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新型コロナワクチンについて(2)

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前回の本コーナーでの新型コロナウイルスワクチンの記事の続報です。
首都圏での緊急事態宣言は解除されたものの、地域によっては新規感染者数が過去最高を更新しているほか、変異ウイルスがじわじわと増加する中で、多くの方々が先行きに不安を抱いていることと思います。

この日本の状況と対照的なのが、アメリカやイギリスです。1日の新規感染者数は、本稿執筆時では、それぞれ50,000人、5,000人と日本よりずっと多いにもかかわらず、両国の多くの国民は、今年の夏頃までにはコロナから解放されるのではないかという期待に胸を膨らませているのです。国民性の違いかもしれませんが、私には次の2点が日本と違った見通しの背景にあると思います。

1つはワクチン接種のスピードです。アメリカでは新大統領が政約(100日間で1億人に接種)を素早く実行、多い日は1日に300万人に接種し、すでに国民の29.2%が1回目の接種を終えています。いち早く接種を開始した英国では44.9%、イスラエルでは60.0%、ですが日本ではいまだに0.7%です。自国内でワクチン製造ができないためと考えたくなりますが、国民100人あたりの接種回数の多い国、上位20か国の大半は、自国生産のない国です。例えば20位のインドネシアは4.27回、7位のハンガリーは29.53回、3位のチリは54.73回です(3月31日時点、ourworldindata.orgより)。感染者数の多い国がワクチンの優先順位が高いためかもしれませんが、日本の出遅れの感は否めません。

もう一つは、私の個人的な感想になりますが、国民のリーダーから発せられるメッセージの違いではないかと思います。アメリカや英国のリーダーは、国民に希望をもたせるような楽観的な見通しを語るようになってきています。根拠のない楽観論を語る政治家も以前にはいましたが、アメリカや英国のリーダーは根拠をもとに(やや)明るい未来を国民に告げていると思います。それに比べて、日本のリーダーたちからは、政治的責任を回避するためなのか、極めて慎重で楽観論を排するような発言が多いように思います。

しかし今回のブログの目的は上記について述べることではなく、最近のワクチンについての新情報です。そしてそれらは、上記の楽観論を後押しするものです。

既存のワクチンは変異株に対しても効果がありそう
コロナワクチンの確実な効果は、ワクチン接種を受けた人が、受けていない人より新型コロナウイルス感染症にかかりにくいことを実証することによって証明されます。真っ先に接種を受けた人もまだ半年しか経っていないので、確実な効果とその持続期間について実証されるのにはまだ時間がかかります。とはいえ、前回のブログでご紹介したニューヨークタイムズの記事にあるように、アメリカで真っ先にワクチン接種を受けた75,000人の中でコロナ感染がほとんど起きていないのは、ワクチンの効果を予想させるデータです。

ワクチンの効果を予測するもう1つの方法が、ワクチン接種後の血液中のウイルスに対する中和抗体を測定する方法です。これは試験管内の効果判定ですが、かなり確実に実際の予防効果を予測することができるのです。

この文章を書く3日前(3月19日)に、アメリカの権威ある医学雑誌(JAMA)に、速報として、ワクチン接種後の人の血液の中に、従来の新型コロナウイルスだけでなく、感染力が強いことがわかっている英国型の変異ウイルスを含んだ4種類の変異コロナウイルスを中和する抗体がどのくらいあるか測定した研究結果が発表されました。簡単に結論だけを言いますと、4種類の変異ウイルスに対してワクチン(mRNAワクチン)を接種した人の血液中には、4種類の変異ウイルスの中和抗体が感染を予防するに十分な濃度で検出されたのです。同時に行われたコロナウイルス感染後の患者の血液中からもほぼ同じくらいの高濃度の中和抗体が検出されています。

この結果を直ちに実際の感染予防効果(ないしは感染症状軽減化効果)と結びつけるのは時期尚早かもしれませんが、大きな期待がもてるデータだと思います。

妊婦さんへのワクチン接種は本人だけでなく生まれてくる子どもにも抗体を作る
最近もう一つ驚きの研究結果が速報として発表されました。ご存知のように、倫理的な理由と胎児への影響への懸念からワクチンの治験には妊産婦さんは含まれていません(付け加えると子どもも含まれていません)。日本でも妊産婦さんはワクチン接種の対象から外されています。

こうした中、アメリカでは自主的に申し出た妊産婦さんが、ワクチン接種を受けています。私は個人的にそうしたボランティアの妊産婦さんの勇気に感動を覚えていました。

3月7日付の速報(medRxiv)によると、131人のそうしたボランティアの母親の血液、さい帯血、そして母乳中の、新型コロナウイルスに対する特異的抗体(IgG, IgA, IgM)を測定しました。その結果、ワクチン接種をした妊産婦の血液中には、妊産婦以外の被接種者同様に抗体価が上昇していただけではなく、さい帯血や母乳中にも新型コロナウイルスに対する抗体が認められたのです。さい帯血は、新生児の血液と同じものですので、妊婦さんへのワクチンによる効果が、生まれてきた子どもにも及んでいたのです。

ワクチンによる胎児への影響など、この研究結果だけからはまだ結論が出せない点もありますが、妊産婦さんにも新型コロナウイルスへのワクチン接種を勧める根拠になりそうです。




筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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