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遠距離の親子コミュニケーションにおいて、支持的な親をもつ子はよりよく過ごしている

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長期にわたり、親子が離れ離れに暮らしている場合、日々の経験や気持ちについて、同じ屋根の下に暮らしているときと同様に、あるいは同じ頻度で話すのは難しいために、関係性に苦労することがある。最近出版した論文において、筆者と共同研究者で(Friedman, Sigelman, Rohrbeck, & del Rio-Gonzalez, 2016)そのようなコミュニケーションを「遠距離コミュニケーション」として、論じた。遠距離コミュニケーションでは、キスやハグのような身体的な愛情表現はないものの、筆者らは「遠距離コミュニケーション」は親子関係を育み、維持するポテンシャルをもっていると仮説を立てた。一般の成人間の関係性や祖父母と孫の関係性における遠距離コミュニケーションにおいて言われているのと同様である、と考えたのである。また、地理的に離れていても、連絡を取り合うことでその子どもの機能性をサポートすることができると仮説を立てた。

この研究は、米軍で遠隔地に派兵された親とその思春期の子どもについての調査であったので、後者の仮説を探る小さな第一歩であった。もしも本調査、さらにはその後に続くものが、この一般的な仮説を裏付け、様々な年齢の子どもとの遠距離コミュニケーションの最適な質と量を導き出せれば、この新たな知見は、何か月も親と離れ離れになってしまう子どもや青年への介入としての根拠となりえるのではないか。

遠隔地に派兵された親と子どもの遠距離コミュニケーションについて、研究の分野ではあまり注目されてこなかった。米軍の家族においては、遠距離コミュニケーションが家族に耐性を与えると往々にして思われてきたが、派兵中の遠距離コミュニケーションと子どもの機能面についての関連性のエビデンスは殆どなく、複雑で結論に達していないばかりか、遠距離コミュニケーションと耐性が強化されることが常に関連付けられるという予想を裏付けるものはない。

本調査では、11歳~18歳の子どもに焦点を当てた。親が派兵されると子どもが情緒面や行動面のトラブルを抱えることが研究で分かっているほか、低年齢の子どもと違い、思春期の子どもなら、離れた自分の親とのコミュニケーションについて、また自分の感情や機能面について、一人でオンラインアンケートに答えることができるからである。質問としては、(a)遠隔地に派兵された親とのコミュニケーションの質と量について (b)コミュニケーションの質および量と子どもの機能面の関連性の二点を調査できるような内容を問うた。11~18歳の子ども75人に、遠隔地にいる親とのコミュニケーションの質と量について聞いた。コミュニケーションの量については、電話、メール、ソーシャル・メディア、テキスト・メッセージ、テレビ電話、写真の共有や手紙といった、様々な手段でのコミュニケーションについて聞いた。コミュニケーションの質については、親子で会話をしているときの、(a)肯定的、支持的、耳を傾ける、(b)管理的、支配的、の2種類の対話について聞いた。若い子どもたちに以下のような質問を聞いた。「学校で何があったか、どのくらいの頻度で親に聞かれましたか?」「どのくらいの頻度で、あなたに『次にまた会うのが待ち遠しい』と言ってくれましたか?」 「どのくらいの頻度で親から『もっと頑張りなさい』『もっと親切にしなさい』『そんなに落ち込むことはない』と言われましたか?」

また子どもたちに、健康と機能面について尋ねたり(例:「心身ともに健康だと感じますか?」「寂しいと思ったことがありますか?」「友達と楽しんでいますか?」)、遠隔地にいる親とのコミュニケーションが終わったときに、どのくらい悲しかったか、あるいは嬉しかったかを聞いた。子どもと同居している親/養育者にも、子どもの健康や機能面、思春期の子どもが遠距離コミュニケーションを終えてどう感じているのか、という同じ質問に答えてもらった。また、子どもと同居している親あるいは養育者には、子どもの問題行動についても聞いた(例:「突然、子どもの機嫌が変わることがありますか?」「ほかの人に残酷なことをしたり、いじわるをしたりしますか?」「家では言うことを聞きますか?」)。

子どもの回答からは、コミュニケーションの量と質について、大きくばらつきがみられた。1週間に平均10回、一度に平均9.6分のコミュニケーションをとっていることが分かった。また、コミュニケーションの質についても、かなりの個人差がみられたが、平均して子どもたちは殆どの場合、親から肯定的なコミュニケーションを受けとっていると回答した。また、平均して、支配的なコミュニケーションは「たまに」しかないと答えていた。

