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子ども大学かわごえ2期目の活動が始まる

要旨:

子ども大学かわごえ21年度前期の特別授業として、「なぜ飛行機は空を飛ぶことができるのか?」、「映像学習と科学」の2つの授業が行われた。これは子ども大学かわごえの教育活動の3本の柱(純粋科学的な“なぜ”を追求する「はてな学」、“いかに”生きるかについて学習する「生き方学」、自分が住んでいる“どこ”を学ぶ「ふるさと学」)のうち、「はてな学」にあたり、後期授業計画では「生き方学」と「ふるさと学」にも力を入れる。10月10日に第2期の授業がスタートし、初回の授業は池上彰氏により行われた。


21年度特別授業 「なぜ飛行機は空を飛ぶことができるか?」 


子ども大学かわごえ初年度の授業は3月20日~22日の3日間に3大学(東洋大学、尚美学園大学、東京国際大学)で行われました。21年度の授業は、前期を休講として、1期目の授業結果を振り返ったり、新しい授業計画をつくることになりました。

 

report_02_97_1.jpgこのように一般の授業は休講ですが、特別授業として、東洋大学望月教授の「なぜ飛行機は空を飛ぶことができるのか?」4回シリーズの残り3回の授業を6月13日、7月4日、7月25日の土曜日の午後に行いました。3月20日の第1回授業は88人の出席者がありましたが、6月13日の授業では22人でした。2回目以降の連続授業は、第1回の授業に出席した学生のみ受講できるということが条件となっているなどの事情で、人数が減ったものと思われます。

88人が出席する授業は先生が教壇で話す講義タイプの授業形式となります。しかし2回目以降の授業では学生は22人ですので、5~6人ずつA、B、C、D4つのグループに分かれてワークショップ形式の授業としました。各グループには子ども大学かわごえ(CUK)会員の4名がファシリテーターとして参加しました。先生から教えていただいたことやクイズの問題をお互いに話し合い学び合うのがグループ学習の目的です。第1回授業の「飛行機の歴史」に引き続き、6月13日の第2回授業は飛行機を飛ばす力となる「空気のお話」でした。    
 
report_02_97_2.jpg教室の中では、高気圧、低気圧、渦、竜巻、台風といった空気がおこすさまざまな現象について学びました。また空気の力を実際に知るため水の入ったペットボトルを風船でもち上げたり、射的用鉄砲で様々な角度でコルクを飛ばして45度で飛ばすと一番遠くまで飛ぶという実験をしました。

2時間目の始め、校庭に出て電気式ヘリコプターの実演も見学しました。

 

望月先生の連続4回の授業は、7月25日(土)にいよいよその最終回を迎えました。「飛行運動を知ること」「力を知ること」を学び、学生たちは回を重ねるにつれ授業への関心を高めていきました。今回も出席学生18人が5、6人ずつABCD4つのグループに分かれ、各グループにファシリティターが加わって授業を行いました。

report_02_97_3.jpg色あざやかな紙飛行機の型紙と洋紙が先生から配られると、みんなワクワクしました。プリントしてある型紙は、望月先生のデザインによるものです。まず、カラーの型紙をはさみで切り取って、飛行機のペーパークラフトをつくりました。これにはのりを付けるので、乾くまでの間に、洋紙で簡単な紙飛行機を折りました。揚力、重力の力の位置の関係や、翼に反りを付けると安定することが分かりました。

また、のりが乾くまでの間、いつものとおりパワーポイントで「10のクイズ」がスクリーンに映し出され授業が進みました。特に、子どもたちが興味を持ったのは、「コンドルは1日どのくらいの距離を飛ぶ?」という質問に、「250キロメートルも飛べる」という答えだったこと。また、「コンドルの頭がなぜ禿げているか?」の質問の答えが、「頭を洗うのが嫌いだから」ということでエエッとみんなが驚きました。望月先生の説明では、コンドルは死んだ動物の腐った肉を食べるので、髪の毛に臭い肉や血の臭いがつくのを嫌っているうちに進化により髪の毛が抜けてしまったとのこと。「ハチドリのはばたきはどのくらい?」に対して、「1秒間に55回もはばたく」と知ってまたびっくり。クイズによって鳥から翼端(よくたん)渦(うず)や飛行のコントロールも学習しました。望月先生の魅力ある授業で、学生たちの瞳は知ることの喜びに輝いていました。先生もまた、子ども達と一体となって学べて楽しそうでした。

