前回お伝えしたように、ドイツ政府は国民の健康的な食生活を推進するため、食育プロジェクトを開始しました。それに伴い、ベルリン市内の小学校では食育の授業が導入されるようになりました。息子が通う小学校には日本のような家庭科の授業はありませんが、小3、5、6年生を対象に、栄養士を迎えて、3月から5月の2か月に渡り、週1回2時間連続のプロジェクトの時間に食育の授業が設けられました。授業は週ごとに講義と調理実習で構成されており、プロジェクト期間後半には、まとめのテストも実施されたようです。筆者は調理実習に参加してきたので、今回はその様子も含めてお伝えしたいと思います。
講義の時間
息子によると、講義の時間には、このプロジェクトのために新たに配布された食育の教科書を元に、栄養士の先生がお話をすすめていったそうです。まずは「食事や調理の前には必ず手および野菜などの材料をしっかりと洗うこと」から始まった模様。筆者が調理実習に参加した際、先生に直接伺ったところ「衛生面に気を付けることの重要性を知らなかったり、普段、手洗いの習慣を身に着けていない子どもも見受けられるので、この機会に徹底させている」とのことでした。
また、健康的な食生活、すなわち「一日に何をどれくらい食べたら良いのか」ということについても、繰り返し学んだようです。水分と野菜の摂取に関しては強調されていたようで、これは「栄養ピラミッド」という「子どもたちが一日に何をどれくらい食べたら良いか」をわかりやすくピラミッド型にした図を用いて、具体的に説明されています。この「栄養ピラミッド」は、調理中、子どもたちが使用していたまな板にも描かれていました(「栄養ピラミッド」へのリンクはこちら)。
ピラミッドの一番下の3列、緑で示されている食材は一日で一番多く摂るべき栄養(水分、野菜、果物、穀物)、その上の黄色で示された列はその次に多く摂るべき栄養(チーズや牛乳、肉、魚などのタンパク質)、そして最上部の赤で示された2列(お菓子、揚げ物、バターなどの油分)は最も少ない量を食すべき、ということが一目でわかるようになっています。
この栄養ピラミッドのポスターは、学校などの教育機関向けに無料配布されていることから、政府がすすめる食育プロジェクトの柱であることが伺えます *。
また、泡だて器や計量カップ、チーズや野菜を細かくする道具など、調理器具とその用途についても学んだ模様。さらに、「ご飯は楽しく、きちんと座って食べましょう」「食事中はナイフをなめたり、くしゃみをしたり、鼻をほじらないようにしましょう」など、テーブルマナーも含めた、栄養以外の食に関する情報が与えられていたのが、興味深かったです。
後片づけ方法も学ぶ~ドイツ流食器の洗い方
食育に関する講義では、食後の後片づけに関しても学んだそうです。教科書にも書いてあるのですが、ドイツ流の食器の洗い方は、
- 1)まずダブルシンクの片方にお水をはり、そこに洗剤を入れて、食器の汚れをおとす。
- 2)もう一つのシンクにはお水だけをはり、そこで1)の食器をすすぐ。
- 3)食器を拭く。
以前滞在していたカナダやアメリカでもこの方法だったので、渡独しても別段驚きはしませんでしたが、当然、2)のすすぎ用のシンクはどんどん泡だらけになってきて、1)のシンクと変わらない状態になってきます。それでも、水を変えずに、泡のついたままのお皿やコップを、そのまま拭いて棚に戻すという当地の慣習に、私はどうしても慣れることができませんでした。ですから、我が家では、食洗機をフル稼働させています。

ダブルシンク(手前)や2つのオーブンを備えた調理室
食育の授業を通して、単語力もUP!
栄養以外の情報として面白いと思ったのは、この食育の授業を通じて、子どもたちの単語力を向上させようとしていたことです。どの国でもそうだと思いますが、ベルリンでも国語の授業には重点が置かれており、息子の通う小学校でも毎日ドイツ語の授業があります。それらに加えて、食べ物に関する新しい単語をクロスワードパズルにして楽しく学べるようにしており、子どもたちはゲーム感覚で、果物の名前など単語の読み書きを習得していった模様です。

クロスワードパズルの一例
食育に関するテスト
上記の講義の内容は全て「連邦中央栄養庁」の管理下で作成された教材を元に行われ、最終回には同じ政府機関監修のテストが行われたそうです。ここでも「栄養ピラミッド」に重点が置かれており、自分でピラミッドを色分けし、各色と食べ物を結びつける問題や、「ピラミッドの緑の部分は何を意味しますか?」といった問い、さらには「栄養ピラミッドの項目を組み合わせて、朝食の献立を作りなさい」といった、実践的な問題もありました。
同じく実践的な問題といえば、「子どもは一日に何回牛乳、チーズまたはヨーグルトを食べなければなりませんか?」といった、実際の食生活に即した問題も見受けられました。このように、子どもたちは食育に関する講義やテストを通じて、健康的な生活を送るには、具体的に一日に何をどれくらい食べたらよいのか、ということを学ぶことができたようで、素晴らしいことだと思いました。
他の重点項目としては「石鹸で手を洗うのは食事の前?それとも後?」「リンゴやトマトは洗わないで食べても良い?」といった衛生面に関する問題、そして調理器具の種類と用途が目につきました。これらは調理実習にも大きく関係しており、理論と実践の両方から学ぶことで、子どもたちはさらに食育に関する理解を深めていったと思います。
調理実習:メニュー
さて、調理実習に関してですが、実施回数は2か月で5回行われました。メニューは下記のとおりです。
- 1回目:オープンサンドイッチ
- 2回目:色とりどりのヌードルサラダ
- 3回目:野菜サラダ
- 4回目:じゃがいものオーブン焼き・カッテージチーズのハーブソース添え、レタスとリンゴとヨーグルトのサラダ
- 最終回:これまで作ったものから数種類
栄養士の方にどうしてこれらのメニューを選んだのか伺ったところ「小学校高学年は朝食プログラムで、パンを焼いたり、ミューズリーや健康的なサンドイッチなどを作りますが、低学年の場合、あまり材料が多いと授業を実施するのが大変なので、シンプルなレシピを選ぶのがコツなんです」と教えて下さいました。後編で触れますが、学級崩壊を経験していた息子のクラスでは、調理実習を行うこと自体、ハードルが高かったのかもしれません。
子どもたちには、持ち物担当を示した紙が都度、配られ、それに準じた材料や調理器具を持ってくる決まりになっています。例えば、息子は1回目の調理実習では、パプリカとキュウリと皮むき器(ピーラー)の担当でした。エプロンや小さなまな板、ふきんなどは、各自で持参することになっています。ただし、毎回、忘れてきたり、家庭の事情で材料や調理器具を持参することが困難な子どもも数人いるので、それらは先生方が余分に準備しているそうです。
筆者は取材の許可を得ることができた第4回目の調理実習に参加してきましたが、最後の調理実習には、保護者全員が招待されたので、こちらにもお手伝いに行ってきました。いずれの場合も、子どもたちは普段の教室から、オーブンやキッチンを備えた別棟の調理室へ移動します。4回目の実習では、20人の子どもたちが4つのグループに分けられていました。じゃがいもの調理は全員が担当でしたが、2グループはソース作り、残りの2グループはサラダ担当となっていたようです。

調理中のクラスの様子
さて、いよいよ楽しい調理実習の始まり!と思いきや、この後、思わぬ展開を見ることになりました。その様子は次回お伝えしたいと思います。
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参考文献
- * 連邦中央栄養庁ホームページ
https://www.bzfe.de/inhalt/wie-gross-ist-eine-portion-985.html