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所長ブログ

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何か変だよ、日本の教育(2) 教師によるいじめは存在しない?

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年7月10日掲載
私はある地方自治体の、学校でのいじめに関する第三者委員会の委員を務めています。

学校でのいじめには、主に教員と教育委員会が対応していますが、学校内でいじめが発生したことをあまり対外的に知らせたくない、という心理が働いて、学校と教育委員会の身内だけで解決しようとしてしまうことがあります。私が第三者委員を務める地方自治体では、首長さんの判断で、私のような小児科医や臨床心理士などの専門家を委員とする第三者委員会を設け、必要に応じて利害関係のない立場からいじめ事例について調査等を行うようにしたのです。

とはいえ、実際に私たちが調査しなくてはならないいじめ案件は、委員会発足以来一件もなく、毎年定例の会議で、教師や教育委員会で解決できたいじめ案件についての報告を受けることが主な業務でした。

ところが前回は少し様子が異なりました。委員の一人がネット上に、この自治体内の公立学校で起きた、教師による生徒へのいじめの疑いの事例報告があることに気づいたのです。私たち第三者委員会への報告がなかったので、その理由も含めて自治体の担当者に聞くと、それは教師が生徒にセクハラを行ったという疑いで民事裁判になっている事例であることがわかりました。係争中であり、実際にそのような行為があったのかは明らかではない、という説明でしたが、こうした事例こそ第三者委員会が検討する事案なのではないかというのが、委員の共通した意見でした。

さらに、この委員会では、セクハラはいじめなのか、という議論もなされました。ネットで調べると、「職場でのいじめ、セクハラ、パワハラ」という文言が見られ、セクハラはいじめの一種とみなしても良いのではないか、というのが委員の一致した見解でした。

さて、この委員会の議論の中で、私たち委員が一番驚いたのは、担当者からの「教育委員会には、教師によるいじめという概念がない」という発言でした。私たちが、本事案では実際に教師によるいじめがあったかどうかはわからないが、今後教師によるいじめ等が万が一あった場合には、私たち委員会にも報告していただき、必要があれば調査させてください、と提案したところ、上の発言があったのです。

では、教師にそのような(生徒へのセクハラ、いじめ等の)行為があった場合には、なんと呼ぶのか?という委員からの質問に対して、それは「教師による不適切な教育行為」と呼ぶのだという返答がありました。また、学校におけるいじめは、児童生徒同士のいじめだけを指すのだそうです。つまり教師による児童生徒のいじめ、という概念そのものが存在しないのです。

これは一体、どういうことでしょうか?
皆さんは、この説明に納得されるでしょうか?
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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