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ブロードバンドインターネットと3G携帯がもたらしたもの

河村 智洋 (CRN 外部研究員)

2005年1月14日掲載

要旨:

2003年後半から2004年にかけてインターネットのブロードバンド接続が家庭にも普及した。携帯電話も第3世代(3G)が主流となり、ほとんどの端末が100万画素以上のカメラ、高速データ通信機能を搭載するようになった。本稿では、大人世代にとってはメディア環境の急速な変化と感じられるが、子ども達にとっては初めから存在する環境にすぎない点に注目し、子ども達はパソコンや携帯電話などのメディアの発展の歴史とは関係なく、リアルやバーチャルに対して新しい感覚を持ち、これまでとは違ったコミュニケーションを始めていると考え、具体的な事例をもとに検討を試みている。

◆はじめに

2003年後半から2004年にかけてインターネットのブロードバンド接続が家庭にも普及した。携帯電話も第3世代(3G)が主流となり、ほとんどの端末が100万画素以上のカメラ、高速データ通信機能を搭載するようになった。

 

本稿では、大人世代にとってはメディア環境の急速な変化と感じられるが、子ども達にとっては初めから存在する環境にすぎない点に注目し、子ども達はパソコンや携帯電話などのメディアの発展の歴史とは関係なく、リアルやバーチャルに対して新しい感覚を持ち、これまでとは違ったコミュニケーションを始めていると考え、具体的な事例をもとに検討を試みている。

 

これまでとは違う、つまり従来の延長線上では考えられない新しいコミュニケーション形態、さらにはこれまでの常識とは異なる新しい常識ができつつあるような変化の原動力は、ブロードバンドインターネットと3G携帯の一般化にあると考えている。とりわけインターネットも携帯電話も「自分専用」という点が決定的な変化をもたらしているといえよう。インターネットというものが個人のものになったからこそ、ブログ(blog) *1やソーシャルネットワークサービス(SNS) *2のような新しいシステムが出てきたと考えている。

いつでもどこでも自分を中心に人とつながっていられるという環境の変化が、これまでの「多くの人に向けて発信するインターネット」から「個人をつないでいくインターネット」へと大きな変化をもたらしたのではないだろうか。そして、そのような変化が、いまの子ども世代にとっては話題にもならないくらい当たり前のこと、いわば常識化しているのだ。

◆子ども達にとってのミライ ~未来体験ワークショップの経験~

2004年夏、小学6年生を対象に「未来体験ワークショップ」*3を行った。子ども達にメディアを使って未来を体験してもらいたいという趣旨で企画したが、準備を進めていくうちに、私は、いまの大学生とも感覚がずれていることに気付いた。我々の世代(30代)にとって未来とは、夢のある大きなものだった。とくに未来と技術の発達は切っても切れないもの、技術の発達=未来という図式であった。しかし、今の大学生が持つ未来感は、もっと身近な現実的なもののようだった。一番驚いたことは、彼らがカタカナで「ミライ」と表現することを好むことを知ったときである。このワークショップでは、携帯電話や今あるツールを使って大学生にミライを表現してもらい、それをもっと若い世代である小学生が体験するというスタイルをとった。

ワークショップの中で一番盛り上がったのは、カメラ付き携帯テレビ電話を使った「パラレル鬼ごっこ」と呼んだゲームである。テレビ電話の多地点通信を使い、鬼や逃げている人の見たライブ映像が、みんなで共有されるという状況で鬼ごっこをした。ゲームが進むにつれ、子ども達のほうからルールを変えていったり、階段を3階に登りながら1階に向かっているように見せるように映すなど、子どもなりの工夫も見られた。どうやらバーチャルの先は真実ばかりではないというインターネットの感覚を子ども達は自然と体験したようだ。


◆3G携帯電話の利用実態調査にみる子どものインターネット感

今の子ども達は、携帯電話やパソコンで、メールやチャットをどのように使ってコミュニケーションしているのだろうか。中高生の女子3人組に3G携帯電話を貸し出し、数週間自由に使ってもらい、その間にやりとりされたメールや撮影された写真・動画を収集する調査研究を2004年に始めた。この調査から、今まで我々が考えていたものとはずいぶん違ったことを子ども達はしていることがわかった。

