枝

2019年11月29日掲載

ドバイで子育てをしていると(2013~2017)、子どもが日常的に環境問題を意識するような機会が少ないことに戸惑いました。

スーパーで買い物すると、購入した食品は必要以上に小分けにされて大量のレジ袋に入れられます。エコバックで買い物をしている人はほとんど見かけません。 家でプラスチック、瓶、電池とごみを丁寧に分別しても、最終的にはハウスキーピングの人がごちゃまぜにして持って行ってしまうので、だんだん分別しなくなってしまいました。

家賃は基本的に光熱費込みのため、電気、水は使い放題。節水、節電なんて言葉を耳にすることもありません。

日本の教科書では、4年生でごみの分別やリサイクルなどについて習います。小学校3・4年生の社会科の教科書*1を見ると、家庭やお店、地域での取り組みが紹介されていました。

お店での取り組み:お店では入り口にトレイの回収ボックスを置いてお客さんに協力をお願いしています。またエコバッグの利用もお願いしています。
家庭での取り組み:あやさんの家では、ごみの分別に熱心に取り組んでいます。また、日曜日にフリーマーケットに家族で出かけ、リサイクル品を買うことがあります。
地域での取り組み:自治会ではごみの分別を徹底するために、ちらしをつくってごみ置き場にはっています。また月に一度、古い新聞の回収をして、専門の業者に売っています。

日本で生活をしたことのない我が家の次女と次男にとっては、どの取り組みもきっとピンとこないことでしょう。オイルマネーで潤っているドバイは、環境後進国だからしょうがないなと思っていました。

そんなドバイが炭素排出量の世界一少ない都市を目指すべく、2050年までに消費エネルギーの75%を再生可能エネルギーで賄えるよう目標を掲げていると知り、正直驚きました。しかも、矢継ぎ早に大規模プロジェクトを次々に実現させています。

ドバイでは「サステナブル・シティ」という持続可能な未来を目指した住宅地が建設され、「すべてのエネルギーを街の中で作り出す」というコンセプトのもと、電気を作り出し、水、ごみなどの資源を再生可能にしています(https://www.thesustainablecity.ae/)。

ドバイとの競合を避け、「文化」と「環境」の都市を目指しているアブダビでは、ゼロ・カーボン(炭素の排出量が実質ゼロ)都市といわれるマスダール・シティが完成し、注目を浴びています *2

このようにエコの機運が高まる中、前回ご紹介した海水を使って真水を作る海水淡水化は、環境への負荷が高いとの認識が広がりつつあり、その代替案が模索されています。今回は淡水化以外の水確保の方法を模索するドバイについて見ていきたいと思います。

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アブダビのグランドモスク。モスクの前にある池には、豊かさの象徴の水がなみなみと満たされている。
雨は降らせるもの~人口降雨システム~

かつては年に2、3回しか雨が降らなかったドバイで、筆者がドバイを離れたころから(2017)徐々に雨の回数が増えてきています。雨がしとしとと降り続くような日もあるというのですから、びっくりです。

異常気象、気候変動かというとそうではありません。 SF映画のような話ですが、UAEでは人工降雨(クラウド・シーディングcloud seeding)技術を頻繁に用いて、計画的に雨を降らせており、人工降雨が水問題解決の一助を担っているのです。それが特に顕著になった2017年には、実に242回の人口降雨が試されました。 雨を降らせて水を確保すれば、海水淡水化も減らせるというわけです。

では、どうやって人工的に雨を降らせるのでしょうか。

人口降雨の方法としては、「雨雲を作る」か「雨雲を探して雨を降らせる」の二つがあります。UAEで行われているのは後者の「雨雲を探して雨を降らせる」方法です。雨粒の「種(シード)」になるものを雨雲の中に散布することで雲粒を雨粒に成長させることができるので、「シーディング」と呼ばれます。

人口降雨プロジェクトの拠点はUAEの東部に位置するアル・アインにあります。人口降雨にふさわしい雨雲が海のある東側で発生しやすいからです。

「シーディング」はまず常時モニターで雲を観察して、適切な雨雲を見つけるところからスタートします。 レーダーが雨雲を発見したら、ただちにパイロットに連絡が行き、アル・アインの空港からプロペラ機が出動します。 プロペラ機には大きなカプセルに入れられた「種」が機体の翼の部分に装着されています。このカプセルの中身の大部分は吸湿性の高い塩(70%は塩化カリウム、13%は塩化ナトリウム)です。