楽しく内容の深かった授業も最終回。みんなは望月先生手作りの博士号認定書を授与されて、博士になりました。そして、グラウンドへ飛び出して思い切り大空に向かって紙飛行機を飛ばしました。

「なぜ飛行機は空を飛ぶことができるのか?」の授業の中で、6年生の関根茉莉香さんから熱心な学習ノートが届き、また、4年生の福留悠太郎くんからは、懸賞論文の応募があり、実に堂々たる論文が提出されました。将来「子ども大学かわごえ」からノーベル賞受賞者が出るのも夢ではないかもしれません。

21年度特別授業(2)「映像学習と科学」

飛行機の授業の他にもう一つ特別授業がありました。この授業は、教室が川越でなく埼玉県川口市の早稲田大学川口芸術学校の教室となります。この点で通常の授業と異なりました。

この特別授業については、次にくわしく説明しますが、下の写真は早稲田大学川口芸術学校に隣接する川口SKIPシティ映像ミュージアムにおける映像制作中の様子です。
 
report_02_97_4.jpg8月5日(水)早稲田大学川口芸術学校と川口市立科学館にて、夏期特別授業が実施されました。川越からやや遠い川口での開催でしたので、電車の乗り継ぎや車での参加は大変でしたが、早朝より元気いっぱい総勢19名の子どもと24名の大人が参加しました。

午前中は隣の川口市立博物館を見学しました。学生全員は1グループ3~4名からなる6グループに分かれ、会員スタッフと行動を共にしました。

 

ここでは紫外線ブレスレットを作成しました。普段、目に見えない紫外線ですが、紫外線を感じると石の色が変化し、紫外線が来ていることを知らせてくれました。科学館には様々な装置があり、見学者自身が運転できるものが少なくありませんでした。「不思議な装置」を実際に触ってみて、真空の世界と私たちの世界との違い、反射、水圧や気圧、竜巻の発生など、学生たちは各々反応を楽しんでいました。
 
report_02_97_5.jpg午後最初に、早稲田大学川口技術学校副校長の高橋恭子先生より、映像とは何かについてお話を伺いました。その後、5つのグループに分かれて映像ミュージアムを見学し、映像制作の実習を行いました。芸術学校の学生がアシスタントとして各グループに付いて指導をしてくれました。見学した映像ブースの中から、自分たちが撮りたいものを決め、どういったメッセージをのせるかを一緒に考えました。映像を制作する場合に、監督の役や俳優の役など多くの役割があり、学生たちが自分でやりたい役を決め、実行しました。映像を作る場合、「実際にビデオに写り、記念に残してほしい」というのが大人の普通の願いですが、子どもたちのなかでは自身が俳優としてビデオに出演するよりも、監督、撮影者として「まとめたい」という希望の者が多く見られました。多分、初めての経験で恥ずかしかったのでしょう。いずれにしても、今回の学習で自分で映像を制作してみて、ふだん何気なく見ている映像も様々な役割を担う人々の共同作業の結果作られている、ということが実感できたのではないでしょうか。

各グループで映像制作をした後、高橋副校長の指導で発表会を行いました。自分たちが制作した映像を流しながら、「誰(対象)」に向けて「どんな(コンテンツ)」映像を作成したのかを各人が説明をしました。

21年度後期授業 学生募集

21年度の開講にあたり第2期生100人を募集しました。募集案内は9月11日(金)までに川越市と鶴ヶ島市の教育委員会経由各小学校の4~6年生全員へ配布されました。応募の期間は9月14日(月)から18日(金)までの1週間です。募集定員は100人ですが、第1期生の募集の際には3日間で120人を突破する応募があったので、今回は130人くらいまでは受け入れる用意をしていましたが、ふたをあけてみると応募者は計ったように100人でした。前回より応募者が少なかった点に関して教育委員会等関係者の意見を参考にすると、①前回は3月20日~22日の3連休の祝日を利用した授業だったので子どもたちも出席しやすかった、②土曜の午後はスポーツクラブの予定と重なることが多いので子ども大学の授業に出席できない子どもが少なくない、というようなことが影響したようです。②に関して言えば、前回の授業すなわち3月20日(金)~22日(日)の3連休の出席者は、それぞれ88人,66人,82人と、21日(土)の出席者が少なくなっていました。これは今回の現象と関係があるのかもしれません。

