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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第25回 初めての「正式な」成績表

要旨:

息子のクラスでは3年生から「正式な成績表」を採用することが保護者会で決定された。低学年時とは異なり、6段階評価をとるものだが、テストの点数に加え、宿題の取り組みや、授業への参加度・発言度といった要素を総合的に評価している模様。評価ポイントとしてベルリン市で制定されている「学習到達度の規準」を用い、成績表フォーマットも市内の大部分の小学校では同じものを使用している。また、学習到達度とは別に「学習態度および生活態度に関する評価」も行われ、4段階で「学習意欲」「責任感」「自立心」「信頼性」「協調性」「ルール順守」の6つの観点から評価が下されている。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、小学校、小3、学年度末、成績表、ギムナジウム、シュリットディトリッヒ桃子

第12回「小学校1年生の成績表」の記事では、1年生(低学年)の頃の成績表について触れましたが、3年生からは、数字で評価された「正式な成績表」が採用されるようになりました。低学年の頃とは異なる「正式な成績表」とはいかなるものでしょうか?今回は息子が通う小学校の成績表システムについて記していきたいと思います。

1-2年生合同クラス時の成績表

ベルリンの小学校は二期制をとっていることから、成績表は前期の終わり(1月末)と後期の終わり(7月頃)に配布されます。息子の通っている学校では、1-2年生の合同クラスの時は、1年時も2年時も前期の成績表は「顔マーク」を用いた3段階評価でした。

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低学年前期の成績表は可愛らしいマークでの評価でした

また、前期の成績表には先生の評価(写真右側)とともに、自己評価(写真左側)も含まれ、低学年とはいえ、半年間の学校生活を自分で振り返り、先生の評価との差異を確認し、次の学期に臨む、という相互評価による自己認識を行っていたのが印象に残っています。

それが後期になると、1年時も2年時も自己評価欄はなくなり、教科ごとの4段階の円グラフ評価になり、A4サイズで4ページにも及ぶ、詳細なものとなっていました。

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低学年後期の成績表:4段階評価の円グラフ(左の円が一番到達度が高くて100%、右に行くほど到達度が低くなる)

「ドイツ語」「算数」「プロジェクト」「図画工作」「音楽」そして「体育」といった教科に対してそれぞれ評価項目が細かく分けられており、評価がなされていました。先生からのコメントは、「道徳の授業に参加しました」など、客観的事実3点の記載のみです。

保護者会で決定された3年生の成績表の形式

息子の通う小学校では、3年生の成績表について、上述の低学年時と同じ形式を採用するか、6段階評価をとる正式な形式を採用するか、保護者が決めることになっています。「こんな大切なことを、保護者だけ(しかも保護者会には全員出席していなかった)で決定していいものなのか」と驚きましたが、「4年生からは6段階評価に統一される」とのことだったので、3年生は低学年から本格的な勉強をする学年の「過渡期」と捉えられているのかもしれません。そして、第22回「戸惑いの小3生活の始まり」の記事で触れたとおり、3年生になってから初めて行われた保護者会(9月開催)で、6段階評価が正式に採択されたのでした。

一般的なドイツの学校では、「1」が最高評価で、数字が上がるにつれ評価が下がり、「6」が最低評価、という6段階評価が主流です。そして、この評価の数字が後々のギムナジウムなどの上級学校への進学に影響してきます。つまり、地域や学校によって多少の違いはあるものの、基本的には全科目の平均点が1に近いほど、希望学校への合格率が高くなるというものです。

評価対象科目

正式な成績表はA4サイズの紙2枚から成り立っており、1枚は教科ごとの到達度を評価した「成績表」、もう1枚は「学習態度および生活態度に関する評価」となっています。

まず「成績表」に関してですが、フォーマットは下の写真のように、各教科の成績が1-6までの数字で入れられるようになっています。評価対象科目は、ドイツ語、算数、プロジェクト(理科)、図工、音楽、体育で、ドイツ語はさらに、スピーキング、リーディング、ライティング、文法の4技能が評価されます。

