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イングランド報告—イングランドのprimary schoolにおける特別支援教育について

大塚 類(青山学院大学教育人間科学部教育学科准教授)

2015年3月13日掲載

要旨:

本稿では、2013年にイングランドの小学校にて行なったフィールドワーク調査に基づき、イングランドの小学校における特別支援教育の現状について報告する。 イングランドでは、日本の特別支援教育にあたる教育制度として、Special Educational Needs(特別な教育ニーズ)の頭文字をとったSENサポートがある。SENサポートは、子どもの障碍の種別ではなく、〈学習における困難さ(Learning difficulties)〉を基準として行なわれる。このことにより、従来の障碍カテゴリーの概念では支援されにくい子どもたち、たとえば、障碍はないが困難を抱えている子どもたち(英語を母語としない移民もここに含まれる)や、重複障碍の認められる子どもたちへの、適切な教育的支援が可能になっている点が興味深い。1週間のフィールド調査を行なった小学校では、正規の教員よりも学習支援員(その多くは外国籍)の数の方が多いなど、一人ひとりの子どものニーズに即した支援が行われていた。

キーワード:
特別支援教育、イングランド、小学校、SEN(Special Educational Needs)

本稿では、イングランドの特別支援教育についてお話ししたいと思う。 イングランドの特別支援教育と比較することで、日本の特別支援教育、もっと広く、さまざまな困難を抱えている子どもたちに対する教育について考えなおす機会になればと思う。

1.イングランドの特別支援教育について

筆者は一昨年、イングランドの特別支援教育の現状について学ぶために、約2週間にわたり、ロンドン郊外の小学校(primary school)でフィールドワーク調査を行なった。小学校での教育の具体的内容に入る前に、イングランドの教育制度と、そこで行なわれる特別支援教育について、ごく簡単に見ておきたい。

(1)イングランドの教育システム
誕生から2歳 Day nursery 保育所、Pre School プレスクール など
3歳 Foundation stage 基礎クラス   Key stage 0
4歳
5~10歳 Primary school 小学校
5歳:Year1 Key stage 1
6歳:Year2
7歳:Year3 Key stage 2
8歳:Year4
9歳:Year5
10歳:Year6
11歳~15歳 Secondary School
11歳:Year7 Key stage 3
12歳:Year8
13歳:Year9
14歳:Year10 Key stage 4
15歳:Year11

イングランドでは、3歳~4歳児(条件により2歳児も)の就学前教育が無償で提供されている。また、2~3年の年齢幅で構成されているキーステージごとに、国定カリキュラム(national curriculum)があり、必修科目と内容が定められている。

(2)SENサポート

イングランドでは、日本の特別支援教育にあたる教育制度として、Special Educational Needs(特別な教育ニーズ)の頭文字をとったSENサポートがある。SEND(Special Educational Needs and Disabilities=特別な教育ニーズと障碍)サポートと呼ばれることもある。特別な支援が必要な子どもについては、"children with SEN"あるいは"SEN children" といった言い方をする 。

イングランドでは、1981 年の教育法(Education Act)により、子どもの障碍の種別を基準とするのではなく、〈学習における困難さ(Learning difficulties)〉を基準として、特別な教育的手だてを講じる、と変更された。このことにより、従来の障碍カテゴリーの概念では支援されにくい子どもたち、たとえば、障碍はないが困難を抱えている子どもたちや、重複障碍の認められる子どもたちへの、適切な教育的支援が可能になったという。

イギリス政府のホームページでは、SENについて「子どもたちの学習能力に影響を与えるような特別なニーズや障碍(disabilities)」と定義し、5つ挙げられている。

  1. 友だちを作るのが難しいといった、ふるまいや社会性に関するもの
  2. ディスレクシア(識字障害)といった、読み書きに関するもの。ここには、移民などの理由から英語が話せないことも含まれる。
  3. ものごとに対する理解力
  4. AD/HD(注意欠陥多動性障害)といった集中力に関するもの
  5. 身体的なもの

子どもがSENを備えていると考えられる場合、保護者の希望があれば、アセスメント(assessment)が行なわれる。アセスメントでは、保護者、学校関係者、学校に携わる心理士、医師などによるインタビューが行なわれる。アセスメントの結果、子どもの教育ニーズについてのステートメント(statement)が発行される。このステートメントは、子どもの成長に合わせて、毎年更新されることになる。

2013年7月に出された報告書によると 、イングランドのすべての学校に在籍する児童・生徒のうち、SENのステートメント(statement)が作成されている児童・生徒は、生徒全体の2.8%であり、その割合は過去5年間変わっていないという。他方、ステートメントは作成されていないが、SENを備えている児童・生徒の数は、過去5年間、微減しながらも、約16%から約18%のあいだを推移している。ステートメントの有無にかかわらず、SENを備えている児童・生徒は、全体の約20%を占めていることになる。他方、日本では、文部科学省が2012年に実施した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」によると、「学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒」の割合が6.5%であるとされる 。この調査結果が発表された際に、大きな話題になったことは記憶に新しい。しかし、あくまでこの調査結果は、担任教師がそのように捉えている児童・生徒の割合であり、何らかの診断を受けたり、特別支援に繋がったりしている児童・生徒の実際の割合はもっと少ない。