このように、土曜日の午後を子ども大学かわごえの授業時間とすると授業に参加できない子どもがかなりいそうだという状況が判明した一方、そのハンディキャップを考慮しても100人の子どもが応募してくれたという事実は、子ども大学かわごえには100人の固定客がいるということを示唆するもので、われわれ関係者をひとまず安心させるものでした。22年度以降従来通りの募集方針で進むのか、または再度アンケート調査等を通して授業日を変更するなど対策を検討することになりました。

後期授業計画

学生募集にあたって次のような21年度後期授業の計画を発表しました。

子ども大学かわごえの教育活動には3本の柱があります。純粋科学的な"なぜ"を追求する「はてな学」、"いかに"生きるかについて学習する「生き方学」、自分が住んでいる"どこ"を学ぶ「ふるさと学」です。3月に行った6つの授業はすべて「はてな学」に属するものでした。今年度は「生き方学」と「ふるさと学」にも力を入れることになりました。

10月10日(土)   教室 東京国際大学 第1キャンパス
講師 本学客員教授 池上彰氏
         1時間目授業テーマ 「お金のヒミツ」
         2時間目 テーマ  「世界地図はひとつではない」
11月7日(土)  教室 女子栄養大学
講師 女子栄養大学 根岸由紀子准教授
    授業テーマ 「おいもの科学-じゃがいもとさつまいも-」
12月5日(土)  教室 東京国際大学 第1キャンパス
講師 本学客員教授兼俳優 竹本孝之氏
    授業テーマ 「なぜコミュニケーションは大切か?」
1月23日(土) 教室 東京国際大学 第2キャンパス
講師 喜多院 住職 塩入秀知氏
    授業テーマ 「喜多院と川越」
講師 川越氷川神社 宮司 山田禎久氏
    授業テーマ 「川越氷川祭(川越まつり)と川越」
2月20日(土)  教室 東洋大学 理工学部
講師 東洋大学理工学部 吉野隆准教授
    授業テーマ 「なわばり線とかたちの科学」
3月6日(土)   教室 東京国際大学 第1キャンパス
講師 桜美林大学教授/元NHKラジオ講師 馬越恵美子先生
    授業テーマ 「異文化コミュニケーションを楽しもう!」


以上の授業のうち、竹本先生の授業はコミュニケーションの大切さを身体を使って学習する「生き方学」の授業であり、喜多院塩入住職と川越氷川神社の山田宮司の授業は「ふるさと学」そのものです。

第2期の授業が始まる
 
report_02_97_6.jpgいよいよ第2期(2009年度)がスタート、始業式と第1回目の授業が10月10日(土)、東京国際大学第1キャンパス112教室で行われました。
 

今期の入学者は100人(小学4年生39人、5年生45人、6年生16人)です。この日は新型インフルエンザや行事などで13人が欠席。一方、第1期の卒業生が4人出席しました。ほかに保護者83人、招待者24人、子ども大学会員35人等、総勢233人で、広い階段教室は満員になりました。招待者の中には来春、千葉・幕張に子ども大学第2号を開設する神田外国語大学の先生たちもいました。

 

始業式に先立ち、12時半から校歌の練習をしました。作詞は会員の小室志をりさん。子ども大学の理念を盛り込んだ格調高い詩です。作曲は日本作曲家協議会副会長(日本童謡協会常任理事)の伊藤幹翁先生。歌いやすく、品のある、しかも力強い、すばらしい曲です。この日はその校歌のおひろめです。伊藤先生が自らタクトを振るい、元NHK「うたのおにいさん」たいらいさおさんが本格的な歌唱指導、ピアノ伴奏長谷川美佐子さんで練習をしました。学生たちはすぐにメロディーになじんで行きました。

川越市長と鶴ヶ島市教育長が来賓挨拶

始業式は午後1時半から始まりました。壇上に角帽・黒いガウン姿の江夏健一理事長と遠藤克弥学長、来賓二人が並びました。

初めに学生たちが起立し、習ったばかりの校歌を元気よく斉唱、盛んな拍手を浴びました。
 
report_02_97_7.jpg遠藤学長が挨拶、「日本で初めて発足した子ども大学が2期目を迎えました。みなさんは子ども大学で一流の先生たちの授業を聞いて、学ぶ楽しさを知り、いろんなことに興味を持ち、将来の夢を創り出すきっかけとしてください」と述べました。

 

