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【ネットジェネレーションの教育】 第1回 情報リテラシー

要旨:

「ネットジェネレーション」とは、ネットの普及というパラダイムシフト後の世代を指し、ネットを利用している現行世代と、ネットが普及した社会に生まれたこれからの世代の双方を含む。かつて、読み・書き・そろばんが教育の基本と考えられていたが、パラダイムシフト後の現在では、これらに匹敵する位置づけで、情報リテラシー教育が必要である。情報リテラシーとは、パソコンリテラシーとは異なり、情報を読み解く力・判断する力・情報を目的に合わせて処理し活用する情報処理能力を指す。ネットジェネレーションの教育には、情報リテラシーの育成は欠かせない。

 

インターネットという通信技術は、決して新しいものではなく、すでに第2次世界大戦の折にアメリカ軍によって使用されていた。戦後50年ほど経ち広く多くの人々によって利用されるようになった。普及した要因は、技術が進化したというより、活用方法が見出されたことが大きい。第2次世界大戦の頃には、おそらく、ネットを利用して子どもたちがブログを書いたり、様々な情報をネット検索によって得るようになるとは考えなかったであろう。当時の資本家たちも、戦争で利用された技術を一般向けに普及させることがビジネスチャンスにつながるとは思わなかった。だが、50年ほど経ち、ビル・ゲイツによって、GUI(グラフィック・ユーザー・インターフェイス)のOS(オペレーション・システム)であるウインドウズが開発され、急速に家庭用パソコンが普及し、それに伴い、インターネットの利用が増加した。 インターネットの普及は、グーテンベルグによる印刷技術の普及と同じぐらい、様々な分野において、大きなパラダイムシフトを引き起こした。印刷技術が普及する前には、聖職者や学者など特権階級の者だけが、文字の読み書き(リテラシー)を自由に操っていた。しかし、グーテンベルグによる印刷技術の普及によって、文字は民衆も自由に操れるものとなり、文化・経済・社会全般において、大きくパラダイムシフトを引き起こした。同様に、ネットの普及により、これまで、特定の業種の人のみが担ってきた情報の発信・公開などが、いつでもどこでも誰でも行えるようになった。ネットの普及に伴うパラダイムシフトは、文化・経済・社会全般において、多くのメリットと共に、山積みの課題をもたらした。たとえば、ネットが普及する前には、子ども同士のけんかといえば、直接言い争いをする、つかみ合いをする、あるいは悪口を紙や黒板に書く、などであったけれど、けんか相手の個人情報を、世界中の人に向けて発信することはできなかった。しかし、ネットの普及によって、それができてしまうようになった。悪ふざけで、黒板に悪口を書くことと、電子掲示板に悪口を書くことでは、公開性という観点では、まったく次元が異なり、後者は犯罪として刑事罰に匹敵する。にもかかわらず、多くの大人や子どもは、その区別がつかないことは、非常に大きな問題である。

 

さて、タイトルに挙げた「ネットジェネレーション」とは、ネットの普及というパラダイムシフト後の世代を指し、ネットを利用している現行世代と、ネットが普及した社会に生まれたこれからの世代の双方を含む。かつて、読み・書き・そろばんが教育の基本と考えられていたが、パラダイムシフト後の現在では、これらに匹敵する位置づけで、情報リテラシー教育が必要である。情報リテラシーとは、パソコンリテラシーとは異なり、情報を読み解く力・判断する力・情報を目的に合わせて処理し活用する情報処理能力を指す。ネットジェネレーションの教育には、情報リテラシーの育成は欠かせない。

 

果たしてネットジェネレーションは、情報リテラシーをどれほど身につけているのだろうか?インターネットの利用率や利用時間・利用内容などに関する調査はあるものの、情報リテラシーに関する大規模な国際調査は行われていない。リテラシーに関する国際調査では、経済協力開発機構(OECD)が行う生徒の学力調査(PISA)がよく知られており、その調査領域は、科学的リテラシー、読解リテラシー、数学的リテラシーの3領域である。これら3領域を縦軸と見なし、2006年に行われた調査問題を眺めてみると、いずれの領域にも情報リテラシーの横軸が所々に織り込まれている。たとえば、端的な例を挙げれば、科学的リテラシーの領域の中に、ネット検索のキーワードを選択させる問題がある。

 

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この問題は、「科学的な疑問を認識する」能力を構成する要素を評価する問題として出題されている。難易度はかなり高く、英語圏の国の平均正答率は13%しか正解できなかったという結果である。これは、科学的な疑問を認識する能力が未熟であることを示すと同時に、膨大な情報をどう処理して自分が知りたい情報に到達するのかといった情報リテラシー教育が十分でないことを示す結果といえる。科学的な問題解決の手段の一つとして、ネットの利用という選択肢がある以上、適切に検索し活用する方法を身に付けることは、ネットジェネレーションの教育には欠かせない。

 

また、読解リテラシーの中にも図表やグラフに埋め込まれた情報をどう処理するかといった情報処理能力を必要とする問題がある。


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この問題は、図1の線グラフと図2のヒストグラムの情報を読み取り、チャド湖の水位の長年にわたる変化と、その環境下にある種の野生動物が存在していた時期との関係を推論することを求めている。しかも、課題の外にあるよく知られた知識を働かせることよりも、提示された情報を的確に活用し推論する力を測ろうとしている。課題の外にあるよく知られた知識を利用すれば「乾期のはじめ」が正しいように見えるが、2つの情報から推論できることは「チャド湖の推移が1000年以上に渡って低下し続けた後」である。ネット利用に関する問題ではないが、2つ以上の情報を関連づけて読み解き、推論する力を測る情報リテラシー課題と見ても良い課題であり、様々な情報が飛び交う情報社会において欠かせない能力である。

