1.はじめに
我が国が国際化の中にあるといわれてから久しい。英語はもはや日常化して、いつも身の周りにあるような状況におかれている。
子どもたちは通学途次の駅など人の集まる所では、英語による表記が多く見られ、電車に乗れば英語での放送案内など、英語があちらこちらで飛び交っている時代になってきた。
また、携帯電話、iPod関連機器, パソコンや、ラジオ・テレビ番組などでいつでも英語に触れることができるようになっている。
そのような中にあっても、体系的に英語を学ぶとなると、学校での学習を通じてである。今日の社会的な背景から、子どもたちの学校で習う英語への要望は、総体的に「英語を話せるようになりたい」である。
このことは中・高等学校で6年間英語を学習してきた大学生を含め、子どもたちの強い願いの一つである。私が当該の学校で教えていた、昭和30年代初めからの約20年間や、立場を変えて東京都教育委員会行政官として政策立案や方針の下、学校等への助言等を行っていた昭和50年代初めからの約十数年間の時代、そして大学での英語教育に関わる現在も同様の状況がみられる。
子どもたちの願いの最近の身近な例を少し挙げてみることにする。
○ | 少しでも英語が好きになり、特に話すことが上達するように努力する。 |
○ | 今まで学んできた英語を生かして、更に理解を深め、英語を使いこなせるようになりたい。そして将来は英語を使う仕事に就けるようにしたい。 |
○ | 英文を読むだけでなく、日常使える英文を身に付けたい。 |
○ | これからはどんな仕事でも英語が必要になってくる。教科書をもとにして、英語をしっかり話せるようになりたい。 |
○ | 今の世の中、英語を受身で学ぶのではなく、攻めで学んでいくことが大切だと思う。 自分から発信できる英語力を身に付けていきたい。 |
上記は新学期になり、English Readingの第一回目にどのような授業を行うかのシラバス説明の折に、A TASK OF ENGLISH LESSONとして調査等を行った時のほんの一例である。また、英語のSpeaking and Listeningに関する既習内容の活性化と両技能の基礎力を向上させるために設置された科目English Communicationの場合は、特にこのことがより具体的に述べられている。
今年もこれに応える授業展開を開始したところである。それぞれが意欲満々で、皆が明るく、活発に活動を始めている。
また、関連の情報からみると、国の方策として「英語を使える日本人」の育成のための戦略構想など、これまでに種々の提案や学校での実践によって、この願望がかなえられつつある。そして今般は小学校での英語教育も加わりことになり、実現への大きな支えとなってきている。
2.積極的な言語活動の進め
先のような学習者が育っていくためにどのようなことを行っていったらよいだろうか。英語が話せるようになるには、聞く・話す・読み・書きの四技能があって初めて成立する。英語教育に携わる者には、大学での「英語教科教育法」で修得する指導法の基本として受け止められているものである。
関連分野の用語で表せばCommunicative Language Teachingである。英語による情報伝達の能力を重視した、コミュニケーション志向でアプローチする指導法である。大部分の子どもたちにとって、英語を学習する目的は話し言葉であれ、書き言葉であれ、また理解や発表のいずれの面を強調するにしても、英語で意思を伝えるようになることである。
さて、その根幹をなすのは文部科学省「学習指導要領 外国語編・英語編」である。
子どもたちが積極的に英語を話そうとすることを支えるのは、指導にあたって、中・高等学校の外国語の目標である。生徒の発達段階によって、表現の相違はあるとしても殆ど同じ趣旨のことを述べているととらえられる。
高等学校の場合で見てみることにする。
「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、情報や相手の意向などを理解したり、自分の考えを表現したりする実践的コミュニケーション能力を養う」とするものである。英文版では、
Overall Objectives:
To develop students' practical communication abilities such as understanding information and the speaker's or writer's intentions, and expressing their own ideas, deepening the understanding of language and culture, and fostering a positive attitude toward communication through foreign languages.
