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子どもたちはお金の管理を学んでいるか?

要旨:

カナダを初め多くの先進工業国において、家族の抱える負債の多くは手におえないような状態になってきており、次の世代は生活水準が下がり、より多くの苦難を抱えてしまう恐れがある。「負債は、足かせになることがある」(1)。もし多額の負債により、信用格付けが損なわれてしまったり、引き下げられてしまったりした場合、クレジットカードの作成や、アパートの賃借、家や車の購入、さらには家族を養うことまで難しくなるかもしれない。結婚は延期されるかもしれず、「多くの結婚において、借金による家族運営は、最終的には離婚につながってしまう」という説もある (1)。日本の企業である野村グループでは、金融・経済教育は、より良い人生を送るため、老年期に向けて貯蓄するため、起業するため、環境を維持し、より良い社会にするための投資の支援のため、海外マーケットでの求人に向けた準備のために欠かせないと指摘している (8)。近年登場したシェアリング・エコノミーという概念は、負債を負わずに「借りる」という、一つの対策と言えるだろう。保護者、保育者、教員として、私たちには、子どもたちにお金の管理の仕方を教えるという義務がある。

キーワード:金融リテラシー、需要、欲求、満足の遅延、出費、節約、投資、負債、可処分所得、現金、学生ローン、クレジットカード、保険、株、債券、預金口座、シェアリング・エコノミー、ミレニアル世代
English
エピソード

息子が2歳半の時、つらい検査を受けさせるために病院に連れて行った。院内のギフトショップを通り過ぎる時、息子は窓越しにおもちゃの車を見るために、私を引っ張って立ち止まらせた。そこで私は、いとこたちが息子に送ってくれたお金があるので、検査が終わったら、そのお金で車が買えることを伝えた。おそらくその車で遊ぶことに思いを馳せながら、彼は私の横をスキップしてついてきた。検査が終わると、彼に1ドル札を渡した。するとトラックのおもちゃを指さしながら、店員にその1ドル札を差し出した。彼に、それを買うにはお金が足りないので、金属の車軸がついた、動くゴム製の車の中から選ぶのはどうかと提案した。

おつりとともに、その車が手渡されると、彼は満面の笑みを浮かべていた。それは彼がお金を扱った初めての経験であり、私は母親として、お金の管理について徐々に教えなければならないと気付いたのであった。

現況

カナダにおける負債・金融リテラシー:カナダ統計局(2011)によれば、「全体で、1世帯あたり可処分所得1ドルに対し1.5ドル以上の負債を負っている」 (2)。最も大きな負債は、高所得でマイホーム所有者であるグループが背負っている。彼らは、自分たちは金融について知識があると思っており、金融に絡むアドバイスを求める傾向がある。

教育レベルが高くなく、独身者の借り主は、経済的にも不安定で、負債を重ねる傾向が強い (2)。とは言え、全ての負債が悪いものというわけではない。たとえば、職業訓練の講座を受けたり、価値が上がりそうな家を買ったり、仕事に必要な車を買ったりするのに、借り入れるのは必要なことと考えられる (5)

日本における負債・金融リテラシー:日本銀行の中川忍氏および安井洋輔氏によれば、(a) 日本の世帯は大抵の場合、その金融資産の50%が現金や銀行への預金などの流動資産であり、株式、債券や不動産ではないため、概して経済的ショックに対し耐性がある(アメリカでは流動資産の割合は16%、ヨーロッパでは25%~33%である) (3)。(b) 日本においては、各世帯の純資産の格差が他の国ほどではない。(c) 日本では家を購入する際の頭金は高額になるが、購入者は貯金をしており、購入のために複数の金融機関から資金調達をするようなことはない。(d) 日本人は、倹約は美徳だと教育されている。(e) 日本の銀行では、融資や証券のほとんどが帳簿上の取引である。法人が借入れをする限りは、このシステムはうまく働く。債権回収のリスクは、日本の銀行システムに集中している(米国や英国では、そのリスクは生命保険会社や年金基金、ヘッジファンド会社に多少は転嫁される) (3)。日本人は「悠々自適」とはいえない。2005年にはペイオフ解禁により銀行への預金は完全に安全とは言えなくなった (9)。日本人の友人は、起業する息子のために保証人となった借金について、銀行に支払いを要求され、家と投資金を失うことになった。彼女はその後、娘に養ってもらい生活することとなった。家族持ちで、両親から独立して生活したいと思うような若年層の人でも、親元で同居していることが往々にしてある。

