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【子どもから学ぶ:発達心理学への招待】 第4回 なぜ・どうしてを大切に

酒井 厚(首都大学東京 人文社会学部 准教授)

2018年8月17日掲載

要旨:

子どもは幼い頃から「なぜ?」「どうして?」という疑問を大人に尋ね、世の中のことをわかろうとします。また、そうした疑問をもつことは、創造性ややる気の発達を支える重要な要素です。今回は、子どもの疑問の大切さについて、それを支える大人の関わり方も含めて考えてみたいと思います。

Keywords:疑問、創造性、やる気
子どもの疑問

皆さんは、NHKで放送している「チコちゃんに叱られる!」という番組をご存知でしょうか。5歳のおませなチコちゃんが、世の中にある素朴な疑問を大人に投げかけるという番組で、私が普段から付き合いのある同業者の間では人気があります。コックの帽子はなぜ高いのかとか、なぜ信号の緑は青と言うのかなど聞かれると確かに答えられない。この間は、大学院時代の先輩が解説者で登場し、人がくすぐったがる理由を説明していて思わず「へぇ~」と感心してしまいました。ちなみに、くすぐったさは害虫が皮膚にとまったときに感じる不快な感覚として身を守るために備わっているのだそうです。

子どもは言葉が話せるようになると色んな物事を「何?」と聞くようになり、3歳を過ぎる頃には「なぜ?」「どうして?」といった理由を知ろうとすることが多くなります。子どもによって個人差はありますが、幼児期は質問期と呼ばれ(小口,1957)、大人はたくさんの素朴な疑問をぶつけられるのです。それほど悩まずに答えることができる質問なら良いのですが、チコちゃんの質問のように難しくて答えられず、苦し紛れに「昔からそう決まっているんだよ」などと全く答えにならないやりとりで押し切ってしまった経験があるのは、きっと私だけではないでしょう。

創造性の発達

子どもの「なぜ?」「どうして?」という疑問は、創造性の発達に関わる大切な要素です。創造性とは、専門的には、自分の目的を達成したり問題を解決するアイデアを生み出し、社会的、文化的に価値あるものをつくり出す能力や特性(高橋,1993)とされ、幼児期からの教育が注目されています(西浦,2011)。ソニー教育財団(2018)が「科学する心を育てる」というテーマで実施している幼児教育支援プログラムのホームページ(http://www.sony-ef.or.jp/sef/preschool/practice/pdf/vol015_all.pdf)を覗いてみると、各園が実施する興味深い取り組みが紹介されています。ある園は、5歳児が色を混ぜると他の色になるという気付きから、自分が作りたい色を追求していく様子を報告していました。子どもたちが花紙(様々な色で染められており水に入れると色が出る薄い紙)を使って遊んでいた色づくりは、保育者がグラデーションの表を提示することをきっかけとして、友達と一緒に並べて違いを楽しみ、どうして違う色になるのかを考えたり、まだ作っていない色に挑戦するなど生き生きとしたやりとりが展開していきます。

心理学の実験にも、幼児が疑問に思ったことにどう取り組むかを調べたものがあります(塚越,2007)。この実験では、幼児を1人ずつ個室に呼んで空箱を見せ、「飴ちゃんが出てきますように」と願いごとをするように頼みました。すると、何もなかった空箱から飴が出てくるという不思議な体験をします。その後、子どもを部屋に1人きりにしてどうするかを観察したところ、年中や年長の子の多くが、願い事を色々な仕方で工夫してみたり、箱をたたいたり持ち上げたりして調べ始めたのでした。

子どもは、疑問を感じたり不思議に思ったことは自分で試してわかりたい。周囲の大人がそんなやる気を支えるように寄り添うことが、創造性の発達につながっていくと言えるでしょう。

試す気持ちを支える

今から30年ほど前の調査になりますが、小学2年生から中学1年生までのやる気の発達について調べた研究(桜井・高野,1985)があります。これによると、子どもの自分の力で問題を解こうとする感覚や難しい問題に挑戦する気持ちは、上の学年に行くほど低くなっていました。幼児の多くが楽観的に物事に取り組めるのとは異なり、児童期になると、子どもは徐々に失敗した経験などから自分の実力を客観的に判断するようになるので、試す心にブレーキがかかりやすくなってしまうのでしょう。そう考えると、子どもが小学校に入ってから以降は、試す気持ちを支えることをより意識して関わることが必要です。小学2年生のいる親子を対象に、親の子どもの宿題への関わり方と子どもの学校でのやる気がどのように影響しあうかを3年間かけて調べた研究(Viljaranta et al., 2018)があります。子どもの学校でのやる気は、難しい問題や新しい課題に積極的に取り組むかを教師が評定しました。その結果、小学2年生のときに親が手伝い過ぎず自律性を重んじるほど、1年後の子どものやる気が高くなっていました。