(3)教育現場におけるSENを備えた子どもへの対応

教育現場において、こうしたSENを備えた子どもたちと責任をもって関わるのが、SEN coordinator(SENcoと略記されることが多い)、日本で言うところの、特別支援教育コーディネーターの教員である。

教育現場では、SENcoが中心となり、一人ひとりの子どもの特別な教育ニーズに対応して学校で提供できる教育や人的資源を、保護者と相談しながら決定する。それが、スクールアクション(School action)と呼ばれる教育計画である。さらに、子どものニーズに対応するかたちで、言語聴覚士といった外部の専門家によるさらなる教育計画を策定することもある。それが、スクールアクションプラス(School action plus)である。

こうしたSchool action/ School action plusに基づき、教育現場では、個別の教育プラン(Individual Education Plan =IEP)を毎年作成する。図1は、筆者が訪問したR小学校で実際に使用されている個別の教育プランである。左の列から、

I Can.(ぼく/わたしにできること)
Things I Find Difficult.(ぼく/わたしには難しいこと)
My Targets.(ぼく/わたしの目標)
What Will We Do?(わたしたちはこれから何をすればいい?)
How Have I Done?(ぼく/わたしはどうだった?)

という5つの項目を、学期ごとに埋めることになっている。興味深いのは、教師と保護者だけではなく、子どもがサインすることになっている点である。子どもに対する教育プランだからこそ、子どもが蚊帳の外に置かれるのではなく、子ども自身が当事者として主体的に関わることが認められているのである。

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図1 R小学校における個別教育プランのワークシート

2.R小学校での特別支援教育
(1)R小学校について

ロンドンから車で2時間ほどの郊外にあるR小学校は、約200名の児童規模(1クラス約30名でfoundationからYear 6まで年齢ごとに7クラス)の小学校である。周囲に大きな工場があることから、外国籍の子どもの割合が44%と非常に多いのが特徴的である。筆者が訪問した2013年9月には、21の異なる母国語を話す子どもたちが在籍していた。

そのため、R小学校では、EAL (English as an Additional Language=付加的な言語としての英語)や、ESOL (English for Speakers of Other Languages =英語を母語としない人々のための英語)や、TEFL (Teaching English as a Foreign Language =外国語として英語を教えること)についてのさまざまな取り組みが行なわれていた。イギリス全体における移民の増加を背景として、英語を母国語としない子どもたちへのどのように教育を提供するかが、大きな問題となっているという。実態として、上述したSENを備えた子どもたちのなかには、外国籍で英語が話せない子どもたちも含まれるのである。

R小学校では、58名の子どもたち(約28%)がSENを備えていると捉えられ、個別の教育プランが策定されていた。そのうち、ステートメントが作成されている子どもは7名(約3%)であった。

(2)R小学校での特別支援教育

R小学校では、校長・副校長も含めた正規の教員(Teaching Staff)が12名なのに対し、学習支援員(Learning Support Staff)が14 名にのぼっている。学習支援員には移民が多く、SENを備えている子どもたちに加えて、英語を母語としない子どもたちへの対応も担っていた。

R小学校のフィールド調査で印象的だったのが、SENを備えている子どもが、総じて明るく楽しそうに過ごしていた点である。移住してきたばかりで英語がほとんど話せない子どもも多く在籍していたが、周囲の子どもたちは慣れたもので、彼らのカタコトの英語を根気よく聴きとって通訳したり、彼らが言いたいのであろう英語をそのつど教えてあげたりしていた。

1学年約30名で構成されている教室には、担任教員の他に、学習支援員が1~2名常駐していた。学習支援員は、日本の学校現場でもしばしばみられるように、クラス全体を見ながら担任教員の補助にあたっていた。他方で興味深かったのは、担任が授業をしている同じ教室のなかで、SENを備えている子どもたち数名が集められ、学習支援員による個別指導に近い支援が行なわれていた点である。同じ教室にいながら、違う勉強をしていても、SENを備えている子どもたちも、それ以外の子どもたちも、さも当然のように自分の勉強を進めていた。また、学習支援員の多くが外国籍であり、外国籍の子どもたちに彼らの母語で対応できるように工夫されている点も興味深かった。

短い期間のフィールド調査から言えることは少ないが、R小学校では、特別支援が〈特別な〉〈特殊な〉支援ではなく、一人ひとりの子どものニーズに応じた支援として、気負わずに行なわれているように筆者には感じられた。

筆者プロフィール
Rui_Otsuka.jpg大塚 類(青山学院大学教育人間科学部教育学科准教授)

東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。日本学術振興会特別研究員PDを経て、現在は、青山学院大学教育人間科学部教育学科・准教授。専門は、教育方法学、教育実践の質的研究、臨床教育学。『施設で暮らす子どもたちの成長』(東京大学出版会、2009)、『現象学から探る豊かな授業』(共著、多賀出版、2010)、『家族と暮らせない子どもたち』(共著、新曜社、2011)などの著書がある。
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