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所長ブログ

Director's Blog

子どもはなぜ明るいか? 

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年7月31日掲載
私には、診察室で初めて診る子どもに必ず聞く質問があります。
それは「大きくなったら何になりたい?」という質問です。質問に対する答えから、その子どもが私の質問の意味を理解しているかを推察できます。そしてそれは、子どもの言語能力だけでなく、未来に向かった想像力があるかどうかを知る鍵になります。

長年この質問をしてきた中で、気がついたことがあります。それは子どもの年齢層によって、定型的な答えがあるということです。

幼児期の子どもの定型的な答えは:「ケーキ屋さんになりたい」「消防士になりたい」「運転手になりたい」「スターになりたい」「サッカー選手になりたい」などです。園での遊びや、絵本、テレビなどからの影響なのかなと思いながら、楽しんで聞いています。時に予想もしない答えが返ってくることもあります。「ロボットになりたい」「お線香を作る人になりたい」「お兄ちゃん」など。
お線香を作る人になりたいと答えた子どもは、テレビのドキュメンタリーで見たようです。「お兄ちゃん」はまだ4歳の男児の答えですが、幼いとはいえ、自分が成長して歳をとるとお兄ちゃんになるという未来のことを思い描くことができるという意味で合格です。
また「ユーチューバーになりたい」「アニメクリエーター」という新手の答えも時々聞かれ、目を丸くしてしまうこともあります。

こうした具体的な将来像について語ることのできる子どもが、小学生になると、途端に定型的な答えが変容します。小学校中学年以上になると、ほとんどの子どもが押し並べて「まだわからない」「考えたことがない」という答えをしてきます。幼児期より未来を見通す力が減弱したのでしょうか?

私の解釈は、小学生になると、現在の自分と未来の自分をより具体的に結びつけることができるためではないか、というものです。幼児は、現在の自分の状態に全くとらわれずに答えるのに対し、小学校中学年以上の子どもは、現在の自分を未来に投影して考えるようになるのです。自分はスポーツが得意でないことに気づいている子どもは、野球選手やサッカーの選手を将来の自分の姿とはみなせなくなります。またケーキ屋さんになれば毎日美味しいケーキが食べられるわけではないことを知れば、ケーキ屋さんは将来の希望から外されます。勉強が苦手な子どもは、発明家になるという夢を捨ててしまうでしょう。

自分自身を客観的に眺めることができる能力をメタ認知と言いますが、これは10歳頃に発達する能力であると言われています。
まだ自分を相対視することができない子どもたちは、現実に囚われないファンタジーの世界の中で夢を膨らませることができますが、メタ認知が発達すると否応なく現実の自分の能力の限界も見えてしまうのです。

新型コロナウイルス感染症の拡大や、不安定な世界情勢の中で、私たち大人はなんとなく暗い気分になってしまいますが、幼児期の子どもは意外に元気であるという意見を聞きます。それは子どもたちが、まだ現実とファンタジーの世界の両方の住民であるからなのではないでしょうか。大人は暗い気分でいても、小さな子どもの明るさが世界を救っているような気がします。

私には3歳半になる孫がいます。ちょっとひょうきんなところのある明るい男の子です。先日、七夕の短冊に、大きくなったらなりたいものを書いてくるように、というお題を園長先生から出されました。短冊に書かれた彼の答えを知って、「ああここに世相に邪魔されないファンタジーがある」と、私はとても明るく嬉しい気持ちになりました。
短冊には「じゃがいも」と書かれていたのです!

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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