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施設で生活する子どもにとって友だちとは

谷向 みつえ(関西福祉科学大学心理科学部 教授)

2020年6月 5日掲載

要旨:

児童福祉施設など社会的養護を担う施設で生活する子どもを対象に、絵画愛情関係テスト(PART)で人間関係の枠組みを把握し、QOL、レジリエンス、メンタルヘルスとの関連をみた。就学期の施設児童のPARTは施設先生型、一匹狼型が多く、児童期中期には友だち型が多く見受けられ、友だち型はQOLや精神的健康、レジリエンスが高かった。心理的機能を担う友だちの存在意義は大きく、社会的養護下にある子どもの支援に、子ども同士の関係性促進も重要であることが示唆された。

キーワード:

友だち、社会的養護、児童養護施設、QOL、メンタルヘルス、レジリエンス
はじめに

日本では現在、およそ4万5千人の子どもが家庭環境上の理由で社会的養護を必要とし、内3万人の子どもが児童養護施設や乳児院、児童心理治療施設などの児童福祉施設で生活をしている(厚生労働省, 2019)。その理由は父母の死亡や病気、虐待など様々で、施設の在籍期間は約半数が4年未満、残りの半数は4年以上で、高校卒業後も進学した児童は在籍することができる。平成28年に改正された児童福祉法の理念のもと、日本では家庭養育優先を原則として、里親やファミリーホーム等の代替養育への移行を推進し始めた。そのため、少しずつではあるが児童福祉施設で生活する子どもは減りつつある。しかし、社会的養護のニーズと里親希望者を天秤にかけると、すべての子どもが施設を必要としなくなる日はまだ遠い。

これら児童福祉施設で家族と離れて暮らす子どもたちは、施設の先生や友だちなど多くの人に囲まれて育つ。かつては定員が100人を超える大きな施設もあったが、現在は60人未満の施設が7割を占め小規模化が進んでいる(みずほ情報総研株式会社, 2019)。また、職員の配置基準が改善され、心理職など多職種が加算配置されることで、一人の子どもに関わる大人の数は少しずつ増えてきた。

このような家族と離れて暮らす社会的養護を必要とする子どもにとって、周囲の人たちとの関係性を修復する支援は何よりも優先すべき課題である。様々な困難を抱え、脆弱な関係性の中で生きてきた子どもも多い中、将来的にその子どもたちが社会の中で力強く生きていく基盤を施設の人間関係の中で育み直すことは、我々大人や社会の責任と言える。

ソーシャル・ネットワークの中で育つ子どもたち

人は誰しも生まれた直後から複数の他者からなるソーシャル・ネットワークの中で育ち、生存と安寧を確保するために、複数の重要な他者を自ら選んで心理的機能を割り振るという(高橋, 2010)。生存のために欠かせない重要な他者であっても、すべての役割や機能を一人で果たせる人はいない。だからこそ、複数の他者に心理的機能を分配しておく方がより安全で効率的ということである(柴田・高橋, 2015)。進化生物学でいう、アロペアレンティング―親以外の人が子育てに参加する―とも重なる。もちろん生存を目的とした危機的状況を回避するためのアタッチメント形成の第一歩は、主要な養育者が担うことが多い。しかし、成長につれて子どもの世界が広がると、その状況に合わせて重要な他者も変化する。例えば「お母さんは僕を守ってくれる人」から、「学校では〇〇さんが僕を助けてくれる人」というように、「人」とその人が果たす「心理的機能」が結びついた心的表象は、日々の生活を通して更新されていくものと考えられる。子どもは社会の中で育つと言われるように、子どもは本来、多くの他者と関わり、様々なものを提供されてこそ豊かに育つと言えよう。

人間関係の枠組みを探る -絵画愛情関係テスト-

筆者らは、社会的養護下にある子どもの健やかな育ちを考えるために、施設児童のソーシャル・ネットワークである人間関係がどのような枠組みにあるのかを、絵画愛情関係テスト(Takahashi,1990)を用いて調査してきた。

絵画愛情関係テスト(Picture Affective Relationships Test: 以下、PARTと略す)とは、図版を見せ「最もそこにいてほしい人は誰か」を尋ねて、人間関係の枠組み(表象)をとらえる測定具である(図1)。図版は6つの心理的機能(近接を求める・心の支え・行動や存在の保証・激励や援助・情報や経験を共有する・養護)を含む。全図版から基準以上の数で選ばれた対象を優先タイプとして、その人の人間関係を母親型、父親型、友だち型などと類型化する。また前述に加え、半数以上の図版で「誰でもいい」「ひとり」「わからない」と答えた者の類型を『一匹狼型』とする。これまでの研究から、幼児や小学生でも複数の重要な他者をもち、それぞれの他者に心理的機能を割り振った「愛情のネットワーク」を構築していること、小学生は徐々に重要他者として母親よりも友だちを選択するようになるが、心理的機能の「心の支え」と「存在の保証」は小学校高学年でも母親に求める児童が多いことが明らかにされている(e.g., 柴田・高橋, 2015;高橋, 2010)。また、一匹狼型では適応に困難が伴うことも明らかにされた(井上・高橋, 2000)。