担任の先生にこの評価基準を伺ったところ、息子の通う学校では、ポイント制をとっているとのこと。例えば、テストで95点以上とれば、60ポイント、90点だと55ポイント、というように、テストの度にポイントが加算され、学期末の合計ポイントが550ポイント以上だと「1」、480ポイント以上だと「2」など、絶対評価で1~6の評価を決めている、とのことでした。また、大小行われるテストだけでなく、宿題の取り組みや、授業への参加度・発言度といった要素も評価に関わってきますが、それらの要素の成績への関与パーセンテージは特には決まっておらず、全要素を総合的に評価している、とのことでした。

そして、総合的評価のポイントになっているのは、ベルリン市で制定・公開されている「学習到達度の規準 *」で、学校で使用している教材やワークブックも全てこの規準にそって作られているそうです。例えば、ドイツ語のスピーキングでは、小学校3-4年生では「自分の意見を根拠をもって示し、反論を受けても説明できるか」「ルールにそってディスカッションを行うことができるか」など11項目が規準として示されており、各項目への到達度をテストや授業への参加度などでチェックし、総合したものが成績表での評価となっているとのことでした。

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成績表(Zeugnis)上部:教科ごとの評価が灰色部分に1-6段階で入れられる

また、3年生から始まった英語に関しては、今年1年間は導入期間ということで、1-6段階の数字ではなく、記述評価となっています。息子の場合は、「英語への興味、リスニング・リーディング・発音を含むスピーキング・ボキャブラリ」といった観点から、到達度が記述されていましたが、それも上述のベルリン市が制定した「学習到達度の規準」が元になっているようでした。

ちなみに、成績表のフォーマットに関しては、ベルリン市内の大部分の小学校で同じものを使用しているとのことです。

特記事項など

特記事項欄には「放課後のサッカークラブに所属」「努力した方が良い点:ドイツ語を書くときに、字が大きくて枠からはみ出ているので、枠内に書くようにしましょう」といったことが書かれていました。低学年時の成績表もそうでしたが、記述欄にはあまりコメントがないのですが、今回は努力した方が良い点が1点だけでも具体的に書かれていたので、私たちは貴重なコメントとして受け止めました。

生活態度に関する評価

「学習態度および生活態度に関する評価」についてもベルリン市内の小学校共通のフォーマットだそうで、4段階評価となっています。評価項目は「学習意欲があるか」「責任感があるか」「自立心があるか」「信頼性があるか」「チームで協力できるか」「ルールを守れるか」の6つです。項目ごとに細かく例が書かれているので、評価を決定する時には、クラスに関わっている全教員(担任、算数の先生、体育の先生など)が集まって、一人一人の児童について話し合い、結論を出すとのことでした。こちらも、1枚目の成績表と同様、ギムナジウムなどの上級学校に進学する場合には、提出しなければならないので大切なものだそうです。

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「のび太」のように隠すことはできない成績表

これら「正式な成績表」は2枚とも校長、担任の先生のサインが書かれていますが、保護者は確認後、サインをして、次の学期の初日に学校に戻さなければなりません。担任の先生がそれを確認したら、また子どもに戻してくれる、というシステムになっています。ちなみに、月1回の頻度で行われる大きなテストも、児童への返却後、保護者が確認のサインをして、担任の先生に戻さなければなりません。これによって、「テストや成績表を隠してしまう」といった、ドラえもんに出てくる「のび太」のようなことはできないようになっています。

また、成績表には保護者からの通信欄はありませんが、息子の担任の先生はいつも私たちに子どもの教室での様子をオープンにして下さいます。本記事執筆にあたっても、直接インタビューの場を快く設けて情報を開示して下さり、本当に感謝しております。

以上、3年生の本格的な成績表について、振り返ってみましたが、評価対象項目に関しては、ベルリン市から細かく到達規準が決められていて、それを元に先生方が日頃からコツコツと記録をとり、関わっている先生たちが学期末に一堂に会し、総合的観点から一人一人の成績を決めている、ということが先生へのインタビューからわかりました。

3年生からはテストの実施回数も増え、息子の場合は日本語補習校(こちらも4月から3年生に進級し、難易度も上がり、習う漢字数も大幅に増えました)、サッカーの練習と並行して、ドイツ現地校の勉強を行うのは、ますます時間との戦いになっています。しかし、今回成績表に関するお話を伺いながら、家庭での教育もやはりコツコツと行っていくのが妥当なのだろうな、という思いを強くしました。

後期の成績は1年間の総合ではなく、後期のみの学習到達度や態度によって決まる、とのことでしたので、7月の成績表が今から楽しみでもあります。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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