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論文・レポート

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ワークショップとは?

ヒレル・ワイントラウブ (はこだて未来大学 教授)

2003年5月23日掲載

要旨:

本稿で著者はワークショップの基本的な考え方を「Heads Up(周りのことに敏感になる)、Hearts In(熱中する)、Hands On (参加する)」という言葉でまとめている。上手に企画すれば、皆が夢中になり、本やテレビやインターネットを通しては出来ない方法で私達の心に影響を与える。著者が企画したFeeling Hakodateというワークショップも、他の研究者と共に関わった科学技術振興事業団(JST)主催の「知の創造ワークショップ」も、デザインの際に重点を置いていた「アトリエ」、つまり解放された共同作業場の概念を取り入れることができれば、ほとんどの学校や職場、あるいは研究所で見られる、閉ざされた学習環境とは全く異なる、共同学習の場を助長し発展させることができるだろう。

1.
私は学生達に、質問には良い質問と悪い質問があるのだという考え方を紹介するようにしています。「良い質問」つまり役に立つ質問とは、それによって私達が広い考えを持つことができ、言葉や出来事の背景にたくさんの微妙なニュアンスが隠れているのだと気付かせてくれるものです。一方「悪い質問」とは、その言い回しによって、答えが一つしかない、もしくは一つの物の見方しかないと私達に思わせるものです。時に私達は、このような悪い質問によって、その前後関係にある大切な条件、あるいは、その背景にある意味や出来事に気付かず、両極端な二つのもののうちどちらか一つを強制的に選択させられています。(このような例として、いつも私が思い出すのは、幼い息子たちが日本でよく聞かれた「お母さんとお父さん、どっちが好き?」という質問です。)

 

例えば、「野球って何?」という質問は、野球というものがたった一つの答えしか持たないように聞こえますが、実は人の数だけたくさんの意味があるのです。日本の野球はアメリカの野球と同じようにとらえられているかもしれません。しかし、その背景には異なることがたくさんあります。そして、もちろん野球が何を意味するのかも人によってそれぞれ異なります。ですから、個人的な経験やその前後関係を考慮に入れるとすれば、「あなたにとって野球って何?」とか、「一般にアメリカ人にとって野球って何?」という質問をすることになります。

 

今月のテーマ「ワークショップとは?」の前置きが長くなってしまいましたが、皆さんにはこのテーマを見て「ん?、これは悪い質問だ!」と思って欲しいです。なぜなら、この質問はワークショップがたった一つの意味しか持たないような印象を与えるからです。でも実は、野球の例と同じで、状況によっても、人によっても異なった意味を持つのです。

 

今週始め、私は函館市の郊外にある小さな町で合宿を行いました。その合宿には学生が15人と先生が2人参加しました。合宿のテーマは「ワークショップについて考える」で、私達はワークショップが意味するものについて話し合い、それを実践しました。今月末には、同じような趣旨のイベントを大人の教育者向けにも行う予定です。様々な教育の分野にたずさわっている私の友人達も同様のプロジェクトに関わっています。つまり、「ワークショップデザイン」というテーマは、今とても注目されているのです。

 

しかし、ほとんどの日本人の方は、ワークショップについて、私が思い描いているものとはかなり異なった捉え方をしていることに気付きました。日本では、学会やイベントの一環としてワークショップを開催する場合、たいてい専門家による講義が行われます。しかも、参加するのは限られた人数(20~30人、時には100人)の聴衆だけです。講義の後、話し合いの時間が持たれますが、聴衆はあまり積極的には参加していないようです。

 

このような一方的なワークショップの在り方については、様々な人達が異議を唱えています。外国で教育にたずさわったことがある人、異なった学習法を体験したことがある人などが期待しているのは、もっと別のワークショップです。私はその基本的な考え方を「Heads Up(周りのことに敏感になる)、Hearts In(熱中する)、Hands On (参加する)」という言葉でまとめました。この考え方の根底には「知力、技量、心を働かせる」つまり、「頭と精神、手と体全体、そして心と感情を結び付ける」という意味が込められています。

 