本調査で対象としたのは、複数県の児童養護施設に入所している子ども17名(男児5名・女児12名)で、1次調査の2年後に変化をみるため2次調査を行った。児童の平均年齢は1次調査時点が5.6歳(SD=0.9歳)、2次調査が8.1歳(SD=0.9歳)であった。PARTの分類はオリジナルの分類基準とは別に、新たに『家族型』、『(施設の)先生型』、『友だち型』、『一匹狼型』、『不特定型(優先的な人がいない)』の5つのタイプに分類した。また、1次調査では施設児童に加え、一施設が立地する地域の保育所と小学1年の在宅児童、計78名(平均年齢5.9歳, SD=0.9歳)にPARTを実施して比較した。PARTに加えて2次調査では、小学生版QOL尺度(柴田・松嵜, 2003)、子ども用トラウマ症状チェックリスト(西澤・山本, 2009;以下、TSCCと略す)、担当職員によるレジリエンス尺度(長尾, 2008)を実施し、PARTとの関連について検討した。本研究は所属大学の研究倫理委員会で承認を受け、施設長からインフォームド・コンセントの代諾を得ると共に、対象児にも説明を行って了解を得た。

report_02_277_01.jpg 図1 PARTの図版の例(小学生女児用)病気で熱が高くでた時
(出所)© 高橋惠子(http://www.keiko-takahashi.com/PART.htm

施設児童の人間関係の枠組み

まず、1次調査における施設児童と在宅児童のPARTの結果を比較してみると、在宅児童の類型は家族型が半数以上を占めたのに対し、施設児童は施設先生型や一匹狼型、不特定型が多いのが特徴であった(χ2(4)= 25.16, Cramer's V=.499,p<.07)(図1)。日常生活の世話をする施設の先生は、養育者の機能を果たしていると言える。また、一匹狼型と不特定型が多いのは入所から日が浅いこともあろうが、頼るべき大人が定まっておらず、重要な他者と関係が結べていない子どもが施設には多いと考えられた。

2次調査の施設児童の類型は、1次調査と比較して友だち型と家族型が増え、先生型や一匹狼型、不特定型が減少した(χ2(16)= 24.75, Cramer's V=.642,p<.001)(図2)。友だち型が増えたのは、子どもの年齢が児童期中期に入り、心理的機能が友だちへと移行する発達的変化に因るところが大きいと考えられる。他方、一匹狼型や不特定型が減ったのは、継続入所の児童を対象としたことから施設での生活歴が長くなり、施設での安定した生活環境が安定した関係性を育んだと考えられた。また、家族との再統合に向かう児童に家族型への移行が見られた。

施設児童の場合、実は友だちは、友だちでありながら生活を共にする家族でもある。本調査の児童の平均入所期間は4.8年(SD=1.49)だが、友だち型は6.1年(SD=0.82)で、入所年齢も2.2歳(SD=0.45)と低く、家族としての感覚が強いのはなおさらであった。しかし、重要な他者として大人よりも友だちを多く選ぶ子どもの心理的特徴はどのようなものだろうか?

report_02_277_02.jpg 図2 施設児童と在宅児童のPARTの類型(1次調査時点, n=95)


report_02_277_03.jpg 図3 施設児童のPART類型の変化(1次調査と2次調査,n=15)

PARTの類型とQOL、メンタルヘルスとの関連

2次調査ではPARTの類型とQOL、TSCC、レジリエンス各尺度との関連について分析した。PARTの類型別(人数が少ない一狼型を除く)多重比較から、友だち型はQOLの「総得点」と「精神的健康」で先生型よりも得点が高かった(図3)。また、友だち型はレジリエンス得点が家族型よりも高く、TSCCの妥当性尺度で症状に過剰に反応をしている傾向を見るHYP得点、および抑うつ得点が先生型よりも低かった。先生型の子どもはQOLが相対的に低く、HYP得点の高さは先生に寄り添ってもらいたい気持ちが大きいことを表していると考えられた。いずれにしろ友だち型は、QOLやレジリエンスが高く、メンタルヘルスも良好であることが窺えた。

 

report_02_277_04.jpg 図4 PART類型別QOL総得点・下位領域得点(n=17)

むすび ―施設の子どもにとって友だちとは―

本調査は社会的養護下にある子どものほんの一面を垣間見たものである。そこからは施設に継続入所している子どもたちが、子ども同士の関係において心理的機能を充足しながら育っている姿が窺えた。

本研究の当初、小学校低学年で心理的機能を担う人物に大人が出現しない子どもがいることに懸念を覚えた。例えばPARTには病気やケガをした時に傍にいてほしい人物を尋ねる図版がある。友だち型の子どもは、そのような「存在の保証」を求める場面でも、友だちを選ぶことが多かった。しかし、友だちを選ぶ力のある児童は、友だちに心理的機能を割り振る力をもつ子どもであることが本研究で示された。子どもの育つ力をもっと信頼し、子どもを取り囲む愛情のネットワークや関係性の質に目を向けるべきと言えるだろう。

