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【スウェーデン子育て記】 第28回 地域で子どもの安全を守る

爽やかで明るい季節がやってきました。朝夕は肌寒い日もありますが、日の出は早いし日の入りが遅い最高の季節です。外が明るいと子どもたちの活動の時間も長くなります。夕食が終わった後に外で遊んでいる子どもの姿も見かけます。特に週末は、夕方を過ぎても十代の子どもたちが友達と楽しそうに外を歩いています。

外が明るいとはいえ、子どもをもつ親としては彼らの安全は一番気になるところです。私の住んでいる地域はストックホルムの街から少し外れた住宅地なので、比較的地域のまとまりが強い場所です。近所にスーパーマーケットがありますが、そこへ行けばだいたい知っている顔がいますし、外を歩けば娘たちの友達にも会います。知らない人ばかりの街中よりは安心なのですが、近ごろは残念なことに空き巣の被害が多いということで、地域の警察署から注意喚起のお知らせも来ています。

地域での安心感

スウェーデン統計局が2018年5月に発表した調査結果によると、12歳から18歳までの男女のうち、夕方以降の時間帯に自分が住む地域に安心感をもっているという子どもは、男子が6割、女子は4割程度だったそうです。当然のことながら、昼間は安心感が高く、8割の子どもたちが男女ともに地域を安全だと感じているそうです。なぜ夕方以降は安心感が得られないのかというと、いくつかの理由があります。調査によると、12歳から18歳の子どもの4人に1人が、「地域に会いたくない人物がいる」とのこと。具体的には、17パーセントの子どもが自分の住む地域に「避けたい人(子ども)がいる」、また14パーセントの子どもが地域に「避けたい人(大人)がいる」と答えているそうです。中でも、16歳から18歳と年齢が高い子どもについては、男女差が顕著に表れています。女子の22パーセントは地域の中で避けたい大人がいて、男子でも9パーセントの子どもは会いたくない大人がいるとのことです。

この調査では、あまり詳細が記載されていませんでしたが、どうやら知らない人物がいるから安心感が得られないというよりは、知っている人の中で会いたくない人物がいるというのが大きな理由のようです。どのような原因があって会いたくないのか、ということまではわかりませんが、誰かを避けながら生活するというのは子どもにとっては非常にストレスのかかることだろうと思います。同様の調査は学校内での安心感についても行われたようです。学校内ではほとんどの子どもが安心感をもっているそうですが、登下校時の道のりでは少し不安になる子どもの数が増えるとのこと。まだ成人前の子どもたちの行動範囲は、学校と自宅の周辺に限られていることが多いので、できればその地域での精神的な安心感は確保してあげたいと思います。

安心感への具体的な取り組み

子どもの気持ち的には、見知らぬ人と関わることも不安の材料になるでしょう。日本のように町内会などもありませんから、地域の安全と子どもの生活を守るために、私の住む地域では保護者を中心にしていろいろな活動が行われています。まず数年前に始まったことですが、Facebookの普及を利用してコミュニティーを作った方がいます。これは実に機能的に運用されており、ローカルな情報が毎日アップされています。その中には不審者を見かけたという情報も含まれているので、子どものいる家庭では特に重宝されています。また、コミュニティーのメンバーの有志が中心になって、毎週金曜日の夜に地域の巡回を行なっています。これは不審者の警戒のためでもありますが、夜の遅い時間に出歩いている十代の子どもに注意を喚起するための巡回でもあります。また、これとは別に地域の定年退職者がボランティアで巡回を行う機会もあるそうです。スウェーデンのほとんどの住宅地では近隣に林や森があり、暗い道があります。10年ほど前には森のジョギングコースで夕方、女の子が襲われたという事件がありました。そのような場所では特に、このような巡回が有効であると思います。

さらに、このような活動に賛同した十代の男の子が数ヶ月前から自分の原付バイクで地域の巡回を始めています。この男子は、他人の敷地に侵入していた怪しい人物を追い払ったこともあるようで、新聞で大きく取り上げられていました。彼の原付バイクのガソリン代などもかかるので、寄付金などを募りながら活動をしているそうです。個人的な感想としては非常に尊敬できる活動であり、有難いと思います。とはいえ、まだ十代の男の子。万が一、体の大きな大人と向き合ったら敵わないこともあり、危険なのではないかと心配になってしまいます。本来であればスウェーデンの警察が定期的にパトロールをしてくれればいいのですが、警察官の数は圧倒的に不足しているとのこと。残念なことに地域でパトロールをしているパトカーを見かけることはほとんどありません。

子どもたちの年齢が上がるにつれて、保護者が付き添わなくても出かける機会が増え、その範囲もどんどん広がっていくでしょう。安心して子育てを行うためにも、私も積極的に地域の安全に貢献していきたいと考えています。

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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