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新型コロナワクチン体験記(2) アナフィラキシーはそんなに怖くない?

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前回のコロナワクチン体験記で、筋肉注射は痛くないことを書きました。

また副反応も(私の場合は)ほとんどありませんでした。ただ、それは私がすでに高齢者であるためかもしれません。私の若い知人は、接種後に発熱と頭痛を経験したと言っていました。統計的にも特に2回目は、約半数で発熱が見られたという報告があります注1。 こうした副反応は、特に治療を要するほどではありません。せいぜい解熱鎮痛薬の服用くらいです。

しかし多くの皆さんが心配しているのは、筋肉注射や発熱などの軽い副反応ではなく、強いアレルギー反応であるアナフィラキシーだと思います。

今回は、この名前からして恐ろしげなアナフィラキシーは、「そばに医師や看護師がいて、必要な治療薬が準備されていれば」そんなに怖くないことを書こうと思います。 「そばに医師や看護師がいて治療薬が揃っていれば」というところが今回のお話のポイントです。

さてワクチン接種が先行しているアメリカやイギリスでは、ファイザー社製ないしはモデルナ社製のワクチン接種後のアレルギー性の副反応を「軽症・中等症アレルギー反応」とその重症型である「アナフィラキシー」に分けています。両者ともワクチン接種後、数分から30分くらいの間に起こる症状の種類と程度による分類です。

「軽度・中等症アレルギー反応」の症状は、①唇、顔、目の腫れ、②じんましん、③口の中のチクチク感、④腹痛などです。最後の腹痛は腸などの平滑筋の収縮や腸の浮腫による症状です。

これに対して「アナフィラキシー」は、①呼吸困難、②舌の腫れ、③喉の腫れ、④発声困難、しわがれ声(声帯のむくみによる)、⑤喘鳴、しつこい咳、⑥めまい、失神などです。

ところがどうも、日本のマスコミで発表されている「アナフィラキシー」には、この軽度・中等度アレルギー反応も含まれている報道があるように思います。

「軽度・中等症アレルギー反応」も「アナフィラキシー」も以下のことが体内で起こっているための症状です。

アレルゲン(アレルギーを起こす物質:食物、薬品、ハチの毒素など)が血管の壁の細胞(内皮細胞)を刺激して急激に免疫抗体の一種(IgE)が血管内に放出され、それが全身の平滑筋の収縮(腸の平滑筋収縮→腹痛、気管・気管支の収縮→呼吸困難)、血管拡張(低血圧、失神)、そして血管周囲の浮腫(唇や顔の腫れ、じんましん)などを引き起こすことで症状が現れます。

全身血管の拡張が起こるとそれは相対的な循環血液量の減少と同じことになり、低血圧や時にはショック(循環虚脱)が起こります(めまい、意識消失)。

こう書いてくると、恐ろしいことが起こっているようですが、「医師や看護師、そして治療薬」があれば、そんなに心配しなくてもいいのです。それは、こうした体の中の反応を一瞬で改善する薬があるからです。アドレナリンという強力な血管収縮作用のある薬(希釈したアドレナリン液=ボスミン)を投与します。軽症や中等症では経過観察をし、重症のアレルギー反応の症状(アナフィラキシー)が現れたら、ボスミンを筋肉注射すれば、こうした症状の大部分は急激に改善します。超重症で反応が良くないようであれば、アドレナリンやステロイド薬の点滴静注でほとんど治ります。医学の教科書を見ると、こうした治療が時を移さず行われれば予後は良い、と書かれているのです。こうした治療は、臨床医であれば誰でもできる基本的な医療行為です。

確かに食物アレルギーやハチ刺されによるアナフィラキシーで、命に関わることはありますが、その多くは症状が出た場所が医療機関から遠く、すぐに治療が行われなかった場合です。そうした事故を防ぐために、食物アレルギーのある人や、作業中にハチに刺される可能性が高い人は、医師から処方してもらうボスミンを簡単に自己注射することのできる携帯の注射器キット(エピペン)を持っていればいいのです。これは、自分で対応(治療)できます。

新型コロナのワクチンの接種会場や、医療機関では、接種後15分程度その場にとどまることが求められます。私も接種後に約15分間、接種会場の隣の部屋で、何か症状が出ないか待機しました。

このように、アナフィラキシーは、それが起こった場所で即座に治療できる体制があれば、そんなに怖くないのです。

若い人の中には、自分は新型コロナウイルスにかかっても、症状が軽いだろうから、ワクチン接種はやめようかなと思っている方もいると思います。私が診療所で診ているお子さんの40代前半の母親が先日新型コロナウイルスに感染しました。発熱はなく、強い咳が続いただけで回復しましたが、現在全く味と匂いがわからない状態が続いています。若いからといって、決して新型コロナウイルス感染症を侮ってはいけないと思います。




筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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