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2.
「ワークショップ」の基本的な考え方を、私は「Heads Up (周りのことに敏感になる)、Hearts In (熱中する)、Hands On (参加する)」という言葉でまとめましたが、それについて11月中旬にCANVASと呼ばれるNPO(特定非営利活動法人)のために私が企画したワークショップを例に挙げながらお話したいと思います。このワークショップの様子はホームページ にも掲載されています。これは日本語のサイトですが、Q&Aのページは日本語と英語で書かれています。

 

「Heads Up!」という英語は、相手が自分に向けて予期していなかったものを投げかけてきた時に使います。また、何かびっくりするようなことが起きるぞ、という場合の、冗談めいた警告でもあります。眠っちゃダメ!目を覚まして準備していなさい。今、周りで何が起きているのか気を配って! とか、 大切なのは、自分の周りで起きていることに神経を集中させること。心の歯車を噛み合わせなさい! といった意味の中にもほのめかされています。

 

学校の教室を始めとする数々の状況において、人はその「一部」になるべきなのに、むしろ自分を起きていることから「隔離」しています。ワークショップ(プレイショップ)の設計者としては、参加者が自然に惹き付けられ、夢中になれるアクティビティや空間をデザインすることが、私の重要な仕事だと思っています。このことについて、もう少し詳しくお話しましょう。

 

はこだて未来大学での同僚、美馬のゆりさんと私が共同で企画し、アシスタントの水戸部聡子さんや未来大学の学生3人の協力を得て行った2日間のCANVASワークショップを、私はFeeling Hakodate(函館を体感する)と名付けました。このワークショップの目的は、一つに函館の街について新たな発見をしてもらうということと、二つめに、ワークショップの基本的な考え方を一緒に探っていこうというものでした。私達は、11才から60才までの18人の参加者が一緒に同じアクティビティを体験できるように入念に計画しなければなりませんでした。

 

ここで、「Hearts In(熱中する)」と「Hands On(参加する)」という考え方が大切になります。頭の中でだけ参加するワークショップは決して十分とは言えません。活発にしなければならないのは頭だけではなく、全身なのです。ワークショップは、言ってみれば「多感覚的」なものでなければなりません。しかし、情報通信技術(ICT)の分野では、長年にわたってマルチメディア(複合媒体)という言葉がキーワードとなっており、テレビ(Television)、電話(Telephone)、遠距離通信(Telecommunication)のような、単に視覚的、視聴覚的なメディアに頼り過ぎていると思います。(teleという接頭辞は「遠くの」とか「距離がある」を意味します。)遠距離通信を発展させるために、科学技術が重視されていることを受けて、むしろ私達は参加者に函館の街を「身近で」体験してもらうことにしました。彼らが熱中し、参加するためには、頭だけではなく、全身で取り組むことが大切だからです。

 

そこで、まず企画者が基本的な空間やアクティビティを決め、参加者がそのワークショップの雰囲気的な流れに加わっていくわけですが、今度はそこに遊び心を取り入れます。まず始めに、私達は単なる架空の状況よりもむしろ信憑性のある状況を作りたいと思いました。ちょうどその頃、函館市役所では市内にある3つの市場に関して問題を抱えていることがわかっていました。そこで、ワークショップの参加者には、函館に到着するとすぐに、特別チャーターバス(サロンタイプと呼ばれ、乗客が応接間に居るように、互いに向かい合って座ることができるバス)に乗ってもらい、車中で函館市役所の商業振興課長を務める辻氏から、市場に関する問題について説明を受けた上で、実際にこの3つの市場について調べて、辻氏に感想や意見を持ち帰ってくるよう課題を出しました。確かに、時間にかなりの制限はありましたが、こういった現実的な課題はすぐに全員の興味を惹きました。

 

