この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。
1月は「行く」、2月は「逃げる」、3月は「去る」と言うように、年度末の3か月はあっという間に過ぎていきますね。日本の学校の3学期には、修了式や卒業式といった節目の行事があり、進級や進学に向けて気持ちがあらたまります。しかし、私たちが住むここイギリスでは、年度末の学校の様子が少し異なります。日本との違いが非常に興味深かったので、今回から2回にわたり「イギリスの小学校の年度末」の様子をお届けします。シリーズ1回目の今回は、「年度末最後の1週間の学校行事」を取り上げます。
年度末最後の1週間は、授業や勉強が一切ない!
イギリスの学校の新学期は9月に始まり、7月で終わります。4年生最後の学期も残すところあと1週間というころ、息子は学校から年間の通知表をもらってきました。「まだあと1週間も授業があるのに、なぜ?」と思っていたら、なんと、その次の日から授業や勉強が一切なくなりました!息子の学校の年度末最後の1週間は以下のとおりでした。
表1:学年末最後の1週間のスケジュール(2016年・小学4年生)日にち | 1日の出来事 |
7月14日(木) | この日で授業は終了 学校はあと1週間あるのに、早くも年間通知表をもらって帰ってきた。 |
7月15日(金) | 「スペイン」デー 息子の学校では外国語としてスペイン語を学習している。この日は、スペインにちなんだ色の服を着て登校したり、カーニバルについて学び、お面を工作したりしたそう。給食もパエリアなどの特別メニューに。 |
7月18日(月) | チャリティーデー 小児がんのチャリティーマラソンとして校庭を15周するというイベントに参加。6年生は2倍の校庭30周を走ったとのこと。午後の集会では劇を鑑賞。もちろん、この日も授業はなく、上記以外は絵を描く、パソコンで遊ぶなど好きな活動をした。 |
7月19日(火) | お楽しみ遠足デー(①参照) 貸し切りバスで郊外のショッピングセンター内にあるアスレチック施設に行き、数々のアクティビティを楽しんだ。 |
7月20日(水) | 水鉄砲合戦デー 1、2時間目は自習。息子は絵を描いていたとのこと。3時間目は自分の引き出しの整理などをした。午後の4、5、6時間目は校庭で先生を交え、水鉄砲合戦。気温も30度に近く、夏ならではの遊びを楽しんだ。 |
7月21日(木) | 「自分の特技を披露するコンテスト」の日 全校児童の中から約10人が出場。出場者は歌やダンスを披露し、児童の投票結果で順位を決められる。息子と同じクラスの子がダンスで見事優勝。その後、映画鑑賞をして過ごしたという。 |
7月22日(金) | 学年末の最終日 1時間目は卒業式。卒業生は一人ずつ賞状をもらい、歌を歌ったとのこと。修了式のようなものはない。昼食後、皆勤賞などを表彰する集会が行われ、その後パーティーがスタート(②参照)!ケーキを食べたり、椅子取りゲームやダンスをしたりして遊んだ。お迎えの時間は、担任の先生にプレゼントを渡す保護者の姿がたくさん見られた(③参照)。 |
上記の中でも、特に興味深かった3つについて詳しく紹介します。
①勉強色が一切ない、楽しいイベントが目白押し!
表1を見ていただければわかるように、年度末の1週間は毎日が楽しいイベントづくしです。校外学習も例外ではありません。これまで校外学習は、歴史や科学に関連した場所で行われていましたが、今回は郊外のショッピングセンターにあるアスレチック施設で行われました。今回も勉強の一環かと思いきや、まったく関係なさそうでした。アクティビティとして行ったのは、ハイロープ(命綱をつけて高いところを渡る活動)、パターゴルフ、シューティングゲームなどでした(写真1、2)。
また、午後はまるまる「水鉄砲合戦」の日があることにも驚きました。イギリスの短い夏を楽しむためのイベントなのかもしれませんが、学校の授業時間中に開催されることが意外でした。この水鉄砲合戦については、息子と同じクラスのお母さんの中には「なぜ、学校で水鉄砲合戦をする必要があるの?!」と、教育的な意味に疑問を感じている人もいました。

写真1 高さにおののきながらハイロープをする息子。
後ろから担任の先生がフォロー。

写真2 先生も一緒に屋外をかけめぐって、シューティングゲーム
②最終日はパーティー用の服を着て登校し、午後からパーティー!
学期の終わりには毎回、パーティーがあるのですが、今回も最終日にありました。息子の学校ではパーティーの日は、パーティー用の服で登校してよいことになっています。夏なので、男の子は半袖半ズボンという普通の格好が多かったのですが、女の子はまるでお姫様のようなドレスに身を包んだ子もいました(写真3)。
パーティーは、学校から指定された食べ物を1品持ち寄る形を取っています(写真4)。息子は卵やナッツのアレルギーがあるので、自分専用のプレートを自宅から持ってくるように言われますが、他の家庭はピザやサンドイッチ、お菓子や飲み物などを持ってきてくださいと指定されます。この一品は必ずしも手作りである必要はありません。事実、市販品を持ってくる家庭も多く見られます。市販品でもOKというところが柔軟だと感じます。

写真3 息子と一番仲のよい子とのツーショット。
息子は甚平ですが、後ろに見える女の子たちは色とりどりのドレス姿。

写真4 学校からの食べ物指定リスト。
イギリスはナッツアレルギーの子どもが多いので、ナッツが入った食べ物の持ち込みは厳禁。
③えっ? 担任の先生にお礼のプレゼント?
年度末の1週間で最も驚いたのが保護者から「先生への個人的な贈り物」です。日本では考えられない習慣ですよね。日本の公立小学校の先生は公務員なので、利害関係のある人から物を受け取ることができない立場にあるそうです。しかし、イギリスでは1年間の感謝の気持ちを込めて、年度末に先生へプレゼントを贈る習慣があります(写真5)。人によってはクリスマスプレゼントも贈るほどです。そこで気になるのはその中身。同じクラスのお母さんにどのくらいの金額のものを贈るか聞いてみたところ、「一般的にはワインやチョコレートなど10ポンド(約1400円)くらいのものを贈る」と話していました。結局、我が家は担任の先生、ティーチングアシスタントの先生、英語の特別指導の先生の3人に巻きずしメーカーや手ぬぐいなど日本にちなんだものを贈ることにしました(写真6)。
先生へのプレゼント、これはクラス全員がするわけではないようです。感謝の気持ちの度合いによっても、保護者によっても違うようです。上記のお母さんは当初、その年の担任の先生にプレゼントを贈るつもりはなかったそうです。なぜならば、「今年の担任の先生、子どもをよく見ていないような気がするし、宿題の出し方や教え方も気に入らないから、今年はプレゼントはあげないで、カードだけ贈るつもり!」と話していました。しかし、結局、思い直したのか、最終日には小さなプレゼントを先生に渡していました。

写真5 カード専門店の広告。先生へのお礼カードも専用のものが売られている!

写真6 担任の先生、ティーチングアシスタントの先生との3ショット。
先生の手には家庭からもらったプレゼント。
イギリスの年度末は、日本のように厳かな式もなく、わくわくした楽しい雰囲気の中で終了しました。年間でも気候がよい時期であることから、長期の休みに向けてさらに開放的な気分になるのかもしれませんね。
次回は、シリーズ第2弾として「年間通知表」についてお届けします。お楽しみに!