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所長ブログ

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子ども対保育者比は、低い方が本当に良いのか?

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年9月25日掲載
自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害などの発達障害の子どもは、普通学級より特別支援学級(学校)で教育を受けた方が良いとい言われる理由の中に、子ども対教師比が低ければ、教師はより細かく子どもの様子を見ることができ、一人一人の個性にあった教育ができる、というものがあります。実際普通学級では子ども約30人に教師が1人、一方特別支援教室(学校)では、教師1人につき子どもは4人です。

これと同じ考え方が保育(幼児教育)界にもあります。保育園では一人の保育士が見られる子どもの数は子どもの年齢によりますが、たとえば4歳児では、子ども30人に保育士1人となっています。一方、ニュージーランドやスウェーデンでは、幼稚園教諭1人当たりの子どもの数は5~7人です*。以前保育関係の国際学会の場で、日本の代表の方が、「日本はいい保育をしていると自負しているのですが、何しろ1人当たりの保育者の担当する子どもの数が発展途上国並みなので、ヨーロッパの保育界ではなかなか評価してもらえません」と嘆いていたのを聞いたことがあります。

保育者1人当たりの担当する子どもの数が少ない方が良いというのは、当たり前だと思う方が多いと思いますが、本当にそうなのでしょうか?

保育者1人あたりの子どもの数が少なければ、当然一定時間内の保育者と子どもの接触時間が多くなります。でもそれは逆に、子ども同士だけでの接触時間が少なくなることになります。つまり、より良い子ども対保育者比の問題は、子どもは保育者との接触と子ども同士の接触のどちらがより良く学べるのか、という問題に帰着します。

賢明な読者は、次のように答えられるのではないでしょうか。「それは、何を学ぶかという内容によってどちらとも言えないでしょう。保育者との接触を通じてより良く学べることもあれば、子ども同士の接触の中で学べることもあるのではないか」。また別の見方から同じ結論に達する読者もいるでしょう。「もし保育者1人当たりの子どもの担当人数が少ない方が、より良い教育(保育)ができるのだとしたら、ニュージーランドやスウェーデンの子どもたちの方が、日本の子どもたちより優れていることになります。でもそうした事実はなさそうなので、どちらが良いとは言えない」と。

しかし、少なくとも保育の世界では、子ども対保育士比が少ない方が良い保育であるという考え方が広く信じられています。私にはそれが理解できず、保育研究者の方に聞いているのですが、誰も満足のゆく理由を教えてくれません。

でも最近全く別の方向から、この問題を解く鍵になるのではないかという見方が入ってきました。日本とアメリカ、中国の保育の違いを、文化人類学の立場から見事に描いてみせたアメリカのジョセフ・トビン教授と一緒に研究をされた林安希子さんが、膨大な日本の保育現場の記録から、日本の保育の特徴を描いた著書**の中にその見方が示されていたのです。

トビン教授や林さんは、日本の保育園・幼稚園では、子ども同士の喧嘩や揉め事を保育者はできるだけ介入せずに「見守る」ことが多いことを見出しています。そうした事実の背景として日本で「一人の保育者に対する子どもの数が維持されているのは、文化的な理由」があるからであり、また「1クラスが少人数だったら、教師たちはより介入する傾向になり、その結果子どもたちは大人に介入されずに感情に満ちた場面で仲間と対話する機会を逃すことになる」からであると述べられています。さらに著書の別の場所では「(こうした日本の慣行は)大きいクラスサイズへの価値観であり、暗黙の文化的信念の反映でもある」と考察されているのです。

これをお読みの保育・幼児教育実践者や研究者の方は、是非こうした視点で、日本の保育・幼児教育の姿を、欧米に向かって主張していって欲しいと思います。


筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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