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所長ブログ

Director's Blog

保育現場では三密を避けることはできない

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年8月21日掲載

新型コロナウイルス感染症対策について、保育士の方から次のような悲鳴が届いています。

「保育は子どもに寄り添うのが原則ですが、ソーシャルディスタンスを取りながら保育をすることが可能なのでしょうか?」

答えは、「No!」です。子どもとの間に2mのソーシャルディスタンスを取りながら、保育をすることなどできません。乳幼児は、親や保育者との間に愛着関係を結びながら育っていきます。子どもを抱きしめたり、身体的接触のある遊びをしたりすることによって、子どもは健全な社会性と共感性を発達させていきます。子どもの愛着行動は、親や保育者のそばにいたい「近接欲求」によって引き起こされます。こうした子どもの近接欲求が満たされない育児行動は、ネグレクトに当たります。

乳幼児期の子どもは、自分の情動のコントロールを自分自身で行うことができません。泣くことによって親や保育者から抱きしめられ慰撫されることで、心の安寧を保つことができるのです。

新型コロナウイルス感染の拡大を予防するためには、大人にはソーシャルディスタンスが求められますが、保育の現場は例外とするしかありません。

また、こうした例外は保育だけではありません。医療の現場では、たとえその患者さんが新型コロナウイルス感染者であっても、医師や看護師は患者に寄り添い、必要があれば患者の身体に触れて治療をします。治療することを手当てするというのは、「手を当てる(手で触れる)」というところから来ています。

もちろんそのために、医師や看護師は、医学的な知識を最大限に活用して、手の消毒から始まって、防護服やマスク、フェイスシールドで感染を防御しながら患者の手当てをしてゆくのです。

保育や介護の現場では、三密ルールやソーシャルディスタンスは例外とするというのが出発点と考えるべきです。
幸いなことに、乳幼児の子ども同士で新型コロナウイルス感染が起こるのは、極めて稀です。また、感染の方向は子ども→大人ではなく、大人→子どもが大部分です。

医師、看護師のような重装備の対応はできませんが、保育の現場では、保育士がその専門職としての自覚をもって、自分自身が感染しないことを心がけるべきでしょう。

最近PCR検査を、症状や濃厚接触の有無にかかわらず、本人自身の希望で受けることができるようになりました。ネットで探せば、検査を行っている医療施設を探すことができます。保険適用ではないため検査費用はまだ高価ですが、保育士が定期的にPCR検査を行えば、大人→子どもの感染を最小限にすることができます。こうした検査の費用負担は保育士本人ではなく、公費負担とすることは当然ですが、それが実現するまでの間は、園や保育団体が一時的に負担することも考えなくてはなりません。そうすることで、保育士の不安も軽減できるでしょう。
保育士、介護士は、PCRや抗原検査を積極的に行って、三密を回避するのではなく、本来の寄り添う保育を目指すべきだと思います。

筆者プロフィール

sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。

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