次に来賓の挨拶。初めに川合善明・川越市長が「子どもの好奇心を育み、学ぶ楽しさを知るというすばらしい企画の子ども大学が、どんどん伸びることを願っています。みなさんは、いろんなことに好奇心を持って自分で調べ、分かると、すばらしい感動を得られるでしょう。がんばってください」と、学生たちを励ましました。

 

新井周平・鶴ヶ島教育長は「一流の先生の講義を聞いて、いろんな新しいことを学んでほしいです。大きくなって仕事をするとき、いろんな疑問にぶつかります。そのとき、頭を使って解決していく智恵を子ども大学で身につけてください」と挨拶しました。
 

最後に酒井一郎事務局長が招待者を紹介してお礼を述べ、始業式は終わりました。

池上彰先生の授業 ☆第2期授業のトップバッター☆

2時から本学客員教授の池上彰先生による授業が始まりました。池上先生はNHK「週間こどもニュース」のお父さん役で人気のあった人で、いまはフリーのジャーナリストとして社会の様々な現象を分かりやすく解説することで人気のある方で、著書の出版やテレビ出演などで活躍中。今回は一人で2コマの授業を行いました。

1時限目「お金のヒミツ」=経済学 
 
report_02_97_8.jpg1時限目の授業は「お金のヒミツ」。池上先生は初めに「みなさんは子ども大学の学生ですから、大学生が勉強することを勉強してもらいます。お金の勉強は、大学では経済学といいます」と前置きして授業に入りました。

 

まず、財布から千円札を取り出して、「これ、単なる紙切れだけど、どうして買物が出来るのかな」と問いかけます。「価値があるから」「国が決めたから」と学生たちが名答。

 

「お札でいろんなことが見えてきます」と、肖像の入った各国の紙幣を見せます。日本の夏目漱石、中国の毛沢東。北朝鮮の紙幣には金日成。「この北朝鮮のおかね、だれも使わなくなりました。折りたたんだり、お尻のポケットに入れることが不敬にあたるとして扱いにくくなったからです」

 

次は、お金が登場するまでのいきさつ。「初めは物々交換。そのために市が立つようになり、やがてみんなが欲しがる物を共通に使うようになりました」。日本では稲、中国では貝殻。「お金に関係する漢字には貝がついています」と白板に「買」「貯」「貧」などを書き並べました。「その後、金、銀、銅という貴重なものが、お金として使われるようになりました」

 

そのあと銀行の話があり、最後に「みんなが欲しい物、喜んでくれる物を作ると、お金がもらえます。みんなに喜んでもらえる仕事をしてください」と締めくくりました。

2時限目「世界地図はひとつではない」= 国際関係論 

2時限目の授業は「世界地図はひとつではない」。「これは大学では国際関係論という学問です」。池上先生はまず、ボードにイギリスの世界地図を貼り出しました。ヨーロッパが中心になっていて、日本は東のはずれにあることを示し、「日本が極東と言われるのは、ヨーロッパから見てです」。
 
report_02_97_9.jpgこのあと、フランス、イラン、ヨルダン、台湾などの各国の世界地図を次々に貼り出して、その特徴を説明して行きます。「世界地図に描かれる国は基本的に4色で色分けできます」と言い、中国の地図を示して「日本の北方四島は何色になっているでしょうか。日本の色です。中国は、ロシアと対抗する意味で、北方四島を日本の領土と見ているのです」。北朝鮮の地図で日本とアメリカが無色になっているのは「国交を結んでおらず、国として認めていないからです」。興味深い話が続きます。

 

南北が逆になっている(日本もさかさま)オーストラリアの地図に、学生たちから「へぇー」という声が・・・。宇宙船から撮影した地球の写真も見せ、「国境線はありませんね。緑と砂漠の色分けだけ。日本は緑いっぱいですね」。

そして最後にオーストリア、ドイツで使っている学習用デスクマットを取り出し、日本を示すものとして芸者、相撲、忍者、ヒロシマのきのこ雲が描かれていることを取り上げ、「日本はこれだけではありませんね。大事なことは、その国の特徴を思い込みしないこと。その国に行って自分の目で見て自分の頭で判断しよう」と呼びかけて、授業は終わりました。

 

張りのある、ゆっくりした、わかりやすい話し方は、さすがプロ。子ども学生たちも池上先生の質問に積極的に答え、授業は大いに盛り上りました。
(つづく)

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