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休園、休校は本当に必要か? エビデンスは語る

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新型コロナウイルスの感染増加によって、首都圏などで3回目の緊急事態宣言の発出が決定されました。大学を除く保育園、幼稚園、小中学校では、感染のクラスターの不安を抱えながら、子どもの保育、教育を止めないために、早期から開園、開校を続けてきました。

しかし、若年者にも感染が広がっている変異ウイルスへの懸念から、休園や休校の必要性について検討を始めている園や学校も多いと思います。

これを読んでいる皆さんは、なぜ休園や、休校を行うのかご存知でしょうか? 「え、何を言っているの。二次感染やクラスターの発生を予防するためでしょ」という答えが返ってくると思います。では休園、休校によって本当に二次感染やクラスター発生を減らすことができるのでしょうか。これに対しても、「まだわからないけれど、感染拡大につながる可能性のありそうなことは全てやめるべきだ」というご意見が返ってきそうです。

しかしよく調べれば、休園や休校が二次感染やクラスターを減らすことができるのかという疑問に対して、きちんとしたエビデンスがアメリカ小児科学会誌(Pediatrics)に発表されているのです*

それは、アメリカにおいて新型コロナウイルスの感染拡大が急速に進行していた2020年8月から10月末にかけて、ノースカロライナ州の11の学校区(生徒数90,000人強)において、感染防止策(マスク、ソーシャルディスタンス、手洗い、検温)を行いつつ対面教育を受けた児童生徒と教員の感染者の発生数と、その感染経路を詳しく検討した研究報告です。この研究が行われた動機は、感染防止策を行った対面授業の場での二次感染が、一般人口における二次感染率より高いのか調べたかったということです。もし、二次感染率が高いのであれば、学校閉鎖によって全体の感染率を下げる効果が期待できることになりますが、逆に高くなければ、休校しても新型コロナウイルス感染症の増加を抑える効果がないことがわかります。

地元のデューク大学などが企画した新型コロナウイルス感染を防止するプログラム(ABCプログラム)に参加した11の学校区では、オンライン授業だけでなく対面授業を行うオプションを選び、調査期間(9週間)を通じて対面授業を行いました。この11の学校区の児童生徒(小学生~高校生)・教員(両者合わせて90,000人強)を調査の対象としました。参加した学校には感染対策のコーディネーターが派遣され、教師や児童生徒にマスク、手洗い、ソーシャルディスタンス(6フィート/約180センチ)を厳守するよう指導が行われました。調査期間中に生徒や教員の感染が確認(無症状も含む)されると、精密な追跡調査が行われ、二次感染の有無も確認しています。

調査期間中に773人の児童生徒・教員がPCR検査を受けて地域での感染が確認されましたが、それらの感染者から学校内で他の人への二次感染につながったのは32人でした。また児童生徒から教師への感染は認められませんでした。 ここまで読むと、対面授業を受けていた児童生徒(と教師)が、かなり大勢感染したではないか、やはり休園・休校すべきだったと言いたくなります。しかしこの研究は、対面授業を行っていた学校の「通っていた児童生徒が何人新型コロナウイルスに感染したか」ではなく、「感染の場が学校であったかどうか(二次感染が学校内で起こったか)」を調査したものだということを忘れてはいけません。

ノースカロライナ州で一般人が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合、調査期間に当たる9週間では感染者1人あたり平均約1人よりやや多くの他人に二次感染させていることがわかっています。もしABCプロジェクトに参加した学校区の児童生徒と教員が、ノースカロライナ州の平均的な他人への二次感染率を示したのであるとすれば、学校内で900人位の二次感染者が発生した計算になります。ところが、厳密な追跡調査で明らかになった学校内での二次感染は32例だけだったのです。つまり感染防止策を講じれば、対面授業による二次感染は増加せず、新型コロナウイルスの感染拡大を招きはしないのです。

この研究結果の解釈についての意見は2つに分かれるでしょう。少ないとはいえ、学校内で二次感染が起こっているのだから、やはり休校にすべきだ、というのが多分日本では一番多い意見でしょう。しかしご紹介した論文の著者は、きちんとした感染対策を行って対面授業を行っていた方が、その地域の平均より二次感染率が低かった、だから開校した方が地域の感染対策としてはより良い選択なのではないか、という意見なのです。

学校責任者からすると、休校してでも自分の学校では感染者を一人たりとも出したくないというのが本音かもしれません。しかし児童生徒がオンラインで授業を受ける以外の時間を、それぞれの家庭での行動様式で行動するよりも、きちんと感染防止策について知識のある教師のもとで対面授業を受けた方が、その地域での二次感染を減らすことにつながる、というのがこの論文の著者の意見なのです。

社会の同調圧力が強い日本と、アメリカとを単純には比較できませんが、日本の教員や教育行政の担当者には是非知ってもらいたいエビデンスです。




筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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