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【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第5回 仲間集団でつく嘘

酒井 厚 (山梨大学教育人間科学部准教授)

2012年7月13日掲載

要旨:

私たちは、幼い頃から嘘はいけないことであると教わる一方で、自分や友人の立場を守るためや、対人関係を円滑にするために嘘をつくことを普段の生活から学んでいく。
嘘は、いつ頃から、どのような動機で使われるようになるのか。今回は子ども時分に仲間集団でつく嘘を取り上げ、社会性の発達にとってどのような意味を見出すことができるかについて論じた。
1.嘘もいろいろ

嘘もいろいろである。他者を騙して利用しようとする悪質なものもあれば、自分や他者の身の安全を確保したり、プライバシーを守るために情報を隠す嘘もある。相手から髪型や服の趣味について意見を求められても、相手を傷つけまいとして本音を言わないことは多いし、その場の雰囲気を盛り上げるために事実からは離れた大げさな話をすることもある。私たちは、幼い頃から嘘はいけないことであると教わる一方で、嘘がときには自分や友人の立場を守ること、他者を気遣うための嘘や嘘を含んだユーモアが良い関係を維持するのに役立つことを学んでいく。

こうした正当防衛のための嘘や"対人関係の潤滑油"としての嘘は、いつ頃から、どのような動機で使われるようになるのか。今回は子ども時分に仲間集団でつく嘘を取り上げ、社会性の発達における意味について考えてみたい。


2.幼児期の嘘

はじめに、幼児を対象とした2つの実験を紹介しよう。1つ目の実験は、椅子に座っている3歳の子どもたちが、実験者によって背後に魅力的なおもちゃを置かれるが、実験者が5分後に戻ってくるまで振り返って見てはいけないと言われるものである。子どもの前には母親が座っているが、背中を向けているので子どもが振り返ったかどうかはわからない。子どもは果たして振り返るだろうか。振り返ったとしたら、それを正直に話すだろうか。実験者が部屋を出てマジックミラーで観察していた結果、33名のうち29名が振り返り、そのうち11名が見たことを認めなかった。また、そうして嘘をついた子どもの表情や行動は正直に答えた子どもと区別がつかず、くったくのないものであった(Lewis, Stanger, & Sullivan,1989)。

2つ目は日本の4、5歳の子どもを対象とした実験であり、赤ちゃんマンが隠れているところにバイキンマンが探しにくるという設定の人形劇を見せて実施したものである(菊野,2010)。子どもの目の前に置かれた2つのコップの片方に、赤ちゃんマンが「これからこのコップの中に隠れるからね」といって隠れた後、バイキンマンがやってきて「ねえ、赤ちゃんマンが来なかった?懲らしめようと思うんだ。どこにいるか教えてくれるかい?」と尋ねたところ、4歳児では6割弱が、5歳児ではおよそ7割5分の子どもが正直に答えなかった。

これらの実験では、子どもがどうして嘘をついたのかは必ずしも明確にされていない。しかし、子どもの行動と結果から推測する限りでは、幼児期の頃から、自分が良くないことをしたことを隠したり(つまりは自分を守るために)、誰かが嫌な思いをするのを避けるために嘘をつくことができると考えることができよう。また、幼児期の子どもの面倒を見る親や教師に実施した調査によると、3歳児が意図的に嘘をつくと同意したのが33%であったのに対し、6歳児については回答者全員が同意していた。大人の側も、子どもは幼児期から嘘をつくようになり、小学生に上がる頃には意図して嘘をつくようになると感じているようである(Stouthamer-Loeber, Postell, & Loeber, 1992)。


3.利他的な嘘

大学生を対象にして、嘘の動機ごとにその許容度を調べた結果では、もっとも許容できるとされた嘘は他者を恥や屈辱などから守るためにつくものであった(Lindskold & Walters,1983)。こうした利他的な嘘は、先ほどのバイキンマンの実験でもわかるように幼児期から見られるものである。しかし、私たちが日々営む対人関係はそれほど単純ではないので、ある人のために嘘をつくことが他の人の迷惑になる場合がある。このように、誰のために嘘をつくべきかを迷う状況におかれると、子どもは自分が所属する社会の慣習や文化に合わせて嘘をつく傾向にあるらしい。

カナダと中国の両国でそれぞれ暮らす7歳から11歳の子どもを対象に、歌が上手ではない友人がクラス対抗の合唱コンクールの代表に入りたがっているというジレンマ課題を課し、クラスの皆に嘘をついて友人を推薦するか、友人に嘘をついてクラスに迷惑をかけないようにするかを選択してもらった(Fu, Xu, Cameron, Heyman, & Lee, 2007)。その結果、カナダ人は、友人は歌がうまいから代表に推薦するという前者の嘘を選択し、中国人では代表の欠員には空きがないという後者の嘘を選択することが多かった。つまり、前者では欧米の個人主義が、後者ではアジア圏に多い集団主義に基づく社会的慣習が、子どものつく嘘に反映されたと解釈されるのである。

