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これからの労働力として、「最強の学習者」が求められる

ミルトン・チェン(ジョージ・ルーカス教育財団上席研究員)

2018年4月20日掲載
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「最強の学習者」の5つの習慣
自らの学びをコントロールできるような力を生徒たちにつける

この10年で、もっとも顕著な学校改革への取り組みは、大学進学や就職へのレディネスをサポートする目的で作られた全米共通学力基準(Common Core State Standards)とその評価である。一方で同じ時期に、就職の世界は誰が意図するでもなく、大きく方向転換をしていた。UberやLyftといった変わった名前の企業があっという間に立ち上がり、都市交通にインパクトを与え、新しい仕事を星の数ほど生み出すと同時に、淘汰されていく職業も出てきた。

既に色々な工場や倉庫で配備されているロボットの大群は、まもなくオフィスや病院にも歩を進めようとしている。AIが人間の知能と鎬を削る中で、生徒たちは何をすべきなのだろうか?そして教育者は、助けの手をどう差し伸べるべきなのでしょうか?この先行きを暗く感じるとしたら、自分たちの不確定な未来に対し、既にうまく準備を進めている若者たちのことを知ることで、明るい道を開くことができるかもしれない。

2014年、米国カリフォルニア州パロアルトの「未来研究所(Institute for the Future)」の研究員として、「最強の学習者」と呼ばれる色々なタイプの若者数人にインタビューをするというプロジェクトに携わった。

皆、たった一つの共通項があった。学ぶことが大好きだという点である。最強のアスリートのように、情熱にあふれ、怖いもの知らずなのだ。教育機関から何をどのように学ぶか指示されることなく、自分たちで自らの学習環境を設定し、クリエイティブな方法でその学びを仕事へと繋げていた。

対象となった11人の最強の学習者たちは、殆どが10代~20代で、中堅クラスあるいは熟練の専門家は数人であった。最強の学習者の一人、オレゴン州立大学のインフォーマル学習の専門家であるジョン・フォーク氏いわく「世界中の誰もが、常に猛烈に学ぼうと必死だ。いまどんな学習者にも伝えたい最初のアドバイスは『自分の学びは自分でコントロールしなさい』ということ。ラッキーなことに、それが今日、今までになく簡単にできるのです」。

話を聞いた学習者たちは、成績平均点(GPA)が高スコアであったり、テストの点がいいことで定義されるような、いわゆる「成績最優秀者」という集団としては括ることができない。その代わり、フォーマルな学校教育だけでなく、デザインや工作を自由にできる空間「メイカー・スペイス」や科学館といったインフォーマルな学習施設をも利用して、学ぶ場所や教わる人を探す機会を上手く使っていた。いわゆる正式な学習から、実験的、あるいはプロジェクトベースの学習に従事していた。

こうした最強の学習者たちは、共通して5つの習慣をもっており、それは不確定な未来に生徒たちを備えさせるために役立つことが実証されている。

  1. 彼らは自発性があり、学びから仕事への繋がりを、ボランティアであれ有償の仕事であれ、見つけている。
    16歳のトーマス・ハント君は、9年生を終えて学校をやめ、自分でホームスクーリングを設計した。黄斑変性症およびアテローム性動脈硬化症を研究するアンチエイジング施設でボランティアをしながら、市民講座を受講している。また別の最強の学習者、レノア・エドマンさんは、自分の興味の対象であるペーパークラフト、手芸や電子工学をネットビジネスにしてしまった。

  2. みな、自制心の上に強い好奇心をもち続け、時として芸術と科学を結びつけることもある。疑問をぶつけることも多く、自主的に新しい経験を積んでいるのだ。
    モリー・クエヴァ=ダブコスキさんは、いくつかの高校を転々とした後、サンフランシスコのルース・アサワ芸術高校に落ち着き、アフロ・ブラジリアンダンスと文芸創作に打ち込んだ。同時に、カリフォルニア科学アカデミーで昆虫学者とともに、中国雲南省の高地におけるカブトムシや種の多様性について研究もしていた。
    こうした学習者が、多くの大学や企業に賞賛されるタイプなのである。つまり、幅広いテーマに興味をもち、そのうちいくつかについては、深い知識をもっている。

