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【実録・フィンランドでの子育て】 第1回 フィンランドってどんな国?

要旨:

この連載では、教育・福祉先進国と言われ、国民の幸福度が高いことでも知られるフィンランドにおいて、日本人夫婦が経験した妊娠・出産・子育ての過程をお伝えしていきます。フィンランドに暮らすって本当に幸せなの? そんな皆さんの疑問に、実際の経験を踏まえてお答えします。第1回の今回は、まずはフィンランドってどんな国なのか、その文化や現在の新型コロナの状況について報告します。

キーワード:
フィンランド、基本情報、新型コロナウイルス感染症

2013年にフィンランドに渡航し、妊娠・出産を経験。現在、夫婦で協力して子育てをしています。教育・福祉先進国と言われるフィンランド。その実情はどうなのか? この連載ではフィンランドでの子育ての様子をお届けします。

フィンランドの基本情報

フィンランドは北ヨーロッパ・スカンジナビア半島の東側に位置し、スウェーデンとロシアに挟まれています。首都はヘルシンキ。「日本から一番近いヨーロッパ」として知られ、成田から飛行機に乗るとおよそ10時間でヘルシンキ空港に降り立つことができます。国土は338,440平方キロメートル。日本の国土から九州を抜いたくらいの大きさです。日本とほぼ同じ大きさの国土を有しながら、人口はおよそ550万人で、北海道の人口と同じくらいです。いかに人口密度が低いかが分かります。

公用語はフィンランド語、スウェーデン語、サーミ語です。ほとんどの人(87.3%)がフィンランド語を母語とし、スウェーデン語を話すのは5.2%、その他にラップランド北部に居住するおよそ2,000人の先住民族サーミ人がサーミ語を話します。世界でフィンランド語を話すのはフィンランド人だけなので、世界の経済市場で生き残るため、フィンランド人にとって他の言語(英語やドイツ語など)を身に付けるのは必須となります。そのため、フィンランド人の多くは母語のフィンランド語・スウェーデン語(学校の必修科目)の他に英語もある程度話すことができるなど、複数の言語を話すことができます。

豊かな森と湖に囲まれ、夏はベリーやキノコ摘み、冬はクロスカントリースキーを楽しみます。サウナ発祥の地として知られ、「サウナ」はフィンランド語で「蒸し風呂」の意味です。日本の各家庭にお風呂があるように、多くの家庭には自宅にサウナがあります。公共サウナも各都市に見つけることができ、サウナはフィンランド人にとって、とても重要な交流の場所です。普段は寡黙なフィンランド人も、サウナに一緒に入った途端にフレンドリーに話し出すなんてことも。フィンランドの文化を語る上で欠かせない存在と言えます。

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サウナ後に湖で泳ぎ、湖畔から眺める夕日
世界最年少の首相誕生!

フィンランドは世界でも有数の男女平等の国として知られています。世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数でも、2020年にはアイスランド、ノルウェーに次いで第3位と、経済・政治・教育あらゆる分野で女性リーダーが活躍する国と言えます。そんな中、2020年に世界中で話題になったのは、34歳の若さで首相に就任したサンナ・マリン氏です。しかし、マリン首相がフィンランドで注目される理由は、女性だからでもその若い年齢からでもありません。フィンランドでの女性首相は三人目ですし、フィンランドでは年功序列の文化がなく、あまり年齢は話題にならないからです。彼女が注目される理由は、彼女がいわゆるレインボーファミリー(LGBTの家族)に育てられ、経済的にもあまり豊かではなかったという生い立ちにあります。家族の中で、大学に進学したのは彼女が初めてだそうです。そんな中でも、政治を志した彼女が34歳で一国の首相になれたのは、大学まで学費が無償で、さらに学生には生活のための手当てが支給されるフィンランドの手厚い教育・福祉システムを表しています。家庭の経済的な背景やバックグラウンドに関わらず、自分がなりたいと望んで努力をすれば、なりたい自分になれる、それを体現したのがマリン首相と言え、フィンランドの機会均等の象徴として注目されているのです。

