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所長ブログ

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新型コロナワクチン体験記(3) コロナワクチンが私たちの生活に与える影響

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これまで2回にわたって、新型コロナウイルスワクチン接種の個人的な体験記に寄せて、接種時の痛みや副反応について書いてきました。今回は、個人的感想ではなく、一臨床医として、コロナワクチンがこれからの私たちの生活に与える影響などについて考えてみたいと思います。

新型コロナウイルスパンデミックはどうなるのか
まだ誰も確実なことは言えませんが、ワクチン接種を先行的に実施したイスラエルやイギリス、そして世界で最もパンデミックが酷かったアメリカで、新規感染者が激減と言って良いほど減っていること1)、またほとんどのワクチン接種者の血中の中和抗体価が感染後6ヶ月以上にわたり高い値を保っているという報告2)などから、世界中でワクチンが普及すれば、人類全体で集団免疫に近い状態に到達できる可能性が出てきたと言って過言ではないと思います。しかし、天然痘のようにウイルスが地球上から消滅したり、ポリオのように散発的な小流行があるのみだったりという状態にまでは到達できないと思われます。アメリカの感染症のリーダーで、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士も、将来も多分、季節的に世界各地で小流行を起こしてゆくのではないかと予測しています。またウイルスが残存すれば、感染性の強い変異型ウイルスが出てくる可能性が高く、ワクチンも2年に一度くらいの頻度で接種をする必要があるのではないか、というのがファウチ博士の読みです。

世界中で小流行が続く大きな理由は、ワクチン接種を希望しない人がどの国でも一定の割合で存在し、ウイルスはそうした人に感染を起こして生き延びてゆくからです。アメリカでは、希望しない人は国民の3割以上になる可能性があり、ファウチ博士は、(アメリカでは)国として集団免疫の獲得は難しいかもしれないと、やや悲観的です3)

ワクチン接種者は、ほぼ従来のマスクなし生活に戻れる
すでにアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、ワクチンの接種が終了した人(ファイザー社製やモデルナ社製ワクチンでは2回、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製ワクチンでは1回)は、マスクなしで生活して構わないという声明を出しています。また集団免疫が確立すれば、ワクチン未接種の人も新型コロナウイルスに感染する可能性は低くなります。しかしワクチン未接種者は、ワクチン接種者のように、ウイルスに対して抵抗性ができるわけではなく、新型コロナウイルスが(小)流行すれば、いつでも感染する可能性があります。

日本国民の大多数が小児期に接種を受けている麻疹ですが、様々な理由で麻疹の予防接種をしなくても、接種を終えた人に周りを囲まれていれば、ウイルスに接する可能性がなくなり、感染しないで済みます。新型コロナウイルスのワクチンも同様に、国民の多く(60~70%)が接種を終えれば、未接種者も感染から間接的に守られるのです。

ですから、ワクチン接種を辞退しても、しばらくすれば新型コロナウイルスに感染する可能性が小さくなります。副反応が不安だし、ワクチンを受けないで社会に集団免疫が成立するのを待つという選択もあるのですが、そういう人は今後しばらくの間(少なくとも数年間)は、海外渡航はできないという不便を我慢しなくてはならないでしょう。WHOも海外渡航の許可証に当たる国際的なワクチンパスポートを作ろうと考えているようですし、一部の国・地域では、実際に運用開始をしているようです。

ワクチン未接種者は海外渡航できないなんて、不公平だと思われるかもしれませんが、新型コロナウイルスだけでなく、ワクチン接種を済ませないと海外渡航できない先例があります。例えば、黄熱病ワクチンを接種しないと、いまだに黄熱病が流行っているアフリカや一部の南米の国には渡航できません。私も以前、JICAの仕事でアフリカのガーナに何回も渡航しましたが、ガーナの入国の際に黄熱病ワクチン接種の証明書が必要だったので、かなり痛い黄熱病ワクチンの接種を受けました。

母乳中に中和抗体が出る
イスラエルで行われた、授乳中の母親へのワクチン接種の調査によって、母乳中に十分な量のコロナウイルスに対する抗体(IgA)が存在していることがわかりました。コロナワクチンの12歳以下の子どもへの接種はまだ行われていませんが、授乳中の赤ちゃんのいる母親がワクチンを接種することによって、自分自身だけでなく、子どもの新型コロナウイルス感染の予防につながる可能性があることが示されました4)

麻疹や風疹のワクチンのように、弱毒化した、生きているウイルスを接種する(そして軽く感染させる)のではなく、増殖の可能性のないmRNAを接種する新型コロナワクチンは、安全性が確認できれば、妊婦さんについても早晩接種が始まるのではないか、と私は予想しています。

日本では、オリンピックとの関連や、まだ続く第4波の流行のこと、そして遅れているワクチン接種などによって、まだ将来への明るい見通しを語る人はあまりいませんが、先行的にワクチン接種が始まったイギリスやイスラエルの国民は、すでに明るい将来への見通しをもち始めているようです。早く日本も、そうした国々に追いつきたいものです。


  • 1) Daily New Cases in the United States. Worldometer.
    https://www.worldometers.info/coronavirus/country/us/#graph-cases-daily
  • 2) Doria-Rose N, Suthar MS, Makowski M, O'Connell S, McDermott AB, Flach B, Ledgerwood JE, Mascola JR, Graham BS, Lin BC, et al.; mRNA-1273 Study Group. Antibody persistence through 6 months after the second dose of mRNA-1273 vaccine for Covid-19. N Engl J Med. 2021. doi:10.1056/NEJMc2103916.
    2)の文献に誤りがありましたので、正しい情報に差し替えをいたしました。 読者の皆さまにお詫び申し上げるとともに、ここに訂正いたします。
  • 3)Public Trust and Willingness to Vaccinate Against COVID-19 in the US From October 14, 2020, to March 29, 2021. Michael Daly, Andrew Jones, Eric Robinson. JAMA. Published online May 24, 2021.doi:10.1001/jama.2021.8246
  • 4) SARS-CoV-2-Specific Antibodies in Breast Milk After COVID-19 Vaccination of Breastfeeding Women, Sivan Haia Perl, et al. JAMA. 2021;325(19):2013-2014. doi:10.1001/jama.2021.5782


筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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