米国の学位を取得するために必要な英語力と学業支援サービスを得る
背景
前回の記事では、現代の日本人学生の留学の主な障壁の1つ、「資金不足」(Kawai, 2009;小林, 2011;Lassegard, 2013; Ota, 2011)に対処する方法について述べた。今回の記事では、もう1つの主な障壁である「英語力の不足」を克服する方法について論じてみたい。米国の大学で学位を取得することを目標としている学生たちのために、比較的安い費用でいかに英語力を身ににつけるかについて具体的な方略を説明する。 次に、米国の大学にて、学業において成功するために必要なサポートをどのように受けることができるかについて情報を提供する。
英語力の不足は、日本人学生にとって大きな問題として取り上げられている(Education Testing Service, 2018; McKenzie, 2008; Pritchard, & Maki, 2006)。中学から高校まで英語教育を受けているのにもかかわらず、英語力が不足していることが指摘されている。この理由の1つとして、日常会話よりも試験で高得点を取ることが強調されてきた日本の英語教育の在り方が見直されている。最近では、小学校での英語教育の導入をはじめ、4技能(読む、書く、聞く、話す) (MEXT, 2014) の強化を目的として、国は英語教育の改革を実施している。しかし、アメリカの大学入学の必要条件として行われている英語力の試験であるTOEFL *の得点の国際比較を概観すると、日本人学生はまだ実用的なコミュニケーション能力が不足していることが指摘されている。
日本人学生のTOEFLの成績最近のデータによると、日本の学生はTOEFLの試験(2016年1月実施) において、他国との比較において低い得点を修めていることが報告されている。図1で示されているように、日本人学生のTOEFLの平均得点は、中国、韓国、シンガポール、インドなどの他のアジアの学生より低いという結果である。
図1 アジア五か国のTOEFL iBT平均点(Educational Testing Service, 2017) |
注:筆者により作成 |
しかし、米国の大学に入学するに十分なTOEFLの得点を獲得したとしても、米国の大学で勉強するためにはさらなる難関が待ち受けている。現在の米国の教育システムにおける授業方法は、日本人学生に馴染みが深い方法とかなり異なっている。米国では、学生が教員、クラスメート、教材に積極的に関わることが強く求められている。受動的に教員の指示を受けるだけではなく、学生自身が授業内容に積極的に関わり批判的に評価するような、より主体的な役割を担うことが期待されている。このような教育環境の中では、高い英語でのコミュニケーション能力が必要とされ、日本の教育システムの中で受動的な学習に慣れている日本の学生にとってはさらなるチャレンジを要することが伺われる。本稿では、米国の大学留学の準備として、日本の学生が英語力を伸ばすことができる方法と、学習支援を受けることができる方法について紹介したい。
英語力
日本の英語教育で身につけられる英会話力のレベルが一般的に低いことから、留学準備として日本や米国で英語の集中クラスへの参加が必要になる場合が多い。しかし残念ながら、これらの英語プログラムへ参加すると、米国の学位を得るため費用と時間を上乗せすることになる。経費を削減し、留学を成功させるために必要な英語のサポートを得るためには、次の方法が考えられる。
- 英語を第二言語として話す国で行われる集中英語プログラムに参加
- 英語第二言語話者によるオンライン英語指導
- 英語による無料の大規模公開オンライン講座(MOOC)に参加
1.英語を第二言語として話す国で行われる集中英語プログラムに参加
英語は国際言語であり、地政学的な変化が続いているにもかかわらず、これは今後も変わらないと考えられる。しかし英語は、米国、英国、オーストラリア、またはニュージーランドなどの欧米諸国のみの言語ではない。英語コミュニケーション力を身につけるために、日本の学生はこれまでは、これらの欧米諸国の「英語ネイティブ」の英語教師を求めてきた。しかし、「英語ネイティブスピーカー」を講師とした英語プログラムは一般的に費用が高い。そこで英語教育の費用を削減するために、英語を第二か国語とする講師による英語プログラムを探すことを勧める。これは、語学研修のコストを削減するだけでなく、学生の将来の教育とキャリアのためにもプラスである。世界で英語を話す15億人のほとんどは、英語を母国語としない「非ネイティブスピーカー」である。第二言語の英語指導者からの英語指導を受けることができる国がいくつかあり、中南米(ガイアナ共和国やベリーズ)、インド、フィリピンなどが含まれる。ここでは例として、フィリピンの例を紹介する。質の高い集中英語プログラムが多種多様に用意されており、情報を集める最初のステップとして、このウェブサイトがお薦めである。
https://www.languageinternational.com/english-courses-philippines
2.英語第二言語話者によるオンライン英語指導
フィリピンのような外国への渡航費を支払うことのできない学生には、英語の集中プログラムに参加するための別のオプションがある。それは、英語を第二言語として使用している非欧米諸国の講師からオンラインで英語指導を受けることである。昨今のインターネットの普及と安価なビデオ通話が可能になったことで、学生はオンラインで英語の指導を受けることが可能である。再びフィリピンの例を紹介する。数多くのウェブサイトを通じてフィリピンの英語教師と1対1で英語を学ぶことができる。これは、「ネイティブスピーカー」によるオンラインの1対1の授業よりもはるかに安い。米国の大学入学に備えて、英語コミュニケーション力を身につけるために比較的安価な方法を探している学生向けの、実現性の高いオプションである。
3.英語による無料の大規模公開オンライン講座(MOOC)に参加
学生のための別のオプションは、大規模公開オンライン講座(MOOC)の英語による講座に参加することである。このコンテンツの多くは無料である。参考までに、様々な情報が掲載されているウェブページを紹介する(これはあくまでも一例として紹介したものであり、受講することでどれほど英語力向上につながるかについては、本稿では取り上げない)。
https://www.fluentu.com/blog/english/online-english-courses/
https://aprendafalaringles.com.br/free-online-english-courses/
最後に、米国政府の資金援助により無料で提供される英語講座を紹介する。
