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第3回 障害をもった子どもにとっての重力

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

2008年6月12日掲載

要旨:

子どもたちは、脳の損傷による異常な筋緊張と筋力の低下、筋のアンバランスという内在的な身体状況と、1Gという環境の間で何とか折り合いをつけようと努 力していいます。本稿では重力を軽減し姿勢制御を含む環境に適応する経験する治療機器をコンセプトに開発されたthe SPIDERについて紹介します。
「自由に身体を動かしてみたい?」、子どもたちに問いかけると「うん。」と、笑顔で答えます。しかし、いざ動いてみようとするとそこには重力という大きな壁が立ちふさがります。「子どもたちが宇宙空間のような無重力の世界に行けば、もう少し自由に動けるのになあ」呟きにも似た言葉を昔ボバース法1)の講習会で聞いたことを思い出します。

私たちは1Gという重力のある世界で暮らしていますが、日常の生活で重力を意識することはほとんどありません。しかし、病気で寝込んだ時など自分の身体が鉛の様に重く感じられることは、誰しもが経験したことがあると思います。

子どもたちは、脳の損傷による異常な筋緊張と筋力の低下、筋のアンバランスという内在的な身体状況と、1Gという環境の間で何とか折り合いをつけようと努力しています。不適応障害はそのような努力の結果、誤って身につけた方法であるといっても過言ではありません。

1993年にNorman Lozinskiは、The SPIDER(重力を軽減し姿勢制御を含む環境に適応する経験する治療機器)をコンセプトに開発しました。

The SPIDERは、身体から外に向かって張られたゴム紐が蜘蛛の巣のように見えるところからついた名前で、構造は身体に装着する留め具付きベルトと、弾力性の異なるゴム紐とを固定するための支柱もしくは枠から成り立っています。

report_07_03_1.jpg
The SPIDERを用いてのトレッドミル歩行
(Norman Rehabilitation and Medical Center)


The SPIDERを用いることで、身体の弱い部分をサポートしながら筋肉や関節内にある固有受容器やバランス能力に必要な前庭系・視覚系からの情報を容易に統合することができます。これにより空間における身体の位置を知覚することが可能になります。また、動き方を試行錯誤することで運動の多様性や、より効率的な運動を選択していく過程を自己学習できます。「もう何本か手があったらなあ。」、このようなことを言うセラピストは少なくありませんが、The SPIDERを用いることは、まさにセラピストの手を増やすことになります。

私もThe SPIDERに出合うまでは、子どもの動きを修正するハンドリング重視の治療を行なっていました。そのため子どもが自ら作り出した動きを自ら修正し、再学習する過程を共有する余裕すらありませんでした。またThe SPIDERを用いるまで子どもたちが理学療法の場面で汗をかくこともありませんでした。The SPIDERを用いることで子どもたちの Physical Fitness(健康であるための運動)が改善し、自重から解放されます。子どもたちの動きは明らかに変化し、思い切って身体を動かすことを楽しんでいます。

昨年オランダで開催されたEuropean Academy of Childhood Disability会議でも、Fitnessに関する研究が数多く報告されていました。

またDiane DamianoはDevelopmental Medicine &Child Neurology (2007) の巻頭言 "Pass the torch, please!" で、「私は皆さんが前進していくことを強く要求します。これまで、私達が知っていることを伝えてきました。他の方法に眼を背けるのではなく、学ぶのです。そういった人達に私達は探求の松明を手渡したい。」(Bobath K, Bobath B(1979): Transcript of award acceptance speech at First Curative Foundation Awards Dinner, Milwaukee WI, USA) の言葉を引用して、「神経科学の進歩により、理学療法は以前に増して障害児や障害者の生活の改善に貢献する目標を達成するため、すべての療法士が力を合わせて共に働き、奮闘・努力する必要がある。それは子どもたちこそが医学という科学から最良最善の恩恵をうける価値と資格があるからである。」と述べています。

我々も今までの治療の文脈に囚われることなく、新たな方法を探究することこそ、「Torch passer」(松明連携・継承者)として必要なことではないでしょうか。

report_07_03_2.jpgThe SPIDERを用いて立ちしゃがみ練習をしている
小学校2年生の篤矢くん(当センターにて)

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1)Bobath法とは、イギリスのボバース夫妻によって1940年代に始められた中枢神経疾患に対するリハビリテーションの方法のひとつです。脳や脊髄といった中枢神経系の可塑性を活用し、中枢神経疾患をもつ方々の機能改善をめざす治療です。
The Bobath Concept is a problem solving approach to the assessment and treatment of individuals with disturbances of tone, movement and function due to a lesion of the central nervous system. (IBITAH 1996)

筆者プロフィール

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

1982年 理学療法士免許取得
1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務
1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務
1988年ー 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務
兼務
関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師
同志社大学「こころの生涯発達研究センター」共同プロジェクト研究員

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