とすれば、肝心なことは"「特定の重要な他者」の有無"ということになる。本研究の1次調査において、ある6歳児のPARTの結果では「色々な先生」「色々な友だち」「そこにいる人」という回答が多く、不特定型であった。2次調査の回答では「いない」の連続で、一匹狼型に移行していた。この児童は「大人を信じてはいけない」と兄弟から釘を刺されていた背景がある。友だちの前に、大人との関係、大人への信頼が成立しておらず、特定他者との関係性が希薄であることから不適応に陥っていた。特定の重要他者の不在が長期的に発達精神病理学的リスク因子になることは数々の研究からも明らかにされている(e.g., Nelson, Fox, & Zeanah, 2014)。

様々な背景を背負っている子どもたちだからこそ、個別性の尊重に基づいた支援は何よりも大切である。同時に、施設という大きな家族、あるいはコミュニティにおいて、どれだけ相補的に支え合うネットワークが作れるか、ネットワークの包容力が施設に問われていると考えられる。子ども同士が、友だち関係をしっかりと作ることができる器となる環境を大人は用意しなければならないのではないだろうか。


引用文献

  • 井上まり子・高橋惠子 (2000). 小学生の対人関係の類型と適応―絵画愛情関係テスト(PART)による検討. 教育心理学研究, 48(1), 75-84.
  • 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課 (2019). 社会的養育の推進に向けて.
    https://www.mhlw.go.jp/content/000503210.pdf  (参照日2020年1月10日).
  • Lewis, M. & Takahashi, K. (Eds.) (2005). Beyond the dyad: Conceptualization of social networks. Human Development, 45, 1&2. 高橋惠子 (監訳) (2007)愛着からソーシャル・ネットワークへ : 発達心理学の新展開.新曜社.
  • みずほ情報総研株式会社 (2017). 平成28年度先駆的ケア策定・検証調査事業,「児童養護施設等の小規模化における現状・取組の調査・検討報告書」平成29年3月.
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000174956.pdf (参照日2020年1月10日).
  • 長尾史英・芝崎美和・山崎晃 (2008). 幼児期レジリエンス尺度の作成 幼年教育研究年報, 30, 33-39.
  • Nelson, C. A., Fox, N. A., & Zeanah, C. H. (2014). Romania's Abandoned Children: Deprivation, Brain Development, and the Struggle for Recovery. Harvard University Press. 上鹿渡和宏ら(翻訳) (2018) ルーマニアの遺棄された子どもたちの発達への影響と回復への取り組み 施設養育児への里親養育による早期介入研究(BEIP)からの警鐘. 福村出版.
  • 西澤哲・山本知加 (2009). 日本版TSCC(子ども用トラウマ症状チェックリスト)の手引き: その基礎と臨床, 金剛出版.
  • 柴田玲子・松嵜くみ子 (2014). 第1章 基礎編7 QOL尺度の実用化. 古荘純一・柴田玲子・根本芳子・松嵜くみ子【編著】(2014). 子どものQOL尺度その理解と活用―心身の健康を評価する日本語版KINDLR. 診断と治療社. 29-37.
  • 柴田玲子・高橋惠子 (2015). 小学生の人間関係についての母子の報告のズレ 教育心理学研究, 63(1), 37-47.
  • 高橋惠子 (1978-2002). 絵画愛情の関係検査
    http://www.keiko-takahashi.com/pdf/PARTManual2002R2.pdf (参照日2020年1月10日).
  • 高橋惠子 (2010). 人間関係の心理学―愛情のネットワークの生涯発達 東京大学出版会.


【謝辞】
*本稿は、第16回日本子ども学会学術集会で発表した、桂田恵美子先生(関西学院大学)、赤澤淳子先生(福山大学)との共同研究の成果の一部をまとめたものです。本研究の実施にあたりJSPS科研費の助成を受けました(「児童養護施設入所児童の愛着の再構築に関する基礎研究―ドールプレイの変化を通して」、代表:谷向みつえ)。また、ご協力いただいた子どもたちや施設の皆様に心より感謝申し上げます。

筆者プロフィール
谷向 みつえ(たにむかい・みつえ)

関西福祉科学大学心理科学部 教授. 公認心理師・臨床心理士.
大阪の児童虐待防止協会で相談を担当したのを契機に、母子保健における大阪方式マザーグループ、児童養護施設の心理職等、社会的養護に関連する実践を積み重ねながら研究を続けています。大学では、これら実践経験を活かしながら、公認心理師・臨床心理士、保育士養成等の教育に携っています。専門職を目指す学生には「出会った子どもたちの人生に関わる仕事」と叱咤激励しています。
共同研究者の関西学院大学の桂田恵美子先生と福山大学の赤澤淳子先生とは2010年から施設の子どもに資する研究を継続しています。

※肩書は執筆時のものです

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