負債の形式:クレジットカード残高、住宅ローン、自動車ローン・リース代金、保険料の支払い、当座貸越の保護(口座残高不足分の立て替え手数料)、消費者ローン、税金、学生ローン、未払いの罰金、携帯電話や電気料金、家賃などの個人的な延滞、友人や家族からの借金など (1)

アメリカ、カナダにおける学生ローン:理論上は、政府は学生が卒業するまで、利子を付することなく彼らの教育のために貸付をし、卒業後、就職した学生は、利子がふくらまないうちに完済できるということになっている。しかし現在の状況は厳しい。仕事を見つけるのは難しく、学生ローンの利子はふくらみ、その額が元金を超えることも珍しくない。学生たちは40代、50代になり、本来であれば我が子の教育費を払ったり、退職後のために貯蓄をしなければならない時期に、まだ借金返済の支払いを続けていたりするのだ (5)。政府は学生が返済をしやすいようにすべきで、新しい仕事を生み出すことができる小規模事業を促進させるべきである。

クレジットカード負債:クレジットカード会社は、学生や無職の人々に、カードを持たせようと熱心である。この手のローンは、借主が負債残高を支払ううち、利払いが元金を超えることもあるため、カード会社にとっては利益が多いのである。

ソフィーの場合

私の友人ソフィー(仮名)は50歳である。負債がどのように彼女に迫り寄ったか、親切にも話してくれた。大学卒業以来自分で生計を立ててきた彼女は、1ベッドルームのアパートに住み、幹部補佐という立場で高い収入を得ている。1枚目のクレジットカードを限度額まで使いそうになった時、新しくクレジットカードを作り、そしてまた次のカード、次のカードと作り続け、その結果どうなるかまでは、考えが及ばなかった。しかし、約10年前、ふと負債総額を計算し、彼女はその額にショックを受けた。その後、カード会社に返済できるように、妥当な金利でクレジットラインを利用するよう、銀行からアドバイスを受けたので、彼女はそれに従い、2枚のクレジットカードについては、負債を完済した。デイビッド・チルトンの著書、「The Wealthy Barber, Everyone's Common Sense Guide to Becoming Financially Independent(邦題:金持ちの床屋さん;ゆっくり、確実にお金が貯まる方法)」で、お金の管理について学んだ彼女は、まず緊急時のためのお金を別にとっておき、その後でそれぞれのクレジットカードに、最低支払額を上回る額を支払い、またクレジットラインにも返済している。そしてその残高を日々の生活に使っている。ボーナスと、誕生日やクリスマスにもらった現金を、負債を減らすための支払いに使い、緊急時用のお金も追加の支払いに使うこともある。だんだんと負債額が減り、収入の範囲内で生活していることについて、彼女は心地よいと感じているそうだ。この何年にもわたる、クレジットカードやクレジットラインの利払い額がいくらになるかは、考えたくもないようだ。

