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【イギリスの子育て・教育レポート】 第5回 学校に行かずに家で学ぶ「ホームエデュケーション」(前編・1日の過ごし方)

要旨:

イギリスでは、学校に行かずに家で学ぶ「ホームエデュケーション」が認められている。ホームエデュケーションとは、主に義務教育段階の子どもが学校に通わない代わりに、家庭で学習することを言う。今回はイギリスにおけるホームエデュケーションの現状や、この方法で勉強している子どもの1日の過ごし方を紹介する。以前は、ホームエデュケーションとは「家で保護者と教科書を使って学ぶ」ものだと思っていた。しかし、話を聞いた友人家族の場合は、1日中家で過ごす日はなく、外に出てホームエデュケーション仲間と一緒に学び合っている。仲間との交流が非常に活発なので、社会性の育ちという点でも問題なさそうなのが印象的だった。

Keywords: 橋村美穂子, イギリス, 小学生, ホームエデュケーション, ホームスクーリング, オルタナティブ教育

この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

日本では、幼稚園や保育園の年長さんが小学生のランドセルに憧れるように、「6歳になったら小学校に入学するのは当たり前のこと」という感覚ですよね。しかし、イギリスには「学校に通って勉強する」だけでなく、「学校に通わずに家庭で勉強する」という選択肢もあります。これは「ホームエデュケーション」や「ホームスクーリング」と呼ばれ、イギリスやアメリカで認められている教育方法の1つです。先日、ホームエデュケーションを実践している友人に話を聞くことができました。具体的なエピソードを交えながら、2回にわけてお届けします。

日本ではあまりなじみのない「ホームエデュケーション」。まずはその基礎知識として、①法的・歴史的背景、②指導方法、③選択した理由と実践者の数など、ホームエデュケーションの全体像をつかんだうえで友人の事例を見ていきます。

【基礎知識】①法的・歴史的背景~なぜ、学校に行かなくていいの?

イギリスには、日本のように子どもが6歳になったら学校に行かせなければならないという「就学義務」はありません。代わりに「教育義務」があります。英国教育法(1996年版第7条)には、「義務教育の年齢に達している子どもを持つ親は、その子どもにあったフルタイムの教育を(中略)学校へ定期的に行かせること、または、その他の方法で与える義務がある」とあります。この「その他」というところにホームエデュケーションが入ります。歴史的に王室や裕福な家庭においては子どもを学校に通わせずに家庭教師をつけることが一般的でした。それが現在にも影響を与えているようです (1)。法的に認められている方法なので、地方自治体がホームエデュケーションを始める際のガイドラインやFAQを作成してホームページ上に公開していたり、13~19歳向けにキャリア相談窓口などを設置したりするなどのサポートをしています (2)。

【基礎知識】②指導方法~いったい、どんなふうに勉強しているの?

友人に話を聞く前、「ホームエデュケーション」という言葉から想像していたのは、「教科書を使って保護者や家庭教師と1対1で勉強している姿」、「友だちとの交流が少なそうだからつまらないかも・・・?!」などネガティブなものでした。

しかし、それは少し偏ったイメージのようです。「ホームエデュケーション」には決まったやり方や正しいとされるやり方はなく、さまざまな形で実践されています。例えば、学校のテキストに近い教材を使う形、インターネットを通してe-ラーニングを行う形、何人かのホームエデュケーション仲間が集まって学ぶ形、また子どもの興味や関心にもとづいて子ども主導で行う形などさまざまです。いずれの場合もイギリスの学習指導要領にあたる「ナショナル・カリキュラム」に沿う必要はありません。それで子どもはちゃんと必要なことを学べるの?と私は思ってしまいましたが、「ナショナル・カリキュラム」に沿わなくてよい私立学校に通わせているのと同じ感覚のようです。

ホームエデュケーションでは、国のカリキュラムには沿う必要性はないけれど、学校に通っている子どもと同様、義務教育が終了する16歳にGCSE(中等教育終了一般資格試験)を受験する必要があります。これは生涯有効な資格であり、大学に入学するためにも必要な試験です。あくまで私見ですが、この試験の存在により、学び方が違っても学ぶ内容に重なりが多くなるのではないかと思います。

ホームエデュケーションにおける「先生」は多くの場合、保護者です。もちろん、保護者に先生の資格は必要ありません。以前は学校の先生だった保護者が自分の子どもにホームエデュケーションを行うことも少なくないようです。音楽や美術など特別な科目には家庭教師などをつけることもあります。

【基礎知識】③選択理由と実践者の数~なぜ、ホームエデュケーションを選んだの?

