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論文・レポート

【イギリスの子育て・教育レポート】 第27回 イギリスで、地元図書館の無料プログラミング教室に行ってみた

橋村 美穂子

2018年4月 6日掲載

要旨:

今回は「放課後のプログラミング教室」を取り上げる。息子は先日、イギリスのチャリティー団体が学校や図書館などで開催している、全6回の無料プログラミング教室に参加した。この教室の対象年齢は9~13歳で、先生はボランティアであるのが特徴だ。教室では、スクラッチやパイソンといったソフトを使用し、アニメーションやゲームを作ることを通して、プログラミングの基礎を学んでいる。4~5人の子どもに対して、3人のボランティアの先生がつき手厚く指導をしてくれるが、その回のメイン担当者によって子どものやる気に大きく差が出ることが興味深かった。プログラミングは個人作業で単調になりがちだが、ある回の先生は「友だちがクリアできないような難しいゲームを作ろう!」といった目標を明確にする声かけや、子どもの小さな工夫や進歩をほめ、認めてくれたおかげで、子ども同士の関わりが生まれたり、一人ひとりの意欲が上がったりした。プログラミングは自宅で一人でも取り組めるが、ボランティアの先生や同じ年齢の子どもたちと取り組むよさは「少し高い目標を与え、その達成に向けて励ます声かけがあること」「小さな疑問をそのままにせず、随時解消し、理解しながら進めること」「切磋琢磨し合える友だちがいること」だ。これらがあることにより、子どものモチベーションや楽しみの度合い、さらにはプログラミングの知識の習得にも大きく違いが出るのではないかと感じた。

Keywords: 橋村美穂子, イギリス, 小学校, コンピューティング, プログラミング, プログラミング教育, プログラミング教室, コード・クラブ, Code Club, スクラッチ, パイソン

この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

前回、イギリスの公立小学校におけるプログラミング教育を紹介しました。今回は、学校外で行われているプログラミング教育にスポットを当てます。先日、息子は近所の図書館で行われた無料のプログラミング教室に参加しました。全6回のコースでしたが、メイン担当の先生によって、子どもたちのやる気に大きく差が出たことが大変興味深かったのです。

世界130か国以上の子どもたちが参加!9~13歳を対象にした無料プログラミング教室

まず、この教室を運営している「コード・クラブ(Code Club)」の概要を紹介します。コード・クラブは2012年にイギリスで設立されたチャリティー団体です。コード・クラブは「国や民族、性別などに関係なく、すべての子どもがプログラミングを学べるようにしたい」、そんな思いから設立されました。教室は9~13歳の子どもが対象で、小中学校や図書館などの公共施設で開催されています。無料で受講できるのが特徴です。教えてくれる先生はボランティアで、子どもたちはスクラッチ(Scratch)やパイソン(Python)といったソフトを使用し、アニメーションやゲームを作ることを通して、プログラミングの基礎を学んでいます。コード・クラブは現在、イギリスには約6,500教室以上あり、約9万人以上の子どもが学んでいます。130か国以上で1万を超える教室があり、世界で約15万人以上の子どもが学んでいます。コード・クラブのウェブサイトによると、日本では17か所で開催されているそうです。

アニメーションやゲームを作ることを通して、プログラミングの基礎を学ぶ

1)毎回、どんな活動をしたの?

息子は、毎週木曜日の放課後16:45~17:45の1時間、近所の図書館で受講しました。全6回で内容は以下の通りです。5回目まではスクラッチを使用し、最後の6回目はパイソンを使って学びました。

1回目:
宇宙船をデザインして、地球に向かって飛ぶアニメーションを作ってみよう!(Lost in Space)

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写真1:宇宙船を自分の好きな色やデザインに変えています。


2回目:
「動き回るおばけを捕まえるゲーム」を作ってみよう!(Ghost Busters)

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写真2:息子はキャラクターを変えて「魔女を捕まえるゲーム」にしていました。


3回目:
画面上のキャラクターと会話のキャッチボールができるように、プログラミングしてみよう!(Chat Bot)

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写真3:「Who are you?」を「Who are youuuuuu?」などとわざと変な言葉や質問を入れて遊んでいました。


4回目:
「ボート・レースのゲーム」を作ってみよう!(Boat Race)

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写真4:マウスを使って岩などの障害物を作り、ゲームを難しくする工夫をしています。


5回目:
時間制限や正解・不正解を知らせる機能を加えた「かけ算クイズ」を作ってみよう!(Brain Game)

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写真5:計算して答えを入力すると、正解・不正解を知らせてくれるようにプログラミングしています。


6回目:
パイソンを使って、コンピューターと対戦する「じゃんけんゲーム」を作ってみよう!(Rock, paper, scissors)

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写真6:パイソンはスクラッチよりも難しいソフト。説明書を見ながら自分でコードを打ち込んでじゃんけんゲームをプログラミングしています。


2)全6回でどんなプログラミングの知識が身につくの?

一見、簡単そうで楽しそうに見えますが、カリキュラムは毎回、積み上がっていくように考えられています。全6回のコースで、プログラミングの基礎である「繰り返す(repetition)」、「適切な順番の処理(sequencing)」、「変数(variable)」、「選択(selection)」などの概念を学びます。

3)毎回、どんな流れで学ぶの?

