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第11回 私にとっての理学療法士という仕事

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

2009年2月 6日掲載

要旨:

発達に障害をもった子どもたちに理学療法士は何が出来るのか。未だに発達に障害を持った子どもたちに対する確立した理学療法が存在していないのが現状である。筆者は20世紀に行われてきた神経生理(発達)学的治療方法を堅持するのではなく、そこから何を学び今世紀の治療をどのように進化させるかを考えることが最も重要であると考えている。
今回は、理学療法という仕事に関してお話いたします。理学療法(physiotherapy, physical therapy)は「身体に障害のある者に対し主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行わせ及び、電気刺激やマッサージ、温熱その他の物理的手段を加えること」を指します。一般には、リハビリテーションと機能回復訓練は同義語として理解されていると思います。このような考え方は、私の考える理学療法とは異なり特に発達に障害をもった子どもたちに対しては有効ではありません。

 

私の理学療法に多大な影響を与えてくれたのは今から28年前に出会った子どもたちです。当時、私はまだ学生であったため時間があると東京医科歯科大学付属病院のリハビリテーション科でリハビリ助手として仕事をしていました。そこでは主に小児科と整形外科の子どもたちの機能回復訓練を手伝っていました。子どもたちの中には、白血病で余命半年と言われた少女や悪性腫瘍で足を切断した少女もいました。そのような子どもたちと過ごす時間が増える中で、日頃は明るく振舞っている子どもたちから、大人には言っていない本当の気持ちを聞かされる機会が多くなってきました。「わたしの命はあと半年なのよ」「わたしだって恋がしたい」子どもたちの悲痛な叫びの一言一言が、私の胸に深く突き刺さると同時に何も答えることが出来ない自分に憤りを覚え悩んだ日々を昨日のことの様に憶えています。その時、私を救ってくれたのは中公新書から出版されている日野原重明 著の『死をどう生きたか』でありました。「子どもたちの声に耳を傾け、その言葉に向き合い自分に今出来ることを誠実におこなうこと」は、亡くなっていった子どもたちから教わった大切な宝物です。今でも子どもたちからもらった手紙を見るたびに、あの頃思い描いていた理学療法士像に自分は近づけているのか、あの頃の子どもたちとの約束を守れているのか、考えることがあります。

では発達に障害をもった子どもたちに理学療法士は何が出来るのでしょうか。EACD Meeting(2002)の基調講演、「発達神経学におけるTIMEとTIMING」でHeinz Prechtl」1) は「個体発生適応」という概念に基づいて、各発達段階における中枢神経系の構造と機能は、その個体の内的環境および周囲の環境の必要性に適応しなければならず、発達上のある出来事は、発達上のある時期に、ある特定の中枢神経領域で起こるという「TIMINGの原則がある」と提唱していました。さらに、中枢神経機構が年齢に適した発達を成し得なかった場合、それを後で埋め合わせることはできないため、治療においては、年齢に適した介入がなされるべきであると述べています。言い換えれば移動経験をする時期に移動経験をしなければ、それを後で埋め合わすことが出来ないということでしょう。この事からも発達段階に沿った治療法では時間的限界が常に付きまとっていると言えます。

またEva Bower」2) は年齢によって運動発達の速度や運動技能の意義が異なることを示唆し、年齢に応じたリハビリテーションを展開する重要性について提言しています。これは「幼少期」では家庭や家族の中で必要とされる運動技能、「学童期」では学校や同年代の子どもの中で必要とされる運動技能、「青年期」では地域社会における友だちや同僚の中で必要とされる運動技能など、各年代に関連した必要性のある運動技能に焦点を当てるべきだということです。現在、重要なことは今行なわれている治療を検証することであり、子どもの運動技能が変化したか、変化したならばそれは治療介入による結果であるのかということを確かめるため、臨床場面において個々の子どもに対してシングルケース研究法に基づいて検証すべきであると述べています。

このように多くの研究者が子どもたちの治療方法に関して多くの示唆を与えてくれていますが、未だに、発達に障害を持った子どもたちのための確立した理学療法が存在していないのが現状であります。

2009年1月10日に開催された行動発達研究会第7回研修会においてアメリカのDelaware大学のCole Galloway」3) は小児の理学療法をTraining ではなくCoachingであると述べています。これは子どもたちの持っている運動を正常化することではなく、その運動方法を認めながら「もう少しこのように使うと良いかもしれないね」とアドバイスをするようにすることであり、セラピストが一歩さがった視点から子どもと家族を支援することです。彼もまた、早期からPMD(電動車椅子)を使用することを推奨している一人です。

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Cole Galloway(左)と著者(行動発達研修会にて)

私は、発達領域に携るすべての理学療法士が20世紀に行なわれてきたPhelps、Bobath、Doman、Vojta、Petoなどの神経生理(発達)学的治療方法を堅持するのではなく、そこから何を学び今世紀の治療をどのように進化させるかを考えることが最も重要なことであるように思っています。

___________________

1) HEINZ FR PRECHTL:1992年までオランダGroningen大学の発達神経学講座教授をなされ引退後は、オーストリアのGraz 大学で勤務しています。日本では『新生児の神経発達』日本小児医事出版社や『早期乳児の神経機能評価法 診断的手段としてのGeneral Movements』医学映像教育センターなどで有名です。『Time and timing in developmental neurology: consequences for intervention』のAbstractはDevelopmental Medicine &Child Neurology, Vol 44,Issue 10,P9.

2) EVA BOWER:イギリスのUniversity of Southampton School の理学療法士で著書には『FINNIE'S HANDLING THE YOUNG CHILD WITH CEREBRAL PALSY AT HOME』Oct.2008があります。『Developmental approach to motor rehabilitation』のAbstractはDevelopmental Medicine &Child, Neurology, Vol 44,Issue 10,P4.

3) Cole Galloway:http://www.udel.edu/PT/About%20Us/People/galloway.html


筆者プロフィール

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

1982年 理学療法士免許取得
1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務
1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務
1988年ー 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務
兼務
関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師
同志社大学「こころの生涯発達研究センター」共同プロジェクト研究員

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