そして、最初に訪れた市場の中にある寿司屋でおいしい昼食を食べた後、参加者はグループに分かれ、調査に出かけました。1時間後、私達は2つ目の市場に行き、そこでさらに1時間調査をしました。それが終わると今度は路面電車を借りきり、その電車の中でmoving reflection(移動型「振り返り」)と名付けたアクティビティをしました。この電車は60年間函館市内を走り続け、現在は観光用の車両として活躍しています。途中、地元のサックス奏者が偶然乗り合わせ、函館の夜を走り抜けて行く私達の空間に素敵な音楽を添えてくれました。そして、ホテルに戻り温泉を楽しんだ後、料理長による地元の有名な料理「イカソーメン」造りを見学しました。食事をいただいた後は、地元の昆布漁師さんを招き、彼の語る漁師生活に聞き入りました。この夜の2つのアクティビティはまさに「Heads Up(周りのことに敏感になる)、Hearts In(熱中する)、Hands On (参加する)」の3要素を重視した内容になっていました。

 

実は、このワークショップと「イカ」には繋がりがあり、このワークショップ期間中に体験したことのすべてがイカに関連していました。函館市の魚がイカであることから、私達はイカを今回のワークショップの象徴にしました。CANVASのホームページをご覧になると、そこにもイカのイラストが描かれています。ホテルの料理長がイカソーメンを造るところを見学した後、参加者全員にもイカソーメン造りに挑戦するチャンスが与えられました。テーブルには包丁とまな板、そして8パイのイカが準備され、料理長の指導のもと、今まで私達が間接的にしか知り得なかったことを実際に体験しました。中でも、のゆりさんの11才の長男春彦くんが一番熱中していました。

 

生き物に刃物を入れることに抵抗があった参加者もいましたが、他の仲間が自分の目の前でそれを体験しているのを見るだけでも、興味深い体験だったでしょう。このワークショップの参加者の一人、チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)の鈴木桜さんは、このイカソーメン造りと以前私達が参加した奈良県での和紙作りのワークショップ(Playshop 2000 in Nara)には共通するところがあると言っていました。まさにそのとおりです!参加者の表情を見たところ、皆がこの作業に全身全霊を傾けていました。

 

夕食を済ませ、昆布漁師さんのお話を聞いた後、実は他にも皆をあっと驚かせることが残っていました。(それは、茶椀蒸しの器にコーンスープが入っていたことよりももっとびっくりするようなことでした。)その日を締めくくるのにふさわしい、もう一つの多感覚的なアクティビティを用意していたのです。突如、私達の前に3人の若者が現れ、地元に伝わる「イカ踊り」と呼ばれるダンスを披露してくれました。その若者達は地元の「よさこいソーラン踊り」のダンサーで、私達にイカ踊りを教えてくれました。とても楽しかったです!輪になって踊ることで、私達は今まで感じたことのない一体感と、「函館の街を体感する」という、その日一日の全ての出来事が身体の中に染み込んでいくのを感じました。

 

次の日は早起きして(といっても最初の予定よりも1時間遅い集合時間にしたのですが)、バスで観光名所にもなっている函館朝市に向かいました。そこで新鮮な魚介類たっぷりの朝食を済ませた後、地元の人々との会話を楽しんだり、写真を撮ったり、1日目に周った他の2つの市場と比較しながら朝市を散策しました。朝市を後にすると、今度は老人ホームを訪問し、ホームに住む人達と一緒に昼食をいただきながら、半世紀前の函館での暮らしについて直接話を聞きました。ここでもまた、別の視点から函館を身近にを知ることができました。

 

最後は、はこだて未来大学を見学しました。そして、辻氏に渡すための感想や意見をまとめた「本」の製作をしました。イカ踊りに象徴されたように、この本を作ることで今回のワークショップの内容がすべて一つの循環したアクティビティになりました。

 

出来上がった本の実際の厚さはとても薄いです。その本は、いわゆる参加型メディアとしてのインターネットを通しても見ることができます。しかし、これは私達が体感したFeeling Hakodateというワークショップの内容の濃さとは比べものになりません。それがワークショップの醍醐味なのです。上手に企画すれば、皆が夢中になり、本やテレビやインターネットを通しては出来ない方法で私達の心に影響を与えるのです。このような「Heads Up(周りのことに敏感になる)、Hearts In(熱中する)、Hands On (参加する)」の3要素を盛り込んだ企画を考えることは、とても大切です。