イギリスの公共放送局BBCの記事によると、ホームエデュケーションを選択する理由として最も多いのは「人生観や教育観、ライフスタイルの相違」。次いで「学校への不満や意見の相違」です。その他、「文化・宗教的な相違」「いじめ」「特別支援や医療的なサポートの必要性」などが続きます (3)。

さて、このホームエデュケーション、どれくらいの子どもが受けていると思いますか?
イギリスでは、義務教育対象年齢(5~16歳)のおよそ3.7万~8万人ほどの子ども(いずれもこの年齢の1%以下)が受けており、増えつつあると言われています (3, 4)。この数に幅があるのは、実は国や地方自治体はホームエデュケーションを行っている子どもの数を正確に把握していないからです。学校を辞めてホームエデュケーションに切り替える場合は地方自治体への手続きが必要ですが、最初から学校に行かず、ホームエデュケーションを始める場合、手続きは不要なのです。

調べ学習や多様な体験を通して、仲間と学び合っている

基礎知識はこれくらいにして、友人家族が実際にどのようにホームエデュケーションを行っているか見ていきましょう。

友人に話を聞いてもっとも印象的だったのが「家族の数だけ、ホームエデュケーションの形がある」という言葉。保護者の教育への考え方や子どもの状況、興味関心によって、ホームエデュケーションの形は千差万別なのです。ここでご紹介する友人家族の例は、あくまで一例であることをあらかじめご承知おきください。

今回ご紹介するのは、9歳の女の子(日本の学齢では小学4年生)Aさんの例。下に5歳と1歳の妹がいます。お父さんは日本人、お母さんはイギリス人です。平日はホームエデュケーションで勉強していますが、土曜日は日本人補習授業校に通っています。ホームエデュケーションを選択した理由は、学校制度に反対の立場だからというわけではありません。お母さん自身が子どもの頃、数年間、海外で暮らしたことがあり、その際、言葉や文化などいろいろなことを学校以外で学ぶことが多かったという経験から、子どもにも生活や遊びなどのいろいろな経験から学んでほしいと思っているからだそうです。

Aさんはどんな1日を過ごしているのでしょう?表1を見るとわかるように、「教科書を使って勉強する」活動はほとんどありません。基本的に教科書や参考書は使わずに、Aさんの興味・関心をもとにしながら、体験する活動の中で学んでいます。例えば農場で野菜を収穫してその重さを計って計算したり、以前から興味のあった「世界の家の作り方」を調べて1冊のノートにまとめたりしています。さらに、森の中の「学習スペース」では、自分たちがやってみたいことを考え、役割を分担したり、力を合わせて物を作ったりしながら学び合っています。もちろん、体験などの活動以外にも、算数の計算や英語のライティングなどを家ですることもありますが、ホームエデュケーション仲間との学び合いが多いことがAさんのホームエデュケーションの特徴です。

次に、表2にある「1週間の過ごし方」を見てください。体育に代わる活動や、さらにバラエティに富んだ活動をしていることがわかると思います。イギリスにはホームエデュケーション仲間で作る団体やグループがたくさんあり、お互いの学びの質を高めているようです。また、グループの集まりには保護者も同行することが多いので、家族間の交流も活発で、自分の保護者以外の大人と接する機会もたくさんあります。学校に行かないと、友だちや家族以外の大人とのコミュニケーションの機会が少なそうで大丈夫なのかなと思っていましたが、Aさんの学び方を見る限り、その心配はなさそうでした。

月に1回は60~70人ほどの大きなグループの集まりがあり、ここでは大人数ならではの活動をするそうです。いろいろな人が自分の得意な楽器やダンスを披露したり、有名な絵本の著者を呼んで講演したりする活動もあるとのことです。

次回は、ホームエデュケーションの長所や短所、イギリスの社会はホームエデュケーションをどうとらえているかなどをお届けします。お楽しみに!

表1 ある1日の過ごし方

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表2 普段の1週間のスケジュール

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写真1・2 「世界の家の作り方」をテーマに調べ学習をして作ったノート

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写真1は砂漠の中の家、写真2はイギリスの家について調べたもの。このほか、日本の「地鎮祭」など他にはない特徴についても調べていた。



<参考文献>
筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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