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何か変だよ、日本の(特別支援)教育 (2)

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先日、ある大手新聞社の記者から、「こんなデータがあるのですが、先生はどのように思われますか」と電話がかかってきました。データというのは、「日本在住の外国籍の子どもで、地元の小中学校の特別支援学級に通っている子どもの比率が、日本人の子どもに比べて2倍くらい高い*」というものでした。特別支援学級(教室)の目的は、以下にある通りです。

「特別支援教室導入の目的は、発達障害等のある児童・生徒が学習上又は生活上の困難を改善・克服し、可能な限り多くの時間、在籍学級で他の児童・生徒と共に有意義な学校生活を送ることができるようになることである」
(特別支援教室の運営ガイドライン令和3年3月 東京都教育委員会)
これをそのまま単純に解釈すれば、外国籍の子どもの方が、発達障害をもっている比率が2倍くらい高い、ということになります。しかし、これまでの世界全体での発達障害(自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害)の有病率には民族差や人種差はない、というのが定説になっていることを考えると、これはおかしなことになります。

この新聞社の記者は、いろいろと調べるうちに、外国籍の子どもが、言葉や文化的習慣の違いなどで学校生活の中でいろいろ困難なことがある時に、通っている地元の学校では十分に対応できずに、結局特別支援学級に回されているという事情が根底にあることがわかってきたのです。

私は若い頃に、アメリカで3年間ほど研究生活を送っていたことがありますが、当時住んでいた地域には、英語を母国語としない子どもや大人のための補習クラスが、地方自治体や民間のNPOなどにより開設されていました。「English as a Second Language」つまり英語を第2言語としている子どもや大人のための教室です。

私の友人の中には定年後、地元で日本語を母語としない子どもの指導をボランティアでしている人がいます。こうした活動を地道に行っているボランティアの方々には敬意を表しますが、本来ならばそれは地元の学校が責任をもって行うことなのではないでしょうか。

後日、こうした事態があることを文科省も認めたようですが、記者の情報が示していることは、特別支援学級に通っている外国籍の子どもの約半数が定型発達児であり、発達障害などの症状がないにもかかわらず、特別支援級に通わざるを得ない状態にあるということです。 国際化とかグローバリゼーションを謳っている日本で、教育がこんなに内向きのものでいいのでしょうか。




筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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