毎回、コースの冒頭では、先生がその回で新しく学ぶ概念について、日常生活と結び付けながら説明します。例えば、「変数」という概念を学ぶ回では、先生が自宅からタッパーを持参し、「変数とは、物を入れるタッパーのようなもので、そのタッパーに名前を付けて数字を入れていくことが大事」と説明していました(写真7)。

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写真7:第2回で「変数」を学ぶときに例として提示されたタッパー。「3」と書かれたカードを中に入れて説明していました。


その後、指示書を見ながら、ゲームやアニメーションをプログラミングします。キャラクターやデザインを変えたり、自分なりの工夫を加えたりしながら進めます。わからないところは随時、手を挙げて先生に質問します。コース全体を通して言えることですが、子どもが主体的に取り組むことを促しているため、先生はあくまで「サポート役」という位置づけのようです。新しい概念を説明したり、質問されたら答えたりしますが、基本的にはゲームやアニメーションの完成というゴールを一緒に目指す「伴走者」のような存在です。できあがったら、お互いが作ったゲームで遊びあって終了です。

4)ボランティアの先生はどんな人?

先生はいろいろなバックグラウンドをもっていました。息子がお世話になった先生は3人全員が女性で、かつ全員がイギリス国外出身の方でした。普段は大学の研究室に勤務し、仕事で日常的にパイソンを使用している方、昔、大学で化学を専攻していた方もいました。さらに、受講料が無料なのに、4~5人の子ども(全員9~10歳男子)に対して、3人のボランティアの先生が手厚くサポートしてくれることに驚きました。

上記のようなバックグラウンドがなくても、一定の研修を受講すればボランティアにはなれます。プログラミングの経験が浅くても、コード・クラブのウェブサイト上にはコースのカリキュラムやゲームの作り方がわかる詳しい説明書が掲載されているので、初心者でも一定の質を保ちながら教えられるようになっています。

単調になりがちなプログラミング作業。やる気をアップさせたのは、先生のひと言だった!

指示書を見ながらのプログラミングは、個人作業ですし、単調です。プログラミングが難しいと飽きたり、隣の友だちにちょっかいを出すなど集中力が切れてしまったりする回もありました。そんな中、4回目のメイン担当の先生は、子どもたちのモチベーションを上げるのがとても上手でした。それは何も特別なことではなく、ちょっとした声かけの工夫だったのです。

コースの冒頭に、今日行う内容を説明していた時、先生はまず、こう切り出しました。

「今日はボート・レースのゲームを作るよ。説明書をよく読んで作ってね。正しい順序でプログラミングするのが大事だよ。そして、ゲームを作るときにみんなにお願いがあります。それは『友だちがクリアできないような難しいゲームを作ってほしい』ということ!ボート・レースのコースに、岩や柵、流木などの障害物をたくさん加えて、友だちが簡単にはクリアできないような難しいゲームにしてね!」

通常は、指示書に沿って、決められたゲームを作る作業をして1時間が終わるのですが、「友だちがクリアできない難しいゲームを作る」ということで子どものモチベーションが上がり、かつ明確な目標を提示してくれたおかげで、各々がプログラミングに集中し、意欲的に取り組んでいたのでした。完成までのプロセスでも、「〇〇くん、調子どう?うまくいっている?」とか、「おお、いい工夫をしているね!これは難しいゲームになりそうだね!」など、それぞれの子どもの進捗を見ながら、励まし、完成に導いていました。このような声かけのおかげで、他の子はどんな工夫をしているのかとお互いの作るものにより興味が湧いたり、自分が作ったゲームを試してみて!と誘ってみたりするという、それまでの回にはなかった関わりが多く生まれました。

プログラミングソフトのスクラッチは家で一人でも取り組むことができるので、特に教室に通わなくてもよいと思っていたのですが、ボランティアの先生や同じ年齢の子どもたちと取り組むよさもたくさんあると感じました。例えば、「少し高い目標を与え、その達成に向けて励まし導く声かけがあること」「小さな疑問をそのままにせず、随時解消し、理解しながら進めること」「切磋琢磨し合える友だちがいること」は大きな利点でした。それらがあるのとないのとでは、子どものモチベーションや楽しみの度合い、さらにはプログラミングの知識の習得にも大きく違いが出るのではないかと感じました。

日本では、2020年から小学校でもプログラミング教育が始まります。既存の教科の中で扱われ、「プログラミング的思考」を学ぶことが目的です。前回26回の原稿で紹介したように、イギリスの小学校でも実際にプログラミング(コーディング)を行う前に、概念や考え方に触れることが重視されているので、日本の小学校でプログラミング的思考を学ぶことは非常に重要だと考えます。しかし、学校で学び、さらにプログラミングに興味が湧いたときに、無料、もしくは安価でプログラミングを学べる場所はまだまだ少ないのが現状です。日本同様、世界各国もプログラミング教育に力を入れ始めています。コード・クラブのような活動が日本全国に増えることを切に願います。

約2年間、毎月、記事を書かせていただきましたが、今回が最終回となります。読んでくださる方にとって役に立つ情報を提供できていたら、こんなに嬉しいことはありません。これまで読んでいただき、どうもありがとうございました!


<参考文献>

筆者プロフィール

橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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