としている。国際交流や教師等の招聘事業に関わるご縁で、海外の学校訪問で外国語としての英語授業参観をする機会が多いが、話題に出して、英語教師と協議などを行う場合に役立てているものである。
留意したいことが二点ある。
一つは、「コミュニケーションに対する積極的な態度の育成」である。国際化が進展する中にあって、異なる文化を持つ人々を理解し、個人や日本人としての自分を表現することを通して、それらの異なる文化を持つ人々と共に協調して生きていく態度に発展していくものであり、極めて重要なことである。
もう一つは、「実践的コミュニケーション能力の育成」である。外国語の音声や文字を使って、実際にコミュニケーションを図ることができる能力を育てることである。言い換えると、英語を使って、情報や相手の意向などを理解したり、自分の考えなどを表現したりして、通じ合うことができる能力を育てることである。
それではこのことをもとにして、どのような方針で、教材等を用いて子供たちのコミュニケーション能力を育てていったらよいだろうか。
(1)どのような姿勢で臨むか
Understand it in Englishを指導の基本として「実践的なコミュニケーション能力」を育てることである。
大事なことは、子どもたちが机を並べて学習する意味を考えての授業である。それはクラス全員で英語のスキットを演じたり、ペアで会話を作ってみるなど「協同作業型」の活動を多く取り入れることである。また英語を通してお互いの考え方や価値観などを分かち合い、互いに学び合う「インタラクティヴ型」の授業を進めることである。
中学校の場合は、複数の教科書から一種類を選択するが、高等学校の場合は、「オーラル・コミュニケーション」か「英語Ⅰ」を中心に幾つかの科目で、コミュニケーションの育成を図る授業を展開していく。子どもたちに英語を教えるにあたって、どの学校段階においても、子どもたちに教科書で英語を使って、英語で理解するようにすることである。
そのためには、Classroom Englishに始まって、必要によっては日本語を使うことがあるとしても、全体的にEnglish atmosphereで授業が進められるようにする。特に授業の中心となる教材指導の「展開」の過程でこの手法で進められることが大切である。
(2)教材等を生かす
中学校の教科書はこの目的を達成するのに好都合な構成となっている。
① | 言語材料:子供たちに英語を好きにさせることが大前提である。そのためには英語を使えるようになりたいという生徒の願望を満たし、「今日はこんなことができるようになった」という成就観・達成観を味わわせることが大切である。この観点から、アクティヴな要素を取り入れ、クイズ・ゲーム的な手法を取り入れた活動、インフォメーション・ギャプを設定しての情報活動や自己活動等、バラエティーに富んだダイナミックな活動が行えるようになっている。 |
② | 題材:身近な場面や話題をとらえた多くの対話教材、異文化理解を志向した読み物、人権問題、平和や環境問題等、生徒の感性に訴える視野を広げる内容になっている。 |
また、高等学校の教科書についてはすべての子どもたちが学習する一つ、「オーラル・コミュニケーション」では、日常的な場面でのさまざまな話題を下に展開できることなどを手始めに、聞き取ったことをもとに発表・話し合いができるようにし、スピーチ、ディスカッションやディベートがでできるように構成されている。
もう一つの「英語Ⅰ」では、言語材料や題材は中学校の延長として総合的な英語力の育成を図るよう、聞き手や書き手の意向を理解し、自分の考え等を英語で表現する工夫が行われている。
そして「リーディング」は、書かれていることの概要・要点、更には書き手の意向を読み取るようにようにして、日本語に訳さなければ分からない、また日本語にすればそれで終わり、というような習慣に陥ることのないように指導を行うことである。
ある教科書では、子供たちの知的な欲求を満たしながら、英語で表現できるようにするために、教科書の冒頭に、(読み)と(理解)として次のような解説を付けている。
「リーディングの基本は読んだものを理解することにあります。ある程度のスピードで読みながら、同時に理解する、つまり<速読速解>を身に付けるようにします。英文を読んで、日本語に頼ることなく意味を把握するためには、英語の語彙と文の構造の知識を活性化させ、英語の音声や文字を通じて意味を把握するようにします。そのためには、とにかく聴いて音読します。この反復練習によって、英語の語彙と文の構造を無意識レベルまで浸透させ、やがて日本語に訳さなくても英語が理解できる段階に達するのです。」としている。
指導にあたって、方針が決まれば、子どもたちによく説明して、周到な準備によって如何ようにも指導を発展させ、前向きな授業展開ができるようにすることである。
授業ではパラグラフ毎に要約して内容把握をさせるなどして、英問英答等により、英語で述べる自己表現の機会となるようにして、実践的なコミュニケーションの育成を図ることができるように展開していくことが重要である。
「ライティング」は、「自分の考えなどを的確に」英語で表現できるよう指導をすることにより、本来の英語で「書いて表現する」活動の構成になっている。このことをフルに活用して、コミュニケーション能力の育成を図るようにすることである。
3.指導を深める
中・高等学校で培った英語力をもとに、大学における「リーディング」の授業を通して、総合的なコミュニケーション能力を育成するために次のようなことをする。
「聞く・話す・読む・書く」四技能での習得を、教材の性質を生かして、「読む・書く・聞く・話す」の順にするなど、適宜、臨機応変に-展開するようにする。
先ず初めに、教材の内容に関する事柄について、読者の背景知識を活性化するために簡単な多伎選択形式のQ&Aから始めることにする。読者の気持ちや体験についての質問であるから、すべての人に当てはまる正解などはない。ここでは学生同士も含め英語で表現する機会となるようにする。
教材の本文に入る。先ず指導者がどんな内容のことを学習するかをOral introductionをして、Dialogue風に対話等を行う。次にテープを聴いてから呼名して、同じパラグラフを数名の者での音読を行うようにする。どんなことが述べられているかを英語で述べさせながら、指導者が英語で説明したり、各々に答えさせたりして、英語を使う機会を多くする。
次は、本文に関する簡単な英語での質問である。本文の内容を重視し、質問内容は、パラグラフの真中だったり、終わりだったり、最初に戻ったりして、個々、あるいは他の箇所と関連付けて、英語で自己表現を行う機会となるようにする。
コミュニケーションの育成を図るためには、幾つかのポイントがある。
自宅で予習する場合も、このような方法で行う習慣を付ける。また授業においても、同様の方法で行い、内容を把握してそのことを自分で述べることができるようにする。つまり「実践的なコミュニケーション能力」を育成することなのである。
英語を身に付けるのは、最終的に、自分の考えや、主張などを相手に伝えるためである。何かを読んだり、誰かが話すのを聞いたら、それについてコメントを書いたり、フィードバックしたりすることこそが英語で表現する能力、即ち、「コミュニカティヴな英語力の育成」になる。
本文を読んだ後には、筆者の主張に反対や賛成する意見を持つような姿勢で英文を読むようにすることが大切である。これを英語で口頭あるいは書いて表現することによって、「英語を使えるようになる」願望の達成となる。
<参考資料>
文部科学省 中学校・高等学校「学習指導要領」
中学校・高等学校英語教科書
文部科学省:Regarding the Establishment of an Action Plan to Cultivate "Japanese with English Abilities"