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【いじめの構造】 第8回 いじめの予防(5):東京都いじめ防止プログラム

杉森 伸吉(東京学芸大学 教授)

2015年1月30日掲載
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2013年末から2014年2月にかけて、委託を承けたNPO法人東京学芸大こども未来研究所(理事長は松田恵示東京学芸大学教授)が東京都とともに、東京都が立案したいじめ予防プログラムについて、プログラムの授業案と教材の具体化、教師による試行授業、効果検証、授業案及び教材の修正をおこないました。私も一理事として効果検証と分析手法を中心に関与しましたので、NPO法人東京学芸大こども未来研究所と東京都の許可を得て、試行プログラム授業の内容等についてご紹介します。 プログラムの詳しい内容等については、ここではすべて紹介しきれませんので、東京都のウェブページ「『いじめ問題に対応できる力を育てるために―いじめ防止教育プログラム―』の作成について」(http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2014/02/20o2r500.htm)をご参照下さい。

このプログラムは、4回の授業からなっています。4回の授業テーマは、(1)「いじめを傍観しない基盤づくり(いじめのない、楽しいクラスをつくろう)」、(2)「いじめを生まないための互いの個性の理解(自分らしさと友達のその人らしさを探そう)」、(3)「いじめを生まない望ましい人間関係の構築(コミュニケーション力を高めよう)」、(4)「いじめを絶対にしないための気持ちの調整(自分の気持ちを上手にコントロールしよう)」です。

(1)では、いじめ理解を促すことで、いじめ(られ)ている認識がないままにいじめの加害者や被害者にならないことを意図しています。

(2)では、自己や他者への肯定感を高めることにより、自他ともに、いじめてよい人はいないという意識を育むことも狙いとしています。

(3)では、異質な他者を排除するいじめを予防するために、異質な他者への理解力や共感力を高めることを意図しています。

(4)では、誰かに否定的な感情をもっても、すぐにいじめなどの攻撃につながらないように、気持ちのセルフコントロールを高めることを意図しています。

これら4回の試行用授業プログラムを、学年や発達段階にあわせて授業化しました。具体的には、小学校の低学年用、中学年用、高学年用、中学生用、高校生用、特別支援学校用の6種類です。また、4回それぞれの授業時間も、45分または50分でできる内容と、10分くらいの短時間でできるものと作りましたから、4×6×2の48パターンを用意しました。これは関わったNPOの研究員をはじめ、たいへんな労力を費やしました。

この試行用プログラムを、2014年の1月と2月に集中的に首都圏の小中高特別支援学校で各学校・先生方のご協力のもとに実施しました。

次に、具体的な授業案について紹介します。

プログラムの内容紹介
(1)「いじめを傍観しない基礎づくり(いじめのない、楽しいクラスをつくろう)」

小学校低学年用では、まず、「学級のよいところ」を考えたうえで、様々ないじめ(はやしたてたり、笑いものにしたり、意地悪をしたり、暴力をふるうところ)についてイラストで提示し、考えたことを話し合う。そのなかで、いじめのない楽しい学級を作るには、何ができるかを話し合う。どんなことが楽しい学級づくりにつながり、どんなことが楽しくない学級につながるかを話し合う。「すてきな学きゅう」と書かれた家の絵を板書し、楽しい学級につながるものをその家の中に書き、楽しくない学級につながるものを家の外に書く。さらに、いじめは相手の心身を傷つける行為であるため、しない、させない、見過ごさないということを確認する。中学生以上では、いじめが様々な刑法に触れる犯罪となることも伝える。

(2)「いじめを生まないための互いの個性の理解(自分らしさと友達のその人らしさを探そう)」

小学校低学年用では、まず導入部分で、「自分のよさをしろう」というテーマで各人が自分の長所やできるようになったことを考えワークシートに記入したあと、四人グループになり、自分以外の三人のそれぞれのよいところを書く。よいところを書いた相手に全員がカードを渡し、友達によいところを見つけてもらって嬉しかったことなどを振り返る。自己概念が十分ではない低学年の場合は、自分らしさというより、自分のよさといったほうが、理解しやすい。中学生以上では、相手の長所だけでなく短所についても話すが、短所も見方をかえるとどんな長所になるかも考える。