例えばメールは、相手がどんな状況にいるのかわからないので、迷惑をかけないようにFAXのような使い方で使うものだが、子ども達の間では返事をすぐに出すことが当たり前になっている。文章自体は非常に短く、タイトル(件名)がつけられたものはほとんどなく、短時間の間にかなりの数のやりとりが続く。つまり携帯電話のメールはチャット感覚で使われているのだ。だから、「これから塾に行くので何時から何時まではメールができない」といったメールが送られている。

このようなメールの使い方は、パソコンのメールから始めた世代にはわからない感覚といえよう。いっぽうで、インターネットがこのような新しい使い方をされ始めていることは事実である。いまの子ども世代では、インターネットに携帯電話から入ることが多く、実際に触れる時間も回数も多いので、このような使い方がスタンダードになりつつある傾向が見られる。このような現象はメールだけでなく、インターネットそのものの使い方、さらにはインターネット感覚やライフスタイルの中でのインターネットの位置付けにまで影響を与え始めているのだ。


◆携帯電話の役割を再考する

インターネットを介したコミュニケーションに、パソコンからしか利用できなかった時代と、いまのように携帯電話からも利用できる状況とでは大きく何かが違ってくる。ブログ(blog)やソーシャルネットワークサービス(SNS)は、人との繋がりがベースであるが、そのそれぞれの人が情報に実際に出会うのは、実在する街中であることが多い。しかし、その場からパソコンのあるところまで移動していると情報の鮮度が落ちてしまう。その点、blogやSNSは、その場で携帯電話のメール機能を使ってコメントや写真による情報をその場から書きこむことができるよう、情報発信部分がモバイルになっている。また、それを見ている自分というのも家という特殊な環境ではなく、自分自身が街の中で自由に動いているときに、他の人のリアリティと重ね合わせられるようになった。この点は、「たまごっち」のころ、モバイルパソコンに衝撃を受けたときのような感動がある。当時の女子高生が作っていた街の中の生きた情報ネットワークシステムをSNSと携帯電話というツールを使って、誰でも自然に実現できるようになったのだ。街の中に分散して存在する人としての繋がりが携帯電話を使ってリアルタイムでやりとりできることが、非常に意味があるのではないだろうか。現在、CRN「子どもとメディア研究室」が運営するサイト「ティーンズ・ネット」*4でも携帯電話用のblogを立ち上げ、その利用について観察していこうとしている。


◆新しいコミュニケーションの形態

いっぽうで、常に繋がっていることが当たり前の状態にあると、少しの間、ほんの2,3時間のことであるが連絡できなくなると非常に疎外感を感じる場合がある。5年まえはそうではなかったことを考えると、小さな事象ではあるが、新しい常識が形成されつつあることが感じられる。例えば、非連続のストレスを回避するために、子ども達が本能的にこのような携帯電話の使い方によるコミュニケーションを始めたという解釈が成り立たないだろうか。ソーシャルネットワークサービス(SNS)は、ストレスがこないようにする入り口としての機能をしていると考えられるかもしれない。

ポケベルのコミュニケーションが出てきたときのことを考えてみると、ポケベルで、朝の「おはよう」から「おやすみ」まで街中でやりとりしているのは、離れている相手に対して自分の状況を伝えていたのではないだろうか。当時の女子中高生がやっていたポケベルやプリクラのコミュニケーションは、今のインターネットを使ったコミュニケーションの原点といえるだろう。