 


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3.
一年の始めは、それまでを振り返り、改善そして向上していくことをあれこれと考える時期です。一方、年の瀬の行事に関しては、ある種の物足りなさと共に、一年の締めくくりをするんだという気持ちが湧いてきます。またそれと同時に、蓄積されている精神的、肉体的エネルギーを一気に掻き集めようという気持ちにもさせられます。私は去年の年末(12月25~27日)、この種の活力集中型のワークショップに参加しました。このワークショップは日本科学未来館(MeSci)で行われました。(日本科学未来館の英語と日本語で書かれたホームページはこちら)

 

興味深いと思ったことの一つは、このDancing Science Technology and Art-科学技術と芸術-知の創造に向けて-と名付けられたワークショップ(以下「知の創造ワークショップ」)と、CRNがここ3年間行ってきた様々なプレイショップとの間に、たくさんの共通点があると気付いたことです。科学技術振興事業団(JST)が主催したこのワークショップの企画にたずさわった4人(上田信行さん、須永剛司さん、宮田義郎さんと私)は、「プレイショップI」にも参加したことがありました(ホームページ 参照)。須永さんと彼の娘さんは参加者として関わり、他の3人は「プレイショップ I」の主な企画グループのメンバーでした。

 

この「知の創造ワークショップ」は、決してプレイフルを単純に真似たものではありませんでした。むしろプレイフルを確実に発展させていて、より個性的なものでした。まるで、子どもが親と異なる独自の人格を持ち、いろいろな面で親を越えていくように、「知の創造ワークショップ」は、楽しみながら積極的に参加できる学習法やワークショップデザインについて多くの基本的な考え方をプレイフルから受け継ぎ、それを進展させていました。個人的には、積極的な「振り返り」やプレゼンテーションの方法が特に進歩していたと思いました。

 

この2つのワークショップの共通点に関して進歩が見られたのは、様々な年代や背景の参加者を集めたことでした。どちらのワークショップにも、年代や背景の異なる参加者が一同に会していましたが、「プレイフルI」には、5~6才の子供達が両親や先生と一緒に参加したのに対し、「知の創造ワークショップ」では、12~17才の子供達が両親や初対面の芸術家、科学者、技術者達と共に参加しました。また、「プレイフルI」では、新しい「家族」がグループ分けされましたが、参加した子供達はアクティビティにすっかり夢中になって、自分達の父親や母親と一緒にいられなくても寂しがる子は一人もいませんでした。そして、「知の創造ワークショップ」に参加した子供達も同様、両親を恋しがることはなく、むしろ参加者の一人だった少女は「両親といるよりも他の参加者といる方がずっと気が楽だ」と話していました。「知の創造ワークショップ」では、「プレイフルI」より多くの異なった年代や背景をもつ人々を一緒に参加させることによって、幅広い視点での作業が実現できたと思います。

 

「知の創造ワークショップ」のテーマについても、プレイフルより進歩しているようでした。プレイフルのテーマは、生活や学習環境の中での遊び心の大切さという一般的なものでしたが、今回の「知の創造ワークショップ」では、年齢や職業や技術が異なっている参加者の積極的な共同作業に焦点を置いていました。その目的とは、こういった様々な状況を融合させたり、科学と芸術、そして技術の間の境界線を消すことで、新しい調和を作り上げる作業を確立していこうというものでした。

 

また、どちらのワークショップに関しても、「アトリエ」つまり解放された共同作業場にデザインの重点が置かれていました。そういえば、少し前に話題になった「開かれた教室」という考え方は今ではどうなってしまったのだろう、と私はその時思い出しました。このアトリエの概念を取り入れることができれば、ほとんどの学校や職場、あるいは研究所で見られる、閉ざされた学習環境とは全く異なる、共同学習の場を助長し発展させることができるでしょう。

 


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この内容は2002年11月より2003年1月にかけ、Archive of CRN Home Page Topics for Discussionに3回に渡って連載されたものを編集、翻訳したものです。

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