雨雲の下でこの塩を散布し、上昇気流に乗せて雨雲に塩を吸い込ませると、その粒子に雲粒が集まり大きな水滴に成長します。その水滴の大きさが0.1ミリ~1.0ミリになると重さで自然に落下して雨になるという仕掛けです*3 。成功率は3分の1程度と言われています。

人口降雨に最適な時期は、インドでモンスーンが発生する夏期です。モンスーンに乗ってインドからアラビア半島に移動してきた雲は、湿気を潤沢に含んでいます。その雨雲をアル・アインで待ち構えて狙い撃ちするのです。逆に冬期は、雲が西から東に移動するため人口降雨稼働率は下がります。

UAEは2015年にこの人口降雨に$558,000(約6,000万円)もの費用を投じました。それでも、海水淡水化よりもずっと安いというのだから驚きです。 UAEで散布される物質は自然由来の塩のみを使っているため、ヨウ化銀を使う人口降雨に比べると*4自然への影響は少ないと言われています。

人口降雨の欠点は、雨量をコントロールできないことでしょうか。 少しでも雨が降りすぎると、排水設備が整っていないこともあり、たちまち大洪水になって街中が大混乱に陥ってしまうこともあります。雨を降らせるなら、雨が降っても大丈夫な街づくりも考えてから進めて欲しいところです。

report_09_345_02.jpg もともと雨が降ることが想定されてない街に雨が降ると、すぐに洪水が起きてしまいます。
人口の山を作る?!氷山を引っ張ってくる?!~奇想天外な水ビジネス~

海水淡水化、人口降雨にとどまらず、UAE政府が革新的で持続可能な水の開発に対して巨額の報奨金*5を出すことで、水を生み出すためのアイデアが次々と現れています。何でも世界一を目指すドバイらしい、大規模なアイデアが盛りだくさんです。

2016年には、UAE政府が水不足解消のために人工の山を作ることを計画しているという、おとぎ話のようなニュースが報道されました*6。海で温められた蒸気が人口の山にぶつかって上昇し、山頂で冷やされて雲を形成し雨が降るという原理を、人間の手で作り出そうというのです。一時的に話題になりましたが、政府も正気に戻ったのでしょうか、立ち消えになったようです。

2019年には、南極から氷山を船でUAEのフジャイラ*7まで引っ張って来て、氷山の中に閉じ込められている真水で飲料水不足を解決するという、ニュースが報道*8されました。 この氷山プロジェクトのアイデアは、もともと1970年代に科学者がサウジアラビアの国王に提案し、技術的な問題でとん挫したという経緯があり、最近再び脚光を浴びています。 プロジェクトの具体的内容は、2km×500mの規模の氷山をオーストラリアまたは南ア経由でUAEの海岸へ移送し、その氷山から真水を採取し、氷山による降雨量増加を狙います。 このプロジェクトを実用化しようとしているアブドラさんはインタビューでこのように言っています*9

「このプロジェクトに関して環境アセスメントはすでに行っており、生態系・環境への影響は小さいことが証明されている。海水淡水化に伴い発生するアラビア湾への排水が海の生態系へ与える深刻な影響と比較すれば、自然に優しいプロジェクトと言える。氷山運搬中の氷の溶解率の低減など技術的な問題を克服して、夢物語と思われていたこの挑戦的なプロジェクトを今年から来年にかけて実現する予定である。」
ドバイにとって経済的で、環境にやさしかったとしても、世界全体で考えたときに果たしてそうなのでしょうか。

スウェーデンの少女、グレタ・トゥーンベリさんが気候変動対策を訴えるため毎週金曜日ストライキを起こし、ニューヨークで開催された国連サミットで気候変動の危機を訴えた演説は強烈な印象を与えました。

世界で気候変動に注目が集まる中、UAEの「人口降雨」や「氷山牽引」などの方法は人工的に気候変動を作り出しており、世界の流れに逆行しているとも言えるのではないでしょうか。

奇想天外な発想が次々と現れるUAEの水ビジネス。玉石混交なプロジェクトが乱立する中で、「玉」だけが残っていくことを祈っております。


筆者プロフィール
森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。2013-2017 アラブ首長国連邦ドバイ滞在。現在はサウジアラビア、ジェッダに住んでいる。
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