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なぜ大学生だけが

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新型コロナワクチンの接種が急ピッチで進む中、ほとんどの人が、新型コロナウイルス・パンデミックからいつになったら解放されるのだろうかという懸念と希望がないまぜになった気持ちで過ごしていると思います。私の知人や友人の中でも、新型コロナウイルスに対する懸念には大きな温度差があることを感じています。

医師として、新型コロナウイルス感染症に関する多くの研究成果、特にワクチンの効果についての知見に触れることが多いためか、私は比較的楽観的に考えています。ワクチンの効果については、2回接種後であれば感染率がとても低くなること(ワクチンを打っても感染してしまうブレークスルー感染率 0.01%)、またアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の最近の報告では、2021年5月のアメリカでの新型コロナ感染による死亡者の99%が、ワクチン接種未完了者(未接種あるいは1回のみの接種)であったことなどから、私は効果に大きな安心感さえ覚えています。この効果は、他の変異種に比べてインドで特定されたデルタ株では少し下がること、またワクチン効果の持続期間については未定であることなど、まだ懸案は多いのですが、コロナウイルスに対する医学的対応策はほぼ満足できるものだとさえ感じています。ワクチン関連で私が懸念するのは、全く根も葉もないワクチンに関する様々なデマがSNSなどを通じて拡散されていることです。いわく「ワクチンを打つと不妊になる」「遺伝子に異常がでる」などです。私に理解できないのは、こうしたデマを飛ばす人の動機です。本当にその内容を信じているのか、それともいわゆる「愉快犯」として注目されることに快楽を感じているのか、理解に苦しみます。

ワクチン接種が進んでいるイスラエルやイギリスでの感染者数の増加を懸念する声もありますが、そのイギリスでさえ接種完了者(2回接種)はまだ国民の49%(6月30日現在)であり、ほぼ半分の国民は感染の危険性があるという判断ができます。国民の約半数の人が、まだ感染する可能性をもっているために感染が拡大しているのであって、ワクチンに効果がないという解釈はできないのです。

新型コロナウイルス感染への懸念の温度差は、その人の年齢や居住地域、そして現在ではワクチン接種状況によって大きく異なるのは理解できますが、以下に述べる私が聞いた大学の状況には、大きな疑問を感じます。

それは大学ごとの新型コロナウイルス感染に対する対応の極端な温度差です。 ある県の国立大学では、大学外での集まりで学生間にクラスターが発生し数人(一桁)の学生が感染したことを以って、大学構内への学生の立ち入りを制限しています。さらに、感染者数が多い地域(例えば東京)からの訪問者も謝絶しているだけでなく、大学教職員がこれらの地域を訪問することさえ禁止するという厳しい制限を設けているのです。やむをえない用事でこうした地域に行った場合は、帰宅後14日間自宅待機、という国外からの帰国者と同じ義務を課しているというのです。また別の大学では、教職員は県境を越えてはいけないと要請されているそうです。学生に感染者が出ると、担当教員が学内の会議で「謝罪」させられることが、こうした後ろ向きで保身的な自縛につながってきているのではないかと関係者が語っていました。この2つの大学は、新型コロナウイルス感染症の発生が少ない地域にあり、そのために感染に対して敏感であるということもできますが、在学生はすでに2年目になるオンライン授業で我慢しなければなりません。こうした我慢を強いられている学生は、首都圏などの感染者の多い地域よりキャンパス内で感染を広げるリスクも少なく、統計的には感染のリスクが少ないはずです。

翻って首都圏の大学では、学生の感染者数も多く、キャンパス内で感染する危険性は、上記の大学より高いはずです。しかし私が調べた限りでは、首都圏の大学の多くでは、対面授業がオンライン授業と並行して行われています。ある有名私立大学では、大学のウェブサイトに、これまでの学生の新型コロナウイルス感染者数が300名を超えていることが広報されていますが、感染対策の努力をしながら対面授業を行っています。

大学生より感染者数が少ないとはいえ、全国のほとんどの小中学校では、最新の感染症対策をしながら対面授業が行われており、地域差が少ないのとは対照的です。

つまりこういうことです。感染者数が少ない地域の大学ではキャンパス内への立ち入りさえ禁止されている一方、感染者数の多い大学で対面授業が行われているのです。統計的にはより安全なのに対面授業の機会が奪われている大学生は、過剰な新型コロナウイルス感染症への対応の犠牲者と言えるのではないでしょうか。

どうして一部の大学生だけが、こうした不利益を甘受しなくてはならないのでしょうか?そんな大学生がかわいそうです。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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