保護者への提案

多くの保護者たちがお金の管理に失敗し、その子どもたちにどう教えたらよいか、分からずにいる。ここに、いくつかの提案をしたいと思う。

  1. 「必要なもの」と「欲しいもの」の違いを子どもに教える。魅力的なものがあっても、買う前に1、2日待ち、状況を再考させる。
  2. 自制心を身につけさせるために、目先の欲求を我慢することを教える。
  3. お金の扱いに関する家族の方針、何にお金を使うことを好ましいと考えているか、家族の貯蓄の目的などを子どもに教える。夫婦は金銭管理について、似た価値観をもち、負債についても同じような許容範囲の感覚をもつか、お互いの妥協点を見出す必要がある。
  4. お金は労働の対価として生じることを教える。子どもたちは家の手伝いをすることで報酬(おこづかい)を得るべきである。お手伝いは年齢に応じたものが良いだろう。6歳ならば洗濯のあとの靴下をペアにする、12歳なら食器洗い、というように。お手伝いとおこづかいの関係性が理解できるよう、お手伝いの後すぐにほめておこづかいを渡す、もしくは週ごとに渡すのがよいだろう。だんだんと高額のおこづかいをもらうようになったら、そのお金を「あたえる(贈り物や寄付)」、「ためる(大学進学や旅行などの目的のため)」「つかう(映画、衣服、おやつなどのため)」と書いた3つの封筒に分けるように教える。
  5. 目的を定めて貯めることを教える。大きな目標のためには、少し貯金を援助することもいいかもしれないが、クレジットで買うことを許してはいけない。
  6. 衝動買いについて教える。「これはお店に入る前、もしくはテレビで見る前から欲しいと思っていた?」と尋ねる。店が品物を買いたくなるよう、どのようにマーケティング戦略を行っているか教える。セールだからという理由で買わないように教える。(ある夫婦はセールの度にトイレットペーパーを購入していたが、引っ越しの際にトイレットペーパーを運ぶためだけにトラックで余計な一往復をするはめになった)
  7. 子どもがクレジットカードを持ったり、ひとり立ちする頃には、基本的な帳簿のつけ方や予算の立て方はできるようになっているべきである。自分の支払い能力の限度について知っておくべきである。
  8. 多くの10代が仕事をもっている。10代の子どもたちはさまざまな投資の手段、費用、リスクについて学び、自分の支払い能力の限度について知っておくべきである。自分の収入をどう賢く使うか、計画を立てさせること。(1) (5) (6) (7)

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コミュニティセンター(奥の建物)には、自転車で通る人、遊んでいる子どもたち、歩行者など多くの人々がおやつを買うために、時折立ち寄る。ティーンに一番人気なのは、スポーツドリンクのゲーターレード(2.5ドル)、次いで炭酸飲料(1.25ドル)。

アッシュの場合

ライフ・アンド・セキュリティ社のアシスタント・マネージャーである、ご近所のアッシュに、娘のリアにどのようにお金の使い方について教えているか尋ねてみた。リアはよく、父について銀行まで行き、取引の様子を見ていた。10歳になると、自分のお金を貯めて、自身の口座を開設できるようにと、銀行の窓口の人が子ブタの貯金箱をくれた。リアは毎週、ベッドメイクや机の掃除といったお手伝いの出来に応じて6~10ドルのおこづかいをもらっている。アッシュは、ティム・ホートンズ(ファストフードチェーン店)にココアを買いに行くとき、お金をリアに渡して会計をさせている。そうすれば、リアに金銭授受の実体験をさせてあげられると思っている。アッシュと妻は、リアに自由と責任を実感してほしく、自分のお小遣い帳をつければ、計算力も鍛えられ、将来的な目標に向け貯金をしたり、恵まれない人々の役にも立つように促すことができると思っている。資産運用コーチ・アドバイザーであるバーバラ・スタンニー氏のアドバイス、「お金で心の安定や力は買えないが、お金を知れば、心の安定と力を得ることができる」に、彼は賛同している。

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アッシュと娘のリア(13歳)

学校における金融リテラシー

カナダ:オンタリオ州、ケベック州、サスカチュワン州では、主要科目の中に、金融知識についての要素を組み込んでいる。10年前からブリティッシュ・コロンビア州では、10年生で金融の生活スキルを教える必修授業を推進している。カナディアン・プレスのパオラ・ロリッジョ記者は、こういった教育における不十分な点について次のように述べている。「教師は金銭管理の数学的な側面を教えるのに、稼ぎ以上に使ってはならないことは教えていない。昨今、世論は金融リテラシー教育の強化を要求し始めたが、きちんとこの分野を教えられる教師の数が十分にそろうまでは必修にはできない。当面は、年次の講演会やワークショップなどでギャップを埋めていく」。

日本:日本銀行の曽我野秀彦氏は、APECの会合に向けて、日本の金融教育プログラムについてまとめた。数ある提言の中で、曽我野氏は「金融教育は、学校のカリキュラム内で新しい教科とされるのではなく、既存の教科の中に内包されるべきである」と述べた。「カリキュラムの設定にかかる一般政策」が詳しく説明され、学年を通しどの教科に金融教育を盛り込むべきかが明記された。曽我野氏が提案する、導入学年とその内容は以下である。