このように、子ども達のメール利用、ブログ(blog)、SNSを見ていると、これらの新しいコミュニケーションの形態は、非常にインターネット的だといえよう。最近のインターネットを見ていると、マスコミ的な大きなサイトもあるが、自身が実際によく使うのは一対一、一対少人数で行われるメールや、SNS、blogなどである。多くの人を相手に何かをやろうというよりは、"どうせただで簡単にできるのだから大げさなことは考えずに自分達の友達と日常的にやろうよ"、と少し内向きに見えるような少人数のコミュニケーションがベースとなり、それがコロニーをつくり、そのコロニー同士が繋がっていくような新しいコミュニケーションの形態が生まれている。それは、子ども達のインターネット利用を見ていても感じることである。「内向き」とはいっても、自立型、独立しているとも捉えられる。それぞれの関係性、つながりによってインターネットの本質も変わってきたといえよう。SNSを使っていると、そこに参加している人が今何をやっているのかがなんとなくわかる。そういう複数のリアリティの連続的なつながりが重視されてきているのではないだろうか。

少し前までは、インターネットを使った情報収集手段として優れていたのは、例えば「2ちゃんねる」のような掲示板である。匿名の人達が大勢集まり、書きこんでいる中に重要な情報が含まれている。しかし、あまりにも膨大な情報がそこにはあり、その中に本当に重要な少しの情報が隠れてしまっているので、その情報にたどり着くためには時間的にも労力的にも大変な点が問題であった。しかし、blogやSNSは人と人との関係を中心に作られるものなので、自分を中心として、信頼関係を持った人達との間のコミュニケーションをもとに情報にアクセスできる道筋ができる。だから、自分の関心のあることにたどりつきやすく、また、その関心ごとに対して語りあっている相手を通し、その人の友人という別のコロニーともつながることができるので、より情報を多角的な視点から深めていくことができるのだ。

SNSの大衆化により、非常に大きな変化が起こっていると感じる。例えば、噴火や大きな地震の情報はSNSからすぐに入ってくる。何らかの確認作業を要するインターネットのニュースよりも早い。匿名の掲示板にもそのような情報は早く入ってくるが信頼性に欠ける。だから、人のネットワークを中心にしているSNSは、非常にすぐれた情報共有システムでもある。災害や事件だけでなく、Aという知人がケガをしたという情報も瞬時に入ってくるために、SNSを介したやりとりを通して相手の状態も自然とわかってくる。おそらくバーチャル空間とリアルが非日常も日常も関係なく常にやりとりしているからこそ繋がっていけるのだろう。

このようなシステム(仕組み)を使っているのは特別な人たちではない。日常的に多くの人が使っていて、子どもも同様である。彼らにとってインターネットはあくまでも道具としての位置付けであり、その中から自分に合ったシステムを選んでいっているのである。今までのように、インターネットを使って世界に発信するという大それたものではなく、すごく日常的で、あたりまえのことで、普通のこと、というところまできているのが現状であろう。

今後、このような新しい常識・感覚が、どのように変わっていくのか。そして、その新しいライフスタイルの中で、メディアがどのような役割を果たしていくのか。2004年度後期の中心研究課題として取り組んでいきたいと考えている。

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*1
2003年頃から急速に普及したブログ(blog:Weblogの略)は、簡単に言えば個人の日記サイト。もともと日本では独自の日記サイト文化が存在していたが、ブログ自体は海外から来たシステムである。特に2003年のイラク戦争時にジャーナリストが利用したことから急速に普及した。トラックバックと呼ばれるリンクによって同じような趣向のページがリンクし合ったり、不特定多数の人からの閲覧、コメントをもらったりといったコミュニティ機能も持っている。
*2
ソーシャルネットワーク、つまり人と人とのつながりを利用したソーシャルネットワークサービス(SNS)は、2003年頃相次いで誕生し、検索エンジン大手のGoogle社が「Orkut」というソーシャルネットワーキングサイトを開設したことで話題になった。(参考:IT用語辞典e-words http://e-words.jp/
*3
「未来体験ショップ」の当日の報告書がこちらから閲覧できる。
*4
ティーンズ・ネット

【参考資料】
1) 「子どもとメディア研究室」
2)河村智洋「新時代の子どもたちとの接触~小中学生へのインタビューとワークショップを通しての考察~」チャイルド・リサーチ・ネット、2004年4月
3)川上真哉「子どもによるWEB活用事例調査」チャイルド・リサーチ・ネット、2004年11月

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