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米国カリフォルニア州・サンタクララ郡 自宅待機令下の生活 ~障害者や高齢者にも配慮~

要旨:

カリフォルニア州北部で陽性患者が一番多いサンタクララ郡に住む筆者が感じた、新型コロナウイルスによる自宅待機令下の生活についてご紹介します。

キーワード:

アメリカ、新型コロナ、シリコンバレー、障がい者、フードバンク、COVID-19、陽性患者、自宅待機
はじめに

私は米国カリフォルニア州サンタクララ郡に住んでいますが、ここは州北部の中では新型コロナウイルスの陽性患者が一番多い地域です。この郡には、Google、FacebookやAppleなどの本社があり、シリコンバレーという名前のほうが通じやすい地域でもあります。人口は193万人で、東京が1,382万人なので、東京都の約7分の1の人たちが、ここサンタクララ郡に住んでいます。

サンタクララ郡では、4月11日現在、14,956人が新型コロナウイルス感染の検査をし、陽性者は1,621人ほどで、10.84%の人が陽性です*。ということは、サンタクララの住人を9人集めたら、1人は新型コロナウィルス陽性者という計算のように思われるかもしれませんが、これは、内科医などに「検査をしたい」と申し出て検査をしていただいた人だけの数値ですので、検査を希望しない人は含まれません。郡全体の感染率は、これよりは少し低いかもしれません。ですが、多くの人が不安を抱え、検査を受けたがっているという現状はあります。

自宅待機令

私たちの地域では、3月17日に自宅待機令(Shelter in Place)が出されました。食料品の買い物と運動以外の外出が禁止されました。ただし、医療関係者、消防士、ガソリンスタンド従業員など緊急時に初期対応をする仕事に従事する人は出勤していいことになりました。食料品店、ドラッグストアは時短営業になりましたが、営業しています。

実は、3月上旬の時点では、すでにGoogle社においては、自宅で仕事をするようにという指示が出ていて、発令があった17日の数日前に、Apple社でも同じような指令が出ているとの報道がありました。なので、サンタクララ郡民としては、「自宅待機令が出るかもしれない」とは思っておりました。ですので、自宅待機令が出される前の週末は、食料品店には列ができておりました。私の周りでも「1時間並んでやっと店内に入れた」などという声を聞くようになりました。3月の前半は、大人たちは在宅勤務を開始し、子どもたちは学校に通い続けていましたが、3月16日の時点で、親の判断で自主的に自宅待機する生徒も増え、学校教育が成り立たなくなった学校も多くありました。

食材や日用品の調達

我が家には、25才になる自閉症の息子がおります。3月17日に待機令が出た後すぐにリージョナルセンター(地域福祉センター)の担当者から連絡があり、
「息子さんは元気か?困っていることはないか?」
と聞かれました。

「息子が食べられる生野菜が売り切れていて買えない。息子は少し喘息がでてきているので、怖くてスーパーの長い列も彼を連れては並べない」
そう話すと、すぐに、障がいのある方や、高齢者等で、(所得証明書がなくても)食べ物に困っている人に食材を無料で分けてくれるところをいくつか教えてくれました。

「無料配布所で野菜をもらうように。そこはドライブスルーになっているので、車から降りる必要もなく、ソーシャルディスタンス(他人との距離を1.8m開ける)も気にしなくていい」
とのことでした。息子は他人との距離を保つといった指示を守るのは難しいので、助かります。

当初私は、食料品店でなんとか野菜と卵を手に入れようと思っていたのですが、喘息が出ていた息子を連れて店頭に並ぶのは困難とも思っておりました。けれど、今回の自宅待機令を受けての長蛇の列対策として、朝の9時までは、高齢者専用の買い物の時間帯を設けるお店が多くなりました。リージョナルセンターのトップの方からもすぐに、我々利用者全員へメールでお知らせがきました。

「障がい者の人も高齢者専用の買い物の時間帯に買い物に行くように。ただし、本人が行くのではなく、介護者が行くほうがおすすめです。」
ということでした。

この連絡を受けて、早速早朝にお店に行ってみると、アメリカにはもともと障がい者手帳がないので、何の確認もなく、すぐにお店に入れました。

ところが、朝早くてもやはり卵は手に入りませんでした。トイレットペーパーなどはありました。結局、夜遅く行っても、卵以外はほとんど手に入りました。なので、食材がなくなるというような状況ではありません。