しかし、ギャングエイジと呼ばれる親密な仲間同士でのインフォーマルな集団が形成される時期になると、誰のために嘘をつくかの判断は、一般的な社会的慣習よりも彼らが形成するインフォーマルな集団での掟を反映したものになっていく。例えば、12-13歳の子どもを対象に仲間への忠誠心について調べた古典的な実験がある(Harari & McDavid, 1969)。

実験の内容は、教師が教室を留守にした間に、クラスメイトの一人が教卓の上にあった現金をわが物顔で盗み、それを目撃した子どもがあとで大人に質問されたときに正直に証言するかどうかを試すというものであった。盗んだ児童はもちろん実験者が仕込んだサクラである。この実験では、大人から子どもに質問される状況が、単独で尋ねられる場合とクラスメイトの誰かと一緒の場合の2つの条件が用意され、さらに現金を盗んだクラスメイトが、実際にそのクラスで最も人気のある子どもの場合と人気のない子どもの場合で比較していた。

その結果、単独で質問された生徒は全員が真実を話したのだが、2人1組で質問された場合には、盗んだのが人気の高い子どもの場合には全員が事実を隠し、人気の低い子どもの場合には全員が真実を述べたのである。クラスメイトに真実を証言されてしまった子どもには気の毒な結果ではあるが、子どもが自分の所属する集団に強い忠誠を抱き、ときとしてそれが両親や教師に対する道徳的な義務以上になることを示している。


4.なぜ嘘をつくのか

嘘の研究の第一人者であるポール・エクマン氏(Ekman,1989/菅靖彦,2009)の著書に「子どもはなぜ嘘をつくのか(Why kids lie)」がある。本文中には、彼が小学生から高校生までの子どもたちを対象に実施したインタビュー結果も随所に見られる。例えば、10代の子どもたちを対象に、友人が学校で起こした問題を教師に聞かれた時に真実を話すかどうかを尋ねた質問では、同意したのは全体の3分の1以下であった。興味深かったのは、この質問を受けた子どもたちが、自分との関係性ばかりでなく、問題を起こした友人の動機、被害の大きさ、その友人をかばうことで他の誰かが疑われる可能性などを様々に考え、悩んだ末に回答していた点である。子どもたちの多くは、大人ではなく友人のためになる嘘をつくわけであるが、それは単に大人に反抗し仲間に同調しているからではない。彼らは、こうしたジレンマを自分なりに考え解決していくなかで、社会生活を送るうえで指標とすべき他者への誠実さや、物事の正しさの基準を学んでいるのである。

このように、子どもが仲間集団でつく嘘を他者との関わり方を学ぶ一つのきっかけとして捉える視点は、子どもの嘘を頭ごなしに叱ってしまう親にとってとくに重要である。先ほどのエクマン氏の著書によれば、大人が子どもに教えるべきは、嘘をつくことが問題となるのはどういう場合であり、それがなぜかということである。そのため、親は子どもがなぜ嘘をついたかの動機を知り、それによって対応を変える必要があるという。また、嘘が引き起こす最大の問題が信頼を失うことであり、それは親子の間ばかりでなくすべての対人関係に通じるものであることを理解させることが大切であることを強調している。

この本では、エクマン氏のご子息が、ティーンエージャーの立場から一章を担当しているのだが、親につく嘘と教師につく嘘を比べた彼の考察は参考になる。彼曰く、教師に対しては成績やその先の将来にも関わるので下手に嘘をつけないが、親にはいつか埋め合わせをして敬意を取り戻すことが可能なので嘘をつけるらしい。なるほど、子どもが親に嘘をつくのは信頼の裏返しというわけである。


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引用文献

Fu,G., Xu,F., Cameron,C.A., Heyman,G., & Lee, K. 2007 Cross-cultural differences in children's choices, categorizations, and evaluations of truth and lies. Developmental Psychology, 43, 278-293.

Harari,H., & McDavid,J.W. 1969 Situational influence on moral justice: A study of "finking". Journal of Personality and Social Psychology, 11, 240-244.

Lewis,M., Stanger,C., & Sullivan,M.W. 1989 Deception in 3-year-olds. Developmental Psychology, 25, 439-443.

Lindskold,S., & Walters, P.S. 1983 Categories for acceptability of lies. The Journal of Social Psychology, 120, 129-136.

Stouthamer-Loeber,M., Postell,L., & Loeber,R. 1985 Lying and verbal misrepresentations of reality in 4-year-olds. Manuscript submitted for publication.

菊野春雄 2010 子どもの嘘と心の理論:演繹仮説と帰納仮説の検討 大阪樟蔭女子大学 人間科学研究紀要,9,185-192.

菅靖彦 2009 子どもはなぜ嘘をつくのか 河出書房新社:東京(Ekman,P. 1989 WHY KIDS LIE:How parents can encourage truthfulness. Scribner:New York)
筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (山梨大学教育人間科学部准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、2002年に早稲田大学において博士(人間科学)を取得。国立精神・神経センター精神保健研究所を経て、現在は山梨大学教育人間科学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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