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新型コロナワクチン体験記(1)

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新型コロナワクチンの効果やアナフィラキシーなどの副作用について、期待と不安が入り混じった気持ちでおられる方が多いと思います。

今回は、新型コロナワクチン接種の体験談とともに、最近の情報をお届けします。

まず体験談から。私はすでに大学での執務を定年で終え、現在はこのCRNの所長をしながら、小児科医として主に発達障害をもつ子どもの診療を続けています。本ブログでご紹介しているお子さんについてのエピソードは、そうした私の診療経験に基づくものが大部分です。

というわけで、まだ私も一応現役の医師ということで、診療所のある地域の医師会から新型コロナワクチン接種の連絡があり、先日2回の接種を終えました。

日本で行われているほとんどの予防接種は皮下注射ですが、コロナワクチンは筋肉注射であるのはご存知の通りです。直角に深く刺すので痛そうだと、ご心配の方が多いと思いますが、私は接種前から痛くないだろうと予想していました。

なぜなら、私たちの痛みを感じる神経繊維は、皮膚に集中して分布していることを知っていたからです。筋肉の中には痛みを感じる神経繊維は少なく、筋肉の伸び縮みや圧迫を感じる神経が多いのです。皮下注射をしたご経験のある方はご存知だと思いますが、注射針が皮膚を刺す時のピリッとした時の痛みに加えて、薬液が注入されるときにもかなり痛くなります。これは、薬液が皮下組織の中にある、たくさんの痛覚繊維を刺激するためです。筋肉の中で痛みの神経繊維があるのは、筋肉を包む筋膜ですので、筋肉注射では皮膚を刺す時の痛みと筋膜を注射針が突き抜けるときに(理論的には)痛みを感じるのですが、薬液を注入する時には周りに痛みの神経繊維がありませんから、ちょっとした圧迫感だけで痛みは少ない(はず)なのです。

鍼灸(ハリ)治療を受けたことがある人は、この説明に納得されると思います。ハリ治療では細い針を(多くの場合)筋肉の中に、ときには数センチメートルの深さまで刺入するのですが、痛みはほとんどありません。

もう一つ、予防接種は皮下注射が原則であると思っておられる方にお伝えしたいことがあります。少なくともアメリカでは、予防接種は(赤ちゃんや子どもであっても)原則的に筋肉注射です。私の子どもは、私がアメリカ留学中に乳児だったのですが、3種混合ワクチンを大腿部に筋肉注射されました。大腿部には大きな筋肉があるので、安全な場所なのです。ではなぜ日本では皮下注射なのでしょうか。日本のワクチンの説明書きを読むと、「通常、皮下に注射する」と書いてあるだけで、必ずしも皮下注射でなくてはいけないわけではないのです。でも、日本で多くの小児科医が筋肉注射ではなく、皮下注射を選択するのは、昔、解熱剤などを筋肉注射することが頻繁に行われており、繰り返して大量の薬液を筋肉注射することで、筋肉が縮んでしまう「大腿四頭筋短縮症」という障害が、医療過誤により多数発生したことが関連していると思います。私も研修医の頃、子どもの大腿四頭筋短縮症の検診団に加わって、診断のお手伝いをしたことがあります。

さて前置きはこのくらいにして、私の場合、筋肉注射をしてどうだったのでしょうか。答えは「ほとんど何も感じなかった」です! 腕をまくり上げて肩の下の筋肉(上腕三頭筋)に注射されましたが、看護師さんの腕が良かったのか、針が刺さったときにも、またワクチン液を注入するときにも、何も感じませんでした。2回目も同じでした。

2回目に多いとされる発熱や筋肉痛などの副反応もなく、2回目接種の翌日に注射された部位が少し痛いだけでした。もちろん痛みや副反応には個人差があり、私が鈍感であっただけかもしれませんが(笑)。

変異株への効果
以前にも書きましたが、現在、新規感染者数が激減しており、6月にはマスクなしの以前の生活に戻れると言われているイスラエルやイギリスで流行している新型コロナウイルスは、いわゆる英国型変異ウイルスですので、ワクチンの効果があるのは明らかです。そのうえ、最近日本での研究で、ファイザー社のワクチンを2回接種した人の血液中には、イギリス型変異ウイルスだけでなく、ブラジル型、南アフリカ型、そして現在恐れられているインド型変異ウイルスへの中和抗体価が、98%の人で十分量あることがわかったのです。

同じく変異型ウイルスが流行しているアメリカでは、CDC(米国疾病予防管理センター)が、2回ワクチン接種を終えている人は、原則としてマスク着用は必要ないという指針を出しているほどです。アメリカの大統領も、マスクなしで演説をするようになりました。

日本ではワクチン接種のスケジュールが遅れていると言われていますが、ワクチンは十分量確保できていますので、焦らず待っていただければ確実に国民全体に行き渡ります。集団接種(義務接種)を1990年代に辞めてしまったために接種体制が不十分だといういわば歴史のツケでもあるのですが、マイナス80度に冷凍する必要のないワクチン(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)が認可されれば、インフルエンザワクチンのように地域の診療所でも接種できるようになり、短期間で国民全体の接種が前進すると思います。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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