(3)「いじめを生まない望ましい人間関係の構築(コミュニケーション力を高めよう)」

二人組になり、話し手と聞き手を決めて、学級の実態に応じて決められたテーマ(休み時間に遊んだことなど)について話し手が話すのを、聞き手はあらかじめ提示された、自分のことは話さずうなずいて聞く、にこにこして聞く、等の「上手な聞き方」にもとづいて聞く。話が終わったら、役割を交代する。その後、他の二人組と一緒になって四人グループを作り、自分が聞いた話を、新しくグループになった友達に話す。話す時間はそれぞれ3分程度。四人グループで友達の話を聞いてどう思ったか話し合う。最後に各グループの代表が、全体に発表する。

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中学生以上では、学校の行事などテーマを決めて(例えば、合唱コンクール)、「ダイヤモンド・ランキング」という、各自が大切だと思うことの序列をつけて、グループで序列について話し合う活動をおこなう。ダイヤモンドという理由は、9つの選択肢で最上位と最下位を一つ選び、真ん中を三つ選び、上からと下から2番目を二つずつ選び、上から同順位の答を横に並べると、1、2、3、2、1とダイヤモンド型(ひし形)になるからである(右図)。合唱コンクールであれば、練習量、団結力、責任感、思い出づくり、努力、などの要素を挙げて、大事だと思う順に序列付けをさせる。自分の意見を主張し、他者の意見も尊重し、相互尊重できることで、表面的な同調を防ぐことにもつながる。

(4)「いじめを絶対にしないための気持ちの調整(自分の気持ちを上手にコントロールしよう)」

プログラムの内容からしても、スクールカウンセラーが一緒に入っておこなうことが望ましい。このプログラムでは、まず自分がイライラして我慢できない場面について振り返り、そのときどう行動しているか考える。次に教師から、イライラして我慢できないのはどのような場面なのか説明を聞く。誰でもイライラしたり悩んだりすることはあるので、自分らしい解消方法を学ぶと対人関係も良くなることを説明。教師が複数の解消方法(3回深呼吸する、外で体を動かす、気持ちを大人に話す、「落ち着け」などのセルフトーク、好きな歌を歌う、自然の中でのんびりする、など)を提示し、自分で選択し練習させる。また、困ったときには、教師に相談することもできることを伝える。高学年以上の場合は、ストレスマネジメント方法について、自分たちでも考えさせる。

中学生では、対人葛藤が生じやすい場面を提示し、登場人物のAさんとBさんがけんかになったとして、互いにどのような気持ちだったか、どうしてほしかったかを考えてロールプレイする。ただし、中学生の場合には、恥ずかしがって、没入できないことがあるので、没入できる工夫が必要である。このプログラムでは、効果測定の結果、「友達だからといって、何でもしてよいわけではないと思った」などの意見が多く、プログラムの効果が認められた。

高校生の場合は、ストレスマネジメントの原理についても説明した。また、東京都が作成したDVD「STOP!いじめ あなたは大丈夫?」(児童・生徒指導編 高等学校編(15分))がネットいじめなどについても触れており、高い視聴効果がみられるので、このDVDを活かした授業づくりが望ましい。また、ネットいじめなどは、同じクラスになってもまだ仲良くなっていない1学期に起こりやすいので、早いうちに教えたほうがよいという意見も多かった。


試行授業を行ったときの効果検証の結果、それぞれのプログラムで、所期の効果が認められました。また、担当教員、参加児童生徒、オブザーバーの教員などの方々の意見を集約し、最終案に反映させていますので、参考にしていただければ幸いです。

筆者プロフィール
report_sugimori_shinkichi.jpg杉森 伸吉 (東京学芸大学 教授)

東京学芸大学教授(社会心理学)。個人と集団の関係をめぐる文化社会心理学の観点から、集団心理学(チームワーク力の測定、裁判員制度の心理学、体験活動の効果)、リスク心理学などの研究を行っている。法と心理学会理事、野外文化教育学会常任理事、社団法人青少年交友協会理事、社団法人日本アウトワードバウンド協会評議員、NPO法人学芸大こども未来研究所理事、社団法人教育支援人材認証協会認証評価委員会委員長など。

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