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【宝宝、ニーハオ!-上海子育て記】 第11回 日本に帰りたくない!?-母親を支えてくれる上海社会

中国人と日本人は、第一に見た目が似ていること、そして古来日本は中国文化の影響を多大に受けてきたということから、ついつい考え方も同じではないか、少なくとも似てはいるのではないかと錯覚してしまうのですが、こと子育てに関する習慣や考え方は全く違うように感じます。 では上海と日本、母親にとってはどちらが子育てしやすいのでしょうか?


街を子どもと一緒に歩いていると、地元の方に本当によく話しかけられます。もちろん中国語です。でも「かわいいね!」「何カ月?男の子女の子?」これらの基本的な会話の受け答えはすぐに習得できます。なぜなら、外に出かけたら一日に何度も使うからです。

日本でこんなに外で知らない人に話しかけられたことがあったかな?と考えてしまうほど、こちらの人はフレンドリーで子ども好き、そして少々おせっかい・・・。小さな子どもを連れていてよく言われることも日本とは違うので、ちょっと紹介してみたいと思います。


子どもを連れていてよく言われること第一位 「靴下履かせなさい!」

日本から上海に来た赤ちゃん連れが暖かい季節にに必ず受ける洗礼、それは外出先での「袜子!袜子 !(ワーズ!ワーズ!)」という呼びかけです。袜子(ワーズ)とは靴下のこと。「靴下を履かせなさい!」と言っているのです。

日本の感覚からすると、赤ちゃんは寒くなければ裸足、または裸足にサンダルで外に出ても何の不思議もないと思うのですが、こちらでは冬はもちろん、真夏でも、家の中でも、寝る時でも、365日赤ちゃんには靴下を履かせます。足だけは絶対に冷やしてはいけないのだそうです *1

そうは言っても、動いているうちに脱げてしまったり、嫌がるのでつい脱がせたりすることもあります。そうすると、どこから見ていたのかすぐに「靴下履かせなさい!」と言う人が現れます。時には何人かの人に取り囲まれお説教です。「あなたどこの国の人?子どもは靴下履かないと風邪ひくよ!」「そうだ。そうだ。(と合いの手を入れる人)」いや、いちおう持ってはいるんだけど・・・と言うと、みんなで「じゃあ今すぐ履かせよう!」と一緒に履かせてくれたりすることも。日本では、保育園などでも裸足を推奨しているところもあるくらいなので、この中国の靴下信仰には驚きました。

実は靴下だけではなく、こういった「○○しなさい!」にはたくさんバリエーションがあり、「寒いからもっと服を着せなさい。」「縦に抱くと赤ちゃんの息がしづらい。横に抱いた方がいい。」など、しょっちゅう知らない人につかまります。
指しゃぶりする子どもの手をいきなりひっぱられて「やめさせなさい!汚いよ!」と言われたこともあります。
大人については、他人が何をしようと無関心なのですが、赤ちゃん、子どもに関しては、皆躊躇なく口を出してきます。初めは少々うっとうしくもありましたが、慣れてくると今度はいったい何を言ってくるのだろう?とだんだん面白くなってくるくらいです。


子どもを連れていてよく言われること第二位 「その子たち自分の子ども?」

そして、次に私がよく言われるのは、「その子たち自分の子ども?」です。
日本的感覚からすると、一緒にいるんだから親子で当たり前、似てないからそんなこと聞くの?どうして?と不思議ですし、知らない人に直接聞くのも少々ぶしつけな気がするかもしれません。しかしこれが本当によく聞かれるのです。

中国の一人っ子政策は、段階的に緩和策がとられ始めているとはいえ、基本的に上海都市部ではまだ子どもは一人と決められています *2。二人以上連れていると目立つと言えば目立つので、確かに息子一人だった時より娘もいる今の方が、周りの視線を感じます。 やっぱり子どもを二人連れているのは珍しいから、どうしても確認しておきたいようです。 しかし「あ!もう一人いる!」や「見て!二人いるよ!」などと反応が大きいのは、どちらかというと若いカップルです。彼らは、これから子どもを二人もてる世代ですから、人の子どもの数がよけい気になるのかもしれません。

二人でこれですから、日本人を含め外国人の知り合いで、三人、四人、それ以上たくさんのお子さんのいる家庭は、「家族で外出すると、どこにいっても注目の的で恥ずかしい。みんなにじろじろ見られて落ち着かないわ。」とよく言います。周りの人はきっと、「あれは全員兄弟なのだろうか?親戚?それとも託児所?あ~確かめたい!」とやきもきしているに違いありません。ちょっと笑ってしまいますが。


