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何か変だよ、日本の教育(4) ガラスの天井をわざわざ設ける先生がいる!

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明けましておめでとうございます。本年もCRNをよろしくお願い申し上げます。

医師の仕事は端的に言えば患者さんの病気を治すこと。同様に教師の仕事と言えば教育を通じて子どもの能力を伸ばしてあげること。

私は単純にそう信じてきました。ところが、最近信念が揺らぐような経験をしました。

私の外来に相談にきた10歳の男の子がいます。相談の理由は、担任の先生から特別支援学級を勧められたことです。担任の先生が特別支援学級を勧めた大きな理由は、だんだん授業が難しくなり本人の知能テストの結果から考えると授業についていくのが大変になるから、ということでした。

私は親に知能テストの結果と、最近の通信簿を見せてもらいました。知能テスト(WISC-Ⅳ)の結果は、IQは59ということでした。IQは平均値が100になるように作られており、70以下は知的発達の遅れを意味します。70~50は軽度知的障害を疑う値です。しかしその後に通信簿を見てびっくりしました。全教科の3分の2の科目で3段階評価で2(できる)がついているのです。

成績は知的障害のある子どもが取れるレベルを超えているので、「頑張っているじゃない。知能検査の結果はその時のやる気や雰囲気でかなり変わるから、きっともっと上だよ。このまま普通学級でやっていけると思います」と感想を母親に伝えました。

しかしその後母親から聞いた担任の教師の言葉に私は凍りついてしまいました。「◯◯くんの知能指数から考えると、この成績は『本人の上限を超えている』のです」と言われたというのです。

私はマルハナバチにまつわる冗談のような以下の逸話を思い出しました。マルハナバチはずんぐりした胴体に、小さな羽がついています。流体力学が専門の大学の先生が、マルハナバチの体重と、羽の面積と振動数を元に計算した結果、「この羽ではマルハナバチは飛べるはずはない」と結論したのです。

実際にはマルハナバチは小さな羽でちゃんと飛んでいます。◯◯くんも、ちゃんと全体の6~7割の科目で2(できる)の評価をとっています。

この流動力学の専門家である大学の先生と、男の子の担任の先生には事実を見ないという共通点があります。この先生は子どもの能力を伸ばすどころか、この子どもの人生に勝手に「この子の上限」という「ガラスの天井」を作ってしまっているのではないでしょうか。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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