https://www.usalearns.org/
学業支援および留学生オフィスによる支援サービス
学業支援サービス
日本の大学では、授業以外の学生への学業支援サービスは限られている。しかし米国では、大学が学生に様々な学業支援サービスを提供している。この背景として、米国経済の変化や、大学卒でないと高い給料を得ることがますます困難になっていることから、これまで以上に大学に進学する学生が増えていることがあげられる。しかし、大学教育のために十分に準備してきているとは言えない学生が多い。ゆえに多くの学生が、大学で教育プログラムを終えるのではなく、スタートするといった状態である。こういう背景の中では、最悪の場合、大学の卒業率が約60%ということも起こりうる。さらに、卒業はできるものの、卒業まで6-7年の期間がかかるという学生も多い。大学の卒業率を上げ、在籍期間を短縮するために、米国の大学は学生に多くの学業支援サービスを提供している。
留学生は、これらの支援サービスを十分に理解し、それらを最大限に活用することが大切である。これらの支援サービスには、
- ライティングの個人指導
- 授業内容の個人指導
- カウンセリング・サービス
- 試験準備のサポート
- 学生への健康サポート
- 健康的な生活を促進するためのレクリエーション施設
- 学生の教育資金対策などの相談センター
- キャリア・サービス
- 教員によるサポート(Office Hoursを設け、教室以外で学生の質問や相談を研究室で受けている)
学生維持のために大学はこれらの支援サービスを提供しており、サポートを最大限に活用する学生の方が、そうでない学生に比べてはるかに成功する可能性が高い。 留学生が直面するさらなる課題を考えると、このような支援はさらに重要であり、これらの支援サービスを活用することで、日本人学生が米国で学位を取得しやすくなると考えられる。
留学生オフィスによる支援サービス
留学生オフィスとは、米国の大学で留学生を支援するために存在するサポートオフィスの一つである。以下のサービスが含まれる。
- 留学生の在留資格に関する助言・相談
- 留学生ならではのニーズに対応するために計画されたワークショップやオリエンテーション・セッション
- 留学生とアメリカ人家庭の交流のために、留学生を家に招待したり、家族と一緒に外出するなどのホスト・ファミリー・プログラム
- 留学生とアメリカ人学生をペアとし、相互協力と友情を育むバディ(相棒)プログラム
- 年間を通して行われる交流イベント
- 米国以外の大学における教員引率や交換プログラムなどの海外留学(このようなプログラムに参加する留学生には、奨学金が支給されることがよくある)
おわりに
コミュニケーション力の不足は、米国留学を選択する日本人学生にとっては障壁となりうる。しかしだからといって、自分の夢を諦めるべきではない。本稿では、英語でのコミュニケーション力を向上させるための比較的安価な方法と、学生が成功するために米国の大学で必要なサポートを受ける方法について紹介した。米国が海外留学先として唯一の選択肢ではなく、必ずしも最良の選択と限らないことはもちろん理解している。しかしどのような英語教育機関を選ぶかにかかわらず、留学費用や英語力不足の障壁により、夢をあきらめるようなことはしないようお勧めしたい。私のアドバイスや提案が、近い将来、米国の大学で学位を取得したいと願っている日本人学生や他の留学生に役立つことを願っている。
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注
- *非英語圏の学生が、英語圏の大学で勉強していく上での英語力を測定する試験。一般的に米国の大学への入学判定材料の一つとして用いられている。2006年より、コミュニケーション能力の判定に重点を置くようになった。
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References
- Educational Testing Service. (2018). Test and score data summary for TOEFL iBT tests. Retrieved from https://www.ets.org/s/toefl/pdf/94227_unlweb.pdf
- Kawai, J. (2009). Motivation of study abroad and systematic constraints: Survey of Japanese students [Japanese]. The International Center Kyoto University The 3rd Survey Report (pp. 105-122). Retrieved from http://hdl.handle.net/2433/79575
- 小林明 (2011).「日本人学生の留学阻害要因と今後の対策」『留学交流』2, 1-11.
- Lassegard, J. P. (2013). Student perspectives on international education: An examination into the trend of Japanese studying abroad. Asia Pacific Journal of Education, 33 (4), 365-379.
- MEXT (2014). Report on the future improvement and enhancement of English education: Five recommendations on the English education reform plan responding to the rapid globalization. Retrieved from http://www.mext.go.jp/en/news/topics/detail/1372625.htm
- Ota, H. (2011). Why students are staying away from study abroad. Education and Medical Science, 59(1), 68-76.
- Pritchard, R. M. O., Maki, H. (2006). The changing self-perceptions of Japanese university students of English. Journal of Studies in International Education, 10, 141-156.