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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第23回 父親の育児参加と「親手当」

要旨:

ドイツでは育児休暇は最長3年間取得可能だが、多くの親は約1年で復職する。その大きな理由は「親手当(Elterngeld)」という、政府による育児休暇中の親たちへのサポートである。原則的に産休前の所得の67%が保障されているこの手当の受給期間は産後12か月間、母親でも父親でもとれる。さらに、パートナーが育児休暇をとる場合は最長14か月間まで支給される。ドイツ政府が両親の育児参加および母親の復職を促していることがうかがえる。今回は働く母親に代わって12ヵ月の育児休暇を取得、フルタイムパパになった方の記事、およびドイツの父親の意識調査の結果を紹介する。

ドイツでは、育児休暇は最長3年取得することができます。しかし、3年間フルで休む親はそれほど多くないようで、少なくとも私の周りでは、子どもが1歳になると大体復職しています。これは、前回お伝えしたとおり、法改正によりドイツに居住する全ての1歳以上の子どもは、無料で保育を受ける権利を有するようになったこと、また、親も1年以上休職すると、日々変化する業務内容についていくことが難しくなるから、という理由が大きいようです。

さて、ドイツの親たちが約1年で復職する、もう一つの大きな理由は「親手当(Elterngeld)」。これは2007年に導入されたドイツ政府による育児休暇中の親たちへの財政的サポートで、最大月1800ユーロ(約23万4千円)、原則的に、産休前の所得の67%が保障されています。

この「親手当」受給期間は産後12か月間、育児休暇を取得するか、週に最大30時間までの時短勤務をする場合に支給されますが、さらに、パートナーが2か月以上、休職もしくは時短勤務する場合は、合計で最長14か月間まで支給されます。このことにより、例えば、母親が12か月間の育児休暇を経て復職する際、代わって父親が2か月間、家計を心配することなく赤ちゃんと一緒に過ごせるので、母親は安心してスムーズに復職できるそうです。ドイツ政府が両親の育児参加、および母親の復職を促していることがうかがえます。

Berliner Morgenpost紙によると、通常12か月間の育児休暇をとる多くは母親、その後、2か月の延長期間に休暇をとるのは父親が多い模様 *1

例えば、2010年にドイツで生まれた子どもの父親のうち、76%は最長2か月の育児休暇を取得し、親手当を受給しましたが、12か月の休暇を取得し、手当てを受給した父親は、わずか6%にすぎませんでした。一方、同年に生まれた子ども母親のうち、12か月以上の育児休暇を取り、親手当を受給したのは91%、その後に最長2か月の延長休暇を取ったのは、わずか1%でした。

このように母親の方が、育児休暇取得期間が長いドイツですが、父親の親手当受給率は、18%だった2007年に比べると、2010年には25.3%と、かなりの伸びを見せています。ちなみに、ベルリンでは2010年の父親の受給率は31.2%と、全国平均を上回っています。

そんなベルリンで母親に代わって12ヵ月の育児休暇を取得、フルタイムパパになった方の記事が、Berliner Morgenpost紙に掲載されていました。初婚時の20年前はトラックドライバーだったこのパパ、当時は子育てにはあまり関与しなかったとか。しかし、1994年に保育士に転向、またセラピストの妻と再婚して以来、大きく意識が変わったそうで、現在は小学校1年生と、13か月の2人の男の子の育児、および家事を仕切っているそうです。「妻がセラピストとして開業しており、僕の方がフレキシブルに仕事ができたことも大きいけど、家族との時間を最優先しただけのことさ」と、このパパは言っています。*1

メディアに大きく取り上げられていることから、このような父親はドイツでもまだ少数派だとは思いますが、それでもベルリンでは父親の育児参加度は高いとの印象をもっています。例えば、保育の送迎は勿論、公園に行っても、私以外は全員父親が付き添っていることも多いですし、街中ではこのフルタイムパパのように、母親なしで散歩に出たり、赤ちゃんのお世話をしているパパを本当によく見かけます。

ところで、ドイツの親手当ですが、育児休暇をとらずに、週30時間までの時短勤務を行った場合も、育児休暇と同期間内での受給が可能です。例えば、私の友人夫婦の場合は、母親は12か月間の育児休暇を取ることができましたが、父親は業務の都合上、育児休暇を取ることができませんでした。しかし、代わりに母親の復職後、2か月間、時短勤務を行うことが可能だったので、給料の他に月に300ユーロ(約3万6千円)の親手当が支給され、経済的に助かったと言っていました。

ちなみにこの父親は、産後6か月間も時短勤務を行いました。ドイツでは勤務時間は週あたりで計算されるので、彼は会社への出勤日を週3回にして60%勤務としました。これにより、残りの週2日は双子の赤ちゃんの世話にあけくれる育児休暇中の母親のサポート日とすることができたそうです。この間、業務量はあまり変化しなかったので、出勤日には残業をすることもありましたが、それでも、生後6か月間、平日の週2回を自宅で過ごせたことはかけがえのない経験だったそうです。

実は私の夫もベルリンで就職以来、朝6時から午後3時までの勤務を会社から許可してもらっています。通常の勤務時間は朝8時から午後5時までですが、早く仕事を始めて早く仕事を切り上げれば、保育園に息子のお迎えにも行くことができますし、降園後、息子とサッカーをするなど、彼との時間を持てるからです。おかげで私も午後、仕事のミーティングに出かけたり、セミナーに参加できたりと助かっています。一概には言えませんが、ドイツでは日本に比べて、家庭や家族への優先度が高く、それが社会で認められている気がします。このような背景により、きちんと仕事をしていれば、ある程度、フレキシブルに働くことが許されている印象を受けました。その優先度に関する興味深いデータが、Berliner Morgenpost紙に記載されていました。

以下は、家庭や家族に対する父親の意識調査の結果です。

図1 父親の意識(Berliner Morgenpost 2013年4月6日付)

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結果は図のように、「子どもの成長過程に積極的に関わること」が重要だと思う父親が88.2%、「経済的に家族を養うこと」が非常に重要だと思う父親が92.8%、「平日に家族と過ごす時間」を非常に重要だと思っている父親が91.5%、と高い割合であるのに対し、「お金を稼ぐこと」が非常に重要だと思っている父親は74.9%、逆にそれほど重要だと思っていない父親が約4分の1を占めていました。「お金は家族を養うのに大切だけれども、それ以上に家族や子どもとの時間も大切である」という、ドイツの父親の意識が現れている興味深いアンケート結果です。

ドイツでは、このような意識を持った父親が社会で働くことにより、フレキシブルな働き方が許容されやすくなり、そこから結果的に、両親の育児参加がしやすい社会を作り上げているのではないか、と思いました。


参考文献

*1 Berliner Morgenpost 2013年4月6日付

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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