どうしても卵を食べたい息子のために、教えてもらった無料配布所のほうにも並びにいきました。私たちが行ったところは、NPO団体のフード・バンクです。ここは、所得証明書がなくても、食べ物に困っていたら、すぐに食材をくれます。このフード・バンクでは、今回のコロナ騒ぎ以前は、登録用紙への記入が必要だったのですが、今回の騒ぎを受けて、
「とにかく誰でも食べ物に困っている人は、食材を取りに来てください」
との案内をテレビやネットでも大々的に流し始めました。

実は、息子は、このNPOで7年間、食材を仕分けするボランティアをやっているのです。なので、その仕組みはすぐにわかりました。教えていただいた通りの場所に行き、ドライブスルーになっているので、車で列にならび、テントがあるところで止まると、大勢の係の方がトランクを開けて、ダンボール3箱を積んでくれました。大量の車が並んでいましたが、ほとんど止まることなく、数分で自分の順番が来ました。けれど、ドライブルスルーなので、箱の中に何が入っているかはわかりません。トランクを開けてくれて、車に乗せてくれて、箱の開封は家に帰ってからのお楽しみ、という感じです。まるで浦島太郎の玉手箱のようです。家に帰って箱を開けてみると、イチゴ、なし、りんご、ミカン、人参、じゃがいも、卵、牛乳、トルティーヤ、レタス、3kgの骨つき鶏肉を入れてくださっていました。日本だと家族4人が一週間暮らせる量に思えますが、こちらではどうも一人分のようです。

障がいをもつ人や高齢者のために実現してほしいこと

自宅待機令が出て2週間以上が過ぎたところで、息子は、運動不足で、体が凝ってきたと訴え始めました。リージョナルセンターの担当者に、
「24時間家にいて、息子は運動不足でよく眠れないようだ」
と話すと、レスパイトの時間も2.5倍にしてくれました。レスパイトの方がいらして、月に30時間分、息子を連れて歩かせてくれることになりました。1日1時間ですね。

米国でのこれらの経験から、日本でも自宅待機令が出された際には、下記のようなことがあればいいなと思いました。

  1. 障がい者手帳をもつ人や高齢者、もしくはその介護者は、朝の1時間の間、優先的に食材の買い物ができる。(CRN編集部注:日本で同様の対応をしている店舗もある)
  2. 障がい者や高齢者は、1週間分の野菜を無料で受給できるようにしてもらう。(アメリカでは自力で来られない人には、無料配達してくれます。)
  3. 障がい者や高齢者に対しては、定期的にケアマネジャーが連絡をとり、「健康的な食事が保たれているか?」「熱はないか?」など健康状態の確認をする。食事が取れていない場合は、取れる場所を教える。
  4. 障がい者の親には、最低でも1日1時間は1人になれる時間をもてるようなサービスを提供する。(家事は進まず、買い物もままならず、シャワーすら浴びることができないので)

最後に

周りの状況について言えば、知り合いの知り合いがお亡くなりになった、というような話は聞きますが、今のところ私の直接的なお友達はどなたも亡くなっておりません。

すでに、サンタクララのコンベンションセンターは、250名が収容できるような簡易病院になり、軍によってテントが設営され、ベッドが搬入されています。(まだ入院患者はいません)

高校や大学の体育館も同様に利用される予定で、少なくとも3,000人分の病床は確保したいようです。

医療現場の方は崩壊しかかっている模様で、リタイヤした看護師や、看護学生にまで協力を促すカリフォルニア州からのお願いが出ており、学徒出陣という言葉を思い出しました。

以上が2020年4月11日現在のサンタクララ郡シリコンバレーの現状です。

*Santa Clara County PUBLIC HEALTH, Coronavirus (COVID-19) Data Dashboard
https://www.sccgov.org/sites/phd/DiseaseInformation/novel-coronavirus/Pages/dashboard.aspx

筆者プロフィール
kubo_yumi.jpg 久保 由美(くぼ・ゆみ)

2009 年に Spectrum Visions Global, Inc. (現:Voice4u, Inc.) を創業し、自閉症などのコミュニケーションにトラブルをもつ人々を対象にしたアプリ 「Voice4u」 (https://voice4uaac.com) を開発した。Voice4u は日経BP主催 Android Application Award にて大賞を受賞。シリコンバレーでは少数の日本人女性社会起業家取締役社長。複数の大学での講義多数。大阪大学非常勤講師。2008 年国際ソロプチミスト鹿児島支部社会福祉賞受賞。Voice4u, Inc. では、デジタルマーケティングのコンサルティングも行う。
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