遠距離コミュニケーションの「量」における個人差は、特に電話、テレビ電話の場合、時差やプライバシーがないこと、遠隔地側の親がIT環境にアクセスがないことなど客観的な要素に関係していると思われる。しかし、電話、ビデオ電話、メール、ツイート、フェイスブックのメッセージ、郵便による手紙、あるいは小包などといったコミュニケーションの「量」は、家族のコミュニケーションのスタイルにもよるものと思われる。同居しているときのコミュニケーションの範囲は、家族によって異なるものだが、これが離れて暮らしても、引き継がれるものと思われる。家族のコミュニケーションのパターン理論は、会話志向性と従順志向性という家族コミュニケーションの二つの特徴を説明している。前者の特徴は、家族がコミュニケーションの環境をどの程度形成するのかにより定義されるため、本調査の結果と関連している。その環境においては、家族の全員が幅広いテーマについて自由にやりとりをして参加するように促されている。家族が同居しているときのコミュニケーション・パターンが、同居していない時とどの程度一致しているのか明らかになっていないが、将来的に理論主導の研究で検証する価値のあるテーマである。遠距離コミュニケーションの「質」の多様性はまた、家族内のコミュニケーションのスタイルの違いだけでなく、親子の関係性の違いをも反映しているかもしれない。さらに、遠距離コミュニケーションの「質」の多様性は、米軍家族が派兵中のコミュニケーションについて、矛盾していると思われる提案を受けていることを反映しているかもしれない。彼らは、一方でオープンにありのままを話すようにアドバイスされているのだが、同時に他方では、軍人として話せる内容に制限があったりする。

本調査では、コミュニケーションの量は、子どもの機能面に直線的に相関している訳ではないことが分かった。これは、派兵されている間の親子間コミュニケーションの量と思春期の適応の関連性については、さらなる研究が必要ということが言える。例えば、少なすぎる、あるいは多すぎるコミュニケーションが不適応につながる、あるいはコミュニケーションの質や量が相互作用する、といった曲線関係がみられるかもしれない。このような変数の関係性を紐解くには、さらに数多くの家族に参加してもらい、調査を進めなければならない。

コミュニケーションのが、思春期の適応に関係していなかった一方で、の良いコミュニケーション(つまり肯定的なコミュニケーション)は、子どものよりよい機能面に結びついていたことが、子どもからの回答で明らかになった。また、思春期の子どもは、派兵先の親と肯定的なコミュニケーションをとった後の方が、より肯定的な気持ち、あるいはより悲しい気持ちになった、と回答している。同居している親/養育者からも、離れた親との肯定的なコミュニケーションの後は、思春期の子どもの機能面が高く、肯定的な気持ちになっている、と回答していた。また同居している親/養育者は、離れた親が支配的な会話をすると、子どもがより多く問題行動を起こす、と回答した。今後の研究により、この結果が検証されるなら、肯定的な遠距離コミュニケーションを促す家族の条件、また支配的な遠距離コミュニケーションを抑制する家族の条件を特定することが重要である。また、家族がもつ対面コミュニケーションの概念が、遠距離コミュニケーションのあり方に影響を及ぼし、また間接的に思春期の機能面と関連していると予想している。

本調査は、米軍関係者の家族を対象に行ったものである。軍関係者と一般の家族では、生活の状況が異なるが、人間のコミュニケーション、育児、子どもの発達の根底に流れる原理については、普遍的であり、軍関係者だけ、あるいは一般市民だけに特有のものではないと考えている。


    参考文献
  • 1. Friedman SL, Sigelman CK, Rohrbeck CA, del Rio-Gonzalez AM, Quantity and quality of communication during parental deployment: links to adolescents' functioning, Applied Developmental Science
    http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10888691.2016.1207536
  • *本稿は、Applied Developmental Science (応用発達科学)誌掲載の記事をテイラー&フランシス社(http://www.tandfonline.com)社の許可を得て、複製・転載したものです。
筆者プロフィール
Sarah_Friedman.jpgサラ・フリードマン(Sarah Friedman, Ph.D.)

米国コーネル大学教育心理学で修士号を、ジョージワシントン大学発達実験心理学で博士号を取得。国立精神衛生研究所(NIMH:National Institute of Mental Health)や国立教育研究所(NIE:National Institute of Education)、国立小児保健発達研究所(NICHD:National Institute of Child Health and Human Development)、米海軍分析センター(Center for Naval Analyses)などでの勤務経験を持ち、1989年~2006年3月までNICHD長期プロジェクト「幼児教育および青少年育成に関する研究」の立案者および主任研究員を務めた。現在は、ジョージワシントン大学の研究教授。アメリカ心理協会、アメリカ心理学会、アメリカ応用予防心理学会会員でもある。
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