また、教師の関わり方と中学生の創造性への自信との関連を調べた調査(Karwowski et al., 2015)では、教師がその子に創造性があると期待していることが、子どもの創造性への自信を高めることにつながると報告されています。こうした教師の期待による影響は、以前からピグマリオン効果(Rosenthal & Jacobson, 1968)と呼ばれており、その背景には、期待した教師が生徒に対して微笑むなどの肯定的なメッセージを発したり、ヒントを与えて答えを出すまで待つ時間が長いなどの行動があったことがわかっています(Good, 1987)。つまりは、教師や親が子どもに期待して自律性を促すことで、やる気は伸びていくのです。

期待とともに必要なこと

今年の3月に、リバネスという企業が科学技術振興機構の支援を受けて小中学生を対象に実施している研究プログラム(https://www.jst.go.jp/cpse/fsp/kikaku/index.html)の発表会に行ってきました。このプログラムでは、子どもたちが自分の素朴な疑問や興味(味覚ってなんで違うんだろうなど)をもとにチームを構成し、専門の研究者のアドバイスを受けながら試行錯誤を重ねて研究を進めていきます。この発表会では、ポスター発表(自分たちの成果をポスターとして掲示し見に来た人に説明する形式)の時間があり、自分が興味をもったグループに直接質問して話し合うことができます。大人が子どもに疑問をぶつける番です。場所によっては、大人が厳しい内容も含めてたくさんの質問を投げかけ、子どもたちが必死になって答えることで活発な議論になっているところもあり、答え終わった子どもたちのほっとしたような誇らしいような顔が印象的でした。

閉会の挨拶のときに、主催者が1938年にノーベル物理学賞を受賞したエンリコ・フェルミの言葉を引用していました。その言葉は、「実験にはふたつの結果がある。もし結果が仮説を確認したら、君は何かを計測したことになる。もし結果が仮説に反していたら、君は何かを発見したことになる」というものです。

子どもたちが物事に疑問をもち自ら考えて取り組んだとしても、それが結果として報われるかは分かりません。子どもへの期待が高いと、大人の方はできなかった結果に納得できないこともあるでしょう。また、そんな大人の態度を見て、子どももまたがっかりしてしまう可能性があります。予定通りではない結果は、失敗ではなく違うものを見つけたと思えること。そんな大らかな感覚が、物事に取り組む子どもばかりでなくそれを支える大人にも必要なのだと感じます。


引用文献

  • Good, T. 1987 Teacher expectations: In D. Berliner & B. Rosenshine (Eds.) Talks to teachers. Random House. pp.159-200.
  • Karwowski, M., Gralewski, J., & Szumski, G. 2015 Teachers' effect on students' creative self-beliefs is moderated by students' gender. Learning and individual differences, 44, 1-8.
  • 西浦和樹 2011 創造性教育の現状と創造的問題解決力の育成-教育ツールの活用による人 間関係構築の試み- 教育心理学年報,50,199-207.
  • 小口忠彥. 1957 記録を通し子どもを理解するには 幼児と教育,34-37.
  • Rosenthal, R., & Jacobson, L. 1968 Pygmalion in the classroom. The urban review, 3, 16-20.
  • ソニー教育財団 2018 混ぜるって面白い2018年度ソニー幼児教育支援プログラム「科学す る心を育てる」実践事例集,15,10-11. http://www.sony-ef.or.jp/sef/preschool/practice/pdf/vol015_all.pdf
  • 桜井茂男・高野清純 1985 内発的-外発的動機づけ測定尺度の開発 筑波大学心理学研究,7,43-54.
  • 高橋 誠(編) 1993 新編創造力事典-日本人の創造力を開発する創造技法主要88技法を 全網羅-(p.24) 日科技連出版社
  • 塚越奈美 2007 幼児期における願いごとに関する理解:「魔術的」に見える現象をどのように理解するのか? 発達心理学研究,18,25-34.
  • Viljaranta, J., Silinskas, G., Lerkkanen, M. K., Hirvonen, R., Pakarinen, E., Poikkeus, A. M., & Nurmi, J. E. 2018 Maternal homework assistance and children's task-persistent behavior in elementary school. Learning and Instruction, 56, 54-63.

筆者プロフィール

report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (首都大学東京 人文社会学部 准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、2002年に早稲田大学において博士(人間科学)を取得。山梨大学教育人間科学部を経て、現在は首都大学東京人文社会学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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