4年連続、世界幸福度ランキング第1位

男女平等・機会均等と関連して、フィンランドは、国連が発表する世界幸福度ランキングで、2018年から4年連続第1位を獲得しています。初めて世界1位となった2018年には、フィンランド人自身も半信半疑で、フィンランド人の友人などは「世界一根暗な国の間違いじゃない?」と自虐交じりに話していましたが、4年連続となればその事実は確信となりました。どうやらフィンランド人は、世界で一番、自分たちの暮らしを幸せと感じているようです。実際にフィンランド人の暮らしを見てみると、おおよそ朝8時頃から働き始め、午後4時には仕事を切り上げて、子どもを迎えに行ったり、それぞれの趣味をしたりと、夕方以降は家族団らんや自分の時間に費やします。普段はほとんど渋滞のないフィンランドでも、午後4時、5時前後はいわゆる「帰宅ラッシュ」で渋滞に遭遇します。基本的には、長時間の残業や職場の同僚との飲み会はありません。みんな定時に仕事を終えるために、合理的で無駄のない働き方をしている印象を受けます。夕方以降は、家族で一緒に夕食を囲む、あるいは自分の好きなことをして時間を過ごす、そんな考えてみれば当たり前の幸せが、日本では実現できていなかったということに、フィンランドで暮らしていると気づかされます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状

新型コロナウイルスの感染拡大が顕著になり始めた2020年3月中旬から約1ヶ月半は、我が家でも自宅からのリモート勤務、そして子どもの自宅保育を余儀無くされました。しかし、子どもの精神的・身体的健康を第一に考えるフィンランドでは、基本的に幼児教育施設であるパイヴァコティ(注・フィンランドには幼稚園・保育園の区別はありません。両方を兼ね備えた、日本でいうこども園のような施設です)や学校、特に小学校はギリギリまで閉めない方針で、5月に登園が再開されて以降、自宅保育にはなっていません。仕事に関していうと、出社しなくても自宅から勤務が可能な人の多くは、未だにリモート勤務を続けていて、以前からIT化や自宅勤務を推進していたフィンランドでも、人々の働き方は大きく変わったと思います。

元来パーソナルスペースが広く、ハグやキスをする文化の薄いフィンランドでは、ソーシャルディスタンスを保つのはそこまで難しいことでは無かったように見受けられます。非常に真面目なお国柄なので、人々はスーパーなど公共の場ではマスクをつけるようになりました。政府の迅速な対応もあり、ヨーロッパ諸国の中では感染者数も抑えられている方で、ワクチン接種も着々と進んでいます(2021年5月10日現在、1回目の接種を終えた人の割合は人口の34.9%)。フィンランドには昔から、長く暗く寒い冬を乗り越えるための「シス(sisu)」という言葉があります。日本語や英語に直訳できる言葉はありません。フィンランド人の精神力、忍耐力を表す言葉で、日本の「大和魂」に近いかもしれません。フィンランド人とコロナ禍の話をすると「フィンランド人にはシスがあるから!」とよく返ってきます。シスを胸に粛々と困難が過ぎ去るのを待つ、そんな姿勢がフィンランド人から見て取れます。

フィンランドで暮らすのは果たして本当に幸せなのか? 次回以降は、私たちが経験したフィンランドでの妊娠・子育て経験を中心に、その暮らしに関する生の声をお伝えしていきたいと思います。



参考文献

筆者プロフィール
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矢田 明恵(やだ・あきえ)

フィンランド・ユヴァスキュラ大学博士課程修了。Ph.D. (Education)、公認心理師、臨床心理士。現在、東フィンランド大学ポスドク研究員。青山学院大学博士前期課程修了後、臨床心理士として療育センター、小児精神科クリニック、小学校等にて6年間勤務。主に、特別な支援を要する子どもとその保護者および先生のカウンセリングやコンサルテーションを行ってきた。
特別な支援を要する子もそうでない子も共に同じ場で学ぶ「インクルーシブ教育」に関心を持ち、夫と共に2013年にフィンランドに渡航。インクルーシブ教育についての研究を続ける。フィンランドでの出産・育児経験から、フィンランドのネウボラや幼児教育、社会福祉制度にも関心をもち、幅広く研究を行っている。
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