子どもを連れていてよく言われること第三位 「すごいね!」

こちらに来て何度「すごいね!」と言われたことでしょう。「中国語が上手ですごいね!」はもちろんお世辞の決まり文句ですが、「二人も産んですごいね!」「男の子と女の子を産んですごいね!」と褒められると、なんだかよくわからないのですがやっぱり良い気分です。子どもと一緒に歩いているだけで、「お母さん一人で見ててすごいね!」ともよく言われます。

確かに注意して見てみると、母親一人で小さな子どもを連れている人は非常に珍しく、たいてい、祖父母、父親、またはお手伝いさんか、はたまたそのうちの全員が一緒で、誰かが子どもを抱っこしているか手をつないでいる、そしてお母さんの荷物を持ってあげていることに気が付きます。お母さんは全く手ぶらという光景もよくあります。以前、第6回でお伝えしましたように、このお母さんへのサポート体制は赤ちゃんがお腹の中にいる時期から始まっているのです。日本では普通の、母親が自分で荷物を持って、上の子の手を引きながら赤ちゃんを乗せたベビーカーを押すという姿は、こちらではずいぶんとがんばっているように見えても不思議はありません。

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赤ちゃんがいるとあっという間に人が寄ってくる


日本に帰りたくない母親たち

ところで、上海に住む日本人の母親たちの多くが、日本への帰国が決まると、「まだ帰りたくない、このまましばらく上海で子育てしたい」と言います。どうしてでしょうか?

上海は実のところ、日本に比べてそれほど恵まれた子育て環境ではありません。物価は安くありませんし、外国人が受けられる医療サービスは、限られている上に非常に高額です。大気汚染や外交問題など、日常生活を不安にさせる要素もあります。街中におむつ替えのスペースや授乳室もほとんどありません。

しかし、その代わり中国では、子どもと高齢者がさまざまな面で優遇されています。 例えば、空港の出国、入国審査では、子ども・高齢者・身体障害者とその家族は特別レーンに通してくれます。混むときは数百人が待つ手続きも、小さい子どもを連れている家族はあっという間に終わります。このように、混みあうことが予想される公共の施設では、当たり前のように、子ども、高齢者が優先されます。

また、電車やバスではすぐに席を譲ってもらえますし、タクシー料金も日本に比べずっと安いので母子の行動範囲がぐんと広がり、外出が日本よりも楽に感じます *3

お手伝いさんを雇い、家事、育児を助けてもらえたり、託児所を利用できるのは、費用が比較的安価であることだけでなく、前述した通り、育児はみんなでするもの、母親一人ではできないという社会の雰囲気のおかげで気楽に利用できるという面もあります。日本では、こういったサービスは仕事で忙しい母親や、金銭的に余裕のある家庭が利用するもの、という風潮があるのではないでしょうか。

しかし、実際に上海での子育てが日本よりいいと思われる一番の理由は、ただ単純に誰彼ともなく子どもを通じて気軽に話しかけてくれること、なのかもしれません。子育て中の母親はともすると孤独感を覚えやすいものです。お小言であっても会話があるだけでなんとなく気持ちが明るくなります。
子どもがいることに気が付いたとたん、仏頂面だった店員さんが別人のようににっこり優しくなったり、急に場がなごんだりすることがよくあります。ここでは、まるで子どもが水戸黄門のご印籠かのような影響力!大都会上海で外国人の私が大手を振って歩けるのは、子どもたちのおかげによるところが多いと感じます。

こんな雰囲気が今の日本にあるのだろうかと思うと、まだ帰りたくないと言ってしまうその気持ち、今の私には十分理解できます。 私の帰国も目前に迫って来ました。次回は最終回、息子の言語習得について考えてみたいと思います。


  • *1.我が家でも、歩き始めの娘が室内では靴下を履くと滑って危険ですし、裸足の方が気持ちよさそうなので履かせないでいたのですが、ふと気がつくといつも靴下を履いています。「日本人は裸足が好きって知っているけど、ここは中国だから、ね。」と言って、アイさんは頑として裸足を受け入れません。
  • *2.中国の一人っ子政策は、外国籍、都市部、農村、少数民族、それぞれで制度が違い、そのシステムは複雑です。
    参照:http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/140205-2ssqs.htm
    国全体として緩和策がとられはじめていますが、上海市ではこれから一人っ子同士の夫婦についてのみ二人目の子どもを持つことが許可される、という段階です。
  • *3.上海のタクシー料金は、初乗り3キロまで14元(約330円)。その後は1キロにつき2.4元(約40円)+停車中料金。自宅から市内中心地まで約10キロで約600円。(2014年2月現在) 参考までに:東京のタクシー料金 初乗り2キロまで710円。288メートルごと(もしくは105秒ごと)に90円加算。10キロだと約3,200円。
筆者プロフィール
石橋 貴子

チャイルド・リサーチ・ネット日本語版・英語版編集、外資系企業勤務を経て、2011年6月より夫の転勤に伴い上海在住。
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