 

さらに、数学的リテラシーの課題の中にも、情報の読み取り、情報の表現に関する内容の出題がある。下記に示す、ゼットランド国の問題の場合、警報装置メーカーは、犯罪の増加を強調するよう、意図的に80年の値をはずし、増加の一途をたどるグラフを作成しているが、80年からデータを開始させ、84年まで減少し続けているグラフを作成することもできる。同一のデータであっても、グラフ表現の仕方によって、「増加している」ようにも「減少している」ようにも表現できるのである。それ故、作られた図表にだまされず、できる限り詳細なデータを自ら分析し、情報の信憑性を判断する力の育成が重要であり、情報リテラシー問題として見ても良問である。

 

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これに類似した情報の信憑性を判断する課題に、「わが国の失業率について考えてみよう」という、1つのデータからグラフの表現を変えることによって、正反対の結論を提示する課題がある(加納、2002)。


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表 完全失業率と求職理由別完全失業率(総務省,2001;内閣府,2001)

 

完全失業率と求職理由別完全失業率に関する表を見て、失業率は深刻であるか、深刻でないか、仮説を立て、検証する課題である。同一のデータを用いて、正反対の結論のレポートが例示されている。


----------------引用 ここから----------------


生徒Aのプレゼンテーション:


僕は、日本の失業率は大きな問題でないと仮説を立てました。多少増加しているようですが、世間が騒ぎすぎているきらいがあります。政府も雇用対策にかなり力を入れ、再雇用のための職業訓練中の一定期間は失業手当が延期されるようになったと聞きます。これまで以上に失業者が保護されるようになったのではないでしょうか?

 

現状を確かめるために、総務省の資料を調べてみました。図3は、完全失業率の推移をグラフ化したものです。若干増えていますが、景気が回復すれば、すぐに解消されそうな範囲だと思います。平成13年の10月時点が一番ピークで、この先増えてほしくないと思いますが、高々5.4%です。100人中5人ぐらいは、さほど就職したいと思わない人間もいて当然ではないでしょうか。もちろん良い就職先があれば就職したいと思っていても、えり好みしていて、モラトリアムを引きずっているタイプとか、いろいろな人間がいると思うので、この数値は許容範囲だと思います。(「失業率」の解釈について誤解があったようなので、この後その定義を説明)」)

 

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図3 完全失業率


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図4 失業率の国際比較

 

また、外国と比べて失業率は高いのか低いのか調べてみました。失業率の国際比較のグラフは、図4に示しました。このグラフから、国際的に見ても中位にあり、5.4%という数値は、妥当な割合なのではないかと思いました。

  

生徒Bのプレゼンテーション:

 

私は、今の日本の失業率は深刻であると仮説を立てました。何故なら、私の友達のお母さんの会社が、外国資本の会社に買収され、一部の人は新しい会社に雇用されたそうですが、多くの人は職を失ったそうです。友達のお母さんはもう働くことはあきらめているそうです。今、日本のあちこちで、同じようなことが起きていると聞きます。だから、とても深刻な社会問題と思います。

 

そこで、総務省の資料を調べてみました。図5は、完全失業率の推移をグラフ化したものです。平成8年、9年の頃と平成11年を比較すると、完全失業率が急激に高くなっています。平成11年以降、平成13年の10月にかけて多少前後しながら失業率は増える一方です。このまま、毎年大量の失業者が増えていくと大変なことになると思います。平成13年10月の日本の総人口が12,720万人、その中で子どもや老人を省いた労働者人口は6,757万人なので、完全失業率が5.4%ということは、6,868,800人になります。同じく、総務省のデータによれば、求職理由別完全失業者数、つまり働きたくて働けない人は、352万人です。これは、352万人の失業者の人だけが不幸なのではなく、残りの労働者が352万人分の生活費を何らかの形でまかなっていることになり、すべての人にとって不幸だと思います。

 

このグラフを描くときに工夫した点は、求職理由別完全失業者数の前年比について平成11年度を見ると、13.6%と、それ以降にも見られない高さを示しており、11年以前と比較したいと思いました。そこで失業率の国際比較の方の表に、平成8年からのデータが掲載されていたので、そのデータをつなげてグラフに表した点です。平成11年からだけでは著しい変化が捉えにくいのですが、平成8年からグラフ化することによって、大変急激な変化を見つけることができました。

 

また、図6には、失業率の国際比較をおこなったグラフを示しました。国によって習慣や文化をはじめとし、様々な点が異なるので、単純には比較できないと思いました。そこで、平成8年と13年9月の差をとってみました。

 

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図5 完全失業率

 

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図6 失業率の国際比較

 

国どうしの相対比較ではなく、国ごとの変化の仕方を比較したのです。このグラフより、失業率の増加率は日本がトップであることがわかります。このようなことで日本がトップであることは、とても残念だと思います。

 

----------------引用 ここまで----------------


任意のデータを図表に表すだけで既に主観と、作成者の意図、仮説に基づく潜在的意識によって、表現の仕方が変わり、全く正反対の結論を導いてしまう。これは、情報が氾濫していている現代の人々すべてが身につけなければいけない、重要な情報リテラシーである。まだ、身につけていない人々が多いために、セールスマンの示すグラフにだまされ、詐欺の被害に合う人々が後を絶たない。

 

<引用文献>
加納寛子(2002)『ポートフォリオで情報科をつくる 新しい授業実践と評価の方法』、北大路書房。


<引用Web>
国立教育政策研究所監訳「PISA2006年調査 評価の枠組み OECD生徒の学習到達度調査」

http://www.pisa.oecd.org/dataoecd/13/57/39116722.pdf

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