6-7歳:お金の価値を知る、予算の中で買い物をする、おこづかいを貯める
8-9歳:欲しいもの・欲しくないものを区別する、予算を立てることを理解する、貯蓄計画を立て、記録する
10-11歳:買い物の計画を立て、効率よく買う方法を知る、預託機関(銀行)を知る
12-14歳:家庭の支出を理解する、保証金、株、ローン、配当などについての基礎知識を得る
15-17歳:長期的・実践的な現金管理を知る、基礎的な金融商品や経済状況についての理解を得る、ライフ・プランニングを通して、人生をコントロールしていく

この記事では、学校でどれくらいの時間を金融教育に割くべきかについてのデータはないと述べている。さまざまな教科に費やされる時間数は異なるものの、熱心な教師は高校の家庭科の授業の中で、20時間を金融教育に割いているとのことだ。

野村ホールディングス株式会社は、2001年、青少年向けの金融・経済教育の提供を始めた。野村グループの講師は小・中・高等学校にて出張授業を行うほか、中学生から大学生までを対象とした「日経STOCKリーグ」という株式学習コンテストにも協賛している。同社のホームページでは、「日本における金融リテラシープログラム」というタイトルで、この取り組みやそのメリットについて議論がなされている (8)

シェアリング・エコノミー

「シェアリング・エコノミー」という概念は、2000年代の初めに根付き始めた。「シェアリング・エコノミー」とは、人的・物質的な資源の共有を中心に構築される社会経済的エコシステムのことである。異なる人々や機関による、商品やサービスなどの共同での創出、製作、販売、取引、消費が含まれる (11)。これは人口が増え続け、世界の資源を使い果たしてしまうことへの危惧から生まれた、共有や協力の方法である。同じようなニーズをもつ人々が、時間、所有物、場所、技術やお金などの資源を共有できれば、人が使う資源を削減できるだけでなく、所有せずに借りるという概念が、債務の負担を減らすことができる。使われていないままの物や時間、技術などを借りる余裕ができるだろう。こういった現象は、ミレニアル世代(1980~2000年に生まれた世代)によって強く支持され、広がりを見せている。Uber、Airbnb、RelayRides、Shared Earth、TaskRabbitなど、非常に多くのシェアリングの形態が一般に使用されている。

大規模産業の分野も、このトレンドに乗っている。たとえば、メルセデス・ベンツはCar2Goというカー・シェアリングのサービスを提供することで、自社の経済プロセスを調整している。シェアリング経済の評論家たちは、「中間業者が手数料を取っている以上は、厳密にはシェアリングではない」と主張し、危険性を指摘しているが、このシェアリング経済は、どうやら根付きそうである (10) (11)

結論

先進社会において、多くの家庭がかかえる負債は頭の痛い問題になっている。子どもたちは保護者や学校から、お金の管理の方法を学ぶべきである。お金の管理を学ばなかった者は、生涯を通していろいろな困難に苦しむことになってしまう。政府は、学生が奨学金を借りるための負担を少なくするべきであり、雇用機会を生み出す小企業を援助するべきである。子どもたちがお金の管理を学ぶことができる本は、どの年代にも存在する。新しい社会経済的な概念である「シェアリング・エコノミー」が根付きはじめており、人々や企業が、ほとんど使われていなかった物や場所、時間や技能などを有効に活用できるようになっている。それは同時に、我々の資源の利用が少なくなっていることをも意味する。とは言え、このシステムには落とし穴があると批判する人もいる。私たちの社会は問題を抱えている。家族や企業、政府による、莫大な負債の増加を食い止めるために、手だてが打たれるべきである。私たちには何ができるだろうか?




References:
筆者プロフィール
Marlene_Ritchie.jpgマレーネ・リッチー(旧姓アーチャー)

アメリカ、日本、中国で教壇に立つ。看護師として働く一方、入院中の子どもたちの医療以外のニーズに応えるEmma N. Plank of the Child Life and Education Programを立ち上げた副設立者。トロントの競売会社Ritchiesの共同設立者でもある。多岐にわたる以上の経験と、オハイオ州の小さな町で育った経験、母としての経験をもとに執筆活動をしている。現在、フリーランスライター兼チューター。カナダ、トロント在住。過去10年間CRNに寄稿。
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