  3. また人脈作りも上手いのである。直接会ったりインターネット上で、目指すべき人物像や師と仰ぐ人物との繋がりを作り、志向の似た個人が集まるコミュニティに参加していた。そしてその探訪的活動を両親がサポートしていることも多い。
    ニューヨーク在住のニキル・ゴヤール君は、高校生のときにメールやツイッターなどを使い、世界中にまたがる師となる人々にコンタクトを取り、新しい学びのモデルについて助言をもらっていた。まだ高校に在学中に、「十把一絡げにしてはいけない(One Size Does Not Fit All)」という著書を出版し、教育イベントで人気の基調講演者となった。

  4. 彼らはITスキルに長けており、リソース、コンタクト先、講座、プラットフォームやツールといった無限のオンライン教材の世界にアクセスしていたのだ。またデジタル世界において、消費者でありながら、プロデューサーでもあり、ウェブサイトやアプリ、VRゲームを作ったりするために、コーディングやデザインのスキルを磨いていた。
    ニック・ウィンター君は、「忘却機である自分に知識を詰め込んだ」という16年間の経験をもとに、学習理論を学び、漢字を学習するアプリを作成した。米国エモリー大学元学長のプリーサ・ラム氏は、学習者が質問をし、助け合うような学習プラットフォームを設計した。

  5. 彼らはグループでうまく活動し、リーダーシップを発揮したり、指導者的役割を果たせるようになりながら、社会情動的スキルを発達させたのである。それぞれが困難な状況に直面しながら、折れない心を育んでいた。
    IT系のバックグラウンドをもちながら、マーク・ロス君はサンフランシスコに転居したものの、体調を崩し、6か月もの間、ホームレスになってしまった。メイカー・スペイスで、まずは3Dプリントのコースから取り始めた。そして今度は、自分で3か月のプログラムを開発し、ホームレスにデジタルものづくりの講座を提供し、その取り組みは、ホワイトハウス・メイカーフェア*1でバラク・オバマ大統領(当時)に絶賛された。

こうした最強の学習者たちは、起業家精神をもっていた。大手企業で仕事をこなすことができる一方で、自主性の高い者は失業期間を埋めるような働き方ができる、ギグ・エコノミー*2においても成功するだろう。彼らは自分の学びから、プロジェクトを見つけ出し、支援者を特定し、一つの経験で得た教訓を次の経験へと活かしながら、起業家精神を育んだのである。

今の子どもたちは、運転手のいない車に乗る時代を生きる一方で、彼ら自身の学びの人生のハンドルは、今すぐ自分で取るべく行動を開始した方がよい。学校やインフォーマルな学習機関が、子どもたちにこうした学びの自由や柔軟性をすぐにでも与えられれば、今からは想像もつかないようなキャリアの道が開ける可能性も高まるでしょう。


    訳注:
  • *1 米国のテクノロジー系DIY工作専門雑誌「Make」が開催するDIYイベントで、米国、イギリス、イタリア、日本など世界各地で開催されているMaker Faireが、ホワイトハウスでも開催された。
  • *2 インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方や、それによって成り立つ経済形態。
2017年12月13日にウェブサイト「Education Week」に掲載された記事「The Future Workforce Demands Extreme Learners」の転載許可をご快諾くださったミルトン・チェン氏に深く感謝いたします。

筆者プロフィール

ミルトン・チェン (ジョージ・ルーカス教育財団上席研究員)
ジョージ・ルーカス教育財団上席研究員、同専務理事を名誉退職。同財団は、サンフランシスコ湾岸地帯の非営利団体で、幼稚園~高校生の革新的な教育を提案する受賞歴のあるサイト「Edutopia.org」を制作している。1998~2010年まで同財団で専務理事を務め、サンフランシスコのKQED 教育センター(公共放送サービス/PBS)の創設時の所長でもあり、NYのセサミ・ワークショップのリサーチ・ディレクターとしてセサミ・ストリートやエレクトリック・カンパニー、3-2-1コンタクトなどの番組制作にも携わった。またハーバード大大学院で助教授を務め、2007~2008年には新世紀奨学金プログラムの奨学生35人のうちの一人に選出された。
現在、ニュージャージー州のパナソニック財団の会長であり、セサミ・ワークショップのほか「California Emerging Technology Fund」の理事も兼務。また、内務省長官より国立公園局の諮問委員会のメンバーにも任命され、科学・技術・工学・数学や教養教育の分野で同局が活動を展開できるよう助言する。
2015年には、教育メディアへの貢献を評価されてNHK主催の日本賞を受賞した他、公共放送機構(CPB)からフレッド・ロジャース賞を受賞している。最も名誉あるのは、チェン博士の50歳の誕生日にジョージ・ルーカス監督から直々に「ジェダイ・マスター」を任命されたことでしょう!

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