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【ネットジェネレーションの教育】 第5回 発達段階に応じたケータイ・ネット指導

要旨:

ネットいじめ、闇サイト、不正請求等々、ネット・ケータイには危険やトラブルがつきものである。しかし、禁止していてはいつまでたっても危険の回避方法や、トラブルの対処方法が身に付かない。また、すでに携帯電話を身体の一部のように便利に使いこなしている子どもから、携帯電話を取り上げたり引き離す必要はない。禁止するよりも、保護(規制)された範囲での利用から、徐々に保護(規制)をゆるめていき、危険なサイトとそうでないサイトを見極める判断力や、コミュニケーションのトラブルが派生しそうになったら深刻な事態になる前に回避する方法を、発達段階に応じて段階的に指導していく必要がある。


ネットいじめ、闇サイト、不正請求等々、ネット・ケータイには、どうしても危険や、トラブルがつきものです。しかし、禁止していては、いつまでたっても危険の回避方法や、トラブルの対処方法が身に付きません。すでに携帯電話を身体の一部のように、便利に使いこなしている子どもから、携帯電話を取り上げたり引き離す必要はありません。禁止するよりも、保護(規制)された範囲での利用から、徐々に保護(規制)をゆるめていき、危険なサイトとそうでないサイトを見極める判断力、コミュニケーションのトラブルが派生しそうになったら、深刻な事態になる前の回避方法を発達段階に応じて段階的に指導していく必要があります。

 

発達理論に関する心理学者ハヴィガースト(Havighurst,R.J. 1900-1991)は、「人間が健全で幸福な発達を遂げる為には、各発達段階において達成しておくことが望ましい発達課題がある。」と述べています。大げさに考える必要はありませんが、ネット・ケータイの指導も、他の学習と同様、発達段階に応じて段階的に指導していく必要があります。早すぎても、遅すぎても、効果は半減してしまいます。発達段階に応じて指導していけば、スムーズに指導できるでしょう。ネット・ケータイ利用の発達段階を、「三輪期」「補助輪期」「二輪期」「独立期」の4段階に分類しました(図1)。

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図1 ネット・ケータイ利用の発達段階

 

フィルタリングなど機械的に制限を設けた契約の上、保護者と一緒に、子どもが利用する時期を、「三輪期(図2)」と命名しました。およそ小学校低学年・中学年(6歳~9歳)の子どもが、この時期に相当します。9歳あたりまでの子どもは、保護者がだめだと言えば、何の疑いもなく素直に従います。この時期は、保護者と一緒に遊んだり、学習したりすることをいといません。一人だけのネット利用やケータイよりも、「お母さんと一緒」、「お父さんと一緒」の方が、子ども自身も安心します。

 

従って、この時期には、ネットを利用するときには、保護者と必ず一緒に利用する、子どもだけで公園に遊びに行くときなど、必要なときには保護者の携帯電話を貸し出して、持たせれば十分でしょう。このとき、大人としては少し不便かも知れませんが、子どもに貸し出す機会のあるケータイ、子どもと一緒に利用するパソコンには、フィルタリング機能やネットアクセス時のパスワード設定等による機械的な制限も必要です。

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図2 三輪期

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図3 補助輪期

しかし、「9歳の壁」を超すと、子どもは「なぜ」という疑問を持つようになりがちであり、理屈がわからないことには、従わなくなります。これは、自立したいという意識の芽生えです。この時期には、補助輪をつけて自転車に乗る練習をするように、補助をしながら練習をする必要があります。ですので、この時期を「補助輪期(図3)」と命名しました。およそ小学校高学年から中学生(10歳~14歳)の子どもがこの時期に相当します。フィルタリング機能やネットアクセス時のパスワード設定等による機械的な制限を設けたパソコンやケータイを、子どもが主体的に利用し始めますが、必ず、学校の先生か保護者が、利用の様子を見守る必要があります。この時期には、機械的制限・保護者の輪・学校の先生の輪、この3つの補助輪がうまく機能することが大切なのですが、徐々にはずせる方向に教育していくことも重要です。はじめのうち(小学生の間)は、きっちり補助輪をつけた状態で利用の様子を見守り、中学生になると子どもの利用時間すべてに保護者が付き添うことは難しくなるでしょうから、ケータイ・ポートフォリオをつけさせ、利用状況を把握する方法に切り替えていくとよいでしょう。

 

ケータイ・ポートフォリオを観察していて、安全な利用ができるようになってきたと判断できれば、補助輪期は終わりです。フィルタリング機能やネットアクセス時のパスワード設定等による機械的な制限をつけた機械を、子どもがある程度一人で利用しても問題はないでしょう。この時期を、「二輪期(図4)」と命名しました。およそ、高校生(15歳~17歳)あたりの年齢の子どもがこの時期に相当します。もちろん、利用時間や料金などは保護者とルールを決め、安全な利用をしているか、一歩離れたところから、保護者や学校の先生が見守っていれば大丈夫でしょう。もちろん、ネットいじめにあった、誹謗中傷を受けた、不正請求を受けた、等のトラブルが起きれば、どう解決したらいいのか、解決方法を迅速に指導・対応できる体制も必要です。

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図4 二輪期

18歳以上になれば、一人暮らしを始める子どもも多いでしょう。発達段階に応じ、ネットやケータイ利用を指導されてきた子どもならば、トラブルが起きても、状況によって、国民生活センターへ相談したり、警察に届けたり、自分で問題を解決する力が身に付いているはずです。この時期を「独立期」と命名しました。この時期に達したならば、本人の判断に応じて、機械的な制限をはずしても問題はないでしょう。

 

近頃では、40歳過ぎの大人が、出会い系サイトで婚活詐欺に遭う事件などが起きております。もし、発達段階に応じたネットやケータイ利用を指導されて大人になったならば、適切に対処することができ、被害に遭わなかったかも知れません。今の子どもたちは、ネットに囲まれて育っていますが、もし、利用を完全に禁じられて育ったならば、適切な対処方法を身につける機会を逸したまま大人になり、大人になってから取り返しのつかない被害に遭う危険があります。是非、大人の目の届く範囲で、発達段階に応じた指導をしつつ利用させ、大人になったときに、適切な情報処理能力、情報判断力、コミュニケーション力を育んでいただきたいと思います。

 


<参考文献>
加納寛子(2009)「即レス症候群の子どもたち ケータイ・ネット指導の進め方」日本標準

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