CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 理学療法の現場より~琵琶湖から吹く風~ > 第7回 脳性まひ者の二次障害を考える

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

第7回 脳性まひ者の二次障害を考える

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

2008年10月10日掲載

要旨:

脳性まひ者が成年期を迎え、医療機関をはじめ教育機関でも、二次障害に関する知識や身体ケアの方法を十分に説明されることはほとんどありません。当事者が「障害があるのだから努力しなければいけない」、痛みの出現や体が思うように動かない場合でも、「怠けていると思われたくない」、「もう少しがんばろう」との思いで無理をしてしまい症状を悪化させてしまうこともあるようです。二次障害をいかに支援していくか、筆者からの提案も書かれています。
先日、担当しているHさんが頚椎の手術を受けることになりました。彼女はアテトーゼ型の脳性まひで、不随運動が出現する障害を持っているため頚椎に大きな負担がかかってしまったことがその原因であります。脳性まひ1)は加齢とともに症状が変化しうる運動および姿勢の障害であり、特にアテトーゼ型は成年期以降に頚椎症になる可能性があります。

 

しかし、成年期を迎えた当事者に二次障害2)に関する知識や身体ケアの方法を十分に説明されることはほとんどありません。それは子どもたちが受けているリハビリテーションの仕組みにもあります。厚生労働省は脳性まひ児に対し障害児リハビリテーションという区分で報酬単価を決めています。障害児リハビリテーションは年齢によって支払われる保険点数3)が異なり18歳以降では1単位(20分)150点まで減らされています。この点数では医療機関によっては18歳以降の脳性まひ者のリハビリテーションへの指示が少なくなっても不思議ではありません。

また就学に伴い学業が優先されるため医療機関に通うことが徐々に減ってきます。それを補完するものとして養護学校や支援学校おこなわれている自立訓練がありますが、専従で理学療法士・作業療法士が勤務している学校は僅かしかありません。また普通学校の普通学級に通う子どもたちが、学校で身体ケアの指導や支援を受けること皆無に等しく、Hさんも学校で指導を受けたことはなかったそうです。

今回、滋賀肢体障害者の会「みずのわ」(shiga-mizunowa.hp.infoseek.co.jp/home.htm)の片山雅崇さんから「肢体障害者(脳性まひ者等)の学齢期と学校卒業後の二次障害予防と軽減のための連携システムづくりに向けた調査・研究」に関する協力依頼を受けたことを機に、この問題を再考したいと思います。


私が成年期以降に出会った人たちに二次障害に関して、1) いつ頃から気になり始めたか 2) 中学・高校時代に二次障害に関する説明や健康管理に関する説明を受けたかを聞いてみました。その結果、ほとんどの回答で、痛みや筋力低下などの身体違和を感じ始めたのは20歳前後から、二次障害に関しての説明を医療機関や教育機関で受けた覚えはないとのことでした。


この様に医療機関を始め教育機関でも十分な指導や支援がなされないまま、当事者が「障害があるのだから努力しなければいけない。」、痛みの出現や身体が思うように動かない場合でも、「怠けていると思われたくない。」、「もう少しがんばろう。」との思いで無理をしてしまい症状を悪化させてしまうこともあります。幸いにもHさんの場合は、周囲の人たちや職場環境にも恵まれており手術に向けての準備は整いつつありますが、受け入れ可能な医療機関の有無には地域差があります。

 

北欧の福祉国家では脳性まひによる障害を生涯発達の視点から年齢に応じた医療支援システムがあると、スウェ-デンの作業療法士から聞いたことがあります。これは障害の特性に合った支援策をおこなう必要あることを、国民が認めているからこそ出来ることです。


しかし中負担、中福祉が国民の合意であるかのように言っているわが国では、具体的な支援策もないまま当事者と周囲の人だけが右往左往しているように見えてなりません。


私は、日本が北欧型の福祉国家になることを切望していますが、それは理想あり、残念ながら、日本の現状とはほど遠いといえるでしょう。子どもたちの二次障害を支援する方法を一つの提言をさせていただきます。それは校医が二次障害に関する診察を健康診断のときに行い、加えて子どもたちや家族、教員へ二次障害に関する知識やケアの方法を教育することです。また医療機関への橋渡しの役割まで担うことで、医療機関から疎遠になり始める学童期以降のフォローアップが可能になると思います。そのためには医師会の協力はもとより、現場の校医や受け入れ機関の障害児への理解が不可欠であると思われます。


前びわこ園園長 高谷清 氏は「ふつうの生活を社会の中で」と訴え、障害をもった子どもたちや家族が安心して暮らせる地域社会の構築、びわこ学園が医療機関として果たす役割を考えることが重要であると述べています。びわこ学園には常勤の整形外科医が不在であり二次障害に対する治療は出来ません。しかし専門機関との橋渡しをすることで成年期を迎えた人たちを支援します。


__________________________________________________________

1) 脳性まひは包括用語であり、その定義は「受胎から生後4週以内の新生児までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害、または将来正常化するであると思われる運動発達遅延は除外する。」というものであります。

2) 二次障害は、まひのある身体を無理して使うことによって起こる二次的な障害のことです。脳性まひ児の場合、多かれ少なかれ筋緊張があり、その緊張に抗して身体を動かそうとしますので、身体にかかる負担は健常者より大きくなります。その代名詞として頸椎症があり、極度の緊張や不随意運動で頸椎に無理な力がかかり、頸椎の軟骨が変形ししびれを伴う麻痺が出現します。

3) 障害児リハビリテーションの保険点数は、6歳未満1単位(20分)220点、6歳~18歳未満1単位190点、18歳以降1単位150点です。

筆者プロフィール

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

1982年 理学療法士免許取得
1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務
1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務
1988年ー 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務
兼務
関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師
同志社大学「こころの生涯発達研究センター」共同プロジェクト研究員

このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP